Sunoが9月3日に設けるダウンロード上限は、無料プランで通算7回、Proで月20回です。ただし数字より重いのは、同じ日に施行される新しい利用規約のほうでした。生成しただけでは、その曲を仕事に使えなくなります。ダウンロードを取得したことが、商用利用の条件になります。
Sunoは2026年8月10日、ダウンロード方針と利用規約の変更を公式ブログで告知した。9月3日から、無料プランは生涯7回、Proは月20回、Premierは月60回のダウンロード上限を設ける。Suno Studioを利用するPremier契約者に上限はない。
上限を超える分は追加購入できる。上限は9月3日より前に作った曲にも適用されるが、楽曲はライブラリに残り、全プランで再生と共有ができる。同日施行の新しい利用規約では、コンテンツの権利と商用利用の扱いを明確にしたほか、仲裁合意と集団仲裁に関する条項を更新した。あわせて、音楽業界と共同開発した新世代モデルを近く投入し、投入時に従来モデルをすべて廃止すると述べた。
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An update to our downloads policy and Terms of Service
【編集部解説】
数字が埋まった。ただし埋まったのは、予告されていた穴ではない
Sunoは4日前、ダウンロード方針を見直すと述べながら、条件も時期も示しませんでした。今回それが出そろいます。無料プランは生涯7回のトライアルダウンロード、Proは月20回、Premierは月60回。Suno Studioを使うPremier契約者だけが上限の外に置かれます。
昨年11月25日のWarner Music Groupとの提携発表と並べると、線の引き直しが見えてきます。当時公表された方針は明快でした。音源のダウンロードには有料アカウントを必須とし、無料プランで作った曲は今後ダウンロードできず、再生と共有のみになる。
今回、無料プランには7回の枠が残りました。この点では、当時の発表より制限が緩んでいます。7回、20回、60回という数字がどのように置かれたのか、そして施行後に何をもって効果を測るのかは、これからの説明を待つことになります。
しかし規約を開くと、線が消えたのではなく移動したことがわかります
9月3日施行の新しい利用規約には「Permitted Commercial Use(許諾される商用利用)」という項目が新設されています。そこにはこう書かれています。自分のプランの割当てに従って承認されたダウンロードを取得した範囲でのみ、生成物を商用利用できる。ダウンロードしていない生成物を商用利用することはできない。
現行規約にこの条件はありません。Pro・Premier契約者には、有料契約期間中に生成した生成物についてSunoが保有する権利が譲渡される、と書かれているだけです。ダウンロードしたかどうかは関係しませんでした。
つまりProの「月20回」は、新たにダウンロードできる曲が原則として月20曲になるという意味を持ちます。生成しただけの曲は、ライブラリにあっても商用に使えません。ダウンロードの取得が、商用利用の関門になります。無料プランの7回にも商用利用権は付きません。Warnerとの提携時に示された「ダウンロードには有料アカウントを必須とする」という方針は、「商用利用には有料アカウントとダウンロードの両方を必須とする」という形で実装されたことになります。
ただし、これを「月20曲しか商用に使えない」と読むのは行きすぎです。同じ曲を別の形式で落としても、ステムをまとめて落としても、消費は1回にとどまります。上限を超えた分は追加購入もできます。追加分の単価は、今後の案内で示されることになります。逆に、リミックスは有料プランでダウンロードを取得しても原則として非商用にとどまります。
公式ブログはこの点を「あなたのコンテンツと商用利用について明確にした」と要約し、続けて「有料プランでダウンロードした曲は商用にも個人利用にも使えます」と書いています。詳しい条件は、規約本文のほうに置かれています。
著作権ではなく契約で縛る、という選択
規約には、法務上の設計思想がはっきり出た一節があります。これらの制限はSunoと利用者のあいだの契約上の約束であって、譲渡した権利への留保や条件ではなく、生成物に著作権その他の権利が生じるかどうかにかかわらず契約上の義務として適用される、と。
同じ規約はもう一方で、機械学習の性質上、生成物に著作権が生じることを保証しないと述べています。
AI生成物に著作権が認められるかは各国で決着していません。その不確かさを前提に、著作権の有無に依存しない契約という土俵へ移す。ダウンロードという計測可能な行為を関門に据えたのは、その土俵で執行しやすい設計だからでしょう。
利用者側に有利になった点も、同じ規約の中にあります
一方向の変更ではありません。取得済みのダウンロードに伴う商用利用の権利は永久であり、割当ての消尽、その後の割当てや価格の変更、契約の満了・解約・降格・停止のいずれによっても影響を受けないと明記されました。現行規約は「有料契約期間中に生成した」という限定だけを置いており、解約後にどうなるかを読み取りにくい書き方でした。使えるようになった曲は、翌月以降も使えます。
無料プラン利用者に課されていたSunoへのクレジット表記義務も、新規約では消えています。9月3日以降、無料プランで作った曲は非商用であれば表記なしで使えます。
無制限ダウンロードを含む年払いプランを契約している場合はどうなるか。公式FAQにも同じ設問が立てられており、案内されているのは解約の手順です。規約は支払いを最終的なものとしつつ、法律上の返金権は制限しないと新たに書き加えました。個別の扱いは、サポートに問い合わせるのが確実です。
自社が訴えられた手法を、今度は利用者に禁じる
新規約には、こんな条項も加わりました。Sunoが用意したダウンロード経路以外の方法で生成物の複製を取得することを禁じる。録音やストリームリッピングがその例として名指しされています。あわせて、生成物の出自や利用プラン、ステータスを隠したり偽ったりする目的で、Sunoが付したフィンガープリント、透かし、メタデータを除去・改変・隠蔽・回避することも禁じられました。許容される利用に伴う編集や形式変換までを禁じるものではありません。
ストリームリッピングという語には、この会社にとって特別な重みがあります。レコード各社は2025年9月19日、修正訴状案を添えて修正の許可を申し立て、SunoがYouTubeのローリング暗号を回避して学習用の音源を取得したとして、デジタルミレニアム著作権法1201条にもとづく請求を加えようとしました。Sunoは10月3日の反論書面で、この申立ての審理上は原告の主張を真実と仮定したうえで、ローリング暗号は複製を防ぐ仕組みであってアクセスを制限する仕組みではないため同条の対象外だ、と主張しています。事実を認めたわけではありません。米国の訴訟では、2026年8月12日の時点でこの争点に実体判断は確認できません。
つまり同社は、米国の訴訟で「1201条(a)違反には当たらない」と主張している行為を、新しい利用規約では利用者に禁止したことになります。なお、ミュンヘン地裁は2026年7月31日の判決で、同じローリング暗号の回避について米国法を適用し、17 U.S.C. §1201(a)(1)(A)違反に当たると判断しています。ただしこれはドイツの裁判所による米国法の適用判断であり、係属中の米国訴訟を拘束するものではありません。
規約が掲げる「著作権の有無にかかわらず契約上の義務として適用される」という設計思想と、この構図は正確に一致しています。取得経路の危うさを実際に知る立場だからこそ、先回りして塞いだとも読めます。
旧モデルの全廃と、ドイツの判決
新モデルの投入時に、従来モデルはすべて廃止されます。既存の楽曲はライブラリに残り、再生も共有もできますが、そのモデルで新しく生成することはできなくなります。旧モデルで作った曲をカバーやリミックスの素材にすることはできますが、処理は新モデルで走るため、出音は変わりうるとされています。
ここで注意が要ります。モデルの廃止は2025年11月のWarner提携時から予定されていた事項であり、ドイツの判決を受けて決まったものではありません。
そのうえで、結果として起きることは記録しておく価値があります。ミュンヘン地裁は、問題となった6曲がSunoのv3.5とv4のモデル内に再現可能な形で含まれていると認定し、モデル内での記憶(メモライゼーション)それ自体を複製と判断しました。ドイツ国内のサーバに置かれていたことが、その根拠のひとつです。判決が「複製が含まれている」と認定したモデルは、近くこの世から退場します。これは一審判決であり、判決文には確定後の公示と仮執行に関する規定が置かれています。
紛争の解決手続きが大幅に書き換わりました
公式ブログが「仲裁合意と集団仲裁に関する条項を更新した」と一行でまとめた部分には、規約本文で相当な分量が費やされています。
仲裁機関はAAAからJAMSへ変わりました。新設されたのが大量仲裁のための追加手続きです。同一または連携した代理人によって25件以上の類似紛争が申し立てられた場合、これに該当します。50件以上の場合は双方が25件ずつ計50件を選んで個別に仲裁し、50件に満たない場合は全件を第1段階で個別に仲裁します。その後に全体の調停を行い、第2段階も同じ手順を繰り返す。第2段階を経て残った紛争は、原則として仲裁から外れて裁判所へ移りますが、双方の代理人が書面で合意すれば別の手続きを続けることもできます。調停人の費用はSunoが負担します。
大量仲裁は近年、消費者側が企業に圧力をかける手段として使われてきました。この設計は、その圧力を段階に分けて時間軸へ引き延ばします。ただし完全に封じるものではなく、2段階を経た残余は裁判所での審理に道が開かれています。
料金の改定についても書き方が変わりました。現行規約は価格変更を少なくとも15日前に通知するとしていました。新規約でも通知義務は残りますが、15日前という最低期間の定めはなくなっています。新条件に同意しない場合は、契約更新日または施行30日後のいずれか早い方までにアカウントを閉鎖することになります。
もうひとつ見落とせないのが、仲裁合意そのものの有効性や適用範囲を誰が判断するかです。現行規約はこれを仲裁人に委ねていました。新規約では裁判所の判断事項へ移されています。なお、集団訴訟と陪審裁判の放棄は現行規約にもすでに置かれており、今回新設されたものではありません。新規約では見出しに明示され、条文の構成が拡充されました。紛争の定義には、本規約より前に生じた請求や、自分が認定クラスの構成員となっていない係属中のクラスアクションの対象となる請求も含まれます。
日本の読者にとって
料金は、月払いがPro 10ドル、Premier 30ドル。年払いなら20%引きで、月額換算はそれぞれ8ドル、24ドルです。公式の価格ページが年払い表示を前面に出しているため、報道が引いた8ドル・24ドルはこの換算値にあたります。(1ドル=157円換算、8月12日時点のレートで、Proは月約1570円)
Sunoで生成した楽曲を配信やカラオケへ載せる導線は、日本でもすでに有料サービスとして成立しています。9月3日以降、その入り口は「有料プランを契約しているか」から「有料プランの枠内でダウンロードを取得したか」へ変わります。月に20曲、あるいは60曲。コンペ用に大量生成して1曲を選ぶ作り方をしている人には影響が小さく、生成した曲を次々に世へ出していた人には直接効きます。制限が狙っているのは、まさに後者の量です。
比較の対象がひとつあります。競合のUdioは、Universal Music Groupとの和解に伴ってダウンロードを全面的に停止しました。Sunoの7回・20回・60回は、その基準からすれば緩やかです。ライセンス契約と引き換えに何を差し出すのか、その相場がいま形成されつつあります。
もうひとつ、ミュンヘン地裁の判断は日本と無関係ではありません。この判決は、米国で行われた学習行為についてドイツの裁判所が管轄を認め、米国著作権法を適用したうえでフェアユースを否定しました。モデルをどこで作ったかは、責任を免れる理由にならないという立て付けです。日本の管理団体が同じ道を選ぶかどうかは、これからの動きを見ることになります。ただ、その選択肢が理論上のものではなくなったことは確かです。
【関連記事】
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学習データの取得経路をめぐる疑いが浮上した経緯を伝える記事。今回のストリームリッピングの論点に直接つながる内容である。
【編集部後記】
FAQには、数え方の細目が丁寧に並んでいます。同じ曲を二度落としても1回。ステムをまとめて落としても1回。失敗したダウンロードは数に入れない。ここまで詰めるのかと思うほどの精度です。
その同じページに、無制限ダウンロード付きの年払いプランを買った人からの設問が立てられています。答えは、解約できます、の一行だけでした。数え方の設計に注がれた精度は、そちらには向いていません。
【用語解説】
トライアルダウンロード(trial download)
無料プランに一度だけ与えられる7回のダウンロード枠。月ごとにリセットされるPro・Premierの枠と異なり、使い切ればそれで終わる。商用利用権は付かない。
商用利用権
生成した楽曲を仕事や収益化に使える権利。Sunoの新規約では、承認された経路でダウンロードを取得した楽曲にのみ与えられる。
メモライゼーション(記憶)
学習した作品が、AIモデルの内部に再現可能な形で残る現象。ミュンヘン地裁は、これ自体を著作権法上の複製にあたると判断した。
電子透かし
音声や画像に、人が知覚できない形で識別情報を埋め込む技術。メタデータを書き換えるだけの方式より改ざんに強い。
フィンガープリント
音声波形から特徴量を抽出し、指紋のように照合する技術。生成元の特定や、学習データへの混入の立証に用いられる。
ストリームリッピング
配信サービスの技術的保護措置を回避して音声ファイルを取得する行為。米国のデジタルミレニアム著作権法は、こうした回避を著作権侵害とは別枠で禁じている。
ローリング暗号
アクセス用の符号を随時変更し、外部からの一括取得を防ぐ仕組み。これがアクセス制御か複製制御かが、米国の訴訟で争われている。
フェアユース
米国著作権法の例外規定。批評、教育、変容的な利用にあたる場合、権利者の許諾なく著作物を利用できるとする原則。AI学習がこれにあたるかが争点となっている。
大量仲裁
同一または連携した代理人が、多数の同種の紛争を一斉に仲裁へ持ち込む手法。企業側の手続き費用が膨らむため、交渉圧力として機能してきた。
集団訴訟の放棄
利用者がクラスアクションへ参加する権利を、契約により事前に手放すこと。陪審裁判の放棄とあわせて規定されることが多い。
【参考リンク】
Suno(外部)
テキストの指示から楽曲を生成するAI音楽プラットフォームの公式サイト。無料プランと有料プランがあり、日本からも登録して利用できる。
Terms of Service(2026年9月3日施行)(外部)
2026年9月3日施行の新しい利用規約の全文。商用利用の条件、透かしの除去禁止、大量仲裁の追加手続きが、この一本で確認できる。
Upcoming Changes FAQ(外部)
ダウンロード上限の細目をまとめた公式FAQ。1曲の数え方、月次の繰り越しの可否、解約したあとの扱いまでが具体的に記載されている。
Terms of Service(現行)(外部)
2026年3月26日改訂の現行規約。新旧を並べて読むと、商用利用の条件がどこでどのように変わったのかを具体的に確認できる。
JAMS ADR Rules & Procedures(外部)
新規約が仲裁機関として指定する米国の民間機関。大量仲裁の追加手続きを含む各種の規則を、公式サイト上で広く一般に公開している。
【参考記事】
AI Music Company Suno Unveils Download Caps for Free, Paid Tiers in Quest to Combat Abuse (EXCLUSIVE)(外部)
上限の数値を最初に報じた記事。年払い時の月額換算でProを8ドル、Premierを24ドルとし、Udioの全面停止にも触れる。
Last Week, Suno Promised Clamp-Down on Slop by Limiting Downloads—Now, We Have Details(外部)
上限の詳細を伝える記事。ドイツでの敗訴と、UniversalおよびSonyとの係属中の訴訟の状況もあわせて記録している。
WARNER MUSIC GROUP AND SUNO FORGE GROUNDBREAKING PARTNERSHIP(外部)
2025年11月の和解と提携を伝える公式発表。無料プランのダウンロード停止と、有料プランの月次上限が具体的に明記されている。
Munich District Court Rules on AI-generated music GEMA v Suno(外部)
ミュンヘン地裁の判決を法律事務所が解説したもの。事件番号と、差し止めが認められた4つの行為が、具体的に示されている。
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