9月3日から、Sunoのダウンロードには回数の上限が付きます。ところが同じSunoが、その3週間前に公開したStudio 2.0では、書き出しに制限を設けませんでした。この線引きが意味するところと、新機能の筆頭にMIDIが選ばれた理由を追いかけます。
Sunoは8月13日、ブラウザ上で動く音楽制作環境の新版「Suno Studio 2.0」をPremier会員向けに公開した。MIDIの読み込み・録音・編集がタイムライン上で可能になり、新設のウェーブテーブルシンセで音色を設計できる。
MIDIコントローラーがなくてもタイピング用キーボードで演奏でき、MIDIクリップは新規オーディオ生成のプロンプトとしても使える。ベータ版のチャットバーでは、楽器の生成やプラグインの設計を言葉で指示できる。
サイドチェインコンプレッションとコンボリューションリバーブを標準搭載し、プラグイン作成はローンチ時点でクレジットを消費しない。パラメータを描くオートメーションも初搭載。
Premier会員は32ビット/48kHzのマルチトラックとステムを制限なく書き出せる。
From:
Introducing Studio 2.0

【参考動画】
Suno公式によるStudio 2.0の紹介動画(21分33秒)。製品ページに掲載されているもの。
MIDIまわりの操作に絞った公式チュートリアル(8分9秒)。同じく製品ページ掲載分。
【編集部解説】
Sunoをめぐる話題は、この1週間ほど権利と流通に集中していました。8月6日の電子透かしなど透明性施策の発表、10日のダウンロード方針と新しい利用規約、12日のBMGとの世界規模の提携。いずれも、作られた音楽をどう扱うかという話です。
Studio 2.0は、そこから「どう作るか」へ戻ってきた発表でした。
そして、新しく加わった機能の多くが、生成AI以前から音楽制作で使われてきた作法である点が、この発表のいちばん面白いところです。MIDI、オートメーション、サイドチェインコンプレッション、コンボリューションリバーブ。Sunoは発表のなかで、ギター、ドラムマシン、シンセ、エフェクト、ステップシーケンサーをAI以前の音楽技術の長い系譜と呼び、その慣れ親しんだ操作は次世代の音楽ソフトにも備わっているべきだと書いています。
最も要望が多かったのがMIDIだった、という順序
Suno Studioが登場したのは2025年9月です。そのStudioへの追加要望で最も多かったのはMIDIだったと、フィップス氏は記しています。テキストから完成曲を出すことを強みにしてきた企業に対し、ユーザーが最も求めたのは、40年以上前からある演奏データの規格でした。
しかもStudio 2.0では、打ち込んだMIDIクリップを、そのまま新規オーディオ生成のプロンプトとして使えます。これはStudio独自の点だとされています。鍵盤で弾いた数小節が、言葉の代わりに指示になる。Sunoが挙げた学びの2番目、音楽は触覚的であり、テキストプロンプトは着想には有効でもMIDIキーボードでの演奏やマイクでの録音の代わりにはならない、という認識が、そのまま機能の形になっています。
MIDI 1.0は、日本と米国の複数の楽器メーカーの協力を経て1983年に公表され、その後、電子楽器やコンピュータなど多様な機器をつなぐ共通規格として広く使われてきました。日本のDTMユーザーの目線でいえば、AI音楽の側が自分たちの言語を覚えにきた発表だと読むこともできます。
言葉でプラグインを作るということ
もう1つの軸が、ベータ版のチャットバーです。楽器やボーカルを作らせるだけでなく、自分専用のプラグインを言葉で設計できます。散らかったセッションの整理も頼めます。
エフェクトを自作するには、通常はDSPの知識と開発環境が要ります。それが会話に置き換わるなら、影響はStudioの中だけに留まりません。プラグイン作成はローンチ時点でクレジットを消費しませんが、将来クレジット制が導入される可能性があるとも書かれています。長く使う道具として見るなら、ここは追いかけておきたい箇所です。
外部プラグイン、いわゆるVSTへの対応は、今回の発表では案内されていません。使い慣れたソフトシンセやエフェクトをそのまま読み込む使い方は、発表された範囲では確認できません。一方で、Suno外の音声ファイルはStudioに取り込み、ステムに分けて組み替えられます。
SunoはStudioを、生成と、従来型のDAWに近い編集作業を、同じ環境の中で進められる場所として位置づけています。既存のDAWを置き換えるというより、生成と編集のあいだの距離を詰める設計だと読めます。
もっとも、その距離は縮まりつつあります。一部の既存DAWでは、ステム分離やAIを活用した演奏支援がすでに製品内の機能として提供されています。一方でStudio 2.0は、MIDI、オートメーション、オーディオエフェクトという、従来型のDAWに近い制作機能を加えました。今回の発表は、AIネイティブの制作環境が従来のワークフローへ近づく動きの一例といえます。
9月3日の線引きと、Studioの位置
日本のクリエイターにとって実務的にいちばん大きいのは、ここかもしれません。
9月3日から、Sunoのダウンロードには上限が付きます。無料プランは生涯最大7回、Proは月20回、Premierは月60回。同じ曲を2回落としても1回、ステムもその曲の1回に含まれる数え方です。そのうえでSunoは、Studioからの書き出しはこの上限の対象外だと明記しています。Premier会員は32ビット/48kHzのマルチトラックとステムを、制限なく持ち出せます。
制限の設計を見ると、一般のダウンロードとStudioでは扱いが明確に分かれています。上限を設ける理由は大量書き出しを難しくするためだと説明され、Studioについては「プロの作業手順をすべて維持したい」として制限の外に置かれました。Studio 2.0が発表されたのは8月13日。上限が施行される9月3日の、ちょうど3週間前です。
権利をめぐる状況も並行して動いています。ワーナーとの和解と提携に続き、8月12日にはBMGと契約が成立しました。他方で米国では、ユニバーサル ミュージック グループ系とソニー・ミュージックエンタテインメントによる著作権訴訟が続いています。ドイツでは7月31日、ミュンヘン第1地方裁判所が、GEMAの争った6作品についてSunoによる著作権侵害を認める判決を出しました。判決は未確定で、Sunoは声明で、判決に同意せず上訴を含むあらゆる選択肢を検討しているとしています。権利処理と製品開発は、いま別々の時計で進んでいます。
速度を機能として扱う姿勢
学びの3番目は速度でした。アイデアの速度で動けなければフロー状態には入れない。その理由で生成の高速化に力を注いだと書かれています。
音質でも表現力でもなく、待ち時間を創作の質の問題として扱っている。ノブを回して、その場で聴く。この当たり前がAI生成の側にも要るという整理は、DAWを触ったことのある人ほど腑に落ちるはずです。
9月3日には新しい利用規約が施行され、音楽業界と共同開発した新しいモデルが控えています。その直前にSunoが前面に出したのは、自動化だけではなく、MIDIやオートメーションなど人が手で介入できる制作機能でした。技術が人の作法の側に歩み寄った一例として、記録しておく価値のある発表です。
【関連記事】
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自分の声を登録して歌わせるVoicesなど、2026年3月にSunoへ加わった3つの新機能について、まとめて扱った記事である。
【編集部後記】
Studio 2.0の紹介ページには、Be a control freak——「制御の鬼になれ」とでも訳すべき見出しが掲げられています。一音一音、つまみのひとつまで自分のものにしろ、と。
プロンプトを一行書けば曲が返ってくる場所に、この言葉が置かれたことが頭に残りました。手間を省くために広まった技術が、いま面倒な操作のほうを取り戻そうとしています。あなたは、どこまで自分の手で触りたいでしょうか。
【用語解説】
DAW(Digital Audio Workstation)
音を録音し、並べ、混ぜて1曲に仕上げるための制作ソフト。トラックを縦に積み、時間軸に沿って編集する画面構成が共通している。
MIDI(Musical Instrument Digital Interface)
音そのものではなく「どの高さの音を、いつ、どれだけの強さで鳴らすか」という演奏情報をやりとりするための規格。1983年に公表され、鍵盤やドラムマシン、コンピュータを共通の言語でつないできた。
ウェーブテーブルシンセ
あらかじめ記録した波形のテーブルを読み出し、その位置を移動させながら音色を変化させる方式のシンセサイザー。Studio 2.0に新しく内蔵された。
ステム
1曲をボーカル、ドラム、ベースなど楽器のまとまりごとに分けた音声ファイル。分けておくと、一部だけを差し替えたり音量を変えたりできる。
オートメーション
音量やエフェクトの効き具合といったパラメータの変化を、時間軸上の曲線として記録・再生する機能。手で操作し続けなくても、決めた通りに動く。
サイドチェインコンプレッション
別のトラックの音を引き金にして、対象の音量を自動的に下げる処理。バスドラムが鳴る瞬間だけ伴奏が引っ込む、独特の脈打つ質感をつくる。
コンボリューションリバーブ
実在するホールや部屋で測定した残響のデータを畳み込み、その空間で鳴らしたような響きを再現するエフェクト。
VST(Virtual Studio Technology)
外部の音源やエフェクトをDAWに差し込んで使うための規格。多くの制作者が、この形式のプラグインを買い足して自分の環境を組み立てている。
DSP(Digital Signal Processing)
音の信号を数式で加工する技術と、その分野。エフェクトを自作するには通常この知識が要る。
32ビット/48kHz
音を数値に置き換えるときの精度を示す値。1秒間に4万8000回測り、1回あたり32ビットの幅で記録する。編集を重ねても劣化しにくい。
DTM(デスクトップミュージック)
パソコンを中心に音楽を制作すること、およびその文化を指す、日本で定着した呼び方。
【参考リンク】
Suno(外部)
テキストや音声から楽曲を生成するAI音楽サービス。ブラウザとiOS、Androidで利用でき、有料プランで商用利用の権利が付く。
Suno Studio(外部)
Suno Studio 2.0の製品ページ。MIDI、エフェクト、チャットバーの動作を動画で確認できる。FAQも集約されている。
Suno 料金プラン(外部)
Sunoの料金ページ。無料、Pro、Premierの3プランと、9月3日から適用されるダウンロード回数の表示が並んでいる。
Upcoming Changes FAQ: Downloads, Models, and Terms of Service(外部)
9月3日からの変更点をまとめたSuno公式FAQ。ダウンロードの数え方と、Studio利用時の扱いが項目ごとに示されている。
MIDI History: MIDI Begins 1981-1983(外部)
MIDI規格を策定・管理する団体による歴史解説。1983年の成立に至るまでの、日米の楽器メーカーのやりとりが記録されている。
Pressemitteilung 16 vom 31.07.2026(ミュンヘン第1地方裁判所)(外部)
ミュンヘン第1地方裁判所の報道発表。GEMAとSunoの訴訟について、対象6作品と判断の理由、未確定である旨が記されている。
【参考記事】
Suno launches Studio 2.0 with MIDI support and AI chat bar(外部)
Studio 2.0の新機能を、Premier会員向けの提供開始と合わせて整理した記事。BMG提携の翌日という時期にも触れている。
Suno Studio 2.0 puts an AI assistant in the DAW(外部)
Studio 2.0の新機能を機能単位でたどった記事。プラグイン作成がローンチ時点でクレジット不要である点にも言及している。
Suno Studio 2.0 Turns Played MIDI Into a Prompt for AI-Generated Audio(外部)
MIDIクリップを生成の指示に使える点を中心に据えた記事。Studioが2025年9月に登場したという経緯にも触れている。
Suno is Getting Closer to an Actual DAW with ‘Studio 2.0’(外部)
内蔵シンセの構成や外部プラグインの扱いについて、実機に触れた報告をもとに整理した記事。周辺の製品動向にも目を配っている。
Munich District Court Rules on AI-generated music GEMA v Suno(外部)
法律事務所によるGEMA対Sunoの判決解説。事件番号、対象となった6作品、差し止められた4つの行為が具体的に示されている。
Suno infringed copyright in GEMA case, German court rules(外部)
Sunoの対外声明を直接掲載した記事。判決に同意せず、上訴を含むあらゆる選択肢を検討するという文面をそのまま確認できる。


















