Adobeは2026年5月19日、Google I/Oに合わせて、Adobe for creativityコネクターを数週間以内にGoogle Geminiへ提供すると発表した。
これにより、数億人のGeminiユーザーが、作りたい内容を言葉で説明するだけで、画像・デザイン・動画にわたるAdobeのプロ仕様ツールをGemini内から利用できるようになる。Geminiで発想したアイデアは、Firefly Boardsへ引き継ぎ、Photoshop、Illustrator、Premiere、ExpressといったCreative Cloudアプリでさらに展開できる。
Adobeはこれまでに、Adobe FireflyのFirefly AI Assistantで60以上のプロ仕様ツールを、Claude向けのAdobe for creativityコネクターで50以上のプロ仕様ツールを提供してきた。今回のGemini対応は、その展開の延長線上に位置づけられる。
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Adobe for creativity connector is coming soon to Google Gemini

【編集部解説】
今回の発表で押さえておきたいのは、これが単独の製品ニュースではなく、Adobeが進める「プロ仕様ツールを、ユーザーが居る場所まで運ぶ」という戦略の三歩目にあたるという点です。一歩目は2026年4月にAdobe Firefly内で公開ベータが始まったFirefly AI Assistant、二歩目はその直後に発表されたClaude向けのAdobe for creativityコネクター、そして三歩目が今回のGemini対応となります。約一カ月のあいだに、Adobeは自社製品の中・外を問わず、エージェント型ワークフローへの「入り口」を立て続けに増やしていることになります。
技術的な背景を補足しておきます。「エージェント(agent)」とは、ユーザーが目的だけを伝えれば、その達成手順を自律的に組み立てて実行するAIを指す言葉です。今回の中核にある「Adobe creative agent」は、PhotoshopやIllustratorの「Generative Fill(生成塗りつぶし)」、Lightroomの「Auto Tone(自動色調補正)」、Illustratorの「Vectorize(ベクター化)」、共通機能の「Remove Background(背景の自動除去)」といった、Adobeが公式に挙げる個別ツール群を、自然言語の指示一つから順序立てて呼び出すオーケストレーターとして働きます。記事中の「裏側でツールを連携させる」という表現は、これを指しています。
こうしたコネクター方式の背後では、業界全体で「MCP(Model Context Protocol)」と呼ばれる仕組みの採用が進みつつあります。同日に発表されたCanvaのGemini対応は、自社のMCPサーバー経由でのものだと明言されました。Adobe側の実装方式は本記事執筆時点で明らかにされていませんが、CanvaのGemini連携のように、AIチャットと外部SaaS機能を接続する標準化の流れが進んでいることは確認できます。
読者の皆さまにとっての一番の変化は、「作業の入り口がアプリからチャットへ移る」という点でしょう。これまでは「PhotoshopでXをして、Premiereに渡してYをする」と頭の中で工程を組み立てる必要がありました。これからは「Instagram、YouTube、X向けにそれぞれの縦横比で書き出して」とGeminiに伝えるだけで、Adobeの本物のツールが裏側で動きます。プロ向けソフトの学習曲線を、ある程度まで「平地」にならす効果が期待できるでしょう。
一方で、見過ごせない論点もあります。第一に、創作の主導権をどこに置くかという問題です。Adobeは「ユーザーがビジョンを、エージェントが実行を担う」と整理していますが、ツール選定やパラメーター調整がブラックボックス化すると、創作物の細部に対するクリエイターの責任範囲が曖昧になりかねません。
第二に、プラットフォーム間の主導権争いです。今回の動きは、AdobeにとってGeminiやClaudeといったAIチャットを「自社アプリへの入口」として活用する戦略である一方、GoogleやAnthropicにとっては「ユーザーをチャット内に留めるための装備強化」でもあります。同じイベントでCanvaも参入しており、デザインAIの重要な接点が、従来のアプリUIだけでなくチャットUIにも広がりつつあると見るのが妥当でしょう。Adobeにとっては、自社製品を使ってもらえなくなる将来への先回りという、防衛的な意味合いも見えてきます。
第三に、著作権と来歴の問題です。Adobeは従来からContent Credentialsによる生成物の来歴表示を推進してきました。チャット経由でAdobeのツールを呼び出した成果物が、どのAIモデルとどの編集工程を経たかをどう記録・開示するかは、商業利用の現場で必ず問われることになります。エージェント型ワークフローが普及するほど、この透明性の設計が問題の焦点になっていくはずです。
ちなみに、本件に先立つ2026年5月12日の「The Android Show: I/O Edition」では、Adobe Premiere appのAndroid版提供も発表されています。デスクトップ、AIチャット、モバイルという三方向に同時に手を伸ばしている点を踏まえると、Adobeが描く「クリエイターが居る場所すべて」のスコープは、私たちが想像する以上に広いと考えるのが妥当かもしれません。
長期的な視点で見れば、私たちは「ソフトウェアを操作する時代」から「ソフトウェアと対話する時代」への過渡期に立っています。ツールの習熟という参入障壁が下がることで、これまで「作りたいけれど作れなかった」人々の表現が可視化されていくはずです。同時に、プロのクリエイターには、エージェントには代替できない「視点の提供」「文化的な文脈の読解」「判断の責任を引き受ける勇気」といった、より上位のスキルが求められる時代がやってきます。今回の発表は、その地殻変動の輪郭をくっきりと示した一件と言えるでしょう。
【用語解説】
オーケストレーション(Orchestration)
複数のツールやサービスを、正しい順序とタイミングで連携・実行させる制御の仕組み。今回の文脈では、AIエージェントが画像生成・色調補正・リサイズ・動画書き出しといった工程を、適切なアプリへ振り分けながら通しで進めることを指す。
Adobe creative agent(アドビ・クリエイティブエージェント)
Adobeが2026年4月に発表したエージェント技術。Firefly AI Assistantを支える中核であると同時に、Claude向けやGemini向けのコネクターの基盤としても機能する。Creative Cloudの各アプリの機能を、自然言語の指示から呼び出して連携実行する役割を担う。
コネクター(Connector)
今回の文脈では、外部のAIチャット(Claude、Geminiなど)からAdobeのプロ仕様ツール群を呼び出すための接続モジュールを指す。チャット側で「@Adobe」のように指定して、対話のなかでAdobeの機能を利用できるようにする橋渡し役である。
MCP(Model Context Protocol)
AIモデルと外部ツール・データソースを安全に接続するためのオープン規格。Anthropicが2024年末に提唱し、その後業界全体で採用が進んでいる。CanvaのGemini連携は同社のMCPサーバー経由であることが公式に明言されている。
Content Credentials(コンテンツ・クレデンシャル)
画像・動画などのデジタルコンテンツに、制作者・使用ツール・編集履歴といった「来歴(由来)」情報を電子署名付きで埋め込む仕組み。AdobeはContent Authenticity Initiative(CAI)を主導し、AI生成物の透明性確保に向けた取り組みを進めている。
Google I/O
Googleが毎年開催する開発者向けの年次カンファレンス。同社の主要製品やAI関連の新発表が行われる場として知られる。2026年は5月19日から開催され、Adobe連携のほか、CanvaのGemini対応などが発表された。なお、関連イベントである「The Android Show: I/O Edition」は5月12日に開催され、Adobe Premiere appのAndroid版提供はそこで発表されている。
【参考リンク】
Adobe(アドビ公式)(外部)
クリエイティブ・ドキュメント・マーケティング各分野のソフトウェアを展開する米国企業の公式サイトである。
Adobe Firefly(外部)
Adobeの生成AI技術およびオールインワン・クリエイティブAIスタジオの公式ページ。画像・動画・音声生成に対応する。
Firefly AI Assistant(製品ページ)(外部)
本件の中核となるAdobeのクリエイティブエージェント搭載アシスタント。製品概要と機能例を確認できる公式ページである。
Adobe for creativity(開発者向けポータル)(外部)
外部アプリからAdobeのクリエイティブ機能を呼び出すコネクター開発・利用情報をまとめた公式ポータルである。
Adobe for creativity connector for Claude(外部)
Claude上でAdobeのプロ仕様ツールを利用するためのコネクター案内ページ。今回のGemini対応の先行事例にあたる。
Google Gemini(外部)
Googleが提供する生成AIアシスタントの公式ページ。今回のAdobeコネクターはこのGeminiに追加される予定だ。
Anthropic / Claude(外部)
AIアシスタントClaudeを開発し、MCP規格を主導する米国AI企業Anthropicの公式サイトである。
Adobe Creative Cloud アプリ一覧(外部)
今回の連携で操作対象となるPhotoshop・Illustrator・Premiere等の主要アプリの一覧ページである。
【参考記事】
Adobe expands agentic AI tools across Gemini, Claude and Firefly ecosystem(外部)
Adobeのエージェント戦略全体を俯瞰した記事。Firefly 60超・Claude 50超のツール数を整理している。
Adobe Firefly AI Assistant public beta: what’s new(Red Shark News)(外部)
Firefly AI Assistantパブリックベータ解説記事。Generative Fill等60超ツールの具体名と機能例に触れている。
Adobe Launches Firefly AI Assistant Inside Creative Cloud(Let’s Data Science)(外部)
60超ツール・30超AIモデル・4月27日ベータ開始など具体的な数値と日付を時系列で整理した記事である。
Canva expands design creation inside Google Gemini(Canva公式)(外部)
CanvaのGemini連携が自社MCPサーバー経由で動作することを明言した公式発表である。MCP採用潮流の根拠だ。
Canva and Adobe are coming to Gemini(Digital Trends)(外部)
AdobeとCanvaが同タイミングでGemini対応を発表した競争構図を解説。チャットが入口になる構造変化を読み解いている。
Google just declared itself a contender in AI design at IO 2026(TechCrunch)(外部)
Google I/O 2026でデザインAI市場参入を宣言。Claude Design等プレイヤー間競争を俯瞰した記事である。
Google I/O 2026: the biggest announcements for creatives(Red Shark News)(外部)
Google I/O 2026のクリエイター向け発表を網羅。Premiere appのAndroid対応にも言及している。
More ways to create and share with Android(Google公式)(外部)
Android向けクリエイター機能を発表したGoogle公式記事。Adobe Premiere appのAndroid対応の典拠として参照した。
【関連記事】
Adobe、Firefly AI Assistantを発表—Photoshop・Premiere横断の「クリエイティブエージェント」時代へ
2026年4月17日公開。今回の記事の「一歩目」にあたるFirefly AI Assistant発表時の記事。
Anthropic、Claudeに9つの新コネクター追加—Blender・Adobe・Abletonなどクリエイティブツールと統合
2026年4月29日頃公開。今回の記事の「二歩目」にあたるClaude向けAdobe for creativityコネクター発表時の記事。
Adobe Photoshop・Adobe Express・Acrobat for ChatGPT登場 会話UIがクリエイティブスイートの新しい入口になる
2025年12月11日公開。「会話UIがクリエイティブスイートの新しい入口になる」というテーマと、agentic AI・MCPの視座を共有する基盤的な記事。
Geminiアプリ|思考レベル「Extended」が段階展開、Canva・OpenTable統合も近日予定
2026年5月18日公開。今回の記事で言及した「同イベントで発表されたCanvaのGemini対応」の前段にあたるニュース。
【編集部後記】
「アプリを開く前に、まずチャットで話す」という働き方が、すっかり当たり前になりつつあります。今日ご紹介したAdobeとGeminiの連携は、その流れを後押しする一歩だと感じています。みなさんは、もし作りたいものを言葉で伝えるだけで形にできるとしたら、まず何に挑戦したいでしょうか。
これまで「自分には難しそう」と諦めていた領域はありませんか。よろしければ、思い浮かんだアイデアや、すでに試されている工夫を、ぜひお寄せください。みなさんの実践から、私たち編集部も次の視点を学ばせていただきたいと思っています。












