Last Updated on 2025-04-23 18:15 by admin
2025年4月21日、米国映画芸術科学アカデミー(AMPAS)は、アカデミー賞(オスカー賞)の新たな規則を発表した。新ルールでは、生成AIやその他のデジタルツールを使用した映画も、ノミネート資格を持つことが正式に認められた。
ただし、アカデミーおよび各部門は、受賞作品を選定する際に「創造的なプロセスにおいて人間がどれだけ中心的な役割を果たしたか」を重視する方針を明確にしている。
今回の規則改定は、2023年にハリウッドで起きた脚本家組合(WGA)や俳優組合(SAG-AFTRA)による大規模ストライキでAIの活用が争点となったことや、2024年から2025年にかけてAI技術を活用した映画『ブルータリスト』や『エミリア・ペレス』などが議論を呼んだことを背景としている。
また、アカデミーは最終投票に参加する会員に対し、各部門でノミネートされたすべての作品を鑑賞することを義務付ける新ルールも導入した。これにより、AI技術の進展を認めつつも、人間の創造性を重視するという映画業界の姿勢が改めて強調された。
from:The Oscars officially don’t care if films use AI
【編集部解説】
米国映画芸術科学アカデミーが発表した新ルールは、AI技術の進展と映画業界の伝統的な価値観のバランスを慎重に模索する内容となっています。2023年のハリウッドにおける脚本家組合(WGA)や俳優組合(SAG-AFTRA)の大規模ストライキでは、AIによる脚本生成や俳優のデジタル複製が大きな争点となり、クリエイターの権利保護や人間の創造性の価値が改めて問われました。
今回の規則改定は、こうした背景を受けて、AIを完全に排除するのではなく、あくまで「人間中心」の創作活動を評価するという現実的なアプローチを示しています。
新ルールでは、生成AIやデジタルツールを使った映画もアカデミー賞のノミネート対象となりますが、最終的な評価基準として人間の創造的関与の度合いが重視されます。これは、AIが映画制作の現場で補助的な役割を担う一方で、作品の本質的な価値や独自性は人間のクリエイティビティに依拠するという姿勢の表れです。
実際、2024年から2025年にかけてAI音声変換技術などを活用した『ブルータリスト』や『エミリア・ペレス』といった作品が話題となり、AI活用の是非や倫理的課題が広く議論されました。
また、最終投票に参加するアカデミー会員に対して、ノミネートされた全作品の視聴を義務付ける新ルールも導入されました。これにより、人気作品への便乗投票(コートテール投票)を防ぎ、公平な審査を目指す動きが強化されます。視聴履歴の管理には「Screening Room」などのデジタルプラットフォームが活用されるものの、映画祭やプライベート上映での鑑賞は自己申告制となるため、今後の運用には課題も残ります。
今回の規則改定は、AIを「敵」とも「救世主」とも断じず、技術と人間の共生を前提とした現実的なスタンスを示しています。AIの活用によって映画制作の効率化や多様な表現が可能になる一方、ディープフェイクや著作権侵害といった新たなリスクも指摘されています。今後は、AI活用の透明性や倫理的ガイドラインの整備がさらに求められるでしょう。
日本でもAI技術を活用した映画制作が進みつつありますが、ハリウッドのような労働組合主導の議論やガイドライン整備はまだ発展途上です。今回のアカデミーの対応は、国内のクリエイターや関係者がAIと人間の役割分担、そして創造性の本質について考える上で、非常に示唆に富むものとなっています。
【用語解説】
WGA(全米脚本家組合):
米国の映画・テレビ脚本家を代表する労働組合で、クリエイターの権利保護や労働条件の改善を目指している。
ブルータリスト(The Brutalist):
2024年公開の映画。AI音声変換技術を用いたことで注目され、AI活用の是非が議論された。
エミリア・ペレス(Emilia Pérez):
2024年公開の映画。AI技術による歌声補正などが話題となり、映画業界でのAI活用の象徴的な事例となった。
Screening Room:
アカデミー賞の会員向けに提供されるデジタル上映プラットフォーム。ノミネート作品の視聴履歴を管理し、公平な投票をサポートする。
コートテール投票:
人気作品に便乗して他部門でも投票する行為。アカデミー賞の審査過程で問題視されており、全作品視聴義務化によって是正が図られている。
【参考リンク】
Oscars.org(米国映画芸術科学アカデミー公式サイト)(外部)
アカデミー賞の公式サイト。授賞式や最新ニュース、規則改定情報を掲載。
SAG-AFTRA(全米俳優組合)公式サイト(外部)
全米俳優組合の公式サイト。AI活用やストライキに関する声明を掲載。