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米国著作権局長の後任者が示すAI著作権論争の行方

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-14 14:05 by admin

2025年5月10日(現地時間、日本時間5月11日)、米国著作権局長のシラ・パールマッター氏がホワイトハウスからの通告により解任された。解任は、米国著作権局が5月9日に発表した「生成AIと著作権」に関する報告書の公開直後に行われた。この報告書では、AIモデルの訓練に著作物を無断利用する行為が著作権侵害に該当する可能性を指摘しつつも、政府による即時の規制介入は時期尚早と結論付けている。

パールマッター氏の後任には、トッド・ブランチェ氏が議会図書館長代理、ブライアン・ニーブス氏が副図書館長代理、ポール・パーキンス氏が著作権局長代理として任命された。これらの人事については、複数のメディアで大統領府や政権の意向が反映されたものと報じられている。

AI業界では、MetaやOpenAIなどが著作権補償義務化に反発しており、クリエイター団体はパールマッター氏の解任を「人間の創造性保護に逆行する」と批判している。イーロン・マスク氏はAI訓練データの自由利用を主張しており、今回の人事を巡って政界とテック業界、クリエイターの間で議論が高まっている。

現時点でホワイトハウスは解任の法的根拠について公式な説明をしていない。今後の米国におけるAIと著作権の規制動向が、国際的な議論にも影響を与える可能性がある。

References:
文献リンクElon Musk’s apparent power play at the Copyright Office | The Verge
文献リンクTrump Fires Register Of Copyrights Shira Perlmutter | Deadline
文献リンクTrump’s removal of copyright chief a ‘power grab’ | Fortune
文献リンクUS Copyright Office “raced to release” AI report ahead of Trump firing its boss | Complete Music Update

【編集部解説】

今回の米国著作権局長の解任劇は、AIと著作権を巡る複雑な力学が浮き彫りになった象徴的な出来事です。2025年5月、シラ・パールマッター氏がホワイトハウスからの通告で突然解任されましたが、その直前に著作権局が発表したAIと著作権に関する報告書が大きな波紋を呼びました。この報告書は、AIモデルの訓練に著作物を無断利用することが著作権侵害に該当する可能性を指摘しつつも、現時点での政府による即時規制には慎重な立場を示していました。

多くの業界関係者は、パールマッター氏の解任がイーロン・マスク氏やAI産業寄りの政策転換、つまりフェアユースの拡大やAI開発の自由化につながる前兆ではないかと受け止めました。しかし、実際には、後任者が就任した後も著作権局の方針が即座にAI産業に有利な方向へ大きく転換したわけではありません。むしろ、MAGA派閥であるAIと著作権のバランスをどのように取るかという根本的な課題が、引き続き米国内外で議論の中心となっています。

今回の人事については、イーロン・マスク氏のAI企業xAIによる著作物利用問題や、AI開発とクリエイター保護のせめぎ合いが背景にあると指摘されています。民主党のジョー・モレル下院議員は「法的根拠のない権力掌握」と厳しく批判し、マスク氏の意向が影響した可能性を示唆していますが、実際のところ、政権や著作権局の内部でどのような議論や調整がなされたのかは明確ではありません。

米国著作権局は、AIと著作権という新しい課題に対し、法的な枠組みや解釈を示す重要な役割を担っています。AI技術の進歩がクリエイターの権利や既存の法制度に与える影響は計り知れず、今回の解任劇は、技術革新と権利保護のバランスをいかに取るべきかという世界共通の課題を改めて浮き彫りにしました。

今後、米国の動向は日本を含む各国の法整備や社会的議論にも大きな影響を与えると考えられます。AI時代の著作権のあり方を巡る議論は、今後も続くことは間違いありません。

【編集部追記】

MAGA(Make America Great Again)運動はトランプ氏を中心とする保守・ナショナリスト的な政治潮流ですが、その内部には大きく分けて「伝統的なポピュリズム系(バノン派)」と「テクノロジー志向の新自由主義・加速主義系(マスクやアンドリーセンら)」という異なる勢力が共存し、時に対立しています。この「MAGA内戦」とも呼ばれる構図が、現政権のAIやイノベーション政策に複雑な影響を与えています。

パーキンス氏ら新任幹部がMAGA色を強く持ちながらも、むしろAI規制やテック企業への警戒を強める方向に振れているのは、MAGAの伝統的基盤(バノン派など)が「テクノロジーの過剰な力」に対して警戒心を持っているためです。特にイーロン・マスクのような「テクノオリガルヒー(技術寡頭制)」的な人物や、AIによる社会変革に対しては、保守層の一部から「人間性や伝統的価値観を脅かす」との反発が根強い状況です。

一方で、パールマッター氏は著作権局長としてフェアユースの拡大に慎重であり、AI企業の無断利用に対して著作権保護を強調する立場でした。彼女の解任が「AI推進派(=イノベーション推進派)」の意向によるものだとする見方もありますが、実際にはMAGA内部の「反テック・反AI」的な空気が強まった結果、より保守的な著作権政策を志向する人事が行われた側面もあります。

つまり、MAGA=常にイノベーション推進、あるいは常に反イノベーションという単純な構図ではなく、「AIやテック企業に対する警戒心」と「伝統的な産業・価値観の保護」を優先する保守的潮流が、特に2025年の政権運営では強くなっているのです。このため、パールマッター氏のフェアユースへの慎重姿勢が「AI推進派」からは疎まれつつも、MAGA保守派からは「まだ不十分」と見なされた可能性も否定できません。

また、イーロン・マスク自身が共和党内でも賛否両論であり、MAGA基盤の一部からは「グローバル資本主義・移民推進・加速主義」の象徴として反発を受けていることも、こうした矛盾した現象の背景にあります。

要するに、MAGA政権下のAI・著作権政策は、内部の複数の勢力のせめぎ合いによって揺れ動いており、単純に「イノベーション推進/反イノベーション」「AI推進/反AI」といった二項対立では捉えきれない複雑な状況にあるといえます。

【用語解説】

著作権局(米国著作権局/United States Copyright Office)
アメリカ議会図書館に属する連邦機関。著作権の登録や著作権法の運用、政策提言などを担当する。

フェアユース(Fair Use)
米国著作権法における例外規定。特定の条件下で著作物を権利者の許可なく利用できる法的枠組み。報道・批評・教育・研究など公共性が高い場合に認められる。AIの学習データ作成にあてはまるのか議論が続いている。

MAGA(Make America Great Again)
元々は1980年の大統領選挙でロナルド・レーガンが使用したのが始まりだが、2016年の大統領選挙でドナルド・トランプがこの標語を前面に掲げたことで世界的に広まった。国際社会にも自国優先主義の潮流や経済政策の変化をもたらした象徴的なフレーズである。

【参考リンク】

アメリカ合衆国著作権局(United States Copyright Office)(外部)
アメリカの著作権登録、著作権法、関連政策、著作権検索サービスなどを提供する公式サイト。

議会図書館(Library of Congress)(外部)
米国議会に属する世界最大級の図書館。著作権局を統括し、膨大な蔵書やデジタルアーカイブを提供している。

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