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Claudeが返答しました: 「探している、あの一枚の資料」が、いつまでも見つからない――。社内には情報があふれているのに、肝心の中身ほどPDFや図面、表の“絵”の中に埋もれていて、検索の網から漏れてしまう。多くの働く人が、一度はそんなもどかしさを味わったことがあるのではないでしょうか。
「探している、あの一枚の資料」が、いつまでも見つからない――。社内には情報があふれているのに、肝心の中身ほどPDFや図面、表の“絵”の中に埋もれていて、検索の網から漏れてしまう。多くの働く人が、一度はそんなもどかしさを味わったことがあるのではないでしょうか。
リコージャパンが手がける生成AIサービスが、まさにその「見えない壁」に正面から挑みます。これまで文字しか読めなかったAIに、図やグラフ、表を“読む目”が備わり、さらに自由に相談できる対話機能まで加わりました。社内の知恵を「探す」道具から、「任せる」相棒へ。オフィスの当たり前が静かに塗り替わろうとしている、その入り口を覗いてみましょう。
リコージャパン(社長執行役員:笠井徹)は2026年6月26日、生成AIサービス「RICOH デジタルバディ」のバージョンアップ版の提供を開始する。
文書内の図面・グラフ・表・写真も読み取るマルチモーダルRAGを正式に搭載し、文書検索を伴わない汎用AI対話機能「Chatモード」を追加した。料金体系は質問回数制から利用量に応じたクレジット制へ刷新した。
本サービスは、企業向けAIプラットフォーム「Hi.DEEN」のドキュメント活用基盤であるナイーブRAG、マルチモーダルRAG、グラフRAGの技術を適用する。グラフRAGはAdvancedプランのみ個別対応となる。今後はエージェンティックRAG機能の実装を目指す。
From:
画像・図表も読み取るマルチモーダルRAGと汎用AI対話機能を搭載しバージョンアップした「RICOH デジタルバディ」の提供を開始 | リコーグループ 企業・IR | リコー

【編集部解説】
リコージャパンが発表した今回のアップデートは、一見すると既存サービスへの機能追加にすぎません。しかしここで注目したいのは、企業向けAIが「調べる道具」から「任せる相棒」へと移り変わる、その分岐点をくっきりと映し出している点です。
鍵となる「マルチモーダルRAG」という言葉を、少し噛み砕いておきましょう。従来型の、テキストを中心としたRAGでは、文書の「文字」は扱えても、図や表のなかの情報までは検索の対象にできませんでした。ところが製造業の図面、建設業の積算表、IR資料のグラフなど、日本のビジネス文書は肝心の情報ほど図や表に閉じ込められています。この「検索の死角」を埋め、画像化された情報までAIの参照対象へ引き上げる——それが今回の中核だと言えます。
影響が及ぶのは、特定の業種にとどまりません。紙とPDFが業務の土台になっている日本企業全般、とりわけ図表への依存度が高い現場ほど、恩恵が期待されます。文字起こしされていない設計図や点検記録が「検索できる資産」へと変わることは、これまでデジタル化から取り残されてきた領域への橋渡しになり得ます。
もう一つの追加機能である汎用AI対話「Chatモード」も見逃せません。社内文書を根拠に回答する従来モードに加え、文書検索を伴わない自由な対話が、一つのサービス内で完結するようになりました。情報を探す入口から、報告書のたたき台という成果物の出口まで——その全工程を一気通貫で担おうとする構えがうかがえます。
料金体系の転換も、地味ながら本質的な一手でしょう。ユーザー数で課金しない方針を保ったまま(ただし同時接続数には上限が設けられています)、利用量に応じたクレジット制へ一本化したことで、全社配布と一部門の試験導入を同じ料金思想のなかで扱えるようになりました。AI活用の「入りやすさ」を、価格設計の側から組み直した動きと読み解けます。
その背景にあるのは、リコーが国家プロジェクト「GENIAC」で進めてきた国産マルチモーダルLLMの開発です。同社は2025年12月に企業向けAI基盤「Hi.DEEN(ヒデン)」を掲げ、企業に眠る「暗黙知」を競争力へ昇華させる構想を描いてきました。今回のサービスは、その技術資産を現実の業務へ落とし込む着地点に位置づけられます。海外の巨大プラットフォームに頼り切らないAIの選択肢を、国内で育てようとする動きの一つとも読めます。
ここで、リリースとは少し異なる視点を加えてみます。発表の主役は「マルチモーダルRAG」ですが、より重要な信号は、その先に掲げられた「エージェンティックRAG」構想ではないでしょうか。「司令塔」となるAIが利用者の意図を自ら解釈し、専門分野ごとのAIへ仕事を振り分ける——これは2026年の企業AIで注目が高まる「自律的に動くAI」の流れに連なるものです。今回の発表を、その大きなロードマップの一里塚として捉え直すと、見え方が変わってきます。
一方で、手放しの楽観は禁物です。RAGは、AIが事実に基づかない情報を作り出す「ハルシネーション」を抑えるための技術ですが、文書検索を伴わないChatモードは、その安全網の外側で文章を生成します。便利さと引き換えに、誤情報が紛れ込む余地も広がります。この点は意識しておきたいところです。そしてAIが自律的に動くほど、「誰がどの情報にアクセスできるか」という権限管理の厳密さこそが、信頼性の生命線になります。
規制の観点も無視できません。EUのAI規則(AI Act)では、汎用AI(GPAI)に関する義務が2025年8月から適用されています。一方、当初2026年8月の適用が見込まれていた高リスク用途の義務は、2025年末に提案された簡素化措置「デジタル・オムニバス」によって延期され、単体の高リスクシステムは2027年12月、製品に組み込まれるものは2028年8月へと段階適用される見通しです(2026年6月に欧州議会が承認、理事会の正式採択は手続き中)。社内文書という機微なデータをAIへ委ねる以上、データガバナンスと説明責任の整備は、機能拡張と同じ速度で問われ続けるはずです。
長期的に見れば、この種のサービスが目指す先は「人がAIに使われる」未来ではありません。「探す・まとめる」といった反復作業をAIに預け、人が判断と創造へ集中できる環境をつくること——そこに本質があります。創業90年の老舗が、紙とコピー機の会社から「はたらく」の未来を設計する企業へと自らを描き直そうとしている。その確かな一歩として、私たちはこのニュースを記録しておきたいのです。
【用語解説】
RAG(検索拡張生成 / Retrieval-Augmented Generation)
LLMが外部の文書を検索し、その内容を根拠として回答を生成する仕組み。学習済みの知識だけに頼らず、最新かつ固有の情報を反映でき、事実に基づかない生成を抑える効果がある。
ナイーブRAG
外部文書を検索して取得した情報を、そのままLLMに渡して回答を生成する、最も基本的なRAG。
グラフRAG
情報同士の関係性を構造化し、そのつながりに基づいて検索・推論を行うRAG。文書間・概念間の関係を踏まえた回答が可能になる。
エージェンティックRAG
利用者の要求をAIが自律的に解釈し、検索・分解・検証・統合などの工程を複数のAI(エージェント)が分担して進める発展型のRAG。2026年の企業向けAIで注目が高まる方式とされる。
GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)
経済産業省とNEDOが実施する、国内の生成AI開発力強化を目的とした国家プロジェクト。基盤モデル開発への計算資源提供などを行う。リコーはこの枠組みでマルチモーダルLLMを開発している。
EU AI規則(AI Act)
EUによるAIの包括的規制。リスクに応じた義務を段階的に課す。汎用AI(GPAI)向けの義務は2025年8月から適用済み。当初2026年8月とされた高リスク用途の義務は、簡素化措置「デジタル・オムニバス」により、単体システムは2027年12月、製品組込み型は2028年8月へ延期される見通し(正式採択は手続き中)。
【参考リンク】
RICOH デジタルバディ(商品ページ)(外部)
リコーが提供する生成AIによる社内ナレッジ活用サービスの公式ページ。機能や活用シーン、料金プラン、導入の流れを確認できる。
“はたらく”を支えるリコーの大規模言語モデル(LLM)(外部)
リコーのLLM開発と企業向けAI基盤「Hi.DEEN」を紹介する公式ページ。GENIACで開発したモデルやベンチマーク情報も掲載されている。
【参考記事】
What is Multimodal RAG? Complete Guide 2026(外部)
マルチモーダルRAGの全体像と2026年の進化トレンドを解説。高ROIを得る企業の段階的導入やAI予算配分の傾向も紹介する。
Agentic RAG in 2026: The UK/EU enterprise guide to grounded GenAI(外部)
英国・EU企業向けのエージェンティックRAG導入指針。リスク分類への用途のマッピングや文書単位のアクセス制御を解説する。
What Is RAG? How Retrieval-Augmented Generation Works in 2026(外部)
RAGの仕組みと2026年の動向を解説。エージェンティックRAGの広がりと、ガバナンス整備が前提になることを指摘している。
RAG in 2026: Bridging Knowledge and Generative AI(外部)
RAGの限界とAIエージェント時代の要件を論じ、エージェント単位のアクセス制御が不可欠になることを説明する解説記事。
20 Advanced RAG Types to Know in 2026(外部)
2026年に押さえるべき先進RAG20種を整理。長文記憶やマルチモーダル、グラフ推論など発展の方向性を示している。
EU legislators agree to delay for high-risk AI rules(外部)
EUがAI Actの高リスク義務を2027年12月・2028年8月へ延期する政治合意に至った経緯を解説する法律事務所の記事。
【関連記事】
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企業の社内生成AI全社展開とガバナンスという、本記事の「全社活用」論点に重なる事例。
【編集部後記】
今回のリリースを読み解きながら、筆者がもっとも引き込まれたのは「図表の中に閉じ込められた情報」という論点でした。私たちが普段なにげなく眺めている図やグラフは、機械にとって長らく「見えない情報」だったのです。それがいま、AIの目に映りはじめています。
ここで、ふと半分冗談のような想像が頭をよぎりました。世の中には「伝わる図解のコツ」「プレゼン資料の作り方」といった、人間向けの講座がたくさんあります。ならば、AIが図表を読むのが当たり前になった先には、「AIに理解してもらいやすい図解の作り方」なんていう逆向きの作法が登場するのかもしれません。人に優しいレイアウトと、AIに優しいレイアウト。その両方を意識して資料をつくる――そんな日が、案外すぐそこまで来ている気もします。
冗談半分とはいえ、これは「人とAIのどちらに合わせるのか」という、地味で本質的な問いでもあります。派手な万能AIの話題の陰で進む、こうした足元の変化を、これからも丁寧に追いかけていきたいと思います。












