米司法省が9月1日、OpenAIをめぐる著作権訴訟に書面を出しました。AI学習はフェアユースにあたる、という主張です。ただ、20ページを読むと、守られているのは学習だけでした。データの取り方も、著作物をそのまま吐き出す出力も、そこには含まれていません。
米司法省は2026年9月1日、ニューヨーク州南部連邦地裁で審理中のOpenAIをめぐる著作権侵害訴訟に、合衆国の利害関係表明を提出した。司法省は当事者ではなく、合衆国法典28編517条に基づく20ページの書面である。書面は、著作物を複製して大規模言語モデルの学習に用いる行為はフェアユースにあたると主張し、学習を「極めて変革的」と位置づけた。
取得、学習、出力の3段階はそれぞれ別の著作権法上の問題を生じさせるとしたうえで、検討対象を学習段階に絞っている。一律のライセンス料を求めれば最大手だけが資本を持つ状況になりかねず、参入障壁が既存の大手メディアへの補助金として機能するとも述べた。ニューヨーク・タイムズの広報担当グラハム・ジェームズ氏は、政権は一握りの巨大AI企業の側に立っていると反発した。
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Statement of Interest of the United States – In re OpenAI, Inc. Copyright Infringement Litigation
【編集部解説】
当事者ではない政府が、書面を出せる場面
まず手続きの話を一つ。司法省はこの訴訟の当事者ではありません。原告でも被告でもない政府が裁判所に意見を述べたのは、合衆国法典28編517条に基づくものです。この条文は、司法長官が司法省の職員を派遣し、係属中の訴訟などで合衆国の利害に対応させることを認めています。
提出物の名前は「利害関係表明」。第三者が自発的に出す法廷助言者意見書とは別のもので、政府が自らの利害を根拠に出します。裁判所を拘束する力はありません。書面は脚注で、この条文には提出期限も裁判所の許可要件もないと説明しています。判断するのはあくまでシドニー・スタイン判事です。
ただ、フェアユースの4要素をどう当てはめるかという、まさに争われている論点について、行政府が公式に立場を明らかにした意味は小さくありません。AI学習をめぐる一連の著作権訴訟で、連邦政府が正面から意見を述べたのは、確認できる限り初めてです。
なぜこのタイミングだったのか
この訴訟は2023年12月に始まり、2025年4月に他の同種訴訟とまとめられて、ニューヨーク州南部地区でMDLとして審理されています。原告に並ぶのはニューヨーク・タイムズだけではありません。ニューヨーク・デイリー・ニュース、シカゴ・トリビューン、Center for Investigative Reporting、Ziff Davis、The Intercept、そして書籍の著者たちがいます。
いま進んでいるのは、重要な事実に真正な争いがない論点について、トライアルを経ずに判断を求める略式判決の書面のやり取りです。反論書面の提出期限は2026年11月6日。そして略式判決の申立て自体の期限は、9月4日でした。司法省の書面は、その3日前に提出されています。提出の意図は書面に書かれていませんが、争点が本格的に書面化される直前のタイミングだったことは確かです。
書面は、簡潔にするためにニューヨーク・タイムズとOpenAIだけを指して書いているが、法的主張は本件および関連事件のすべての当事者に同様に及ぶ、と脚注で明記しています。書籍の著者や出版社も含まれます。
政府は「学習」だけを守った
ここが、この書面でいちばん読み違えやすいところです。
見出しだけを追うと「政府がAI企業を全面的に擁護した」と読めます。しかし書面は、LLMの開発を3つの段階に分けたうえで、そのうち1つに検討対象を絞ると宣言しています。
- 取得の段階 — 学習データを集めて保存する処理
- 学習の段階 — 集めた文章を複製し、モデルに通して言語のパターンを学ばせる処理
- 出力の段階 — 学習の結果と開発者が設けたガードレールに基づいて、利用者の入力に応答する処理
書面は、各段階がそれぞれ別の著作権法上の問題を生じさせうると述べ、そのうえで検討対象を学習段階に絞りました。取得の適法性については、フェアユースの結論を及ぼしていません。出力についても、モデルが著作物を再構成して頒布する場合には変革的でないことがありうると、はっきり書いています。
この切り分けは、2025年6月にカリフォルニア州北部地区で相次いだ2つの判断と地続きです。バーツ対Anthropicでアルサップ判事は学習を変革的と認めながら、海賊版書籍を蔵書として保持した行為は別問題としました。海賊版に関する請求はその後、約15億ドルの和解となり、2026年7月に最終承認を受けています。
ただし書面は、先行判断をそのままなぞったわけではありません。もう一方のケイドリー対Metaについては、市場希釈の理論を展開した部分を名指しで批判しています。学習と出力を一つの連続した利用として扱ってしまっている、というのがその理由です。
そして注目すべきは、批判の矛先が判決だけに向いていないことです。書面は脚注で、議会図書館に属する米国著作権局が2025年5月の報告書で類似の理論を示していたことに触れ、その理解に敬譲は与えられないと述べています。著作権局長が自身の解任を争っている最中である、という一文も添えられています。
学習は守るが、取り方と出し方は別。そして司法省の見解は、著作権を所管する著作権局が示した見解とも一致していない。書面が示しているのは、単純な擁護ではなく、こうした入り組んだ地図です。
8月31日に扱ったAnthropicと音楽出版社35社の訴訟も、争点が学習だけではないことを示す事例でした。学習の適法性が固まっても、取得と出力は残ります。その構図は今回も変わりません。
「ライセンス義務化は大手を利する」という論法
書面のなかで、産業論として最も踏み込んでいるのがこの部分です。
学習に一律のライセンス料を求めれば、最大手の技術企業だけが支払う資本を持つ状況になりかねない。そのライセンス料は、抱える著作物の量が多い既存の大手メディアに不均衡な利益をもたらす。そして参入障壁そのものが、既存の大手メディアへの大きな補助金として機能する。書面はそう主張しています。
逆に、著作権法を無理に解釈することで妨げられなければ、LLMは大手メディアと独立系メディアの競争条件をならしうるし、そうすべきだ、とも述べています。資力の乏しい書き手が、写真家に頼らずに記事に添える画像を用意できる。利用者を異なる視点の情報源に導くこともできる。書面が挙げているのはそうした例です。
一方で、書面は自ら線を引いてもいます。ライセンス制度が財務的・実務的に成り立つかどうかについては立場を取らないと脚注で明言し、フェアユースが認められるかどうかにかかわらず、出版社が有料記事やリアルタイム情報へのアクセスを提供するライセンス契約を結ぶことはできるし、実際に結ばれているとも書いています。ライセンス市場そのものを否定してはいません。
この論法は、権利者側から見れば順序が逆に映ります。対価が払われなければ、そもそも取材して書く仕事が続かない。ニューヨーク・タイムズ広報のグラハム・ジェームズ氏が、AIとクリエイターは共存できる、AI企業は著作権法が求めるとおり製品を成り立たせているコンテンツに公正な対価を払えばよい、と述べたのは、その立場からの応答です。
どちらの主張も、それぞれ立つ論拠を持っています。参入障壁の議論と、創作の持続可能性の議論は、同じ土俵で比べにくい。書面が示しているのは政策的な見通しであり、実証された結果ではありません。
国家安全保障という理由づけ
書面は、AI産業の発展を著しく難しくする法解釈は国家安全保障を脅かし、そうした制約を負わない外国の競合に優位を与えると述べています。2025年1月と2026年6月の2本の大統領令が引用されています。
著作権法の解釈に産業政策や安全保障が持ち込まれること自体は、新しくはありません。ただ、フェアユースの4要素は、産業政策の優劣を測るために設計された枠組みではありません。第1要素は利用の目的と性格を、第4要素は著作物の潜在的市場への影響を見ます。安全保障上の必要性がこの4要素のどこに収まるのかは、書面を読んでも一意には定まりません。裁判所がこの理由づけをどう扱うかは、まだわかりません。
日本の読者にとって:出発点が違う
日本には、フェアユースという一般条項がありません。代わりに著作権法30条の4があり、著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない場合には、必要と認められる限度で著作物を利用できます。情報解析はここに含まれます。ただし、享受目的が併存する場合や、著作権者の利益を不当に害する場合には適用されません。
日本は2018年の法改正で、AI学習を含む非享受目的の利用について、米国より先に具体的な権利制限規定を置きました。生成AIへの適用範囲がすべて確定したわけではありませんが、条文という出発点があることは大きな違いです。
違うのは、判断の出発点です。日本には非享受目的の利用を正面から扱う30条の4があり、米国では著作権法107条の4要素を個別の事件に当てはめていきます。どちらの国でも、紛争になれば最終的な解釈を示すのは裁判所です。
線引きの言葉も、重なるようでいて同じではありません。30条の4の「利益を不当に害する」は、利用市場との衝突や将来の販路への影響など、諸事情を総合して判断する考え方です。これに対して今回の書面は、著作権法上考慮できる市場害を「実質的な代替的競争」に狭く限定しようとしています。売上が多少減ることは足りない、代替になる競争でなければならない、という主張です。どちらも市場への影響を見ていますが、視野の広さが違います。
欧州はさらに別の道を選びました。EUにフェアユースはなく、AI法は域内市場に汎用AIモデルを提供する事業者に対し、EU著作権法を遵守する方針を設け、権利者による学習利用の留保を特定し尊重することなどを求めています。この義務は、学習がどの法域で行われたかを問いません。米国の裁判所が学習をフェアユースと認めても、その判断をそのまま欧州に持ち込むことはできません。一つの世界共通の答えではなく、法域ごとの対応が続く。この前提は当面変わらないでしょう。
これから確かめる点
第3巡回区控訴裁判所では、Thomson Reuters対ROSS Intelligenceの口頭弁論が2026年6月11日に行われ、判断を待っています。ROSSは生成AIではなく、Westlawのヘッドノートを使って競合する法律検索サービスを訓練した事件で、事実関係は今回とは異なります。第3巡回区の判断がニューヨークの裁判所を拘束することもありません。それでも、AI学習とフェアユースを正面から扱う最初の連邦控訴審の判断として、参照される可能性はあります。
そして11月6日、略式判決の反論書面が出そろいます。政府の書面が裁判所の判断にどう作用したかは、そこから先に見えてきます。
一点、明らかにしておきます。この記事を書いている媒体もまた、学習の対象となりうるコンテンツを発行する側にいます。この訴訟の結論は、他人事ではありません。そのうえで、AIを作る側と、書く側の、どちらか一方に肩入れするつもりはありません。両方が続いていく形を探すことが、この分野を追い続ける理由です。
技術と権利の関係は、対立の物語としてしか語られない時期を過ぎつつあります。今回の書面が、取得と学習と出力を分けて論じたことは、その意味では前進です。議論の解像度が上がれば、折り合いのつけ方も見えてきます。次に動くのは、裁判所の側です。
【関連記事】
トランプ大統領令、AIフロンティアモデルに政府が30日前アクセス|任意の安全枠組みを解説
書面が引用する2本目の大統領令を扱った記事。2026年6月2日に署名された、フロンティアモデルの任意の安全枠組みを解説している。
米国著作権局、生成AIと著作権保護で新提言 – トランプ政権が著作権局長を解任、AI産業優先の波紋
書面の脚注が触れている2025年5月の報告書と、その直後に起きた著作権局長の解任を伝えた記事。今回の批判の背景にあたる。
Anthropic訴訟、争点は学習だけではない|音楽出版社35社の狙い
学習の適法性が固まっても、取得と出力という争点が残る構図を、音楽出版社35社が提出した訴状の記述から読み解いた記事である。
【編集部後記】
20ページの書面に、ジョーン・ディディオンの名前が出てきます。十代の頃、ヘミングウェイの短編をタイプで打ち直して文章の仕組みを学んだ、というあの逸話です。学ぶことと書くことを一つの行為として扱えば、彼女は作品を発表するたびに責任を負うことになる。司法省はそう反論しています。
機械の学習を論じる書面が、人の学習の話へ戻っていきました。次に誰かが線を引くとき、基準になるのはどちらなのでしょうか。
【用語解説】
利害関係表明(Statement of Interest)
合衆国法典28編517条に基づき、訴訟の当事者ではない政府が、自らの利害を理由に裁判所へ立場を伝える書面。提出期限も裁判所の許可要件もなく、裁判所を拘束する効力もない。
法廷助言者意見書(amicus brief)
訴訟の当事者以外の第三者が、裁判所の許可を得て提出する意見書。政府が自らの利害を根拠に出す利害関係表明とは、根拠となる制度が異なる。
フェアユース
米国著作権法107条が定める一般規定。批評、報道、研究などのために、許諾なく著作物を利用できる場合を認める。4つの要素を総合して個別の事件ごとに判断される。
変革的(transformative)
第1要素の判断で使われる概念。元の著作物を単に置き換えるのではなく、新しい目的や性格を加えているかを問う。変革的と認められるほど、フェアユースが認められやすくなる。
実質的な代替的競争
第4要素で問題になる市場害の水準を示す語。売上が多少減ることでは足りず、著作物の購入の代わりになるほどの競争が生じているかを問う。
略式判決(summary judgment)
重要な事実に真正な争いがない場合に、トライアル(事実審理)を経ずに法律判断で決着をつける手続き。連邦民事訴訟規則56条が定める。
MDL(広域係属訴訟)
共通の事実関係を持つ複数の訴訟を、審理前の手続きのために1つの裁判所へ集約する制度。本件は25-md-3143としてニューヨーク州南部地区に集約されている。
市場希釈
AIの出力が大量に市場へ出回ることで、元の著作物の市場全体が薄まるとする考え方。ケイドリー判決が示し、今回の書面が正面から批判した。
敬譲(deference)
裁判所が、行政機関の法解釈を尊重して従うこと。2024年のLoper Bright判決以降、その範囲は狭まっている。
著作権法30条の4
日本の権利制限規定。著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない場合に、必要と認められる限度で利用を認める。情報解析が含まれる。
汎用AIモデル(GPAI)
EU AI法が用いる区分。広範な用途に使える基盤的なAIモデルを指し、EU市場に提供する事業者に著作権上の義務が課される。
ヘッドノート
判例データベースが判決文に付す要旨。Thomson Reuters対ROSS Intelligenceでは、この要旨の著作物性と、AI学習への利用が争点になっている。
【参考リンク】
Statement of Interest of the United States(PDF)(外部)
米司法省が2026年9月1日に提出した利害関係表明の原文。全20ページ。フェアユースの4要素ごとの主張と、脚注の補足まで読める。
CourtListener|In re OpenAI, Inc. Copyright Infringement Litigation(外部)
OpenAIをめぐる著作権侵害訴訟のMDL記録。提出された書面や裁判所の命令の一覧を、誰でも無料で閲覧することができる。
United States Department of Justice(外部)
今回の書面を提出した米国の司法当局。訴訟に関する公表資料やプレスリリース、各部局の所管業務を、ここで確認することができる。
U.S. Copyright Office(外部)
議会図書館に属する著作権の登録・政策機関。生成AIと著作権に関する一連の報告書を公開している。今回の書面が言及した機関にあたる。
文化庁|AIと著作権(外部)
日本の著作権を所管する官庁。AIと著作権に関する考え方、利用者と開発者向けのチェックリスト、解説資料をまとめて公開している。
OpenAI(外部)
本件の被告となっている企業。ChatGPTなどを開発する。モデルの研究成果や利用方針、報道向けの発表を公式サイトで公表している。
【参考記事】
Trump administration backs OpenAI in New York Times’ copyright case over training of chatbots(外部)
AP通信が配信した記事。司法省が書面を提出した事実と、原告に並ぶ報道機関や著者たちの構成、双方の反応をあわせて伝えている。
OpenAI Draws Support From Trump in Lawsuit Against The New York Times(外部)
書面の位置づけと原告側の反応を、エンターテインメント法務の観点からまとめた記事。関連する他の訴訟の動きについても触れている。
Trump Admin Tells Court: Let OpenAI Rip Off The Intercept’s Articles(外部)
原告のひとつが自ら報じた記事。書面の文言を引きながら、原告側代理人による反論のコメントを掲載している。当事者からの視点。
Summary judgment briefing gets pushed back in OpenAI MDL suit. Replies due Nov. 6 instead of Oct. 16.(外部)
AI著作権訴訟の日程を追う専門ブログ。略式判決の書面提出期限が変更された経緯と、他の事件の審理日程をあわせて伝えている。
Third Circuit Hears Oral Argument in Ross v. Reuters AI Training Copyright Case(外部)
第3巡回区の口頭弁論を法律事務所が整理した記事。変革性と市場害をめぐる裁判官と代理人のやり取りの要点を読むことができる。
Judge approves record $1.5 billion AI copyright settlement involving Anthropic(外部)
Anthropicの15億ドルの和解に最終承認が下りた経緯を伝えている。海賊版の取得をめぐる請求が決着した局面にあたる。


















