ACSLは、2026年2月24日から3月3日にかけて日本郵便が兵庫県豊岡市で実施するドローンの「多数機同時運航」実証において、長距離飛行マルチユースドローン「PF4」の提供および運航支援を行う。日本郵便とACSLは2023年度より兵庫県・豊岡市と連携し、中山間地域におけるドローン配送の実証を進めてきた。
本実証ではPF4を2機使用し、1機が荷物配送、もう1機が自然災害を想定した巡視(土砂崩れ等の確認)を別々の飛行経路で同時に行う。同一型式機体による物流・巡視2用途の同時飛行は国内初である。PF4は物流仕様時に最大5.5kgのペイロード搭載で40kmの飛行が可能な産業用マルチコプターで、ユーザー自身でペイロードを交換できる設計となっている。本実証は、複数機の同時運航による1機体あたりの運用コスト低減に向けた知見獲得を目的としている。
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ACSL、PF4による多数機同時運航実証を日本郵便と共同実施



【編集部解説】
今回の実証が持つ意味を理解するには、日本郵便とACSLがこれまで積み重ねてきた歩みを振り返る必要があります。両社は2021年6月に日本郵政キャピタルを含む3社で資本業務提携を締結して以来、兵庫県豊岡市を主な舞台として段階的にドローン物流の実用化を進めてきました。2023年3月には旧型機「PF2-CAT3」で日本初のレベル4飛行(有人地帯上空での補助者なし目視外飛行)による配送を実現し、2024年3月には日本郵便との共同開発機(通称「JP2」、ACSLの製品名としてはPF4)でレベル3.5飛行による配送試行を成功させています。さらに2024年10月〜12月には配送経路を延長し、最長約25.5km(飛行時間約40分)の運航と、東京のオフィスからの完全遠隔運航も達成しました。
こうした実績を踏まえ、今回の実証で焦点となるのが「多数機同時運航」、いわゆる「1対N」の運航体制です。従来のドローン運航は「1人の操縦者が1機を操作する」というモデルが前提でした。しかし、この体制のままでは1フライトあたりに人件費が固定的にかかり、中山間地域のように配送需要が限られるエリアでは事業として成立しにくいという構造的な課題があります。1人の監視者が複数機を同時に運用できれば、1機あたりのコストは大幅に下がり、ドローン物流の収益モデルが根本から変わる可能性を秘めています。
技術面で注目すべきは、PF4の「マルチユース設計」が今回の実証を可能にしている点です。PF4はユーザー自身がペイロード(搭載物)を交換できる構造を持ち、同じ機体を物流用にも巡視用にも転用できます。今回は1機を荷物配送、もう1機を土砂崩れ等の災害巡視に割り当てており、同一型式による2用途同時飛行は国内初とされています。機体の型式を統一することで、整備マニュアルや部品在庫の共通化が可能になり、地方自治体や郵便局のような限られたリソースでも継続的な運用体制を構築しやすくなります。
一方、多数機同時運航の実用化に向けては、制度面の整備も欠かせません。現行の航空法では、ドローンの飛行許可は基本的に機体単位・操縦者単位で管理されており、1人が複数機を同時運航するケースを想定した明確な運用基準は発展途上にあります。ACSLは2024年11月の内閣府規制改革推進会議において、多数機同時運航の実現に向けた検討体制の早期確立を提案しており、技術と制度の両面から社会実装への道筋をつけようとしています。
また、2024年6月にはPF4のレベル4飛行対応型である「ACSL式PF4-CAT3型」の第一種型式認証を国土交通省に申請しています。この認証が取得されれば、有人地帯上空での補助者なし目視外飛行が可能となり、配送可能エリアは飛躍的に広がります。多数機同時運航と型式認証の両方が実現した場合、中山間地域だけでなく、都市近郊の物流や災害対応にも応用範囲が拡大することが見込まれます。
潜在的なリスクとしては、複数機の同時飛行にともなう空域管理の複雑化や、通信障害・機体異常発生時のフェイルセーフ設計が挙げられます。ドローン同士の衝突回避や、他の航空機との空域共有をどう安全に管理するかは、運航管理システム(UTM)の成熟度に大きく依存します。今回の実証で得られるデータは、こうした課題に対する知見としても重要な意味を持つでしょう。
日本の生産年齢人口は今後も減少が続き、とりわけ中山間地域では物流インフラの維持そのものが困難になることが予想されています。ドローンによる「持続可能な物流」は、単なる技術的な好奇心の対象ではなく、地域社会の存続に関わる切実なテーマです。今回の実証は、その実現に向けた技術・運用・制度の3つの壁を同時に押し広げようとする取り組みとして位置付けられます。
【用語解説】
多数機同時運航(1対N運航)
1人の操縦者・監視者が複数のドローンを同時に操作・監視する運航形態。従来は「1人対1機」が基本であり、事業化に向けたコスト削減の鍵とされている。
ペイロード
ドローンが搭載できる荷物や機器の重量。PF4は物流仕様時に最大5.5kgのペイロードに対応する。
マルチユース(マルチペイロード)
1つの機体で物流・測量・点検・巡視など複数の用途に対応できる設計思想。PF4ではユーザー自身がペイロードを交換可能である。
レベル3.5飛行
無人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル3)から、デジタル技術(機上カメラ)の活用と操縦ライセンス保有・保険加入を条件に、立入管理措置(補助者・看板の配置)を撤廃し、道路や鉄道上空の横断を容易にした飛行形態。2023年12月に国土交通省が新設した。
レベル4飛行
有人地帯(第三者上空)における補助者なし目視外飛行。実現には第一種型式認証の取得が必要である。
第一種型式認証
国土交通省が航空法に基づき、無人航空機の型式ごとに強度・構造・性能の安全基準および均一性基準への適合を審査・認証する制度。レベル4飛行に必要となる。ACSLは2023年3月にPF2-CAT3で日本初の取得を達成し、PF4-CAT3でも2024年6月に申請済みである。
完全遠隔運航
現地に操縦者を配置せず、遠隔地のオフィス等から通信回線を通じてドローンを運航する方式。2024年10月〜12月の実証では、東京のACSLオフィスから兵庫県豊岡市のPF4を遠隔運航した実績がある。
中山間地域
山間部やその周辺に位置し、平地が少なく交通アクセスが困難な地域の総称。生産年齢人口の減少により物流インフラの維持が課題となっている。
運航管理システム(UTM:Unmanned Traffic Management)
複数のドローンが同一空域を安全に飛行するための交通管理システム。多数機同時運航の実用化において、空域の安全確保に不可欠な技術基盤である。
【参考リンク】
ACSL(株式会社ACSL)公式サイト(外部)
国産産業用ドローンメーカー。自律制御技術を強みに物流・点検・防災分野で機体を展開。東証グロース上場。
ACSL 製品紹介ページ(外部)
PF4を含むACSLの産業用ドローン製品ラインアップと仕様を確認できる公式ページ。
日本郵便公式サイト(外部)
日本郵便の郵便・物流事業の公式サイト。ドローン配送を含む物流DXの取り組みも紹介されている。
ACSL プレスリリース(本記事原文)(外部)
多数機同時運航実証に関する公式発表。PF4の詳細スペックを記載したPDF資料へのリンクも掲載。
みちびき対応製品紹介 ACSL「PF4」(内閣府)(外部)
準天頂衛星「みちびき」CLAS対応のPF4製品概要。政府機関によるスペックの公式情報源。
【参考記事】
日本郵便・ACSLのキーマンに聞く、新型物流ドローン「レベル3.5」飛行の意義と将来展望(外部)
2017年の初協業からPF4(通称JP2)でのレベル3.5飛行成功までの経緯をインタビュー形式で整理。旧型機PF2のペイロード約1.7kg・航続約10kmから、PF4の約4.5kg・約35kmへの性能向上の数値も記載。
ACSLと日本郵便、新型物流ドローンによるレベル3.5配送を共同実施(外部)
2024年10月〜12月のPF4によるレベル3.5配送試行の報告。最長約25.5km・約40分の運航と東京からの完全遠隔運航の達成を記録。
ACSL、新型物流専用ドローンで2機目の第一種型式認証を国交省に申請(外部)
2024年6月27日付でPF4-CAT3型の第一種型式認証を国土交通省に申請。PF2-CAT3に続く2例目の申請に関する報道。
ドローンの社会実装拡大に向けた提案事項(ACSL、内閣府規制改革推進会議提出資料)(外部)
ACSLが2024年11月に提出。複数機同時運航(1:N)の検討体制の早期確立を提案した政府向け一次資料。
What Japan’s Autonomous Drone Delivery Network Reveals About Urban Air Integration(外部)
日本のドローン物流を国際的に分析。AeronextがACSL製PF4でモンゴル・ウランバートルにて郵便配送した事例にも言及。
ACSL、日本郵便と共同開発の新型ドローンで兵庫県豊岡市において荷物の配送を実施(外部)
2024年3月のPF4(通称JP2)によるレベル3.5配送試行の公式発表。JP2とPF4の関係性を確認できる一次資料。
【編集部後記】
ドローンが「1人1機」から「1人で複数機」へと進化しようとしています。この変化は、過疎地の物流だけでなく、災害対応や地域インフラの維持にも新たな選択肢をもたらすかもしれません。
皆さんがお住まいの地域では、どんな「届けにくさ」がありますか? 空の物流が当たり前になる未来を、一緒に見つめていければと思います。







































