Last Updated on 2025-05-14 11:43 by admin
2025年5月10日(現地時間、日本時間同日)、イギリスの著名なアーティストやクリエイター400名以上が、労働党のキア・スターマー首相に対し、AIによる著作権保護の強化を求める公開書簡を提出した。署名者にはポール・マッカートニー、エルトン・ジョン、デュア・リパ、ケイト・ブッシュ、ロビー・ウィリアムズ、コールドプレイ、フローレンス・ウェルチ、作家のカズオ・イシグロや俳優のイアン・マッケランなど、イギリスを代表する音楽家・作家・俳優・映画監督が名を連ねている。
書簡は、AI開発者に対して著作権者の許可なく著作物をAI訓練データとして利用できる現行法の不備を指摘し、AIモデルの訓練に使用された作品の開示義務を盛り込む法改正を求めている。具体的にはバロネス・ビーバン・キドロンが提案した「Data (Use and Access) Bill」への修正案の支持を政府に要請しており、この修正案は2025年5月12日(現地時間、日本時間同日)に英国上院で採決予定である。
アーティストたちは、現行の法案ではAIによる著作権侵害のリスクが高まり、クリエイターの収入やイギリスの創造産業の国際的地位が脅かされると警告している。イギリスのクリエイティブ産業は約240万人の雇用を生み出し、GDPの約6.9%を占める重要な経済分野である。一方で、政府や一部のAI産業関係者は、過度な規制がイギリスのAI産業の成長や国際競争力を損なう可能性があると指摘している。
今回の書簡提出は、AIが生成するコンテンツの急増と、それに伴う著作権侵害リスクへの懸念が高まる中で行われたものであり、英国政府は今後、クリエイターとAI開発者双方の利益を調和させる法整備を迫られている。
References:
Paul McCartney and Dua Lipa among artists urging Starmer to rethink AI copyright plans | The Guardian
Elton John and Dua Lipa seek protection from AI | BBC News
Elton John, Dua Lipa Urge UK to Rethink AI Copyright Plans | Bloomberg
Elton John, Dua Lipa, Coldplay Seek Copyright Protection Amid AI Surge | Rolling Stone
【編集部解説】
今回のニュースは、イギリスにおけるAIと著作権を巡る議論が、単なる抗議や声明の段階から、実際の立法プロセスに踏み込んだことを示しています。これまでにも英国のアーティストやクリエイター団体は、AI開発企業による著作物の無断利用に対して公開書簡や抗議活動を行ってきましたが、今回はポール・マッカートニーやデュア・リパなど400名を超える著名アーティストが連名で、AI開発者に対して訓練データの開示義務を求める法改正を強く後押しした点が大きな進展です。
特に注目すべきは、アーティスト側の主張が「Data (Use and Access) Bill」への具体的な修正案として議会で審議されたことです。AIモデルの訓練に使われた著作物を企業側に開示させるという内容は、これまでの「抗議」や「声明」から一歩進み、実際の法制化を目指す動きとなりました。これは、AI時代の著作権保護において、透明性と権利者のコントロールをどのように担保するかという問題が、社会的にも政治的にも無視できない課題になっていることを象徴しています。
一方で、この修正案は下院で否決されており、アーティスト側の要望がそのまま法制化されたわけではありません。しかし、議会での審議を経たことで、AIと著作権を巡る問題がより広く社会に認識され、今後も政府や産業界、クリエイターの間で議論が続いていくことは確実です。政府も引き続き、クリエイターとAI産業の双方の利益を調整しながら、バランスの取れた法制度を模索する姿勢を示しています。
今回の動きは、AI技術の発展とクリエイティブ産業の持続可能性という、現代社会が直面する根本的な課題を浮き彫りにしています。イギリスでのこの議論と立法の行方は、日本を含む他国のAI政策や著作権制度にも大きな影響を与える可能性があり、今後も注視が必要です。
【編集部追記】
クリエイターたちが声明を出したことで、議会に進展がありました。Data Protection and Digital Information Billの修正案がクリエイターたちに有利になる内容で、上院で可決された内容が報じられました。
【用語解説】
AI訓練データ:
AIモデルを構築・学習させるために用いられる大量のデータ。著作権で保護された作品が含まれる場合、その利用の是非が国際的な議論の焦点となっている。
オプトアウト権:
著作権者が自分の作品をAIの訓練データなどに利用されたくない場合、利用を拒否できる権利。AI時代の著作権保護の柱となる考え方。
Data (Use and Access) Bill:
イギリスで審議中の法案。パーソナルデータやビジネスデータの利用・共有・保護の在り方を定め、AI時代のデータ利用と個人・著作権保護のバランスを図ることを目的とする。
【参考リンク】
UK Parliament: Data (Use and Access) Bill(外部)
イギリス議会公式サイト。Data (Use and Access) Billの審議状況、条文、関連資料が掲載されている。
GOV.UK: Data (Use and Access) Bill(外部)
イギリス政府公式サイト。Data (Use and Access) Billの概要や関連ドキュメントを確認できる。
Baroness Beeban Kidron(外部)
バロネス・ビーバン・キドロンの活動や経歴、デジタル規制に関する取り組みが紹介されている。
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