ヒューマノイド開発の競争は、ロボット本体の性能だけでは測れなくなりつつあります。LGとNVIDIAの協業から見えてくるのは、工場でデータを集め、学習し、再び現場へ戻す「Physical AIの循環」を誰が構築できるかという新たな競争軸です。
LGは、NVIDIA Isaac GR00Tを活用した次世代二足歩行ヒューマノイドを開発し、2027年第1四半期の一般公開を予定している。
ロボットにはNVIDIA Jetson ThorとNVIDIA Halos for Roboticsを採用する。さらに2026年中に車輪型ロボットLG CLOiDを米テネシー州の洗濯機製造ラインで検証する。両社はロボティクスに加え、NVIDIA Vera Rubinを利用するAI Factoryや、NVIDIA DRIVE Hyperionを基盤とする次世代AI定義車両の開発でも協業を拡大する。
From:
LG to Unveil Its Next-Gen Humanoid Robot, Built on NVIDIA Isaac GR00T
【編集部解説】
今回の発表で目を引くのは、LGがNVIDIA Isaac GR00Tを使った二足歩行ヒューマノイドを開発するという点です。しかし、発表全体を見ると、LGが取り組もうとしている範囲はロボット本体の開発にとどまりません。
LGとNVIDIAは、ヒューマノイドに加えて車輪型ロボット、ロボット学習用データ基盤、AI Factoryまでを協業対象としています。LGは2026年中にLG CLOiDを米テネシー州の洗濯機製造ラインへ投入し、実際の生産環境で性能と実用性を検証する計画です。そこで得たロボットデータや製造現場での検証経験は、LGが開発中のRobot Foundation Model(RFM)の強化にも利用するとしています。
つまり今回の計画では、「ロボットを作って完成」ではなく、現場で動かし、データを取得し、モデルを改善し、再び現場へ戻すという循環までが開発対象になっています。
NVIDIA側も、LGとの協業について、AIモデル開発、Physical AI向けデータ生成、ロボットのシミュレーションと学習、エッジへの展開、工場規模のデジタルツインまでを統合する構想を示しています。
この循環を考えるうえで重要なのが、LG CNSの「PhysicalWorks」です。
LG CNSは2026年5月、ロボットの学習データ収集から検証、現場適用、運用、監視までを統合するRX(Robot Transformation)プラットフォームとしてPhysicalWorksを発表しています。中核となる「PhysicalWorks Forge」は、ロボット学習用データの収集・加工から、3D仮想環境でのシミュレーション、実環境への適用までを扱う仕組みです。
今回のLGとNVIDIAの発表では、このPhysicalWorksを使って、継続的なデータ収集、合成データ生成、学習、検証を行う「ロボットデータファクトリー」を構築するとされています。
この構成からは、LGがヒューマノイドを一つの完成品として開発するだけではなく、さまざまなロボットを現場へ導入しながら継続的に能力を改善できる仕組みそのものを構築しようとしていることが読み取れます。
NVIDIAの公式開発ページでは現在、Isaac GR00Tは基盤モデルに加え、データ、シミュレーション、ミドルウェアなどを含む開発プラットフォームとして整理されています。
そのためLGにとってNVIDIAとの協業は、ロボットの「頭脳」だけを外部から導入するという関係ではありません。シミュレーション、学習、実機推論までを含む開発基盤を利用しながら、LG自身も製造現場のデータやPhysicalWorks、自社RFMを蓄積する構成になっています。
もう一つ重要なのが、LG自身が大量の製造現場を持つ企業グループである点です。
Physical AIでは、デジタル空間でモデルを学習させるだけでは不十分です。ロボットが実際の物体を扱い、人や設備が存在する環境で動くには、現場でのデータ取得と検証が必要になります。NVIDIAのIsaac GR00Tも、シミュレーションによる訓練・検証と、実際のロボットへの展開を組み合わせる開発フローを前提としています。
LGがまずCLOiDを自社の洗濯機製造ラインへ投入するという計画は、この点で意味を持ちます。一般顧客へ販売する前に、自社工場をPhysical AIの実環境として利用できるためです。
一方で、現時点ではLGの次世代ヒューマノイドについて、価格、量産時期、具体的な作業能力、連続稼働時間、販売地域などは発表されていません。公開予定は2027年第1四半期ですが、それが商用販売の開始を意味するわけでもありません。
したがって、今回の発表を「LGのヒューマノイドがまもなく家庭や工場へ普及する」という段階として捉えるのは早いでしょう。現時点でより重要なのは、LGがロボット本体、製造現場、学習データ、AIインフラを接続し、Physical AIを継続的に開発できる環境を作り始めていることです。
ヒューマノイドの姿そのものよりも、ロボットが現場から学び続けられる仕組みを誰が構築できるか。LGとNVIDIAの今回の協業は、Physical AIの競争がロボット単体の性能だけでは決まらないことを示す事例として見ることができます。
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【編集部後記】
ヒューマノイドのニュースを見ると、つい見た目や動作性能に注目してしまいます。しかし今回のLGとNVIDIAの協業で印象に残ったのは、ロボットそのものよりも、その裏側にある学習環境の厚みでした。自社工場で動かし、データを集め、AIで改善し、再び現場へ戻す。この循環を持てる企業ほど、Physical AIの実用化を早く進められるのかもしれません。
私たちがこれから見るべきなのは、ロボットがどれだけ賢いかだけでなく、どんな現場で、どんなデータから育っているのかだと感じました。
【用語解説】
Physical AI(フィジカルAI)
AIが現実世界を認識し、推論・行動してロボットや機械を動かす技術領域。言語や画像を生成するだけでなく、現実空間で認識・判断・行動する点が特徴。
NVIDIA Isaac GR00T
NVIDIAがヒューマノイドロボット開発向けに展開する基盤モデルおよび開発プラットフォーム。人間からの指示や周囲の状況を認識し、ロボットの行動へつなげるためのモデル、データ生成、シミュレーション、学習環境などを提供。
NVIDIA Jetson Thor
ロボティクスやPhysical AI向けのエッジAIコンピューティングプラットフォーム。ロボット本体でセンサーデータを処理し、AIモデルの推論やリアルタイム制御を実行するために用いられる。
NVIDIA Halos for Robotics
ヒューマノイドや産業用ロボット向けにNVIDIAが提供するフルスタックの安全システム。ハードウェア、OS、ミドルウェア、アプリケーションをまたいで、AIを搭載したロボットの安全な実環境展開を支援。
Robot Foundation Model(RFM)
ロボットの認識・推論・行動などを、複数のタスクやロボットへ応用するための基盤モデル。
PhysicalWorks
LG CNSが開発したロボット学習・運用統合プラットフォーム。ロボット用データの収集・加工、学習、3Dシミュレーションによる検証、実際の現場への導入、複数ロボットの運用・監視までを一つの環境で扱う。
AI Factory
大規模なGPUコンピューティング基盤、データ、AIモデル、ネットワーク、ストレージなどを組み合わせ、AIモデルの学習・シミュレーション・検証・運用を継続的に行うための計算インフラ。
【参考リンク】
LG Electronics(外部)
LGグループの中核企業の一つ。家電、ディスプレイ、車載機器に加え、LG CLOiDなどのロボティクス開発を進める。
LG CNS(外部)
LGグループのITサービス企業。ロボットの学習から現場導入、運用までを統合するPhysicalWorksを開発。
NVIDIA(外部)
GPUやAI計算基盤に加え、Isaac GR00T、Jetson Thor、HalosなどPhysical AI・ロボティクス向け技術を展開。
NVIDIA Jetson Thor(外部)
ヒューマノイドを含むロボットのリアルタイムAI推論やセンサー処理を担う、NVIDIAのPhysical AI向けエッジコンピューティング基盤。
NVIDIA Halos for Robotics(外部)
ヒューマノイドや産業用ロボットを実環境へ安全に展開するためのNVIDIAのフルスタック安全プラットフォーム。
【参考記事】
NVIDIA and LG Group Build an AI Factory to Advance Physical AI, Mobility and AI Infrastructure|NVIDIA Blog(外部)
LGとNVIDIAによるAI Factory構想を説明する公式発表。ロボット学習、Physical AIデータ生成、シミュレーション、エッジ展開、工場規模のデジタルツインまでを統合する協業内容を確認できる。
LG CNS、ロボット学習・運用プラットフォーム「PhysicalWorks」公開|LG CNS(外部)
PhysicalWorksの公式発表。データ収集、学習、シミュレーション、現場適用、複数ロボットの統合運用までを扱う仕組みと、LGが想定するロボット導入サイクルを確認できる。
Jetson Thor|NVIDIA(外部)
LGの次世代ヒューマノイドに採用予定のエッジAI基盤。Isaac GR00Tとの連携や、リアルタイム制御・マルチセンサー処理における位置付けを確認できる。
NVIDIA Halos for Robotics|NVIDIA(外部)
LGの次世代ヒューマノイドへの採用が発表された安全技術。Physical AIロボットを実環境へ展開するための安全設計をハードウェアからアプリケーションまで扱う。


















