【インタビュー】『The Unseen Beauty』全盲の映像監督が生成AIを活用した新しい視覚表現を打ち出した:違う世界に生きる私たちをつなぐ「言葉と言葉以外」

[更新]2026年5月26日

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アイキャッチ:PR Timesより引用

視覚障害者、とりわけ全盲の人が見ている世界は、晴眼者が日常の前提としている世界とは、ほとんど別のものだと言えるのかもしれません。(なんなら、今ここで私は太字を用いて内容を強調しましたが、そこから受ける体験も視覚に依拠したものです。)

では、その異なる手触りを持つ世界は、どのようにすれば他者に伝えられるのでしょうか。

言葉にすれば届くようでいて、そこには簡単には埋まらない距離があります。今回取材したePARAの「The Unseen Beauty」は、まさにその困難に正面から向き合った試みでした。

全盲の参加者4人が映像監督となり、ヒューマンビートボックスクルーSARUKANIの楽曲から立ち上がる感覚や情景を、それぞれの言葉で掬い上げ、生成AIを介して映像として結実させていきます。

興味深いのは、見えない人が“見える人に近づく”ための制作ではなく、そもそも互いに異なる世界を生きているという前提から出発している点です。音から広がる感覚、記憶に触れて立ち上がる像、そしてそれを誰かと共有するための言語。その一つひとつの過程には、表現の可能性だけでなく、「わかりあう」とは何かを問い返す時間が刻まれていました。

その制作過程で何が語られ、どのような試行錯誤を経て作品が形になっていったのか。今回は、映像監督である「西脇 有希」様・「真しろ」様、プロデューサーの「平岡 辰太朗(日本テレビ)」様、生成AIクリエイティブを担当された「宮城 明弘(KANA-L HOLDINGS)」様、「細貝 輝夫(ePARA)」様、に取材しました

西脇 有希(にしわき ゆき)
先天性の弱視で、大学卒業後に全盲の診断を受ける。大学で声楽を専攻。現在でもナレーター業務を含め、音と声を活用した業務に従事。就労移行支援の訓練でボイストレーニングを行い、技能の向上に励む。プライベートでは、地域の合唱団に所属し、ピアノと声楽を継続。電車オタクで、車内アナウンスのものまねを得意とする。(PR Timesより引用)
真しろ
先天性全盲。大学では英米文学などを研究し、在学中に英国留学も経験。当時から株式会社ePARAの海外広報業務に従事し、全盲eスポーツプレイヤーとしても活動。芸術分野では、美術・演劇の鑑賞ワークショップのファシリや、音声ガイドのレビューなどを経験。その他、ラジオドラマ・ボイスドラマの制作、詩の執筆などにも積極的に取り組んでいる。(PR Timesより引用)
宮城 明弘 
KANA-L HOLDINGS所属の生成AIクリエイター。最先端AIと独自の美的センスを融合し、映像制作の常識を覆すクリエイター。2025年には欧米やインドなど世界各国のプロダクションと独占契約を結び、国際的評価を確立し、公開された300本超のAI映像は多ジャンルで信頼を集め、エンタメと教育の新たなビジョンを世界へ提示し続けている。(PR Timesより引用)
平岡 辰太朗
スマホコンテンツブティック「VIRAL POCKET」を立ち上げ、SNSショートドラマ「毎日はにかむ僕たちは。」やシットコムYouTube番組「原宿てれび。」など、Z世代に向けた話題性の高い映像コンテンツを多数手がけている。

企画段階での議論

野村「今回はインタビューに参加してくださってありがとうございます。今回の企画の『The Unseen Beauty』では、社員や制作スタッフの間でどの様な雰囲気で制作を進められて、同時にどの様な議論がありましたか?」

宮城「当初は『子どもの未来』といったテーマも検討していました。生成AIの活用については、アウトプットに制約もあり、映像作品としてどう成立させるかには悩む部分もありました。ただ、『全盲の方の世界を描く』となると、音や触覚といった視覚以外の感覚や、個人の内面に基づくイメージが中心になるため、実写でそのまま表現するのは難しいと感じました。その点、AIであれば非現実的な表現やスピード感を活かせると考え、最終的に今の形にたどり着きました」

野村「『見える側』と言えばいいのでしょうか……私たちにとって『全盲の方が見ている世界』は非現実的、もっと言えば想像もつかないものかもしれないですね。そのうえで非現実的なものを描いてくれる、全盲の方のイメージを伝えるうえでスピード感のある手段を使う、という形になったのですね」

宮城『全盲の人が見ている世界』って全く非現実的なものでしたね。それを晴眼者に知ってもらう。今回の映像作品を見てもらって知ってもらうというところに今回の作品のモチベーションがあります。しかしながら最初は『見える側』にとってという一方の矢印のみを考えていたのですが、制作の中でePARAの細貝さんに入ってもらっている間に、最終的には『晴眼者にも全盲にも両軸に働きかける作品にしよう』となりました」

ヒューマンビートボックスクルーの起用

ヒューマンビートボックスクルー「SARUKANI」さん

野村「映像作品ではコラボレーションアーティストとしてSARUKANIさんを起用してオリジナル作品である『CROWN』を用いていましたね。一般的に企業の印象を押し出すとなるとキャッチーな楽曲を用いる、もう少し私たちに聴き馴染みのある曲を使うというのもあると思います。どのような思いがあり、ヒューマンビートボックスクルーであるSARUKANIさんとの共同制作を行ったのですか?」

宮城「おっしゃる通り、様々なジャンルの音楽を検討しましたアーティストの起用については、4人の監督へのヒアリングの中で『僕たちの感じる音と全盲の方の感じる音って違うな』と思ったことがきっかけです。音に敏感な、全盲の方の感じる音からのイメージを作り上げる。さらに、今回のテーマはヒューマニスティックなものだったため、人間そのものが口で奏でる音が適しているのではないかと考えました。また、表現との相性も良いと感じていました。後は、SARUKANIさんとの理念の合致もファクターとしてはあります。今回のMVはWater Remixとある通り、水をテーマにしました。水は生きるために必要でもあり恐ろしいものでもありテーマとして面白いと思ったからです

平岡「私から補足しますと、アーティスト候補としては多ジャンルからの提案がありました。tiktokで流行っているボカロ調の物もあれば、ピアノ楽曲もありましたが、『人としてのクリエイティブを最大限発揮する』ということについてヒューマンビートボックスとの掛け算が良いと考えました。アーティストさんとはタイアップではなく、コンセプトが合致して共創という形をとりながら制作を進められそうだったというのも、先ほども宮城さんからありましたが、理由としてあります」

野村「なるほどです。『感じている音の違い』というのは具体的にどのような場面で感じましたか?」

宮城「まず、音を通して摂取している情報が全く違いますね。例えば『この会議室に今何人いるのか?』という情報も視覚以外から知覚しています。制作のなかで楽曲に『水っぽい音』を入れるとなった時に、監督たちは水という対象に対して、『柔らかい』『硬い』のような質感を用いて表現していました。音を言語化したときのアプローチに独自のクリエイティビティがあるなと感じましたね

平岡「そもそも、別次元だなと感じましたね。私たちの見ている世界や想像の中で生まれるものと全く違いました」

細貝「私も面白い部分だと、『声が丸みを帯びてる』『四角いかも』のような声に質感があったり、それも明確に定義できない非言語的な感覚で、そこが面白いなと思いました」

野村「声に形がある、手触りがあるというのは非常に面白いですね。例えば、僕の声からはどのような感覚をうけますか?」

真しろ「顔が見えないので『声を形としてとらえること』が私は多いのですが、そうですね、野村さんの声は、イメージですが『脂が乗っていて塩コショウで味付けして焼いたばっかりの、それも盛り付けが終わったロース肉』みたいな声だなと思いました」

西脇「私は電車オタクなので声を聴いていて、『あんまり速度の出てない新幹線みたい。しかも高速走行しているというよりはもうすぐとまりそうな新幹線』のようなイメージをうけました。そういう映像が浮かびましたね」

野村「なるほどです(笑)初めて言われました。受け取っている情報によって、もっと言えば普段触れているものや仕事によって、全く見え方やイメージが異なるというのは面白い話ですね」

平岡晴眼者の場合は、例えば人に対してあの芸能人と似ているというようにイメージと紐付けながらラベリングしている。それと同じことが起こっているのかなと感じます。ちょうど今の野村さんの様に『この音はどういう感覚がする?』とかをキャッチボールしながら制作をしていました」

「違う世界」をどうやって共有するの?

野村「視覚に依拠しないものを作る中で、晴眼者同士でも、言葉から受けるニュアンスが違います。例えば同じ言葉でも『私の言葉は私の感覚をそのまま伝えるわけではなく、私の感覚は言葉を媒介して、受け取った他者の感覚の中で解釈されます』それがコミュニケーションの難しさでもあります。今回の場合だと『水』というものを共有する。そのことの難しさについて制作の中で感じたことはありますか?」

西脇「『水』と一言で言ってもやはり自ら受け取るイメージはみんな違ったと思います。私の場合、この曲を聴いて真っ先に浮かんだものが『安倍川の水』と『浜名湖の水』あとは『イッツアスモールワールドの匂い付きの水』、をイメージしましたが全く他の人とは違いました」

真しろ「私の場合は水泳をしていたので、泳いでいる時や生活ベースでどうなのかというイメージが先行しました。人間は水に触れずに生きるということは無理ですよね。そこでイメージが出ていました。違う眼鏡で見ている。今回の話ですと、『水』というものを考えるときに全員違う映し方で全員違うカメラを持っている。見える見えないとかではなく全く違うところで全員が見ているのかなと感じています

平岡「制作の中であった話ですが、映像作品を作るうえで、多くの映像作品は過去の映像作品など自身の映像的経験値を参考にすることが多いですが、今回の制作では監督が全盲ということもありそこが特殊でした。一緒に作っている中で、真しろさんが『過去の映像作品がリファレンスにならないから、人生観の話になっていく』と言っていたのが印象に残っています。視覚について一定の共有が難しい以上、クリエイティブのよりどころが過去の作品ではなく人生観や個人の物の見方に非常に寄っていって、最終的に作品作りの中で『人間という問題』に帰ってくる。なので水を通して監督4名の人間の価値観の本質のようなものを抉り出していく作業だったと思います

内面世界を「わかりあう」ことの難しさ

野村「人が表現をする理由として、『芸術作品を通して内面世界を表出』させることができることの面白さなのかなと個人的には思っています。皆さんの芸術観を知りたいです。なぜクリエイティブなことをしているのですか?

真しろ私は詩、脚本、ファシリテーターとして芸術に幅広く関わっています。芸術を私が定義をするのは難しいですが、思うところとしては、『だれもが芸術を楽しむというのを実現できていない』という問題意識があります。例えば『遊び』や『楽しみ』は平等に与えられているのかといった問いです。『勉強』とか『仕事』の平等は議論されている中で娯楽はあまりそこが議論されていないように私は感じています。なので、少し芸術を通して『平等』や『自由』の鏡にして議論の種にしたい思いがあります。今回の制作への参加にしても、私の芸術分野で行っていることはそこですかね。とはいえ、誰かに見せるためじゃない芸術活動や表現も行っています。例えば、私の日々感じていることをポエティックに記述したりしています。それで自分の頭の中を整理するという考え方もあります。」

西脇『芸術とは何か』という問いよりもまず私の場合は『歌うこと自体が好きだから』というところがあります。実は、誰にも見せてないけど声楽以外の表現だと小説を書いたりもしています。『芸術とは?』と言われると正直答えはないと私は思います。とは言え、見えるかどうか、もっと言うと才能があるかないかではなく、純粋に誰かの話声や電車のアナウンスを聴いて『綺麗とか落ち着く』とか感じられるものがすでに芸術だと思っています。日常の何気ないことで、触れるとホッとするものだとか、そういうものであってほしいし、今後、私もそういうものを届けていきたいと思っています。今回のプロジェクトもそれで参加しました」

野村「『芸術作品の価値』というとかなり乱暴ですが、『感じることに価値がある』側面はあるのかもしれないですね。今回の制作を通じて、もしくはそうでなくても構いませんが『私だからこそ、この表現が立ち上がったな』って瞬間はありましたか?」

真しろ「そうですね。今回に限らない話なのですが、私は生まれてからずっと視覚がないのが当たり前の中で生活をしていますが、それもあって音楽や脚本や詩のようなビジュアル以外の表現が好きで、外で友達と遊ぶことも少なかったので、自分一人でできることでそれをしてました。もともと芸術が好きだからではないんです。自然と誰か友達と遊んだりしにくい中で、自分一人で遊びをする中で触覚や音を大事にできたというところでしょうか。見えない中で持っている資源を使って遊ぶ中で立ち上がったのかなと思います

西脇「子どものころから、視覚がないので、日常的に音にフォーカスしていて、鉄道が好きなのも『音』だからですね。見えないからこそって話で言うと『聴きわけ』ですね。ドラマとかアニメでも場面や名前とかではなく女優や俳優とかではなく見れる部分がありますね。ある意味では楽しんだり、受け取れた部分があるんじゃないかなと思いますね

野村「確かに、ドラマを見るときにどうしても僕の場合は先に主演の女優や俳優に役のイメージが紐付いてしまう部分があります。今言われて気が付きました」

宮城「最初は『視覚を超えていく』というイメージを持ってやってたんですね。私たちはどう見えるのかをすごい考えるけど、彼らは質感へのアプローチが非常に繊細な部分がある、暑いというだけでも、『肌に指す感覚』のようなそういう視覚的な美しさではなく光が手触りと結びついているという感覚がありましたね」

平岡何かが欠損しているということではない、別チャネルに対して極度な拡張がなされた知覚をしていると私は特に感じました

「言葉で言葉以外を伝える」ことの難しさ

野村「目が見える見えないじゃなくて、そもそも人によって違う。今回の取り組みは私たちが触れない世界に触れる試みだった気がします。ところで、作品が出来上がって4人の監督に、完成した作品のフィードバックをするときに、『できた映像を全盲の方にそれ自体として見てもらうことができない』という問題があるように感じます。どうやってフィードバックを行ったのですか?」

宮城まずは皆さんに言語化してもらいました。シーンごとの意図、作品の流れから体験の設計もテキストベースで客観的に見れるようにしました。体験のフィードバックが見えている側だけにならないように工夫はしましたが、視覚的なチェックはどうしてもナレーションやテキストで再解釈していく、意図と体験にずれがないのかをうまくやっていく工夫をしていきました」

野村「言葉を介して感覚を共有していく、この制作過程からは言葉の重要性を非常に感じましたね。私たちは全てを言葉にするのは無理でも、言葉で通じ合うしかない。見てるものも、聴いてるものも同じでも『同じものとして感じてない』。『人間の本質的な営みとして共有できることは言葉でしかない』と思いました。言葉の持つ尊さを感じたといってもいいかもしれません。作品を作っていく中で『皆様の今後』について何か思うところができたとしたら、それを聞かせてほしいです」

平岡今回は、ある種芸術的なことに振り切りました。『大衆的にみんなに届けて理解される』というよりも『作品をちゃんと見る人に理解してもらう』をやりたかったんです。今後は、他にもやり方を変えていきたいなと思います。そのためには、しばらく継続的にやっていくことが大事なのかなと思っています。段階を分けて、もう少しコンテンツとしてストーリーテリングを中心に置くような形や、考えてもらう仕掛けを作ったりはしたいと思っています。」

真しろ「今回AIに関われたのは良いきっかけでしたね。私自身今回の制作を機にそういったものに触れていこうと思いました。言葉の尊さについてなのですが、言葉を使えない、もしくは狭義の 『言葉』を使えない方、例えばろう者の方は他の言葉を使っていますね。今回はテキストを使ったけど触覚での言葉、この人が使いやすい言葉でクリエイションをするのが求められるのかなと思います。そういう意味では私は『言葉以外の尊さ』というのもあるのかなと思いましたね

西脇「『私がイメージしたものを伝える』のが言語化するということだったのですが、ディスカッションの『現場で言葉にできない表現』がいくつもあって、手を使って『こう!』ってジェスチャーを混ぜて伝えたり、オノマトペを使ったりしました。言葉の尊さもそうだけど、言葉にならないニュアンス、そういうものも大事にできたらいいなとこのプロジェクトから特に感じました

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野村貴之
大学院を修了してからも細々と研究をさせていただいております。理学が専攻ですが、哲学や西洋美術が好きです。日本量子コンピューティング協会にて量子エンジニア認定試験の解説記事の執筆とかしています。寄稿や出版のお問い合わせはinnovaTopiaのお問い合わせフォームからお願いします(大歓迎です)。