三菱重工×Preferred Networks、国産AI共同開発で業務提携|社会インフラ・防衛の自律化へ

三菱重工業株式会社と株式会社Preferred Networks(PFN)は、2026年6月2日、社会インフラ分野およびナショナルセキュリティ分野をはじめとするミッションクリティカルな機械・システムの知能化・自律化に向けた、最先端AI技術の共同開発に関する業務提携契約を締結した。

三菱重工のハードウェア・制御技術・シミュレーション技術と、PFNのAI基盤モデル・AI半導体・計算基盤などの国産AI技術を融合し、自律型AIを活用した機械・システムの共同開発に向けた検討を行う。開発したAI技術を三菱重工の製品・システム群へ組み込み、運用の知能化・自律化、高度な予測保全、危機管理の迅速化を進める。両社は2026年度内に資本業務提携契約を締結することを目指す。

三菱重工の取締役社長CEOは伊藤栄作、PFNの代表取締役社長は岡野原大輔。PFNは2014年に創業した。

From: 三菱重工とPreferred Networks、ミッションクリティカル領域における国産AI技術の共同開発で業務提携

【編集部解説】

今回の提携を読み解く鍵は、「組み合わせの妙」にあります。三菱重工は、発電所や航空機、防衛装備といった「止まることが許されない巨大なハードウェア」を100年以上にわたり手がけてきた重工業の雄です。一方のPFNは、AI半導体、計算基盤、基盤モデルを自社で開発・展開する、国内でも稀有な「フルスタック型」のAI企業といえます。重厚長大の象徴と、AIスタートアップの代表格。一見遠いこの両者が手を結んだ点にこそ、本件の意味が凝縮されています。

そもそも記事に頻出する「ミッションクリティカル」とは、一瞬の停止や誤作動が人命・社会機能に直結する領域を指す言葉です。電力網、プラント、航空、そして防衛。これらは「たまに賢く間違える」AIが最も導入しにくかった分野でした。両社が狙うのは、こうした現場で機械やシステム自身に状況を判断・対処させる「自律型AI」の実装です。業界ではこれを、画面の中だけで完結しない、物理世界に作用するAIという意味で「フィジカルAI」とも呼びます。

PFNを理解するうえで欠かせないのが、その技術の「垂直統合」です。同社は2014年3月に創業し、電力効率の高いAIプロセッサー「MN-Core」シリーズ、AI向けクラウドサービス、国産大規模言語モデル「PLaMo」などを開発してきました。MN-Coreシリーズは、汎用GPUとは異なる設計思想で、AIに必要な計算に機能を絞ることで高い処理性能を発揮するのが特徴です。NVIDIA製GPUへの依存が大きいAI計算基盤の領域で、AI半導体まで自社開発している点が、「国産AI」という言葉に重みを与えています。

では、何ができるようになるのか。記事が挙げるのは、運用の知能化・自律化、高度な予測保全、危機管理の迅速化の3つです。具体的には、発電設備が故障の兆候を自ら察知して整備時期を提案したり、災害やサイバー攻撃のような不測の事態にシステムが即応して被害を最小化したり、といった姿が想定されます。人手不足が深刻化する社会インフラの保守現場にとって、これは切実な処方箋にもなり得ます。

見逃せないのが「国産」という旗印が持つ、もう一つの文脈です。電力や防衛のデータを、海外製のクラウドや基盤モデルに預けることへの警戒は世界的に強まっています。AI半導体、計算基盤、基盤モデルを国内企業が開発・管理できる体制は、経済安全保障の観点で大きな意味を持ちます。今回あえて「ナショナルセキュリティ」を前面に掲げた点は、国の重要インフラを誰が支えるのかという、静かだが本質的な問いへの回答とも読めるでしょう。

一方で、潜在的なリスクからも目をそらすべきではありません。自律的に判断するAIを、人命に関わる領域へ組み込むということは、誤作動時の責任の所在や、判断プロセスの説明可能性(なぜそう動いたのか)という難題を常に伴います。とりわけ防衛分野では、「人間がどこまで関与し続けるか(ヒューマン・イン・ザ・ループ)」という倫理的な論点が避けて通れません。技術が先行し、規制や社会的合意が後追いになる構図には、注意深い視線が必要です。

規制面に目を向けると、日本では2025年に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI推進法)」が成立し、同年9月に全面施行されています。ただしこれは、EUのAI法(AI Act)のように用途ごとのリスクを罰則付きで縛る規制法ではなく、国の基本計画づくりや研究開発・活用の後押し、不適切な利用への調査・指導を軸とする「推進型」の枠組みです。重要インフラや防衛におけるAI活用は、この枠組みをどう運用し、肉付けしていくかを占う試金石になります。両社の取り組みが、ルールづくりの議論を具体的な事例で前に進める可能性は十分にあるでしょう。

最後に長期的な視座を。本提携は業務提携にとどまらず、2026年度内に資本業務提携契約の締結を目指すと明記されています。資本を入れるという判断は、両社が単発の協業ではなく、腰を据えた長期投資として本気で臨むことの表れです。日本のものづくりが培ったハードウェアの厚みと、国産AIの頭脳が融合したとき、社会インフラは「壊れてから直す」時代から「壊れる前に自ら気づく」時代へと移っていくのかもしれません。その最初の一歩を、私たちは今まさに目撃しているのです。

【用語解説】

ミッションクリティカル
一瞬の停止や誤作動が人命・社会機能・事業継続に直結する、極めて重要な領域や処理を指す。電力網、プラント、航空、防衛などが典型例である。

自律型AI
人間の逐次的な指示を待たず、AI自身が状況を判断し、対処までを実行するAIのこと。あらかじめ決めた手順をなぞるだけの自動化とは区別される。

フィジカルAI
画面やテキストの中で完結せず、機械・ロボット・設備など物理世界に作用するAIを指す呼び方。生成AIの次の焦点として注目される領域である。

国産AI(ソブリンAI)
半導体・計算基盤・基盤モデルといったAIの構成要素を、自国の技術と管理下で確保しようとする考え方。海外依存に伴う供給・安全保障上のリスクを抑える狙いがある。

AI半導体(AIプロセッサー)
AIの学習や推論に特化して設計された専用チップ。汎用GPUに比べ、用途を絞ることで処理性能や電力効率を高めやすい。

基盤モデル/大規模言語モデル
大量のデータで事前学習し、さまざまな用途に応用できる汎用的なAIモデル。言語を扱うものを大規模言語モデルと呼ぶ。

垂直統合
半導体から計算基盤、モデル、応用までを一社で一貫して手がける事業形態。各層の知見を相互にフィードバックできる強みがある。

予測保全(予測保守)
設備の故障を、起きてから直すのではなく、兆候を事前に検知して対処する保守の考え方。稼働停止の回避とコスト削減につながる。

経済安全保障
重要技術や供給網を保護し、他国への過度な依存を避けて国家・社会の安全を守る政策的な考え方。重要インフラや先端半導体が主な対象となる。

ヒューマン・イン・ザ・ループ
AIの判断・動作の過程に人間の確認や承認を組み込み、最終的な制御を人間が握り続ける設計思想。特に防衛・人命に関わる領域で重視される。

資本業務提携
業務上の協力に加え、出資など資本関係を伴う提携のこと。単なる協業より結びつきが強く、長期的な共同投資の意思を示す。

【参考リンク】

三菱重工業株式会社(公式サイト)(外部)
エネルギーや社会インフラ、航空・宇宙・防衛などを手がける総合重工業大手の公式サイト。

株式会社Preferred Networks(公式サイト)(外部)
AI半導体MN-Coreや国産大規模言語モデルPLaMoなどを開発するAI企業の公式サイト。

Preferred Networks「AI半導体」事業ページ(外部)
神戸大学と共同開発するAI専用プロセッサーMN-Coreの設計思想と活用事例を紹介する。

Preferred Networks「MN-Coreシリーズ」プロジェクトページ(外部)
MN-Coreシリーズの開発背景や技術的特徴、関係する研究者をまとめた技術紹介ページ。

NVIDIA(日本語サイト)(外部)
AI開発で広く使われる汎用GPUを供給する世界的半導体企業の日本語公式サイト。

【参考記事】

Preferred Networks 会社概要(Factsheet)(外部)
PFNの公式資料。2014年創業、従業員約350名、MN-CoreやPLaMoなどの基本情報を整理。

急成長続くAI半導体市場 勢力図変える日本の独自技術(日経BizGate)(外部)
ユニコーンPFNが垂直統合でNVIDIAの牙城に挑む戦略を、岡野原氏への取材で描く。

三菱重工とPreferred Networks、社会インフラ領域の国産AI共同開発で提携(IT Leaders)(外部)
提携の要点を整理。製品へのAI組み込みと2026年度内の資本業務提携方針を報じる。

AI半導体|事業内容(Preferred Networks)(外部)
PFNが2016年から神戸大学と進めるMN-Core開発の技術的な位置づけがわかる事業ページ。

共同創業者(Preferred Networks)(外部)
岡野原氏の2025年11月社長就任など最新の経営体制と共同創業者の経歴を掲載する。

人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律の全面施行について(政府広報)(外部)
AI推進法の全面施行と、AI戦略本部・AI基本計画など政府主導の推進枠組みを解説。

Mitsubishi Heavy to develop Japan-based defense AI with Preferred Networks(Nikkei Asia/英語)(外部)
海外起因のリスクを抑える国産AI・防衛AI開発という安全保障の切り口で報じる英語記事。

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【編集部後記】

重厚長大とAIスタートアップという、これまで交わりにくかった二つの世界が手を結んだことに、時代の節目を感じます。私たちが日々あたりまえに享受している電気や交通の「あたりまえ」は、こうした地道な技術の融合によって静かに支えられ、更新されていくのだと思います。自律するAIに何をどこまで委ねるのか——その答えはまだ誰も持っていません。だからこそ、技術の進み方とあわせて、社会としての合意づくりの行方も、これからじっくり見つめていきたいと考えています。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!