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エルトン・ジョン、英国AI著作権計画を「犯罪的」と非難 – 若手アーティストの未来に警鐘

エルトン・ジョン、英国AI著作権計画を「犯罪的」と非難 - 若手アーティストの未来に警鐘 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-19 10:32 by admin

英国の著名ミュージシャンであるエルトン・ジョン(78歳)は2025年5月18日、英国政府が提案するAI著作権計画を「窃盗行為」「犯罪的」と強く非難した。BBCの番組「Sunday with Laura Kuenssberg」でのインタビューで、政府を「絶対的な敗者」と呼び、「非常に裏切られた」と感情を表明した。

問題となっているのは、英国政府がAI開発企業に対し、著作権で保護された音楽や書籍、映画などのコンテンツを、権利者の許可なくAIモデルのトレーニングに使用することを許可する計画である。キア・スターマー首相が英国をAI超大国にする構想の一環として、著作権法の緩和を提案している。

この提案では、クリエイターが自分の作品がAIトレーニングに使用されるのを阻止するためには、積極的に「オプトアウト」する必要がある。これに対し、ポール・マッカートニー、アンドリュー・ロイド・ウェバー、エド・シーランなど業界の著名人が政府に方針転換を求めている。

エルトン・ジョンは「若手アーティストにとって危険だ。彼らには常にチェックしたり、大手テクノロジー企業と戦ったりする資源がない」と指摘。また「機械は魂を持たず、心を持たず、人間の感情や情熱もない。人間が何かを創造するとき、それは多くの人に喜びをもたらすためだ」と述べた。

この問題に対する抗議活動として、2025年2月26日には「Is This What We Want?(これが私たちの望むものか?)」と題したプロテストアルバムが発表された。ケイト・ブッシュ、アニー・レノックス、キャット・スティーブンス、デーモン・アルバーンなど1,000人以上のミュージシャンが参加したこのアルバムは、「空のスタジオや演奏スペースの録音」という「ほぼ沈黙」で構成されており、政府の提案が実現した場合に起こりうる状況を象徴している。

2025年4月には、英国上院が著作権所有者の許可を確保するための透明性要件を導入することを目的とした「Data (Use and Access) Bill」の修正案を賛成多数で可決したが、下院はこの修正案に反対票を投じ、両院間で合意が得られるまで法案が行き来している状況である。

英国の創造産業は2023年時点で約241万9,000人の雇用を創出しており、2019年のコロナ禍前と比較して15.1%増加している。この分野は英国の文化・メディア・スポーツ省(DCMS)の管轄下で最も高い長期成長率を示している。

英国政府は、クリエイティブ産業とAI企業の両方が繁栄できるような解決策を模索していると主張し、「クリエイターにとって機能すると完全に満足しない限り」著作権法の変更は行わないとしている。

References:
文献リンク‘Criminal’: Elton John condemns UK’s AI copyright plans

【編集部解説】

エルトン・ジョンの強い反発が示すように、英国政府のAI著作権計画は創作者と技術革新の間に深い溝を生み出しています。この問題の本質は、「オプトアウト方式」という従来の著作権の考え方を根本から覆す提案にあります。

従来の著作権制度では、創作物は作成した時点で自動的に保護され、他者がそれを使用するには許可を得る必要がありました。しかし英国政府の提案は、クリエイターが明示的に拒否しない限り、AI企業が著作物を自由に使用できるという「オプトイン」から「オプトアウト」への転換を意味しています。

この議論の背景には、AIの学習に必要な膨大なデータへのアクセスと創作者の権利保護という二つの価値観の衝突があります。英国政府は「AI部門とクリエイティブ産業の両方のための主要な目標を達成するソリューション」を目指していますが、その均衡点を見つけることは容易ではありません。

特に注目すべきは、この問題が単なる著作権の技術的な議論を超えて、創造性の本質に関わる哲学的な問いを投げかけている点です。エルトン・ジョンが「機械は魂を持たず、心を持たず、人間の感情や情熱もない」と述べているように、AIによる創作と人間による創作の価値の違いについての根本的な問いかけがここにあります。

また、この問題は英国議会内でも意見が分かれています。上院は著作権保護を強化する修正案を可決しましたが、下院はこれを拒否しており、法案は両院の間で行き来している状況です。この政治的な綱引きは、技術革新と創作者保護のバランスをどう取るかという社会的な議論の反映でもあります。

興味深いのは、この議論が単に経済的な問題だけでなく、文化的な継続性にも関わっている点です。若手アーティストが創作活動から適切な報酬を得られなければ、将来的に多様で豊かな文化が育まれなくなる可能性があります。エルトン・ジョンやポール・マッカートニーといったベテランアーティストが若手の立場に立って発言しているのは、この文化的連続性への危機感の表れと言えるでしょう。

AIと著作権の問題は、日本を含む世界各国でも議論されています。日本では2018年の著作権法改正でAI開発のための著作物の利用が一定条件下で認められましたが、その範囲や条件は各国で異なります。グローバルなデジタル空間では、一国の法改正が国際的な影響を持つ可能性があり、この英国の動向は世界的な著作権制度の再考を促す契機となるかもしれません。

技術の発展と創造性の保護は、必ずしも対立するものではありません。むしろ、適切なルールの下では相互に高め合う関係になり得ます。しかし、そのルール作りには創作者、技術開発者、利用者など多様なステークホルダーの声を反映させる必要があるでしょう。

私たちinnovaTopiaは、テクノロジーの進化が人類の創造性をどう拡張するかに注目してきましたが、その過程で生じる摩擦や対立もまた、新たな社会的合意を形成するための重要なプロセスだと考えています。AIと著作権の問題は、単なる法律や技術の問題ではなく、私たちが創造性や知的財産をどう価値づけ、保護していくかという根本的な問いを投げかけているのです。

【用語解説】

オプトアウト方式
デフォルトで参加が前提となっており、明示的に拒否の意思表示をしない限り同意したとみなす仕組みのこと。今回の英国のAI著作権計画では、クリエイターが積極的に拒否しない限り、AI企業が著作物を利用できる仕組みを指す。

テキスト・データマイニング(TDM)
大量のテキストやデータを自動的に分析し、パターンや傾向、関連性などを発見する技術。AIの学習において、様々な文章や画像などのデータから特徴を抽出するために用いられる。

集団ライセンス制度
個別の権利者と交渉する代わりに、著作権管理団体を通じて一括で許諾を得る仕組み。図書館での本の貸出に対する補償金制度に似ており、個別交渉の手間を省きつつ、権利者に適切な報酬を配分することを目指している。

リトリーバル強化生成(RAG)
生成AIが回答を作成する際に、外部の信頼できる情報源からデータを取得して活用する技術。AIの幻覚(事実と異なる情報の生成)を減らし、より正確な回答を提供するために用いられる。

【参考リンク】

Authors’ Licensing and Collecting Society (ALCS)(外部)
作家の著作権を管理し、作品が使用された際の報酬を収集・分配する英国の非営利団体

Publishers’ Licensing Services (PLS)(外部)
英国の出版社を代表する非営利の著作権管理団体。出版物の二次利用に関するライセンス管理を行う

Copyright Licensing Agency (CLA)(外部)英国の著作権管理団体。教育機関や企業向けに出版物の複製利用に関するライセンスを提供

【参考動画】

【編集部後記】

英国のAI著作権をめぐる状況

英国では2025年5月7日に下院でAI著作権法改正案の審議・採決が予定されている。この法案は、AI企業が著作権で保護された作品を権利者の許可なく学習データとして利用できる「オプトアウト方式」を推進するものだが、多くのクリエイターから強い反発を受けている。

一方で、ALCSとPLS、CLAは2025年第3四半期からAI開発企業による著作物利用を包括的に許諾する「集団ライセンス」制度を導入する予定である。この制度は、AI企業が法的リスクを回避しつつ必要なデータを円滑に利用できるようにし、権利者側も透明性と適正な報酬を確保できるようにすることを目指している。

英国のクリエイティブ産業は国内総生産の約5.7%、1,246億ポンド(約24兆円)規模で、約240万人が従事しており、この法改正の影響は大きい。

AIと著作権の問題は、テクノロジーの進化と創造性の保護という、一見相反する価値観の狭間で揺れ動いています。皆さんは普段、音楽を聴いたり映画を観たりする際に、その作品がどのように生まれ、クリエイターがどう報われているかを考えることはありますか?また、AIが作り出す作品と人間の創造性の違いについて、どのようにお考えでしょうか?テクノロジーの恩恵を享受しながらも、創造性を大切にする社会のあり方について、ぜひ一緒に考えていきましょう。

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TaTsu
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