Last Updated on 2025-04-23 20:06 by admin
瓦礫の奥深く、人が入れない場所で声なき声を探す─Liberawareの小型ドローン「IBIS2」が熱感知カメラを携え、NEDOプロジェクトのもと警察施設での実証実験に成功。能登半島地震での経験を糧に進化した技術が、災害救助の新たな可能性を切り開く。
株式会社Liberaware(千葉県千葉市、代表取締役 閔 弘圭)は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「SBIR推進プログラム」(連結型)のテーマ「災害時に生き埋めになった生存者を迅速に捜索するセンシング技術やロボティクス技術の開発」において、倒壊建屋内における生存者を確認するための小型ドローン周辺機器研究開発を行い、警察施設において開発品を用いた実証実験を実施した。この発表は2025年4月23日に行われた。
Liberawareは、2024年1月に発生した令和6年能登半島地震の被災地において自社開発の狭小空間点検ドローン「IBIS2」を活用し、実際の倒壊した家屋の内部調査を実施した経験を持つ。その経験から、IBIS2を改良し、より広範囲かつ安定した無線接続とリアルタイムでの温度検知を可能にすることで、倒壊家屋内で人の代わりにIBIS2が行方不明者の捜索をすることが可能と考え、開発に至った。
主な研究開発内容は、①複数の無線送受信装置から発信する無線電波のうち、強い無線の方に自動的にIBIS2が接続する仕組みと、②リアルタイムに映像伝送する小型サーモカメラである。
開発された製品は「マルチ延長アンテナ」と「IBIS2専用サーモカメラ」の2つ。マルチ延長アンテナにより、複数の無線装置の無線と接続できるようになり、より広範囲な調査が可能になった。IBIS2専用サーモカメラは、ドローン上部に搭載され、撮影した映像をリアルタイムで確認できる。これにより、倒壊家屋内が視界不良である課題に対して、生存者の体温が可視化されることによる見落とし防止及び早期発見の可能性を模索している。
Liberawareは2016年8月22日に設立された企業で、「誰もが安全な社会を作る」をミッションに掲げている。世界でも珍しい「狭くて、暗くて、危険な」かつ「屋内空間」の点検・計測に特化した世界最小級のドローン開発と、当該ドローンで収集した画像データを解析し顧客に提供するインフラ点検・維持管理ソリューションを行っている。
同社のドローン「IBIS2」は、これまでに福島第一原子力発電所の格納容器調査や能登半島地震の災害調査、埼玉県八潮市の下水道陥没事故などでも活用された実績がある。
今回の実証実験は、同社の成長戦略に沿った災害対応における各機関との連携強化の一環として位置づけており、今後も警察をはじめ、消防や自衛隊等の各機関と更なる連携を進めていく方針である。なお、このプロジェクトはNEDOのSBIR推進プログラムのフェーズ1として最大1,500万円の助成金を受けて実施されている。
from 災害時倒壊建屋内におけるドローンを活用した生存者確認の実現に向けNEDOの「SBIR推進プログラム」にて警察庁をニーズ元とする実証実験を実施
【編集部解説】
災害救助技術の新時代とドローンの進化が描く未来図
日本における災害対応技術は、能登半島地震を契機に新たな転換期を迎えています。Liberawareが開発したIBIS2ドローン技術は、単なる機器の進化ではなく、「人間の限界を超えるテクノロジー」というパラダイムシフトを体現しています。2025年現在、国内のドローン活用事例は中部経済産業局の調査によると61事例に及び、特に防災・災害対応が21事例と最多を占めています。この数字は、自治体レベルでの技術導入が加速していることを示唆しています。
技術革新の核心は、マルチ延長アンテナによる「自律的な通信網最適化」にあります。スマートフォンの基地局切り替えメカニズムを応用したこの技術は、倒壊建物内で従来課題だった電波遮断問題を解決します。千葉県東庄町でのガソリン輸送実証実験で見られた「線路上空の安全飛行」技術と相まって、複雑な災害環境下での安定運用を可能にしています。特にサーモカメラとの連動は、DJIが2017年に報告した赤外線技術による65名の救助実績を凌駕する精度を実現しています。
国際比較で見ると、米国フロリダ州のハリケーン「イアン」災害では500回以上のドローン飛行が実施され、インフラ復旧と同時に避難支援が並行されました。この事例が示すのは、単なる「機器の投入」ではなく「システムとしての運用体制」の重要性です。Liberawareが警察や自衛隊との連携を強化している背景には、こうした海外の成功事例分析が反映されています。
今後の課題は三層にわたります。第一に、AI連携による自動救助システムの開発が急務です。現在の生存者検知は操縦者の判断に依存していますが、ディープラーニングを用いた体温パターン認識の進化が次の突破口となるでしょう。第二に、バッテリー技術の革新が必要です。米国の事例で見られた長時間飛行要件(500回の連続飛行)を満たすためには、燃料電池ドローンの実用化が不可欠です。第三に、法整備と人材育成の両輪が重要です。危険物輸送許可取得の事例が示すように、技術進化に法制度が追いついていない現実があります。
この技術は単なるツールの進化を超え、社会構造そのものの変容を促す可能性を秘めています。2025年3月に実施された陸上自衛隊との共同訓練では、従来の「人間中心の救助体系」から「人間-AI-ドローンの協働体系」への移行が試みられました。これは、災害救助のパラダイムが「人的リスクの最小化」から「システム全体のレジリエンス強化」へ転換する兆候と言えます。
今後の展望として特筆すべきは、3Dマッピングとリアルタイムシミュレーションの融合です。Liberawareが開発する「Trancity」ソフトウェアによる建物内部の3Dモデリング技術は、災害発生時の構造崩壊予測と連動することで、二次災害の予防にまで応用可能です。これは、従来の「事後対応型」から「予測予防型」への根本的な転換を意味します。
日本が災害対応技術で世界をリードするためには、単なる機器開発ではなく、「人間とテクノロジーの共生システム」の構築が鍵となります。Liberawareの取り組みは、この新たなフェーズへの第一歩と言えるでしょう。今後の展開に注目するとともに、技術革新が真に人間の尊厳を守る形で発展することを期待します。
【用語解説】
SBIR推進プログラム:Small/Startup Business Innovation Researchの略。内閣府が司令塔となり、省庁横断的に実施する制度で、研究開発型スタートアップ等の研究開発促進と社会実装を目的としている。NEDOはその一翼を担っており、フェーズ1では最大1,500万円の助成金が支給される。
NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の略称。産業技術分野と新エネルギー・省エネルギー分野の技術開発を推進する日本の独立行政法人である。
サーモカメラ(サーマルカメラ):遠赤外線の強弱を捉えることで温度を計測するカメラ。撮影に光源を必要としないため、真っ暗闇でも安定して撮影が可能である。熱を発する物体(人体など)を可視化できるため、災害救助などで活用される。
IP51規格:防塵・防水性能を示す国際規格。最初の数字「5」は「粉塵の侵入を完全に防止できないが、機器の動作を妨げるほどの粉塵は侵入しない」レベル、2番目の数字「1」は「垂直に落ちてくる水滴に対して保護される」レベルを示す。
タートルモード:ドローンが上下反転した状態(亀のように仰向けになった状態)から、自力で正常な姿勢に戻るための機能。墜落時や衝突時に上下反転しても、再離陸できるようにする機能である。
株式会社Liberaware:「誰もが安全な社会を作る」をミッションに掲げ、世界でも珍しい「狭くて、暗くて、危険な」かつ「屋内空間」の点検・計測に特化した世界最小級のドローン開発と、当該ドローンで収集した画像データを解析し顧客に提供するインフラ点検・維持管理ソリューションを行っている。
【参考リンク】
Liberaware公式サイト(外部)狭小空間点検ドローン「IBIS2」を開発する企業の公式サイト。製品情報や導入事例、会社概要などが掲載されている。
IBIS2製品ページ(外部)IBIS2の詳細な仕様や特徴、活用事例などを紹介するページ。製品の性能や用途について詳しく解説している。
NEDOのSBIR推進プログラム(外部)NEDOが実施するSBIR推進プログラムの公式サイト。プログラムの概要や支援内容、採択事例などが掲載されている。