一辺1.2メートルの八角形ケージに、体重35キログラムのヒューマノイドが2体。操縦するのは、VRヘッドセットをかぶった生身の人間です。『リアル・スティール』が現実になる日が、7月25日の秋葉原に用意されました。しかも立ち会えるのは、たった350人です。
秋葉原のメーカースペース兼ロボットバトル拠点「ロボスタディオン」(東京都千代田区、代表:村田一樹)は、米国のロボット格闘技団体「REK」の日本初上陸公演「REK TOKYO 2026」を、2026年7月25日にベルサール秋葉原B1F HALLで開催する。
主催はREK Inc.、現地制作はロボスタディオンとGOI.incである。開催時間は10時から18時、招待・チケット制で会場の告知定員は350名だ。昼の部(プレスリリースは10時〜14時30分、公式サイトは展示会10時〜14時と記載)では企業ブースによるロボット展示とデモ、採用マッチング、無料エキシビションマッチを行う。夜の部(15時〜18時)では、一辺1.2メートルの正八角形ケージ内でパイロットが操縦する実機ヒューマノイドがフルコンタクトで対戦する。
同日同ビルではHIKKY運営の「VketReal」が別イベントとして開催され、相互送客を行う。基板製造のJLCPCBがコーナースポンサーとして参画済みである。
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米国発ロボット格闘技団体「REK」日本初上陸!実機ヒューマノイドが激突する「REK TOKYO 2026」7月25日(土)秋葉原で開催
【参考動画】
【編集部解説】
このニュースを、単なる「変わったイベントの告知」として読み流すのはもったいないと感じています。ここには、2026年のロボティクスが抱える論点がほぼすべて詰まっているからです。
リングに立つのは、中国製の量産ヒューマノイドと報じられています
リリースは「実機ヒューマノイド」としか触れておらず、機種名を明記していません。ITmediaは使用機体を中国Unitreeの「G1」と報じています。出演機体や対戦カードは変更されうる点は、あらかじめ申し添えておきます。
Unitreeの公式仕様では、G1は直立時132センチメートル、バッテリー込みで約35キログラム。価格は発売当初こそ約1万6000ドルと報じられましたが、2026年7月現在の公式価格は1万3500ドルからです。ヒューマノイドとしては破格に安く、これが世界的な普及を後押ししたと見られています。なお、サンフランシスコを取材した記事は、REKが投入しているのは標準機ではなく改造を施したG1だと伝えています。
そして操縦方式は、ゲームパッドではありません。パイロットがVR機器を装着し、自分の身体の動きを機体に転送して殴り合う——映画『リアル・スティール』の構図そのものです。競技名の「REK」は、英語のスラング「get REKt」(叩きのめされる)に由来します。
「Physical AI時代の幕開け」は、そのまま受け取れません
ここは冷静に見ておきたいところです。公式特設サイト自身が「自律AIではなく、人間のパイロットが操る」と明記しています。カリフォルニア大学バークレー校のケン・ゴールドバーグ教授は、こうした実演の多くが人間の操作で成立していると指摘し、映像の印象と実際の自律性能を混同しないよう警告しています。この指摘は正当だと思います。
一方で、まったくの見せかけとも言い切れません。REKの技術パートナーであるReflex Arcは、パイロットの意図と事前学習済みモーションポリシーを組み合わせる「ハイブリッド制御」に取り組んでいると公表しています。人間が「打つ」と意図した瞬間、バランス維持や打撃の質はAI側が補う。人間とAIの境界は、リングの上ですでに溶け始めています。
では、この試合データはAIを鍛えるのか——ここからは私の見立てです
VRテレオペレーションで集めた人間の実演を模倣学習の素材にする研究は、実際に存在します。ですから「格闘という極限動作のログが、いずれPhysical AIの学習素材になり得る」という筋書きは、技術的には十分に成り立ちます。
ただし、正確を期すために書いておきます。REK TOKYO 2026の試合データを収録し、AIの学習に用いるという公式発表は、現時点で確認できません。サンフランシスコの試合について地元媒体がそう報じた例はありますが、一次情報による裏づけは取れていません。加えて、実演ログをそのまま教師データにできるわけでもなく、身体間のリターゲティングや異常動作の除去といった加工が必要になるのが通常です。
つまり、これは確定した事実ではなく、筆者の仮説です。そのうえで、私はこの仮説を捨てるつもりはありません。7月25日の秋葉原で、そこに何が記録されるのか——それを注視する価値はあると考えています。
むしろ、REKの正直さを見るべきかもしれません
公開情報を見るかぎり、REKにとってエンターテインメント興行そのものが主要プロダクトです。「AI研究の隠れ蓑」ではなく、堂々と「見世物」を売っている。創業者は「これは次のUFCになる」と語っています。
技術がまだ実用に届かない段階で、それでも人を呼び、金を取り、熱狂を生む。この不格好な回路こそが、産業を育ててきたのではないか——ロボスタディオン自身が、自動車産業におけるモータースポーツになぞらえて同じ趣旨を語っています。私はその見立てに共感します。
日本にとっては「逆輸入」に見える光景です
「日本初のロボットバトル興行」という表現には、補助線が必要です。主催者はこれを「実機ヒューマノイド同士が対戦する有料観戦形式の国内興行」という限定条件つきの自社調査として説明しています。
というのも、二足歩行ロボットの格闘競技大会「ROBO-ONE」は、2002年2月に日本科学未来館で第1回が開かれ、24年以上続いているからです。360センチメートル四方の四隅を落とした八角形リングで、パンチや投げ技を繰り出し、3ダウン制で勝敗を決める。競技規則の整備という点では、日本が長く先行してきました。完全自律機体だけが戦う「ROBO-ONE auto」部門も2017年に始まっています。
ただし、REKがROBO-ONEから派生したという系譜は確認されていません。「逆輸入」はあくまで私の比喩です。それでも、米国発の興行が、中国製の機体を使い、秋葉原で開かれる。主催者自身が特設サイトで「令和の黒船」と名乗っているのを見ると、この構図が偶然とは思えないのです。
技術的な見どころは「密度」です
一辺1.2メートルの正八角形は、対辺距離にして約2.9メートル。3キログラム以下の機体が3.6メートル四方のリングで戦うROBO-ONEに対し、REKでは約10倍以上の重量を持つ機体が、それより狭い空間で動くことになります。
逃げ場がありません。サンフランシスコの試合では、転倒した機体を人がリングに入って起こす場面が繰り返されたと報じられています。Reflex Arcも遅延削減とバランス制御を主要な技術課題に挙げています。この詰まった距離感が、テレオペレーションの限界を容赦なく可視化するのではないか。そう予想しています。技術者にとっては、成功よりも失敗のほうが多くを語る舞台になるかもしれません。
リスクと、それでも足を運ぶ理由
安全面の懸念は当然あります。Unitreeは人との十分な安全距離を求め、危険な改造や用途を避けるよう明記しています。REK TOKYO公式も、接触、転倒、挟み込み、部品飛散の可能性を来場者に告知しています。
また、2025年に世界で出荷されたヒューマノイドの約85〜90パーセントを中国企業が占めたとする推計があります(調査会社により定義と数値に差があります)。日本の観客が熱狂する舞台の上で動いているのが中国製ハードウェアであるという事実は、産業論として重く受け止めるべきでしょう。
それでも、この日を見る価値はあると考えます。夜の部は最前列のVIP席が2万円、リング寄りのプレミアム席が1万円、一般席が5000円、立ち見が3000円。昼の展示会とエキシビションは入場無料です(券種・価格は変更される場合があります)。
「ロボットが働く」から「ロボットが闘う」へ。会場の告知定員は350人です。サンフランシスコの初開催では主催者発表で3400枚近いチケットが動いたと報じられていることを思えば、この規模はあまりに小さい。だからこそ、後から「あの場にいた」と言えることの価値は、決して小さくないはずです。
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ロボットが「働く」側の最新事例。闘うヒューマノイドと並べて読むと、2026年の現在地が立体的に見えてきます。
【編集部後記】
REKをこのサイトで初めて扱ったのは2025年4月、まだVRゲームの構想段階でした。それが1年3か月で、秋葉原にケージを担いで乗り込んでくる。この速さに、素直に興奮しています。
技術が完成する前に人を集め、金を取り、熱狂をつくる。モータースポーツも、eスポーツも、そうやって産業になりました。順番としては、たぶん正しい。
350枚の席は、あっという間に埋まるでしょう。もし取れた方がいたら、機体が転倒した瞬間に会場がどう沸いたのか、ぜひ教えてください。
【用語解説】
ヒューマノイド
人間に似た形状を持つロボットの総称である。多くの場合、二足歩行と両腕を備え、人間用に設計された環境や道具をそのまま使えることを狙う。ただし統一規格はなく、広義には上半身型なども含まれる。
Physical AI(フィジカルAI)
画面の中で完結する生成AIに対し、現実世界の物理法則の中で身体を動かし、行動するAIを指す概念である。NVIDIAなどが2024年ごろから積極的に用い、業界での使用が急増した。
テレオペレーション(遠隔操作)
人間が離れた場所からロボットを操ること。REKでは、パイロットがVR機器を装着し、自分の身体の動きを機体に転送する。「遠隔」は必ずしも遠距離を意味せず、リングサイドからの操作も含む。
模倣学習(Imitation Learning)
人間の実演データを教師データとして、AIに動作を学習させる手法である。テレオペレーションの操縦ログは有力な素材となり得るが、身体間のリターゲティングや異常動作の除去といった加工を要する場合が多い。
ハイブリッド制御
パイロットの操作意図と、あらかじめ学習させたモーションポリシー(動作の方策)を組み合わせる制御方式である。REKの技術パートナーは、バランスや打撃の質をAI側で補う構成を公表している。
get REKt
英語圏のオンラインスラングで、「叩きのめされた」の意。競技名「REK」の由来である。
ロボット劇場(robot theater)
高度に見える実演の多くが、人間の操作や演出で成立している状態を指す、ゴールドバーグ教授の批評的表現である。確立した工学用語ではない。
八角形ケージ
総合格闘技(MMA)の競技場に由来する形式である。UFCが1993年に導入した八辺形の競技場「Octagon」が広く知られる(Octagonは同団体の商標)。REK TOKYO 2026では、一辺1.2メートルの正八角形が用いられる。
ROBO-ONE auto
ROBO-ONEに設けられた、完全自律機体のみが参加する部門である。試合中、選手はコントローラーに触れることができない。第1回は2017年2月に開催された。
【参考リンク】
REK(公式サイト)(外部)
米国発のヒューマノイド格闘技団体の公式サイト。VR操縦で戦う競技の映像や、過去公演の情報が掲載されている。
REK TOKYO 2026 特設サイト(外部)
日本公演の公式ページ。当日進行、券種と価格、安全に関する告知の最新情報がここで確認できる。
REK TOKYO 2026 イベントページ(Luma)(外部)
チケット販売を担うイベントページ。券種の選択から参加登録までがこのページで完結する。
ロボスタディオン(外部)
秋葉原のメーカースペース兼ロボット闘技場。ロボット産業をモータースポーツになぞらえる理念が語られる。
Unitree G1(公式製品ページ)(外部)
本公演の使用機体と報じられるG1の公式仕様。寸法、重量、現行価格、安全上の注意が掲載されている。
ROBO-ONE 競技解説(二足歩行ロボット協会)(外部)
2002年開始の日本の格闘競技大会。リング寸法、3ダウン制、完全自律部門の規定が公開されている。
Reflex Arc(REKプロジェクト)(外部)
REKの技術パートナーによる解説。VR操縦、遅延削減、ハイブリッド制御の課題が具体的に語られている。
VketReal 2026 Summer(外部)
同日同ビル(1・2階)で開催されるHIKKY運営の別イベント。REKとは相互送客の連携を行う。
ケン・ゴールドバーグ(UCバークレー)(外部)
ロボティクスとロボット学習を研究する教授。ヒューマノイド実演の過大評価に警鐘を鳴らしている。
JLCPCB(外部)
本公演のコーナースポンサー。試作・小ロットの基板製造を手がける(掲載数値は同社の自己申告)。
【参考記事】
Chinese robot boxing draws crowds in San Francisco(外部)
SF公演を現地取材。改造G1の使用、転倒時に人が起こす場面、ゴールドバーグ教授の「ロボット劇場」評を伝える。
REK – VR Piloted Humanoid Robot Events(外部)
パイロットの意図と事前学習済みモーションポリシーを組み合わせるハイブリッド制御の取り組みを解説する。
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REKと競合UFBの米国展開を報じる。大型機H1_2を約70キログラム、10万ドル超と伝えている。
REK Brings MMA Humanoid Fights on US Tour(外部)
全米ツアーの記事。SF初戦で主催者発表として3400枚近いチケットが動いたと報じている。
Humanoid Robots Are Beating Each Other to Pulp in an Underground Fight Club(外部)
REK創業者への取材記事。「これは次のUFCになる」という創業者自身の展望が語られている。
REK Shop’s Robot Brawl(外部)
SFの試合データがAI学習に使われると報じた地元媒体の記事。一次情報による裏づけは取れていない。
ヒト型ロボットがアキバの地下リングで殴り合い 米国発メカ格闘技「REK」日本上陸(外部)
使用機体をUnitree G1と報じ、VR遠隔操作方式、券種、定員350人程度を伝えている。












