鉄鋼業界の脱炭素化において、グリーン鉄の「環境価値」をどう証明し、サプライチェーン全体で流通させるかが大きな課題となっている。富士通がブロックチェーン技術を活用してこの問題に挑む実証実験が、経済産業省の支援のもと2026年2月まで進行中だ。
富士通株式会社は、鉄鋼業界におけるグリーン鉄の価値流通に関する調査事業を2025年12月より開始した。本事業は2025年11月に経済産業省の令和7年度産業関係調査等事業に採択されたもので、2026年2月まで実施される予定である。
ブロックチェーン技術とデータ流通基盤の知見を活用し、グリーン鉄が持つ環境価値の真正性と取引の秘匿性を担保しながらデータを流通させる。実証実験では富士通の「Sustainability Value Accelerator」を活用し、鉄鋼メーカーの協力のもと第三者認証を取得した削減証書を流通させ、環境価値の一意性の担保、二重販売の防止、異なる商流を経由した際の価値の維持について検証する。
富士通は2026年以降のグリーン鉄情報流通の仕組み作りと、鉄鋼業界における産業データスペースへの発展可能性を模索する。
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ブロックチェーン技術を活用し、鉄鋼業界におけるグリーン鉄の価値流通についての調査事業を開始

【編集部解説】
鉄鋼業界は日本の産業部門におけるCO2排出量の約3分の1を占める巨大な排出源です。このため脱炭素化は待ったなしの課題となっており、日本鉄鋼連盟は2030年度までに2013年度比で30%削減という野心的な目標を掲げています。
今回富士通が着手した調査事業の核心は、グリーン鉄の「環境価値」をサプライチェーン全体で正しく流通させる仕組みの構築にあります。グリーン鉄自体はすでに日本製鉄や神戸製鋼所などが商品化していますが、大きな問題が残されていました。
それは、鉄鋼メーカーが発行する削減証書などの環境価値が、商社や加工業者、最終需要家へと複雑なサプライチェーンを経由する際に、その真正性や一貫性を保証する仕組みが不十分だったことです。紙ベースの証書では複製や改ざんのリスクがあり、同じ削減量を複数の取引先に二重に販売してしまう可能性も否定できません。
ブロックチェーン技術の活用は、この課題に対する有力な解決策となります。データの改ざんが極めて困難で、取引履歴がすべて記録されるという特性により、環境価値の一意性を担保し、二重販売を技術的に防止できるからです。
さらに重要なのは、取引の秘匿性も同時に確保できる点です。鉄鋼業界では商流や価格情報が競争上の機密事項となることが多く、環境価値のトレーサビリティと商業機密の保護を両立させる必要があります。
この実証実験が成功すれば、鉄鋼業界だけでなく他の素材産業にも展開できる可能性があります。自動車、建設、機械など、鉄鋼を使用する川下産業のScope3排出量削減にも直接貢献できるため、産業全体の脱炭素化を加速させる起爆剤になるかもしれません。
一方で、課題も残されています。実証実験の期間は2026年2月までの約3カ月間と短く、多様な商流パターンをどこまで検証できるかは未知数です。また、ブロックチェーン技術のエネルギー消費自体が環境負荷となる可能性もあり、技術選定には慎重な配慮が必要でしょう。
2026年以降の本格展開に向けて、この実証実験から得られる知見は、日本の製造業全体のGX推進において重要な試金石となります。
【用語解説】
グリーン鉄
製造時のCO2排出量を従来の鉄より大幅に削減した鉄鋼製品のこと。水素還元製鉄や電炉の活用、再生可能エネルギーの使用などによって製造される。日本ではGXスチールとも呼ばれる。
ブロックチェーン
データを改ざんが極めて困難な形で分散管理する技術。取引履歴がチェーン状に記録され、複数のコンピューターで検証されるため、データの真正性と透明性が確保される。
GXマスバランス方式
企業が実施した削減プロジェクトによるCO2排出削減量を組織内でプールし、その削減量を任意の製品に配分して削減証書と共に供給する方法。ISO 22095:2020のマスバランスモデルに基づく。
GXアロケーション方式
GHG総排出量を変えない範囲で、削減実績量の範囲内で鋼材の排出量を製品と機能の関係を反映するよう配分する方法。ISO 14067:2018およびISO 14044:2006の配分アプローチに基づく。
Scope3
企業のサプライチェーン全体における間接的な温室効果ガス排出量のこと。原材料の調達から製品の使用、廃棄までを含む。製造業では自社の直接排出よりも大きな割合を占めることが多い。
トレーサビリティ
製品や素材の生産から流通、消費までの経路を追跡可能にする仕組み。環境価値の証明や品質保証において重要な役割を果たす。
【参考リンク】
富士通 Sustainability Value Accelerator(外部)
富士通提供のGX実現支援ソリューション。国際標準に則りサプライチェーン全体のCO2排出量可視化を支援。
日本鉄鋼連盟 GXスチールガイドライン(外部)
鉄鋼業界が策定したグリーン鉄の統一ガイドライン。マスバランス方式等の定義や運用方法を規定。
日本製鉄 NSCarbolex Neutral(外部)
日本製鉄のグリーンスチール製品。マスバランス方式採用し削減証書と共に供給。建設や自動車で採用進む。
経済産業省 METI Journal – グリーン鉄を世界標準に(外部)
日本製鉄のカーボンニュートラルへの取り組みとグリーン鉄の世界標準化に向けた日本戦略を解説。
【参考記事】
グリーン鉄を世界標準に!カーボンニュートラルを目指す日本製鉄の本気度(外部)
日本の鉄鋼業界がCO2排出量の約3分の1を占める現状と2030年度30%削減目標を解説。
富士通、ブロックチェーンを活用しグリーン鉄の価値流通に関する調査事業を開始(外部)
調査事業の概要とSustainability Value Accelerator活用方法を詳述。実証実験の目的と期待効果。
GXスチールガイドライン等関連ガイドラインの公表(外部)
2025年10月策定のGXスチールガイドライン内容を解説。マスバランス方式等の詳細定義と背景
【編集部後記】
ブロックチェーンという技術は暗号資産のイメージが強いかもしれませんが、今回の事例のように「環境価値の証明」という実務的な課題解決に使われ始めています。私たちが日常使う製品の多くに鉄鋼が使われていることを考えると、この取り組みは意外と身近な話かもしれません。
皆さんの会社や業界では、サプライチェーン全体での環境負荷の可視化についてどのような議論がされているでしょうか。2026年2月までの実証実験の結果がどのような形で発表されるのか、一緒に注目していきましょう。



































