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データ保護・デジタル情報法案:英国貴族院、AI企業にトレーニングデータ開示義務を可決 – クリエイター保護へ大きな一歩

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-14 11:37 by admin

2025年5月12日(現地時間、日本時間5月13日)、英国貴族院は「データ保護・デジタル情報法案(Data Protection and Digital Information Bill)」の修正案を272票対125票で可決した。この修正案は、AI開発企業に対し、著作権保護された作品などをAIのトレーニングデータとして利用した場合、その詳細を開示する透明性義務を課す内容となっている。これにより、著作権者が自身の作品がAIに利用されたかどうかを把握しやすくなり、権利行使の根拠となる。

この動きの背景には、エルトン・ジョンやポール・マッカートニー、デュア・リパなど400名を超える英国の著名アーティストやクリエイターが、AIによる著作物の無断利用に強い懸念を示し、法制化を求める公開書簡を提出したことがある。修正案はベバン・キドロン男爵によって提出され、AI産業の成長とクリエイティブ産業の権利保護のバランスを巡る社会的議論が活発化している。

英国政府や一部のAI業界関係者は、過度な開示義務がイノベーションを阻害し、英国のAI競争力を損なうと懸念を表明している。一方、クリエイティブ産業側は、透明性なくして著作権法の実効性は担保できないと主張している。英国のクリエイティブ産業は年間1200億ポンド(約2兆4000億円)規模の経済的価値を持つ。

今後、法案は下院に差し戻され、政府が修正案の削除を試みる可能性があるが、労働党など野党の反対により再び否決される可能性も指摘されている。今回の貴族院での可決は、AI時代における著作権と透明性の新たな法的枠組みの構築に向けた重要な一歩となった。

References:
文献リンクHouse of Lords pushes back against government’s AI plans | the Guardian
文献リンクUK government faces second House of Lords defeat over AI copyright rules | Music Business Worldwide
文献リンクHouse Of Lords puts transparency obligation for AI companies back into data bill | Complete Music Update
文献リンクU.K. Government AI Plans Dealt Blow in Move Backed by Major Artists | Billboard
文献リンクGovernment must accept Lords transparency amendment to the Data Bill | Writers’ Guild of Great Britain
文献リンクBritish government suffers setback in AI copyright battle | The Economic Times

【編集部解説】

今回の英国貴族院での投票は、AI時代の著作権保護と産業振興のバランスを巡る世界的な議論において、極めて象徴的な出来事となりました。前回の記事で取り上げた、エルトン・ジョンやポール・マッカートニー、デュア・リパら400名超のアーティストによる公開書簡は、社会的な問題提起として大きな反響を呼びましたが、今回の可決によってその声が立法プロセスに具体的な影響を与えたことが明確になりました。

英国におけるデータ保護・著作権保護の法整備は、大きな転換期を迎えています。特にAIの発展に伴い、著作物の無断利用を巡る問題が顕在化し、立法府での議論が活発化しています。ここでは、近年の主要な2つの法案とその修正案の動きを踏まえ、英国の著作権保護の流れを整理します。

まず、2024年10月に提出されたData (Use and Access) Bill(DUA法案)は、労働党政権によるデータ保護制度の見直しを目的とした法案です。これは、EUのGDPRを基盤としつつも、英国独自の事情に合わせて規制を緩和し、経済成長や行政効率化を促進しようとする内容です。特に、医療や法執行など公共サービスにおけるデータ活用の柔軟化に重きを置いています。

このDUA法案には、AI企業に著作権保護作品の利用状況を開示させる修正案が貴族院で一度可決されましたが、2025年5月初旬に下院で否決されました。著作権者側は透明性と権利保護を強く求めていましたが、政府や一部議員は過度な規制がイノベーションを阻害すると反論し、修正案は成立しませんでした。

一方、Data Protection and Digital Information Bill(DPDI法案)は、保守党政権時代に策定された法案で、デジタル社会の変化に対応しつつ、データ保護の枠組みを現代化することを目的としています。これは昨年、突如発表された総選挙の影響で、十分に審議する期間が確保できずに一度は廃案となりましたが、今回、英国貴族院でAI企業にトレーニングデータの透明性義務を課す修正案が272票対125票で可決されました。これは、400名を超える著名アーティストらが連名で公開書簡を提出し、強い社会的圧力がかかった結果ともいえるでしょう。

この2つの法案は名称も内容も異なるものの、英国のデータ保護・著作権保護政策の進化過程で相互に関連しています。DPDI法案はより包括的かつ厳格な規制を目指し、AIによる著作権侵害防止に重点を置く一方、DUA法案は経済的実効性や行政効率を重視し、規制のスリム化を図ろうとしました。

今回のDPDI法案修正案可決は、AI時代における著作権保護の強化と透明性確保を社会的に認めさせる重要な節目であり、英国がグローバルなAI規制のスタンダード形成に積極的に関与する姿勢を示しています。今後、下院での審議や政府の対応が注目されますが、著作権者の権利保護とAI産業の発展を両立させるための制度設計が英国の立法動向を通じて示されることになるでしょう。

この流れは日本を含む他国の政策議論にも影響を及ぼし、AIと著作権の調和を目指す国際的な枠組み形成の先駆けとなる可能性があります。英国の動向は、技術革新と文化的価値の保護を両立させる未来社会のモデルケースとして、世界的に注目されています。

【用語解説】

オプトアウト権
著作権者が自分の作品をAIの訓練データなどに利用されたくない場合、利用を拒否できる権利。AI時代の著作権保護の柱となる考え方。

【参考リンク】

UK Parliament – Data Protection and Digital Information Bill(外部)
イギリス議会公式サイト。 Data Protection and Digital Information Billの進捗や修正内容を確認できる。

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