YuE2が置いたのは楽譜|「Suno 5に匹敵」は条件付きで読む

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音楽生成AIに歌詞を渡すと、音が返ってきます。YuE2が返してくるのは、その手前で書いた楽譜です。人が開いて直し、書き換えたものをもう一度モデルに戻せます。ただし「Suno 5に匹敵」という見出しには条件があり、重みのライセンスは前作より狭くなりました。


Multimodal Art Projectionと香港科技大学などの研究チームは2026年9月10日、音楽生成モデル「YuE2」を公開した。約36億パラメータで、標準設定では歌詞とスタイル指定からABC記譜法の楽譜をまず書き、それを経由してボーカルと伴奏を含む48kHzステレオの楽曲を出力する。

楽譜は人やエージェントが書き換えられ、既存曲のカバーや対話による修正も同じモデルで扱う。研究チーム自身が公開した192問のベンチマークWildSongBenchでのSongBench平均は、2候補から選ぶ標準設定が6.7316、8候補から選ぶbest-of-8が6.9632で、Suno v5の6.8721とSuno v6の6.5562を上回った。重みのライセンスはCC BY-NC 4.0である。

From: 文献リンクm-a-p/YuE2-3B · Hugging Face

【編集部解説】

楽譜を経由するという設計

音楽生成AIの多くは、歌詞とジャンル指定を入れると音が出てくる装置でした。途中の状態に手を入れにくく、気に入らなければ生成し直す。その使い方は、いわば「ガチャ」に近いものでした。

記号を書く音楽AIと、音声を直接作る音楽AIは、それぞれ別の流れで発展してきました。楽譜から音を起こす研究自体は以前からありますが、YuE2はフルソング生成の流れの中に記号の計画工程を組み込み、1つの生成バックボーンが楽譜、意味トークン、音響潜在表現を順に扱う構成をとりました。音声への復号は、別に用意されたVAEが担います。

標準設定では、歌詞とスタイル指定を受け取ると、まずABC記譜法で旋律とコードを書き出し、その楽譜をもとに音を生成します。旋律だけを計画する設定や、計画を挟まずに直接生成する設定も選べます。標準設定では楽譜もあわせて作られ、save_artifacts()を呼べばscore.abcとして保存できます。

楽譜はテキストなので、人が開いて直せます。エージェントに渡して「サビの和音を変えて」「サックスのソロを足して」と頼み、書き換えた楽譜をもう一度モデルに戻すこともできます。指示が本当に効くのかも測られています。10作品・2シード・380曲を使った対応比較では、変更対象の旋律音に関する達成指標が0.0083から0.9375へ、変更対象の和音の持続時間に関する達成指標が0から0.8313へ上がりました。単位の異なる2つの指標であり、ひとつのスコアにまとめられるものではありません。編集対象外の内容は、自動測定の上では、編集せずに再生成した音源に近い状態にとどまりました。

この設計の効きどころは、カバー生成の数値によく表れています。既存曲を別のスタイルで作り直す課題で、楽譜を与えたYuE2はCLEWS mAPで0.647、Hit@1で71.3%でした。同じチェックポイントで楽譜を与えない条件では、0.006と0.3%まで落ちます。この評価条件では、渡された楽譜の有無が「どの曲か」の保持を大きく左右したことになります。

興味深いのは、その逆も起きている点です。楽譜を外した条件は、指定したスタイルへの寄りと音楽性の数値ではむしろ最も高く出ています。開発チームはこれを別々の結果として扱い、原曲から起こした譜面は対照的なスタイルへの作り変えを制約しうると説明しています。原曲らしさを残すのか、目指すスタイルへ振り切るのか。楽譜を渡すかどうかが、そのつまみになっているという読み方ができます。

数字をどう読むか

ベンチマークの見出しは「Suno v5を上回った」です。ただし6.9632は、8候補を生成して自動指標で1曲を選ぶbest-of-8の値です。標準設定も2候補を作ってPERの低いほうを採る仕組みで、その平均は6.7316。Suno v5の6.8721を下回ります。候補の数と選び方が異なる比較であり、1回引いて同じ品質が出るという意味ではありません。開発チーム自身も、差は小さく統計的な有意性を主張するものではないと注記したうえで、標準設定の6.7316がすでに商用勢の品質帯に入っている、という位置づけ方をしています。

比較表そのものも動いています。最初の評価は9月5日に15設定で行われ、Sunoがv6を公開したのはその4日後、YuE2公開の前日にあたる9月9日でした。公開から2日後の9月12日、開発チームは表を17設定へ更新し、Suno v6の6.5562とSuno v6 Wildの6.4195を追加しています。この指標の上では、v6はv5より低い位置につけました。ただしv6は2候補からPERで選ぶ手順で測られており、v5以前の商用モデルは提供された候補をそのまま使っています。手順が揃っていない以上、世代間の優劣として読むのは早いところです。

数値がすべて自動評価である点も、読み方に関わります。SongBenchもQ3Oも機械が採点した指標で、人が並べて聴き比べた結果ではありません。ベンチマークWildSongBench自体を作って公開しているのも、YuE2の開発チームです。計算量を揃えた実験ではないことは開発チームも明記しており、ここは音楽生成の分野全体がこれから作法を整えていく部分です。

「無料」と「商用可」は別の座標にある

YuE2の重みはCC BY-NC 4.0で配布されています。非商用の条件が付くライセンスです。リポジトリのコードとドキュメント、そして同梱のエージェントスキルはApache 2.0のままで、非商用の条件がかかるのは重みだけです。

ここは前作との対比が効きます。初代YuEは2025年1月にApache 2.0へ移行し、READMEでアーティストやクリエイターが出力を自分の作品に取り込み収益化してほしいとまで書いていました。同じチームの後継モデルで、重みの条件が商用可から非商用へ変わっています。

理由は公表されていません。ただ、学習データについては、CC0の音楽と合成データを中心に34.6万時間で学習し、合成データの大半はTokenwave.AIからライセンスを受けたと明記されています。データの出所を絞ったことと、公開時に利用の範囲を限ったこと。この2つが並んでいるのは事実です。

なお、CC BY-NC 4.0が条件を定めているのは重みであり、生成した楽曲にその条件がどこまで及ぶかは、公開資料からは読み取れません。初代が出力の商用利用を明文で推奨していたのに対し、YuE2にはその記述がない、という状態です。

同じ論点は、商用サービス側でも起きています。前日に公開されたSuno v6でも、無料枠で使えるv6-miniの生成物は非商用に限られます。オープンかクローズドかという軸と、商用に使えるかという軸は、もう重なっていないということです。モデルを選ぶ前にライセンスを読む手順が、制作の現場に要ります。

日本語をどう見るか

デモページには日本語の楽曲も置かれており、日本語の歌詞が歌えること自体は確認できます。

一方で、性能を測ったWildSongBenchの192問は中国語94問と英語98問で構成されています。日本語の品質は、まだ数字では示されていない段階です。初代YuEには日本語・韓国語向けのチェックポイントが別に用意されていましたが、YuE2で公開されている生成チェックポイントはYuE2-3Bひとつです。日本語で使うつもりなら、手元で確かめる工程が入ります。

楽譜という共通言語

技術レポートはまだ公開されておらず、いまわかっているのはモデルカードとデモ、そして公開された評価文書の範囲です。それでも、この公開が開いたものははっきりしています。

音楽生成が音を出す装置から楽譜を書いてから演奏する装置に変わると、途中でABC対応の譜面ツールやエージェントに渡せるようになります。DAWで扱うにはMIDIなどへの変換が要ることもありますが、間に人が読める形式が挟まっている意味は変わりません。周辺で同時に公開されたSheetSage2は、音源から楽譜を起こす方向のモデルです。音から譜へ、譜から音へ。両方向が揃ったことで、人が読める形式を経由して音楽を行き来させる回路ができました。

AIと人が同じ楽譜を見ながら作業する。Linux、Python 3.10以上、24GBの空きホストRAM、そしてBF16に対応する24GBのNVIDIA GPU。これを用意できる人なら、その手触りはもう試せるところまで来ています。

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【編集部後記】

聴くときの既定は新しいVAE、ベンチマークを再現するときは「legacy」と名の付くほう。開発チームはわざわざ、この役割はリリース上の名前で決まるのであって、legacyという語の日常的な意味ではない、と書き添えています。

測るための音と、聴くための音が分かれ始めている。数字が高いほうが耳に心地よいとは限らないという当たり前のことが、配布物の名前として形になっています。手元で回すなら、どちらを既定に置くかは最初に決める話になりそうです。


【用語解説】

ABC記譜法
音符や調、拍子をアルファベットと記号だけで書き表すテキスト形式の楽譜。テキストなので検索も編集も差分管理もでき、人と機械の両方が読める。

記号の計画工程(symbolic planning)
音を作る前に、旋律やコードを記号として先に決める工程。YuE2では標準で有効になっており、旋律だけを計画する設定や、この工程を挟まない設定も選べる。

意味トークンと音響潜在表現
楽譜から音声までの中間形式。意味トークンが音楽の構造を、音響潜在表現が音色や質感の情報を担う。

VAE
変分オートエンコーダー。YuE2では音響潜在表現をステレオ音声へ復号する部分を指す。生成本体とは別に配布されている。

best-of-8
8曲を生成し、自動指標で1曲を選ぶ設定。YuE2では音楽性、プロンプト追従、音素誤り率の順で選ばれる。標準設定は2曲から音素誤り率の低いほうを選ぶ。

SongBench
楽曲の品質を7つの側面から機械的に採点する指標。その平均値がSongBench Avgとして比較に使われる。

Q3O
プロンプトの指示にどれだけ従っているかを0〜5で測る指標。

WildSongBench
YuE2の開発チームが公開した楽曲生成のベンチマーク。192問のプロンプトからなり、内訳は中国語94問と英語98問である。

PER
音素誤り率。生成された歌唱が歌詞どおりに発音されているかを測る。低いほどよい。

CLEWS mAP/Hit@1
カバー曲が原曲と同一の作品だと判定できるかを測る指標。原曲らしさがどれだけ残っているかの目安になる。

CC BY-NC 4.0
出典表示を条件に利用を認め、商業目的の利用は認めないクリエイティブ・コモンズのライセンス。

Apache 2.0
商用利用、改変、再配布を広く認めるオープンソースライセンス。特許条項を含む。

CC0
著作権を可能な範囲で放棄し、誰でも自由に使える状態に置くための表明。

BF16
数値表現形式の一つ。対応するGPUでは、精度を大きく落とさずに必要なメモリを減らせる。

チェックポイント
学習済みモデルの重みを保存したファイル。配布されるモデルの実体にあたる。

SheetSage2
YuE2と同時に公開された、音源から編集可能なリードシート(旋律とコードを記した簡易楽譜)を起こすモデル。

save_artifacts()
生成結果をまとめて書き出す関数。楽譜、トークン、潜在表現、音声、設定が保存される。

DAW
Digital Audio Workstation。楽曲の録音、編集、ミックスを行うソフトウェア。

【参考リンク】

YuE2 · Frontier Music with Symbolic Planning(外部)
生成された楽曲と、その元になった楽譜を並べて聴き比べられる公式デモ。エージェントとの対話で1曲を作り変える過程も公開されている。

m-a-p/YuE2-3B · Hugging Face(外部)
モデル本体の配布ページ。導入手順、生成速度、必要なメモリ量、ベンチマーク結果、ライセンス条件が一か所にまとめられている。

GitHub – multimodal-art-projection/YuE(外部)
公式リポジトリ。コードとドキュメントはApache 2.0、モデル重みはCC BY-NC 4.0と、適用範囲を分けて明示している。

Benchmark results and evaluation scope(外部)
評価の範囲と限界を開発チーム自身がまとめた文書。候補の選び方、システム間で揃っていない手順、編集実験の規模まで記載する。

m-a-p/WildSongBench · Datasets at Hugging Face(外部)
評価に使われた192問のプロンプト集。中国語94問と英語98問という内訳に加え、再現用の入力と乱数シードも公開されている。

Multimodal Art Projection(外部)
YuEシリーズを主導するAI研究コミュニティ、Multimodal Art Projectionの公式サイト。研究成果と公開モデルを掲載。

The Hong Kong University of Science and Technology(外部)
YuEシリーズをMultimodal Art Projectionとともに主導する、香港科技大学の公式サイト。英語で提供されている。

Tokenwave.AI(外部)
YuE2の学習に使われた合成データの大半を、ライセンス提供したとされる企業の公式サイト。音楽データの取り扱いを事業とする。

表示-非営利 4.0 国際(CC BY-NC 4.0)(外部)
YuE2の重みに適用されているライセンスの日本語解説ページ。表示の義務と非営利の条件が、平易な言葉で整理されてまとめられている。

【参考記事】

YuE2-3B — open music model tops Suno v5 and v6(外部)
WildSongBenchの数値を並べたうえで、この評価が独立した評価者ではなく開発チーム自身によるものだと指摘した記事である。

YuE2-3B: Full-Song AI Generation Control(外部)
best-of-8の数値を挙げつつ、開発元の自己評価であり最終判定として扱うべきではないと述べる。論点は作曲から修正の確実さへ移ったとする。

Suno launches its v6 AI-music models. Here’s what you need to know…(外部)
YuE2公開の前日にあたる9月9日のSuno v6発表を、3モデルがどの契約層に届くかという観点から、音楽業界側の視点で整理している。

Amazon EC2で楽曲生成AI「YuE」を使ってみる(外部)
初代YuEを実際に動かした記録。当時のライセンスがApache 2.0であったことと、日本語を含む多言語対応が手順とともに記されている。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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