デジタル治療薬が変える統合失調症治療—CT-155が第3相試験で陰性症状を改善・FDA承認へ前進

ベーリンガーインゲルハイムCT-155、統合失調症治療で画期的成果 - スマホアプリが処方薬に - innovaTopia - (イノベトピア)

ベーリンガーインゲルハイムとClick Therapeuticsが開発中の処方デジタル治療薬CT-155(BI 3972080)が、統合失調症の陰性症状改善に効果を示した。

第3相CONVOKE試験(NCT05838625)において、CT-155は抗精神病薬治療の補助として使用され、陰性症状臨床評価インタビュー意欲・快楽スケール(CAINS-MAP)でベースラインから16週目までの体験的陰性症状を有意に減少させた。

統合失調症患者の60%以上が陰性症状を経験するが、現在FDA承認された専用治療法は存在しない。統合失調症の経済負担は2019年に60億ドル以上の直接医療費をもたらしたと推計される。

CT-155は2024年にFDAからBreakthrough Device Designationを取得しており、スマートフォンにインストールされる形で患者にインタラクティブな心理社会的介入技術を提供する。

安全性プロファイルは良好で忍容性も確認された。試験結果は2025年10月の第38回欧州神経精神薬理学会年次大会で発表予定である。

From: 文献リンクNovel Prescription Digital Therapeutic Improves Negative Symptoms of Schizophrenia

【編集部解説】

この技術の革新性は、従来の薬物療法がカバーしきれなかった統合失調症の「陰性症状」という困難な領域への挑戦にあります。陰性症状とは、意欲の低下や社交性の欠如、快楽を感じる能力の減退といった症状で、患者の社会復帰や生活の質に深刻な影響を与えているにも関わらず、効果的な治療選択肢が限られていました。

CT-155が提供する「インタラクティブな心理社会的介入」は、単なるアプリではなく、処方薬として厳格な臨床試験を経た医療機器です。これは従来の治療概念を大きく変える可能性を秘めています。患者は自宅にいながら、個別化された介入プログラムにアクセスできるようになります。

ただし、デジタル治療薬には潜在的な課題も存在します。患者のプライバシー保護、継続的な使用へのモチベーション維持、そして何よりも人間の治療者との関係性をデジタルがどこまで代替できるかという根本的な問題があります。

規制面では、FDAが2024年にBreakthrough Device Designationを付与したことで、承認プロセスが加速される見込みです。これは米国におけるデジタル治療薬の制度的基盤が整いつつあることを示しています。

【用語解説】

CT-155
統合失調症の陰性症状を治療するために開発中の処方デジタル治療薬である。
BI 3972080:CT-155の別名で、ベーリンガーインゲルハイム社による開発コード名。
CONVOKE試験
CT-155の有効性を評価した16週間の第3相多施設無作為化二重盲検比較試験。

FDA
アメリカ食品医薬品局。医薬品や医療機器の承認を行う米国の規制当局。

CAINS-MAP
統合失調症の陰性症状を評価するための臨床評価インタビューで、動機付けと快楽尺度を含む。

Breakthrough Device Designation
FDAによる治療効果が見込まれる医療機器に与えられる迅速承認指定。

【参考リンク】

Boehringer Ingelheim(外部)
ドイツに拠点を置く多国籍製薬企業で、CT-155を開発している。

Click Therapeutics(外部)
米国のデジタル治療薬開発企業で、CT-155の共同開発者。

【参考記事】

Investigational Prescription Digital Therapeutic CT-155 for Negative Symptoms of Schizophrenia Meets Primary Study End Point(外部)
ベーリンガーインゲルハイムとClick TherapeuticsがCONVOKE試験で主要評価項目を達成したことを発表。

Boehringer and Click seek schizophrenia PDT approval(外部)
CT-155が統合失調症の陰性症状に対する治療で第3相試験の主要評価項目を達成。

【編集者のつぶやき】

CT-155の記事を書いていて「デジタル治療薬」という概念が気になったので、少し調べてみました。

実は世界初のデジタル治療薬は2010年のものなのですね。アメリカのWellDoc社が開発した「BlueStar」という2型糖尿病治療用のスマホアプリが、FDAから医療機器として承認を受けたのが始まりでした。今から15年も前の話です。患者の血糖値や食事、運動データを記録・管理して、個別化されたアドバイスを提供するという仕組みで、当時としては革新的だったはず。

その後、小児ADHD治療用のゲーム型アプリ「EndeavorRx」(Akili社)や、PTSD患者の悪夢治療用Apple Watchアプリ「NightWare」など、様々な疾患をターゲットにしたデジタル治療薬が登場しました。日本でも2020年にCureApp社の「CureApp SC」(ニコチン依存症治療)が承認されて話題になりましたね。

興味深いのは、これらの製品が単なる「健康管理アプリ」ではなく、厳格な臨床試験を経て「処方薬」として承認されている点です。医師が診断して処方し、薬局で調剤するのと同じプロセスを経ます。

今回のCT-155が特に注目される理由は、統合失調症の陰性症状という「これまで有効な治療法がなかった領域」で明確な効果を示したこと。デジタル治療薬の概念自体は15年前からありましたが、ようやく本当に困難な疾患に対しても実用的な解決策を提供できるレベルまで技術が進歩したということでしょうか。

【編集部後記】

デジタル治療薬という新しい概念が、ついに統合失調症という困難な疾患に対して具体的な成果を示しました。スマートフォンが「処方薬」として機能する時代が現実になりつつあります。

皆さんは、メンタルヘルス分野でのテクノロジー活用についてどのような可能性を感じられるでしょうか?従来の薬物療法では限界があった領域に、デジタルがどこまで踏み込めるのか、一緒に注目していきませんか?

この技術が日本に導入される際の課題や、他の精神疾患への応用可能性についても、今後継続して追跡していきたいと思います。読者の皆さんのご意見やご感想もお聞かせください。

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TaTsu
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