リチウム電池の発煙・発火にAIで挑む─明石市新ごみ処理施設に川崎重工のX線検出技術

昨日、あなたが捨てたモバイルバッテリーは、いまどこにあるでしょうか。答えは意外と切実で、その小さな電池は、収集車やごみ処理施設のどこかで、静かに発火のきっかけを待っているかもしれません。私たちが「捨てる」と呼ぶ行為の先には、汗と危険にまみれた誰かの手作業と、いつ燃えるかわからない現場があります。兵庫県明石市で動き出したのは、そんな見えない現場に、AIとロボットを送り込む計画です。X線で電池を見つけ出すAI、人の隣でびんを拾い上げるロボット、離れた場所から炉を見守るベテランの目。ごみ処理場という、私たちが最も関心を払ってこなかった場所で、いま何が起きようとしているのか。20年先まで続くこの計画の中身を、一緒に覗いてみたいと思います。


川崎重工は2026年7月9日、明石市より「明石市新ごみ処理施設整備・運営事業」を受注したと発表した。DBO方式で発注され、設計・施工を5年間、運営を20年間行う。

ごみ焼却施設と資源リサイクル施設を既存ごみ処理施設の隣接地に建設し、2031年4月に供用する。契約金額は663億6,421万円(消費税込み)。焼却施設はストーカ式焼却炉276t/日、蒸気タービン発電機7,870kW×1基を備える。余剰電力は一般家庭約11,800軒分に相当し、自営線と自己託送で市の公共施設へ供給する予定。

設計・建設は川重・村本特定建設工事共同企業体、運営は川崎重工業・カワサキグリーンテック・TMCが出資するグリーンパーク明石株式会社が担う。建設場所は兵庫県明石市大久保町松陰1131番地ほか。運営期間は2031年4月1日から2051年3月31日までの20年間。

From: 文献リンク明石市より「明石市新ごみ処理施設整備・運営事業」を受注

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【編集部解説】

まず押さえておきたいのは、これが単なる「一自治体のごみ処理施設の建て替え」ではないという点です。契約金額663億6,421万円という規模は、明石市にとって世代をまたぐ社会インフラ投資です。20年間の運営・維持管理を含めた市の提案上限価格は税込809億9,410万円に上り、これは市の2025年度一般会計(約1,366億円)の6割弱に匹敵する規模です(約25年分の総額と単年度予算の比較であり、単年度に6割を負担するという意味ではありません)。人口約30万7千人(2025年国勢調査速報値)の都市にとって、その重みは小さくありません。

今回の受注方式である「DBO」は、Design(設計)・Build(建設)・Operate(運営)を一括で民間に委ねる公設民営の手法です。施設の所有は自治体が持ちつつ、設計から20年の運営までを一つの事業者グループが担うことで、建設と運営を分離した従来方式より効率化とライフサイクルコストの最適化を図りやすくなります。人口減少と運転員・熟練人材の不足という背景のもと、専門性の高いプラント運営を長期で外部に委ねる選択肢が広がっています。

innovaTopiaがこのニュースに注目する理由は、川崎重工がここで投入する技術の顔ぶれにあります。焼却炉の自動燃焼制御「Smart-ACC」と、それを補完するAI運転支援システム。離れた拠点から複数施設を見守る遠隔監視「KEEPER」。資源選別を担う協働ロボット「K-Repros」。そして、資源ごみに紛れたリチウムイオン電池をX線で検出するAI。これらは、これまで熟練運転員の勘と経験に支えられてきた現場を、データとAIで補完・支援していく試みの集大成と言えます。ここで大切なのは、これらが一つの万能AIではなく、役割の異なる複数のシステムの組み合わせだという点です。

とりわけ社会的な意味が大きいのが、AIによるX線画像解析でリチウムイオン電池を検出する機能です。これはK-Reprosによるびん選別とは別の独立したシステムで、資源ごみに紛れた電池をX線画像解析で検出し、破砕・処理工程での火災を未然に防ぐことを狙います。なぜこの機能がいま重要なのか——背景には、廃棄物処理現場での電池火災の深刻化があります。

ここで数字の読み方には注意が必要です。環境省の2025年度の暫定集計では、リチウムイオン電池等に起因すると疑われる発煙・発火を含む広義の発生件数は3万6,760件で、前年度の2万3,068件から約6割増えました。一方、職員や消防隊による消火を要した狭義の「火災事故等」は8,935件で、前年度の9,923件からむしろ減少しています。増加分の多くは、消火を要した「火災事故等」には分類されない発煙・発火です。少なくとも、消火を要した火災事故等の件数は増えていない——この区別を踏まえてこそ、対策技術の意義を正確に捉えられます。

それでも、火災が現場に与える打撃は小さくありません。国立環境研究所の推計では、2021年度に処理施設で電池が原因とみられる火災の被害総額は約96億〜108億円に上ったとされます(施設全体の被害のうち電池起因を8〜9割と仮定した推計値)。破砕機で電池が潰れて内部短絡し、熱暴走に至るメカニズムを考えれば、「破砕の前に見つける」X線AIは、施設の安定稼働そのものを守る技術だと理解できます。

もう一つの見どころが、資源リサイクル施設のロボット化です。「K-Repros」は、川崎重工がロボットメーカーでもある強みを活かし、協働ロボット「duAro2」に自社開発の画像認識AIを組み合わせたものです。びんを検出して「茶色・無色・その他」に色分類する性能は、川崎重工技報によれば色の適合率が各区分100%、検出率は平均97.2%とされます。大きさや重量の異なるびん、異物などが混在する負担の大きい手選別工程を、安全柵なしで人と同じ空間から支援する設計です。ロボット1台あたりの処理量は作業員1人分の約5割とされ、人を置き換えるのではなく、危険で過酷な作業を分担する位置づけと考えられます。

ポジティブな側面は明快です。労働人口が縮小するなかで、施設運営を効率化し、余剰電力を一般家庭約11,800軒分(計画値)生み出して市の公共施設へ地産地消で供給する。ごみ処理場が「コストのかかる迷惑施設」から「地域のエネルギー拠点」へと役割を変えていく方向性が、この計画には描かれています。

一方で、潜在的な論点も残ります。20年という長期運営契約は、一般論として技術陳腐化リスクや特定事業者への依存(ベンダーロックイン)という側面を併せ持ちます。明石市の選定でも、施設の長寿命化や維持管理、事業期間中のリスク管理が評価対象とされています。また、遠隔監視「KEEPER」自体がベテラン技術者の支援を前提とするように、省人化が進むほど非常時に現場を判断できる熟練人材をどう維持・継承するかという問いは重くなります。これらは現時点で顕在化した問題ではなく、これから検証されていく将来の課題です。

長期的な視点で見れば、この明石市の事例は、日本全国で老朽化の波を迎えるごみ処理施設更新の一つのモデルケースになり得ます。カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーという国家目標を、地方都市が具体的な設備として実装していく——その一歩が、いま兵庫県明石市で動き出したという事実に、私たちは未来の地域インフラの輪郭を見ています。もっとも、Smart-ACC/AI運転支援、KEEPER、K-Reprosには既存施設への導入や実証試験の実績があるものの、この明石市の施設としての効果が実証されるのは2031年の稼働以降であり、その成否を見届けることこそ、私たち「未来を報じるメディア」の役割だと考えています。

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【編集部後記】

正直なところ、ごみ処理施設という言葉に、これまで胸が高鳴ったことはありませんでした。街のはずれにある、煙突の立った大きな建物。用事がなければ近づくこともない場所です。けれど今回、資料を読み込むうちに、その無関心こそが一番の問題なのかもしれないと思うようになりました。

心に残ったのは、電池火災の数字の読み方です。「約6割増」という見出しの数字は確かに衝撃的ですが、中身を開けてみると、増えているのは小さな発煙や発火であって、消火を要する火災そのものは減っていました。センセーショナルな数字だけを追いかけていたら、この技術が何を守ろうとしているのかを見誤っていたと思います。数字は、区分を確かめてはじめて意味を持つ。当たり前のことを、あらためて教わりました。

もうひとつ考えさせられたのが、ロボットの処理能力が作業員1人の半分ほどだという事実です。これを「まだ人に及ばない」と読むこともできます。でも、割れたガラスや正体不明の異物が流れてくるラインで、人と肩を並べて半分を引き受けてくれる相棒がいる。その意味は、効率の数字だけでは測れないはずです。技術が人を追い出すのか、人を守るのか。その分かれ目は、たぶん設計者がどこを見ているかで決まるのだと思います。

供用が始まるのは2031年。まだ5年近く先の話で、ここに書かれた効果が本当に実現するかは誰にもわかりません。だからこそ、稼働した後にどうなったかを、私たちは見届けたいと思っています。うまくいった話も、思うようにいかなかった話も、両方が次の街の判断材料になるはずですから。

そして最後に、いちばん近い場所にある話を。この施設がどれだけ賢くなっても、電池が不燃ごみに紛れ込む限り、リスクはゼロにはなりません。お住まいの地域では、モバイルバッテリーはどう出すことになっているでしょうか。私自身、調べてみて初めて知ったことがいくつもありました。よかったら、一度だけ確認してみてください。その小さな手間が、たぶん、どこかの現場のいちばん確実な火災対策になります。


補足です。リード文は「昨日捨てたバッテリー」という読者自身の行為から入り、施設で使われる技術を具体名なしで示すことで、要約の固有名詞・数値と重複しないようにしました。編集部後記は、記事を作る過程で気づいたこと(数字の読み方、ロボットの能力の解釈)を、教える口調ではなく一緒に驚いた形で書き、最後に読者自身が今日できる行動へ着地させています。

「取材」という語は両方で使っていません。トーンや長さの調整が必要でしたら、お知らせください。

【用語解説】

DBO方式
Design(設計)・Build(建設)・Operate(運営)の頭文字をとった事業方式である。施設は自治体が所有する公設としつつ、設計から建設、長期の運営までを民間事業者グループに一括で委ねる「公設民営」の手法だ。建設と運営を分離する従来方式より、ライフサイクル全体でのコスト最適化を図りやすいとされる。

Smart-ACC
川崎重工の改良型自動燃焼制御システムである。ACCは自動燃焼制御(Automatic Combustion Control)を指し、ごみ質のばらつきに対しても安定した燃焼を保つことを目的とする。これを補完する形で、AIがベテラン運転員の判断を支援する「AI運転支援システム」が別機能として組み合わされる。

KEEPER
川崎重工の遠隔監視・支援システムである。焼却施設から離れたサポートセンターで、熟練技術者が複数施設の運転状況を監視・支援できる仕組みだ。

K-Repros
川崎重工のAI搭載資源ごみ選別作業支援システムである。自社の協働ロボット「duAro2」に、びんを検出して色や位置を認識する画像認識AIを組み合わせ、人と同じ空間で手選別作業を支援する。技報によれば、色分類の適合率は各区分100%、検出率は平均97.2%とされる。なお、資源ごみ中のリチウムイオン電池を検出するX線画像解析AIは、これとは別の独立したシステムである。

パラレルピッキングロボット
複数のリンクを並列に配置した機構によって先端部を高速に動かし、対象物をつかんで仕分けするロボットである。ベルトコンベヤ上を流れる資源ごみの高速選別に用いられる。

自営線・自己託送
自営線は事業者が自ら敷設・保有する送電線を指す。自己託送は、自社が発電した電力を、一般の送電網を介して自社または密接な関係を持つ者の需要場所へ送る制度である。両者を組み合わせ、余剰電力を市の公共施設へ供給する構想だ。

【参考リンク】

明石市新ごみ処理施設整備・運営事業(明石市 公式)(外部)
発注者である明石市の公式ページ。DBO方式の採用や事業期間20年など、事業の基本方針を確認できる。

並行流焼却炉・Smart-ACC・AI運転支援システム(川崎重工)(外部)
焼却施設の中核技術を紹介する製品ページ。プレスリリース脚注※1に対応する一次情報である。

遠隔監視・支援システム「KEEPER」(川崎重工)(外部)
離れた拠点から施設を監視・支援する仕組みを紹介するページ。脚注※2に対応する。

AI搭載 資源ごみ選別作業支援システム「K-Repros」(川崎重工)(外部)
資源リサイクル施設に導入されるロボット選別システムの製品ページ。脚注※3に対応する。

カワサキロボティクス(川崎重工の産業用ロボット)(外部)
協働ロボットduAroやK-Reprosを含む、川崎重工のロボット技術全体を紹介する公式サイト。

リチウム蓄電池関係(環境省 環境再生・資源循環)(外部)
廃棄物処理施設でのリチウムイオン電池火災の実態と対策をまとめた環境省の公式ページである。

【参考動画】

【参考記事】

リチウムイオン電池等による火災事故等の現状(環境省 2024年度集計)(外部)
2024年度の火災事故等9,923件、広義2万3,068件や被害推計を掲載する環境省の一次資料である。

環境省 リチウムイオン電池火災事故等の発生件数 令和7年度は36,760件(発煙・発火を含む)(外部)
2025年度暫定の広義3万6,760件と狭義8,935件を区別して整理した記事である。

リチウムイオン電池、誤った捨て方で火災に!(政府広報オンライン)(外部)
火災の発生メカニズムと対策を政府が解説。火災を経験した自治体で最多の区分が不燃ごみ(72%)と示す。

廃棄物処理施設におけるリチウムイオン電池起因の発火・火災対策技術資料(国立環境研究所)(外部)
2021年度の被害総額を約96億〜108億円と推計した資料。推計の前提条件も記載されている。

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。