SWAG、KAIST・スタンフォードが開発—自ら体を這い上がる「着せるロボット服」

服を脱ぐとき、裏返しにすると引っかからずスッと抜ける。あの何気ない感覚を、逆再生して「着る」動作に応用した衣服が現れました。ロボットアームが腕をつかむのでもなく、服のほうが裏返りながら体を上っていく。「着せる」から「服が着る」へ、主語がひっくり返ったところに、この研究の妙があります。


KAISTとスタンフォード大学の研究チームが、着用者の体を自ら這い上がって着替えを行うウェアラブルシステムSWAG(Self-Wearing Adaptive Garments)を発表した。

2026年7月17日にロイターが報じた。KAISTはテジョンにあり、プロジェクトにはKAISTのリュ・ジファンとスタンフォードのアリソン・オカムラが参加し、筆頭著者はKAISTのキム・ナムギュンである。仕組みはオカムラの研究室で開発されたつる型ロボット(vine robot)に由来し、サブバインと呼ぶ内部チューブが布地を裏返しながら手足に沿って伸びる。試作品には袖、ジャケット、ズボンがある。論文は2025年11月に『IEEE Robotics and Automation Letters』に掲載され、2026年にICRAで同誌の最優秀論文賞を受賞した。同賞は年間1,700本超から選ばれた5本のうちの1本で、リュのグループの受賞は2年連続である。

From: KAIST and Stanford unveil clothing that climbs onto its wearer

【編集部解説】

SWAGのニュースでまず目を引くのは「服が自分でよじ登ってくる」という絵づらですが、技術的に本当に新しいのは、着替えという作業を、重い「認識と経路計画」のコンピューティングにできるだけ頼らずに成立させようとしている点にあります。

従来の着替え支援ロボットは、動く腕をカメラで捉え、その形を推定し、布をどう動かすかを逐一計算してきました。処理は重く、着る人には「じっとしていること」を求めがちでした。SWAGはこの流れを反転させます。判断の多くを制御ソフトではなく、素材と空気圧という「体の作り」の側に肩代わりさせているのです。

鍵は「反転伸展(eversion)」、布が内側から裏返りながら覆っていく動きにあります。布が肌の上を滑って擦れるのではなく、内側から表へ返りながら覆っていく。だから摩擦がほとんど生じません。薄くなった皮膚やあざのある腕にとって、この違いは大きな意味を持つはずです。

さらに興味深いのは、複雑な制御アルゴリズムを持たない構造そのものが、体の形や動きに合わせて適応するところです。着る人が姿勢を変えても、腕の完璧な三次元モデルを事前に用意する必要はありません。ロボットの「知能」を頭脳から身体へと移す——編集部としては、この設計思想を、近年のソフトロボティクスが探ってきた「身体そのものに計算をさせる」という発想の、わかりやすい到達点の一つと捉えています。

用途は、元記事が挙げた高齢者や障害のある人の介助にとどまりません。研究チームは、半導体のクリーンルームで防塵服を素早く着る場面や、防護具を手早く装着する必要がある緊急対応の現場も視野に入れています。フルスーツの着用にかかる時間について、研究チームは取材でおよそ10秒と説明しています。ただしこれは口頭での説明で、査読論文が実演として示しているのは袖・ジャケット・ズボンといった衣類ごとの着用です。着る人が姿勢を固定しなくてよいという性質は、時間との勝負になる現場ほど効いてきます。

とはいえ、これは試作段階の技術です。空気圧で駆動する以上、圧力容器やモーターを備えたベースステーションをどこまで小型化し、自立させられるかは未知数で、剛性と柔軟性のトレードオフはサブバインを増やすほど厄介になります。介護や医療という、弱い立場の人に直接触れる領域では、清潔さや安全性、そして「機械に身を委ねる」ことへの信頼という、性能表には載らない試験も待ち受けています。

それでも、この研究には静かな新しさがあります。ベッドの上から覆いかぶさってくるロボットではなく、服のほうがそっと腕を上ってくる。介助のかたちとして、どちらが人の尊厳に寄り添っているかは、立ち止まって考える価値があるでしょう。着替えを「誰かにしてもらうこと」から「自分でできること」へ取り戻す——それは、innovaTopiaが掲げる「人間の進化」を、派手さではなく日常の側から支える技術の一つの姿かもしれません。

【関連記事】

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【編集部後記】

見落とされがちですが、この仕組みの核心は「服を脱ぐときの物理」をそのまま反転させた点にあります。きつい服ほど、裏返しながら脱ぐと肌に引っかからない。SWAGはその現象を逆向きに使い、着る側の動作へと翻訳しました。

派手な人工知能でも、精密なアームでもなく、誰もが毎晩無意識に使っている身体感覚が出発点になっている。着替えという最も原始的な動作に、まだこれほど設計の余地が残っていたことに、静かな驚きがあります。では、私たちが日常で「めんどう」とやり過ごしている他の動作のうち、次に裏返される候補はどれでしょうか。


【用語解説】

SWAG(Self-Wearing Adaptive Garments)
「自ら着る適応型衣服」の略。硬いロボットアームで外から服を着せるのではなく、衣服自体をやわらかいロボットに変え、着用者の体に沿って自動的に展開させて着付ける仕組みである。

つる型ロボット(vine robot)
先端から新しい素材が繰り出されて伸びていく、柔らかい「成長するロボット」。ツタ(ivy)が壁を登る動きに着想を得ており、狭い隙間やがれきの中、体内などを通り抜ける用途で研究されてきた。SWAGの動作原理の土台となっている。

サブバイン(subvine)
SWAG内部に組み込まれた細い空気圧チューブ。膨らんで手足に沿って伸び、布地を裏返しながら押し進める役割を担う。外側の布全体を加圧せず、このチューブ自体が推進力を生むため、衣服は柔らかいまま動作する。

反転伸展(eversion)
布地が内側から表へと裏返りながら体を覆っていく動き。肌の上を引きずるのではなく「裏返って覆う」ため摩擦がほとんど生じず、薄い皮膚やあざのある腕にやさしいことがSWAGの利点とされる。

ソフトロボティクス
金属やモーターによる硬い機構ではなく、やわらかい素材や空気圧などを用いて動きを生み出すロボット工学の分野。人体との接触が求められる介助・医療用途との相性がよいとされる。

半導体クリーンルーム
微細なちり一つが製品不良につながる半導体製造の作業空間。防塵服の素早く確実な着用が求められる現場であり、SWAGの応用先の一つとして研究チームが挙げている。

【参考リンク】

KAIST(韓国科学技術院)(外部)
SWAGを開発したリュ・ジファンやキム・ナムギュンが所属する、韓国・大田を拠点とする理工系の研究大学。ロボティクス研究で知られる。

Stanford University(外部)
共同研究者アリソン・オカムラが所属する米カリフォルニア州の私立研究大学。SWAGの土台となったつる型ロボットの基礎研究を担った。

CHARM Lab(スタンフォード大学)(外部)
オカムラが率いるスタンフォードの研究室。触覚やソフトロボット、つる型ロボットを研究し、SWAGの中核技術を提供した。研究成果を公開する。

IRiS Lab/VINEチーム(KAIST)(外部)
リュ・ジファンが率いるKAISTの研究室。SWAG論文の概要やIEEE RA-L最優秀論文賞の受賞告知を公式に掲載している。

【参考記事】

Sit back and suit up: Meet the robot clothes that dress you(Reuters)(外部)
2026年7月17日の報道。半導体クリーンルームや緊急対応への応用可能性、約10秒という研究者の説明を伝える。

VINE Team Wins RA-L Best Paper Award(IRiS Lab/KAIST公式)(外部)
公式発表。2025年のRA-L掲載1,700本超から5本に選ばれ受賞、ICRA 2026で2年連続受賞と明記する。

KAIST and Stanford Build Robotic Clothing That Puts Itself On the Wearer(Technology.org)(外部)
約10秒という研究者の説明、姿勢を固定せず着られる点、従来の外付け型ロボットとの違いを解説する。

KAIST, Stanford Develop Self-Dressing Robot for Cleanrooms and Emergency Gear(EconoTimes)(外部)
複雑な制御に頼らず機構で適応する仕組みや、「レインコートが自分で着られたら」という着想の由来を紹介。

Self-Wearing Adaptive Garments via Soft Robotic Unfurling(arXiv)(外部)
論文の一次情報。2025年7月公開。反転伸展の原理、サブバイン2本構成、圧力容器とモーターを備えた基地局を用いる装置構成を確認できる。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!