OpenAI訴訟、黒塗りが外れた原告書面が示す「5段階の複製」

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窃盗だと書いたのは、権利者の側ではありません。AI企業の内部にいた人物でした。ニューヨーク・タイムズ側の書面から黒塗りが大幅に外れ、MicrosoftとOpenAIの社内文書や宣誓証言が表に出ています。ただし、その引用を選んだのは原告の代理人です。


ニューヨーク・タイムズなど報道各社がOpenAIとMicrosoftを訴えた著作権訴訟で、原告側ブリーフの黒塗りが大幅に外れた公開版が2026年9月17日に提出された。書面は、Microsoft応用科学ディレクターのブレント・ヘクト氏が、AIの学習データ取得を「おそらく人類史上最大の労働の窃盗」と記していたと引用する。

OpenAIのChatGPT責任者ニック・ターリー氏は、出版社が「存亡に関わる脅威」に直面し、製品は「大部分が代替的」だと書いていた。中間学習データセットには原告著作物の複製が91,692件超、Project Mangoのデータセットにはユニークな著作物が160,903本以上含まれる。Copilotのタイムズ向けクリック率はBing検索より87〜93%低い。証拠は封印が続く。

From: 文献リンクNews Plaintiffs’ Combined Summary Judgment Brief(In re OpenAI, Inc. Copyright Infringement Litigation, No. 1:25-md-03143-SHS-OTW)

【編集部解説】

原告が選んだ引用であること

まず、この書面の性格を押さえておきます。黒塗りが大幅に外れた公開版として出てきたのは、報道各社すなわち原告の側が提出した略式判決のブリーフです。表紙にはいまも「REDACTED」の表示が残っています。裁判所の認定ではなく、原告側の代理人が証拠開示で得た大量の資料から、自分たちの主張に沿う部分を選び取って構成した文書です。根拠となる証拠の多くは、いまも封印されたままになっています。

Microsoftはこの点について、ヘクト氏の記述は一人の従業員の個人的な見解であり、法的分析でも会社の見解でもない、とNieman Labにコメントしています。引用の強さと、それが会社の立場であるかどうかは、別の問題です。

そのうえで、この92ページには、これまで黒塗りだった部分が相当量含まれています。読みどころは、印象的な一節よりも、原告が事案をどう切り分けたかという構造のほうにあります。

司法省が触れなかった段階に、原告は証拠を置いた

9月4日に扱った米司法省の利害関係表明は、LLMの開発を取得・学習・出力の3段階に分けたうえで、検討対象を学習段階だけに絞ると宣言していました。取得の適法性にはフェアユースの結論を及ぼさず、出力についても変革的でない場合がありうると書いていました。

今回の書面は、その空白に正面から証拠を積んでいます。

原告は複製を5つの段階に分けました。取得、学習、グラウンディング、出力、そして「horse trading」です。力が入っているのは、司法省が判断を留保した取得と出力のほうです。

これとは別に、原告はOpenAIが学習前に著作権管理情報を意図的に除去したとして、DMCA第1202条(b)(1)に基づく部分的略式判決も求めています。

取得については、Common Crawl経由のダウンロード、匿名のスクレイピング、ペイウォールの回避、利用規約の不確認といった経路が並びます。書面は、ペイウォール回避の手口が社内で共有されていたやり取りや、非商用の言語教育・研究・技術開発に用途を限ったライセンスで提供されたニューヨーク・タイムズのアーカイブを学習に使った経緯を挙げています。1987年から2007年までの、180万本を超える記事です。

出力については、Copilotの実際の会話ログが使われています。少なくとも200万件の会話で原告サイトの内容が取得され、応答の生成に使われた。Microsoft側の技術専門家自身が、重なり合わない16語の連なりを少なくとも6か所、計96語以上コピーした事例が、少なくとも88,178件あると認めている。被告の専門家の言葉が、そのまま原告の証拠になっている構図です。

なお、グラウンディングと出力について略式判決を求めている相手はMicrosoftだけです。OpenAI分については、原告が別に申し立てている制裁の手続きが決着するまで判断の機が熟していないと、書面自身が注記しています。

司法省の3段階にはなかった、5番目

原告の分類でもっとも目を引くのが「horse trading」です。両社が互いにコンテンツを渡し合っていた、という主張です。

OpenAIはGPT-3の学習データ一式をMicrosoftに引き渡しました。MicrosoftはBing Indexのコピーを「Project Taxi」として、共同のクロールを「Project Mango」としてOpenAIに提供しました。Mangoで集めたデータから作られた学習用データセットには、原告の著作物が160,903本以上含まれています。

書面が強調するのは、この受け渡しがモデルの学習そのものとは切り離せるという点です。GPT-3の学習データをMicrosoftが受け取ったのは、すでにGPT-3の学習が終わったあとでした。用途は、自社製品にどう組み込むかの検討です。学習の変革性という論点を持ち込みにくい場面で、複製と頒布が起きていたという組み立てになっています。

権利者に許諾を求めないまま、コンテンツが通貨のように会社間を移動した。フェアユースの4要素にこの行為をどう当てはめるのかは、これから裁判所が決めることになります。

被告側の主張が、第3要素で逆を向く

この書面でもっとも論理が鮮やかなのは、第3要素、すなわち利用した分量の相当性の扱いです。

被告側の専門家は、モデルの一般的な能力にとって個々の著作物は必要ないと述べています。OpenAI側の専門家は、どの情報源も完全に置き換えがきくとしました。Microsoft側の専門家は、数兆トークンの学習データから特定の作品群を取り除いても、モデルが学ぶ統計構造は実質的に変わらないと証言しています。

原告はこれを受けて、こう組み立てます。全文を複製しなければ達成できない変革的な目的が本当にないのなら、全文を複製したことを正当化する理由もない。フェアユースを守るための主張が、別の要素では逆に働く。

ここは、AIの学習をめぐる議論全体にとって示唆的です。個々のデータは重要でないという説明は、規模の正当化としてはよく効きます。ただ、個々の権利者に向けた説明としては、反対の意味を持ちうる。

「供給網を壊す製品」という自己認識

見出しになった窃盗の比喩よりも、産業の話として重いのは、Microsoftの社内文書に現れる自己認識のほうです。

書面が引用するところによれば、社内文書は自社のAIコンテンツ戦略が「doom loop」を始動させたと書いています。最終製品がその不可欠な供給者の経済的基盤を脅かすのは極めて異例だ、という一文が続きます。別の文書には、LLMは自らのサプライチェーンを破壊する製品である、という表現があります。

数字も添えられています。Copilotとふつうのウェブ検索を比べたときのクリック率の差は、タイムズのサイトで87〜93%、デイリー・ニュース系で83〜91%、Ziff Davis系で51〜94%。媒体によって幅があり、単一の数字で語れるものではありませんが、方向はそろっています。

そして、AI企業側の専門家がこの現象を認めている箇所があります。OpenAI側の経済学の専門家は、GoogleのAI Overviewsがデイリー・ニュース系の検索リファラルを20〜60%押し下げた可能性があると述べています。被告の反論は、損害の原因は自社だけではない、というものです。ただしその反論は、業界全体でこの現象が起きていることの証言にもなります。

書面は、これを囚人のジレンマとして描きます。業界全体としては、制作の継続に対価を払うほうが得になる。しかし個社としては、他社が払うあいだ自社は払わないほうが得になる。だから抜け出せない。フェアユースを否定すれば全員が同じ条件に立つ、というのが原告の結論です。

一方で、市場はすでに動いています。当媒体が9月16日に扱ったGoogleのパブリッシャー対価の試験導入や、書面が挙げるAmazonの少なくとも23件のデータ提供契約、TollBitやCloudflareといった仲介事業者の登場は、ライセンスの仕組みが現に築かれつつあることを示しています。訴訟の結論を待たずに進む部分は、確かにあります。

日本の読者にとって、問われているのは「取り方」

日本には著作権法30条の4があり、著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用については、必要と認められる限度で認められます。情報解析はここに含まれます。9月4日の記事で扱ったとおり、米国のフェアユースとは出発点が違います。

ただ、今回の書面が重心を置いているのは、学習してよいかどうかではなく、どうやって手に入れたかです。

ここは、日本でも条文ひとつで決まる領域ではありません。30条の4は主として利用の目的を見る規定ですが、取り方と無関係ではないからです。文化庁が2024年に示した考え方は、robots.txtやID・パスワードでAI学習用の収集を制限している場合に、その技術的な措置を回避してデータベースの著作物を複製する行為が、30条の4のただし書にあたりうるとしています。ただし書は、著作権者の利益を不当に害する場合に同条の適用を外す規定です。利用規約への違反は、契約の問題としても別に残ります。

取得と学習と出力を分けて考えるという作法は、司法省の書面と今回の原告の書面が、立場は正反対でありながら共有しているものです。議論の解像度は、この1か月で確実に上がりました。

これから確かめる点

反論書面の提出期限は11月6日です。被告側がこれらの引用にどう応じるのか、文脈を補って別の読み方を示すのか、そこで初めて見えてきます。OpenAI自身の略式判決メモは、原告ブリーフの公開版より前、9月4日に提出されています。

第3巡回区控訴裁判所では、Thomson Reuters対ROSS Intelligenceの判断が待たれています。AI学習とフェアユースを正面から扱う、最初の連邦控訴審の判断になります。

一点、前回と同じことを書いておきます。この記事を書いている媒体もまた、学習の対象となりうるコンテンツを発行する側にいます。それでも、AIを作る側と書く側の、どちらかに肩入れするつもりはありません。

今回の書面で印象に残るのは、AI企業の内部に、この問題をいちばん正確に言語化していた人がいた、という事実のほうです。供給網を壊す製品だ、と書いた人は、その製品を作る会社の中にいました。問題の所在を最初に見つけたのが、外の批判者ではなく当事者だったのなら、解き方を見つけるのも当事者でありうる。

次に動くのは、11月6日の書面です。

【関連記事】

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今回の記事の柱が接続する先。取得・学習・出力という3段階の切り分けと、司法省が学習だけを守った経緯をこちらで詳しく扱っている。

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【編集部後記】

黒塗りの外れた書面にいち早く気づいて広めたのは、パブリッシャーの業界団体の代表でした。裁判所の記録は誰でも見られる場所にありますが、92ページのどこに何が書かれているかは、探して読む人がいなければ誰も知らないままです。

今回の引用の多くは、証拠開示という手続きがなければ表に出ませんでした。制度が動いて文書が出て、それを読む人がいて、ようやく言葉が届きます。この経路のどこかが欠けていたら、あの一節は誰の目にも触れなかったはずです。


【用語解説】

略式判決(summary judgment)
事実に争いがない争点について、法廷での審理を経ずに法的判断を求める米国の手続き。認められれば、その争点は裁判で扱われなくなる。

フェアユース
米国著作権法107条が定める抗弁。目的と性格、著作物の性質、利用した分量の相当性、市場への影響という4要素で判断される。抗弁であるため、立証責任は使った側が負う。

第3要素
4要素のうち「利用した分量の相当性」。全文の複製は、それが変革的な目的の達成に必要だった場合にのみ正当化されうるとされる。

グラウンディング
学習済みモデルに、回答を生成する直前に外部から文章を取ってきて参照させる処理。RAG(検索拡張生成)とも呼ばれる。業界で定義が揺れるため、本記事では書面の用法に従う。

horse trading
原告が用いた呼称。両社が互いに著作物のコピーを渡し合い、対価や便宜と交換していたという主張を指す。

doom loop
Microsoftの社内文書に現れる表現。AIが供給元であるコンテンツ制作者の経済基盤を損ない、結果としてモデルの性能も落ちていく循環を指す。

中間学習(mid-training)
事前学習の後、後処理の前に、新しさや特定分野の性能を高める目的で選別済みデータを追加投入する段階。

著作権管理情報(CMI)
著作物に付された著作者名、タイトル、著作権表示、利用条件などの情報。米国ではDMCA第1202条が保護する。

DMCA第1202条(b)(1)
著作権管理情報を権限なく意図的に除去する行為を禁じる規定。原告は4つの要件のうち最初の3つについて判断を求めている。

利害関係表明(Statement of Interest)
米政府が当事者でない訴訟に対し、法解釈についての立場を裁判所に示す書面。

著作権法30条の4
日本の規定。著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用を、必要と認められる限度で認める。情報解析が含まれる。ただし書があり、著作権者の利益を不当に害する場合は適用されない。

クリック率(CTR)
表示された回数に対して、実際にクリックされた割合。

第3巡回区控訴裁判所
デラウェア州などを管轄する米国の連邦控訴裁判所。

【参考リンク】

文化庁 AIと著作権について(外部)
AIと著作権の関係について文化庁がまとめた公式ページ。考え方やチェックリストなど、関連する資料への入口がここに集約されている。

AIと著作権に関する考え方について(外部)
文化審議会著作権分科会の小委員会が2024年3月にまとめた文書。30条の4のただし書をどう読むかが、事例とともに整理されている。

AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス(外部)
文化庁著作権課が2024年7月に公表した解説資料。技術的な措置を回避したデータ収集を、ただし書がどのように扱うかに触れている。

Common Crawl(外部)
ウェブを巡回して収集したデータを無償で公開している米国の非営利団体。原告は同団体を経由した取得のあり方を問題にしている。

CourtListener(外部)
米国の連邦裁判所の記録を無償で公開している非営利のデータベース。今回の92ページにわたる書面も、ここから誰でも閲覧できる。

OpenAI(外部)
ChatGPTを開発・提供する米国企業。本件の被告の一方であり、著作権管理情報の除去をめぐるDMCA請求の対象にもなっている。

Microsoft News(外部)
Microsoftの公式ニュースサイト。Copilotを提供する同社は本件のもう一方の被告で、グラウンディングと出力も対象とされている。

【参考記事】

Microsoft exec called AI scraping ‘the largest theft of labor in human history,’ new unredacted filings reveal(外部)
封印解除を広く報じた記事。中間学習データセットの91,692件、Project Mango由来の160,903本といった数値を拾っている。

“An astonishing theft of unprecedented proportions”: Court records show what Microsoft and OpenAI actually thought about AI training(外部)
ハーバード大の研究所による記事。ヘクト氏の記述を会社の見解から切り離すMicrosoft広報のコメントを掲載しており、本記事の副次情報源。

Microsoft exec called AI ‘largest theft of labor’ in history, court records show(外部)
同じ書面を扱った記事。黒塗りが大幅に外れた公開版が2026年9月17日に記録上へ出たという、手続き上の日付を確認できる。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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