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はやぶさ2・リュウグウサンプルが完成させた「生命の設計図」—DNAとRNAの全構成要素が宇宙で発見

[更新]2026年3月20日

海洋研究開発機構(JAMSTEC)の生物地球化学者・古賀俊樹が率いる研究チームは2026年3月17日、小惑星リュウグウから採取したサンプルを分析し、RNAとDNAを構成する5つの核酸塩基(アデニン、シトシン、グアニン、チミン、ウラシル)をすべて検出したと発表した。

炭素質小惑星における核酸塩基フルセットの検出は、2025年1月に発表された小惑星ベンヌに続き2例目となる。研究チームはリュウグウのサンプルをベンヌ、マーチソン隕石、オルゲイユ隕石と比較し、核酸塩基の組成比の違いがアンモニア濃度と関連することを明らかにした。この研究成果は学術誌『Nature Astronomy』に掲載された。

From: 文献リンクAsteroid Reveals The 5 Key Genetic Ingredients For Life on Earth|ScienceAlert

【編集部解説】

今回の発見を正確に理解するうえで、まず押さえておきたい重要な前提があります。論文の筆頭著者である古賀俊樹自身がAFPの取材に対し、「これはリュウグウに生命が存在したことを意味しない」と明言しています。核酸塩基の存在は「生命の痕跡」ではなく、「生命が生まれるための化学的な下準備が、宇宙空間で自律的に起きていた」という証拠として受け止めるべきものです。

この点を踏まえたうえで、今回の発見の意義を考えてみましょう。

はやぶさ2が地球に持ち帰ったリュウグウのサンプルは、総量わずか5.4グラムです。その極めて微量な物質の中に、地球上のすべての生命が使う遺伝暗号の「文字」がすべて揃っていたということは、これらの分子が宇宙において生命とは無関係に自然発生しうることを強く示唆しています。

今回特筆すべき点のひとつは、アンモニア濃度と核酸塩基の比率の間に明確な相関が見つかったことです。古賀はこれについて、「既知の生成メカニズムではこの関係を予測できないため、太陽系初期物質における核酸塩基形成の、これまで知られていなかった経路を示している可能性がある」と述べています。単なる「発見」にとどまらず、核酸塩基がどのように作られるかという根本的な化学プロセスの解明に向けた、新たな手がかりが生まれたわけです。

また、専門家の間で注目を集めているのが「ウレア(尿素)」の存在です。スペインの科学メディアセンターに寄稿したアルカラ大学の宇宙生物学者は、今回の研究で検出されたすべての化合物の中でウレアが最も豊富であったことを指摘し、「ウレアはRNAの出発材料に不可欠な前駆体であり、この研究は宇宙で採取されたサンプルに基づく直接的な証拠を提供している」と評価しています。この視点は元記事では触れられていない重要な論点です。

一方、研究の限界についても冷静に見ておく必要があります。同専門家は「一部の化合物が試料の抽出プロセスによって生成された可能性を排除できない」とも指摘しており、すべての検出物が小惑星由来である確証はまだ完全ではないとしています。研究チームはクリーンルームでの分析や汚染確認テストを実施しており、その点での信頼性は高いとされていますが、科学的な議論はまだ続く段階にあります。

長期的な視点で見たとき、この研究が開く可能性は広大です。リュウグウとベンヌという2つの炭素質小惑星でフルセットの検出が相次いだことで、「核酸塩基は太陽系形成期に普遍的に生成された」という仮説の信憑性が一段と高まりました。これは地球外生命探査(アストロバイオロジー)において重要な意味を持ちます。生命誕生の材料が宇宙に広く存在するなら、生命そのものも宇宙のどこかに存在する可能性が、統計的に無視できないものになってくるからです。

さらに、小惑星探査という観点では、JAXAのはやぶさ2とNASAのOSIRIS-RExという二大ミッションが、互いを補完し合う形で科学的成果を積み重ねていることも見逃せません。今後予定されている探査ミッションに向けて、どのような物質を優先的に分析すべきかという指針が、この研究によって更新されることになります。

【用語解説】

核酸塩基(nucleobases)
DNAとRNAを構成する化学的な「文字」にあたる分子群。アデニン(A)・グアニン(G)・シトシン(C)・チミン(T)・ウラシル(U)の5種類が存在し、これらの並び順が遺伝情報を規定する。プリン塩基(アデニン・グアニン)とピリミジン塩基(シトシン・チミン・ウラシル)の2グループに分類される。

RNAワールド仮説
生命誕生の初期、DNAよりも先にRNAが存在したとする仮説。RNAは遺伝情報の保持と化学反応の触媒の両方を担える特性を持つため、生命の起源に深く関わるとされる。現在も有力な生命起源論のひとつだ。

アストロバイオロジー(宇宙生物学)
宇宙における生命の起源・進化・分布・未来を研究する学際的な科学分野。小惑星や隕石の化学組成分析は、地球外生命探査の基盤となるデータを提供する重要な研究領域だ。

ウレア(尿素)
炭素・窒素・水素・酸素から成るシンプルな有機化合物。RNAの構成材料となる分子の前駆体として機能すると考えられており、生命誕生の化学プロセスにおける重要物質のひとつとされている。

ラブルパイル型小惑星
固体の一枚岩ではなく、岩石や砂礫が重力によってゆるく集積した構造を持つ小惑星の形態。リュウグウはこのタイプに分類され、直径約1キロメートルの天体だ。

【参考リンク】

JAXA(宇宙航空研究開発機構)(外部)
はやぶさ2ミッションを主導した日本の宇宙機関。リュウグウへの往復約3億キロのミッション詳細や最新成果を公開している。

JAMSTEC(海洋研究開発機構)(外部)
本研究の筆頭著者・古賀俊樹が所属する研究機関。今回の研究成果のプレスリリースも公式サイトから発表された。

NASA OSIRIS-REx Mission(外部)
小惑星ベンヌのサンプルを採取・帰還させたNASAのミッション公式ページ。2025年1月に核酸塩基フルセットの検出を発表している。

Nature Astronomy|論文原文(外部)
今回の研究成果が掲載された査読済み学術誌。論文タイトルは “A complete set of canonical nucleobases in the carbonaceous asteroid (162173) Ryugu”。

【参考記事】

A complete set of canonical nucleobases in the carbonaceous asteroid (162173) Ryugu|Nature Astronomy(外部)
論文原文。リュウグウのサンプル2点から核酸塩基5種をすべて検出。プリン・ピリミジン比とアンモニア濃度の負の相関という新知見を提示している。

Ryugu asteroid samples contain all DNA and RNA building blocks|phys.org(外部)
古賀の「リュウグウに生命が存在したことを意味しない」というAFPへのコメントを引用。発見の過大解釈を戒める視点を提供している。

All 5 fundamental units of life’s genetic code were just discovered in an asteroid sample|The Conversation(外部)
サンプル総量5.4グラムを明記。クリーンルームでの分析手法や汚染防止対策など研究の信頼性を担保するプロセスを詳しく解説している。

Five nucleobases of DNA and RNA detected in samples from Ryugu asteroid|Science Media Centre Spain(外部)
アルカラ大学の専門家がウレアの豊富な存在を指摘。抽出プロセスによる生成物の可能性という研究の限界にも言及している。

Asteroid Ryugu Contains All 5 DNA and RNA Building Blocks, Study Shows|Gizmodo(外部)
古賀の直接コメントを複数引用。プリン・ピリミジン比とアンモニアの相関から「未知の核酸塩基形成経路の可能性」を解説している。

All DNA/RNA Nucleobases Are Found On Asteroid Ryugu|Astrobiology.com(外部)
リュウグウ・ベンヌ・マーチソン・オルゲイユの核酸塩基組成を比較し、母天体ごとの化学的・環境的・進化的歴史の違いを解説している。

【編集部後記】

「生命の材料が宇宙に広く存在する」という事実は、私たちの存在そのものを宇宙規模で問い直すきっかけになりそうです。

もし地球の生命が小惑星から届いた分子を起点に生まれたとしたら、あなたはどう感じますか? 宇宙と生命の関係について、ぜひ一緒に考えていけたら嬉しいです。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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