英国の通信規制当局Ofcomは2025年2月3日、Amazon Kuiper Services Europeに対して衛星通信サービスのライセンスを付与した。
■ライセンスの概要
- 周波数帯:Kaバンド(27.5-27.9405 GHz、28.4545-28.9485 GHz、29.5-30 GHz)
- 対象:一般家庭、企業、公共機関向けの衛星インターネットサービス
- 運用開始:2025年後半から英国でのサービス提供を予定
■Project Kuiperの計画
- 衛星総数:3,232基
- 現状:2基のテスト衛星を2023年10月に打ち上げ済み
- 製造拠点:米国ワシントン州カークランド(1日最大5基の製造能力)
- 打ち上げ契約:Blue Origin、Arianespace、United Launch Alliance、SpaceXと計83回の打ち上げを契約
■サービス性能
- 超コンパクト端末:最大100Mbps
- 標準モデル:最大400Mbps
- 企業向けモデル:最大1Gbps
■競合状況
- 主要競合:SpaceXのStarlink(現在約500万人の加入者)
- その他:OneWeb(英国政府出資)
■規制要件
- FCCライセンス条件:2026年7月までに1,616基(半数)の打ち上げが必要
- 完了期限:2029年までに全衛星の打ち上げを完了する必要がある[34]
from:Amazon’s Kuiper secures license to take on Starlink in the UK
【編集部解説】
衛星インターネット市場の新たな展開
Amazonのプロジェクト・カイパーが英国市場に参入することは、衛星インターネット業界に大きな変化をもたらす可能性があります。
まず注目すべきは、Amazonの製造能力です。カークランドの専用施設では1日最大5基の衛星を製造できる体制を整えており、これは年間で約1,800基の製造が可能となります。この生産能力は、2026年7月までに1,616基の打ち上げが必要というFCCライセンスの要件を満たすために不可欠です。
技術的特徴とイノベーション
プロジェクト・カイパーの特筆すべき技術革新は、独自開発したASIC(特定用途向け集積回路)チップです。このチップは5Gモデム、基地局機能、モバイルバックホール通信を1つのシステムオンチップに統合しており、各衛星で最大1Tbpsのトラフィック処理を可能にしています。
市場への影響
英国市場においては、既存のStarlinkに加えてOneWebも展開していますが、Amazonの参入により競争が活性化されることが期待されます。特に農村部や遠隔地での高速インターネットアクセスの選択肢が増えることは、デジタルデバイドの解消に貢献するでしょう。
AWSとの相乗効果
特に注目すべきは、AWSとの統合による可能性です。クラウドコンピューティングの世界的リーダーであるAWSと衛星通信網の組み合わせは、エッジコンピューティングやIoTの分野で新たなユースケースを生み出す可能性があります。
今後の展望と課題
プロジェクト・カイパーは単なるインターネット接続サービスを超えて、災害時の通信インフラのバックアップや、通信事業者のネットワーク拡張支援など、より広範な用途を見据えています。
ただし、スペースデブリの問題や周波数干渉の課題も存在します。Ofcomは他の衛星システムとの共存について慎重に検討を行い、大規模なNGSOシステムが必ずしも干渉リスクを増加させるわけではないと結論付けています。
日本市場への示唆
日本の通信事業者との協業も検討されており、日本における衛星インターネット市場にも影響を与える可能性があります。特に災害大国である日本において、衛星通信による冗長性の確保は重要な意味を持つと考えられます。