米Adobe社は2025年6月17日、生成AIプラットフォーム「Adobe Firefly」のモバイルアプリ版をiOS・Android向けに正式リリースした。
同アプリではテキストから画像生成、テキストおよび画像から動画生成、生成塗りつぶし、生成拡張の機能を利用できる。アプリは無料でダウンロード可能だが、本格利用にはFirefly対応のAdobeプランが必要で、無料版では画像用10クレジット、動画用2クレジットが提供される。Fireflyプランは月額10ドル2,000クレジットからとなっており、そこからクレジット数に応じて価格が変動する仕組みである。
同時にAdobeはサードパーティAIモデルを6つ追加し、Ideogram 3、Google Imagen 4、Google Veo 3、Luma AI Ray 2、Pika 2.2テキストから動画ジェネレーター、Runway Gen-4 Imageが利用可能となった。これらのモデルはAdobeのAIポリシーに同意し、顧客コンテンツでのトレーニングを行わない。また、4月からプライベートベータで提供されていたムードボード作成ツール「Firefly Boards」がパブリックベータとして一般提供を開始し、動画生成機能も追加された。
From:Adobe’s New AI Mobile App Lets You Use 6 New AI Models, Including Google’s Veo 3
【編集部解説】
今回のAdobeの発表は、生成AI業界において極めて重要な転換点を示しています。単なるモバイルアプリのリリースを超えて、クリエイティブAIエコシステムの統合化という大きな戦略的変化が見て取れます。
技術的な意義と革新性
Adobe Fireflyのモバイル展開は、プロフェッショナル向けAIツールの民主化を意味します。従来はデスクトップ環境でのみ利用可能だった高品質なAI生成機能が、スマートフォンで手軽に使えるようになったことで、クリエイティブワークフローが根本的に変化する可能性があります。
特に注目すべきは、Google Veo 3の統合です。このモデルは同期AI音声機能を持つ動画生成AIとして知られており、これまで別々のツールで行っていた映像と音声の生成が一体化されることになります。
データプライバシーと商用利用の安全性
Adobeが設定したAIポリシーは、AI業界における重要な先例となっています。サードパーティモデル提供者がFirefly上のユーザーデータを自社のAIモデル訓練に使用することを禁止している点は、多くのAI企業がユーザーデータを訓練に活用している現状を考えると、画期的な取り組みといえるでしょう。
また、AdobeはFireflyモデルをAdobe Stockとライセンス済みコンテンツの組み合わせで訓練しており、商用利用における著作権リスクの軽減を図っています。これは、プロフェッショナルクリエイターにとって重要な安心材料となります。
市場への影響と競争環境の変化
この動きは、AI生成ツール市場の競争構造を大きく変える可能性があります。従来、ユーザーは複数のAIサービスを使い分ける必要がありましたが、Fireflyが「ワンストップショップ」として機能することで、他のAI企業にとって脅威となるでしょう。
一方で、サードパーティモデル提供者にとっては、Adobeの巨大なユーザーベースにアクセスできる機会でもあります。Ideogram、Pika、Luma、RunwayといったAI企業が、Adobeのエコシステムに参加することで、より多くのクリエイターにリーチできるようになります。
Firefly Boardsの戦略的意味
Firefly Boardsのパブリックベータ開始は、AIを活用したコラボレーションワークフローの標準化を示唆しています。動画生成機能の追加により、従来の静的なムードボードから、動的で多様なメディアを扱える協働プラットフォームへと進化しました。
これは、クリエイティブチームの働き方を大きく変化させる可能性があります。リアルタイムでの共同作業機能により、アイデアの具現化から最終制作物までのプロセスが大幅に短縮されることが期待されます。
潜在的なリスクと課題
しかし、いくつかの懸念も存在します。サブスクリプションモデルの階層化により、高品質なAIモデルへのアクセスが経済力によって左右される「AIデバイド」の拡大が懸念されます。プロフェッショナルと一般ユーザーの間で、利用できるAI機能に格差が生まれる可能性があります。
また、複数のAIモデルを統合することで、それぞれのモデルが持つ固有のバイアスや制限が複合的に影響する可能性もあります。クリエイターは、各モデルの特性を理解した上で適切に使い分ける必要があるでしょう。
長期的な展望と業界への影響
Adobeによると、Fireflyを使用してこれまでに240億以上のメディアアセットが生成されており、AI生成コンテンツが既に主流となっていることを示しています。この実績は、従来のクリエイティブ業界の構造そのものを変革する可能性を秘めています。
さらに、モバイルアプリの登場により、クリエイティブワークの場所と時間の制約が取り払われることで、新たなクリエイティブ文化の形成が期待されます。インスピレーションを得た瞬間に、その場でプロ品質のコンテンツを生成できる環境は、創作活動の在り方を根本的に変える可能性があります。
【用語解説】
生成塗りつぶし(Generative Fill)
画像の一部分を選択し、AIが周囲の文脈に合わせて自然に補完・修正する機能である。欠けた部分の復元や不要な要素の除去に活用される。
生成拡張(Generative Expand)
既存の画像の境界を超えて、AIが自然な延長部分を生成する機能である。画像のアスペクト比変更や構図調整に使用される。
Fireflyクレジット
Adobe Fireflyで生成機能を使用する際に消費される単位である。画像生成と動画生成でそれぞれ異なるクレジット数が必要となる。
パブリックベータ
一般ユーザーが利用可能な試験運用段階のサービスである。正式リリース前に広範囲でのテストを行い、フィードバックを収集する。
【参考リンク】
Adobe Firefly(外部)
Adobeが開発したクリエイティブ生成AIプラットフォーム。テキストから画像・動画生成、生成塗りつぶし、テキスト効果などの機能を提供する。
Adobe Firefly モバイルアプリ(外部)
iOS・Android対応のFireflyモバイルアプリの公式ページ。アプリの機能説明とダウンロードリンクを提供している。
Google Veo(外部)
Googleが開発した動画生成AIモデル。テキストプロンプトから高品質な動画を生成し、Veo 3では音声も同時生成可能である。
Ideogram AI(外部)
元Google Brain研究者が開発した画像生成AIプラットフォーム。テキスト描画に優れ、ロゴやポスター制作に特化した機能を持つ。
Pika Labs(外部)
2023年設立のAI動画生成プラットフォーム。テキストや画像から動画を生成し、独自のPikaエフェクト機能で映像に特殊効果を追加できる。
Luma AI(外部)
サンフランシスコ拠点のAI企業が開発した3D・動画生成プラットフォーム。Dream Machine機能でテキストから高品質動画を生成する。
Runway ML(外部)
AI動画生成分野のパイオニア企業。Gen-4モデルは映像の一貫性と4K出力に対応し、プロフェッショナル向け機能を提供する。
【参考動画】
【参考記事】
Adobe Firefly Revolutionizes Creative Ideation with New Mobile App(外部)
Adobe公式プレスリリース。Fireflyモバイルアプリの正式発表と新機能、サードパーティAIモデル統合について詳細に説明している。
Adobe’s Firefly comes to iOS and Android – TechCrunch(外部)
TechCrunchによるFireflyモバイルアプリの詳細レビュー。機能説明と業界への影響について分析している。
Adobe’s Firefly generative AI app is now available on mobile(外部)
Engadgetによる技術的な観点からの解説記事。4月のリニューアルからモバイル展開までの経緯を詳しく説明している。
【編集部後記】
今回のAdobeの発表を見て、皆さんはどのように感じられたでしょうか。スマートフォン一台で、これまでプロが使っていたような高品質なAI生成ツールが使えるようになる時代が、本当にやってきました。私たちも正直なところ、この変化の速さに驚いています。特に、外出先でインスピレーションを得た瞬間に、その場でプロ品質のコンテンツを生成できるという可能性には、大きな期待を感じています。皆さんは実際にFireflyアプリを触ったことはありますか。もしよろしければ、どんな作品を作られたか、どんな発見があったかを、ぜひSNSで共有していただけると嬉しいです。皆さんの体験談が、同じように興味を持つ他の読者の方々にとって、きっと貴重な参考になるはずです。