すてぶるペイとは?暗号屋のJPYC決済が銀行振込で実現する「知識ゼロで払えるステーブルコイン」

クレジットカードの決済では、支払いが後から取り消される「チャージバック」が加盟店を悩ませてきました。すてぶるペイは、その仕組みごと外します。ただし、カードの取り消しがない代わりに、返品やトラブルの返金は加盟店自身が背負う。負担が消えたのか、形を変えて移っただけなのか。そこが引っかかります。


合同会社暗号屋は2026年7月10日、ステーブルコイン決済サービス「すてぶるペイ(STBLpay)」を発表した。ECサイトやオンラインサービスに、日本円建てステーブルコインを活用した銀行振込での支払いを追加できるサービスである。利用者はウォレットやガス代を事前に用意せず、暗号資産の知識がなくても支払える。

加盟店は与信審査を前提とせず、売上は銀行振込とJPYC発行の完了後に着金し、チャージバックの負担が生じない。SDKを組み込むことで導入でき、導入支援・技術サポートは無料で提供される。暗号屋は2026年7月13日・14日に東京都港区のザ・プリンス パークタワー東京で開催されるWebX2026にシルバースポンサーとして出展し、デモ展示と導入相談を実施する。

CEOの紫竹佑騎は7月14日にCRYLステージのセッションに登壇する。暗号屋は2019年2月設立、本社は福岡県福岡市中央区。

From: 文献リンク暗号屋、銀行振込で使えるステーブルコイン決済サービス「すてぶるペイ(STBLpay)」を発表

※アイキャッチは合同会社暗号屋PRTIMESより引用

【編集部解説】

「ステーブルコイン」と聞くと、まだ投機や値動きの話を思い浮かべる方が多いかもしれません。ですが今回のニュースが指し示しているのは、まったく別の方向です。価値をできるだけ一定に保つよう設計されたデジタルのお金を、日常の「支払い」の道具として静かに社会へ埋め込んでいく――そんな地味で、しかし本質的な動きです。

すてぶるペイの核心は、「ステーブルコインの複雑さを、利用者にできるだけ意識させない」という設計思想にあります。買い物をする人は、ECサイトの支払い画面で顔認証や指紋認証(パスキー)を使って承認し、表示された口座へ日本円を銀行振込するだけ。外部ウォレットを自分で用意する必要も、ガス代や聞き慣れないシードフレーズを自分で管理する必要もありません。裏側ではJPYC株式会社の日本円ステーブルコイン「JPYC」が発行され、加盟店へと送られますが、そのことを利用者が細かく意識せずに済む設計になっています。ただし、初回だけはJPYC EXでアカウントを開設し、本人確認を済ませる必要があります。「知識ゼロ」の入り口に、この一段があることは押さえておきたい点です。

ここに、暗号屋という会社の割り切りが表れています。「ステーブルコインが盛り上がっても、ウォレットの管理は難しく普及は限定的で、その浸透を待つには時間がかかり過ぎる」――プレスリリースのこの一文は、業界の理想論に対する率直な現実認識だと私は受け止めました。技術の普及を待つのではなく、技術を隠すことで普及させる。逆説的ですが、決済という領域ではしばしば有効になる考え方です。

加盟店側の話も見逃せません。従来のクレジットカード決済には、与信審査というハードル、契約や決済会社によっては数週間に及ぶ入金サイクル、そして「チャージバック」(カード制度に由来する支払いの取り消し)のリスクがつきまといます。すてぶるペイはこの3つに正面から向き合います。売上は日本円の着金とJPYC発行が終わればJPYCとして加盟店のもとに届き、必要に応じてJPYC EXで1JPYC=1円で日本円に償還できます。カード型のチャージバックの仕組みそのものが存在しないため、その負担は生じません。ただし、これは「返金が一切ない」という意味ではありません。商品の返品やトラブルが起きた場合は、加盟店がJPYCの送付や銀行振込で返金対応を行う必要があります。取引記録を一方的に巻き戻せないことと、返金が不要であることは別の話です。

背景にあるのは、日本の法制度の変化です。2022年に成立した改正資金決済法が2023年に施行され、法定通貨と連動する一定のステーブルコインが「電子決済手段」として制度上に位置づけられました。そして2025年10月、JPYCが国内初の円建てステーブルコインとして発行を開始します。制度が整い、使える「円」ができた。そこへ、それを実際の店舗やサービスに流し込む「配管」を用意する事業者が現れはじめた――今はそういう局面です。

そして重要なのは、暗号屋が一社で走っているわけではないという点です。事業者向けにJPYC決済導入をワンストップ支援するガイアックス、USDCの加盟店活用でサークルと協業を検討するJCB、そしてローソン高輪ゲートウェイシティ店で円建てステーブルコイン決済の技術実証を予定するHashPort・KDDI・ローソン。2026年に入り、似た方向を向いた発表が相次いでいます。いずれもまだ本格普及の段階ではありませんが、すてぶるペイは、その大きな流れのなかの一つの実装例として捉えると、輪郭がはっきりします。

一方で、冷静に見ておきたい点もあります。プレスリリースには書かれていませんが、実際のサービス提供開始は2026年8月の予定で、この発表はいわば「予告」の段階です。加えて、JPYCの新規発行には1回あたり3,000円以上という下限があります。3,000円未満の買い物でも3,000円分が発行され、差額は利用者の残高として残る仕組みです。少額決済での使い勝手をどう設計するかは、普及の実際のカギになると私は見ています。

私がこのニュースを今取り上げたいと感じたのは、これが「暗号資産の物語」の続きではなく、「決済インフラの選択肢が増える物語」の始まりに見えるからです。誰に売上を預け、誰に手数料を払うのか。その主導権を事業者の手元に少し引き戻す試みとして、すてぶるペイのような動きは静かに、しかし確実に意味を持ちはじめています。

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【編集部後記】

すてぶるペイのよくある質問を読み進めると、返金の担い手ははっきり書かれています。暗号屋は資金を預からないので、返品やトラブルが起きたら、加盟店がJPYCの送付か銀行振込で購入者に返すことになる。ここまでは明快です。

わからないのはその先です。商品が届かない、説明と違う、注文した覚えがない。そうした「返金の前段にある争い」を、誰がどう裁くのか。カード決済では、消費者が異議を申し立て、カード会社が間に立つ経路がありました。その調停役が構造ごと消えたとき、支払いを終えた購入者は、加盟店と一対一で向き合う以外の道を持てるのでしょうか。


【用語解説】

ステーブルコイン
法定通貨などに価値を連動させるよう設計されたデジタル資産の総称。日本円や米ドルと1対1の価値を保つよう設計されるため、一般に値動きを抑えやすい。なお、JPYCのような法定通貨償還型のものは、日本の法律上は「電子決済手段」に分類され、いわゆる「暗号資産(仮想通貨)」とは区別される。

JPYC
JPYC株式会社が発行する、日本円建てのステーブルコイン。1JPYC=1円での発行・償還を掲げる。2025年10月27日に、国内で初めて円建てステーブルコインとして正式発行された。すてぶるペイの決済は、この裏側でJPYCが発行・送付される仕組みになっている。

電子決済手段
2022年に成立し2023年に施行された改正資金決済法で定められた区分で、法定通貨と連動する一定のステーブルコインが法的に位置づけられたもの。暗号資産(仮想通貨)とは制度上明確に区別される。

資金移動業者
銀行以外で送金サービスを営むために、法律に基づき登録された事業者。JPYC株式会社はこの登録(第二種資金移動業者)を受けて円建てステーブルコインを発行している。

ウォレット
暗号資産を保管・送受信するためのデジタルの財布にあたる仕組み。自己管理型の場合は、秘密鍵やシードフレーズと呼ばれる復元情報を利用者自身が管理する必要があり、その扱いの難しさが普及の壁とされてきた。

ガス代
ブロックチェーン上で取引を処理してもらう際に支払う手数料。一般的な自己管理型ウォレットでの利用では、利用者がこれを自分で用意する必要があった。

パスキー
顔認証や指紋認証、端末のPINなどを使う、パスワードに代わる本人認証の仕組み。すてぶるペイでは、利用者がこのパスキーで支払い内容を承認する。

チャージバック
クレジットカード制度に由来する、支払いが後から取り消される仕組み。加盟店にとっては売上が確定しないリスク要因となる。すてぶるペイにはこのカード型の仕組み自体が存在しない。ただし、商品トラブル時の返金は、加盟店がJPYCの送付や銀行振込で別途対応する。

与信審査
クレジットカード決済などを導入する際に、事業者の信用力を事前に確認する審査。すてぶるペイは独自の事前審査(KYB)を行わないとしており、導入時に基本として求められるのは利用規約への同意と受け取り先の登録である。

SDK
ソフトウェア開発キット。あるサービスの機能を、自社のサイトやアプリに組み込むための開発部品一式。すてぶるペイはこのSDKを提供しており、導入にはサイト側の実装やテストなどの作業もともなう。

Web3
ブロックチェーンを基盤とした、次世代のインターネットとして一般に語られる概念。中央の管理者に依存しない分散型のサービスや経済活動を指すことが多いが、統一された定義があるわけではない。

【参考リンク】

すてぶるペイ(STBLpay)公式サイト(外部)
暗号屋が提供する日本円建てステーブルコイン決済の公式サイト。仕組みや加盟店・購入者のメリット、FAQを確認できる。

合同会社暗号屋 コーポレートサイト(外部)
すてぶるペイを開発・提供する、福岡を拠点とするブロックチェーン技術組織の公式サイト。理念や事業内容を確認できる。

JPYC株式会社(JPYC EX)(外部)
すてぶるペイの決済で使う日本円ステーブルコイン「JPYC」の発行元。発行・償還プラットフォーム「JPYC EX」の仕様を確認できる。

WebX2026 公式サイト(外部)
暗号屋がすてぶるペイのデモ展示を行ったWeb3カンファレンスの公式サイト。開催概要やセッション情報が掲載されている。

【参考記事】

【国内初】日本円ステーブルコイン「JPYC」および発行・償還プラットフォーム「JPYC EX」を正式リリース(外部)
国内初の円建てステーブルコイン「JPYC」の正式リリース発表。1JPYC=1円での発行・償還など基本仕様を示す一次情報。

国内初の円建てステーブルコイン「JPYC」発行開始 次世代の“通貨”目指す(Impress Watch)(外部)
JPYCの発行開始を報じた記事。3年で発行残高10兆円の目標や市場規模の推移など、具体的な数値を確認できる。

金融庁「令和4年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表」(外部)
ステーブルコインを電子決済手段とした改正の一次情報。2022年成立・2023年施行の時系列を確認できる公的資料。

暗号屋、銀行振込で利用できるステーブルコイン決済「すてぶるペイ」提供へ(あたらしい経済)(外部)
専門メディア記事。8月提供予定やパスキー承認、初回本人確認、最低発行額3,000円など運用仕様を補足する。

すてぶるペイ(STBLpay)公式サイト(FAQ)(外部)
独自の事前審査(KYB)を行わないこと、JPYCの償還、返金は加盟店が対応することなど運用の要点を確認できる。

ガイアックス、事業者向け「ステーブルコイン決済導入支援サービス」を提供開始(PR TIMES)(外部)
同方向の別事業者の動き。東京都の社会実装促進補助金にも触れ、自治体レベルの後押しを裏付ける。

ローソン店舗で日本円ステーブルコインによる店頭決済の技術実証(HashPort)(外部)
HashPort・KDDI・ローソンによる2026年8月の技術実証の発表。対象が一部社員に限定される点も確認できる。

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。