Last Updated on 2025-06-24 19:03 by admin
Salesforceは2025年6月23日、AIエージェントプラットフォーム「Agentforce 3」を発表した。
新機能として、AIエージェントの健康状態、パフォーマンス、成果を統一的に監視・最適化する「Command Center」を導入し、Model Context Protocol(MCP)のネイティブサポートを追加した。
MCPサポートにより、Amazon Web Services、Box、Google Cloud、PayPal、Stripeなど30以上のパートナーサービスとカスタムコーディングなしで連携可能となった。強化されたAtlasアーキテクチャにより、2025年1月と比較して50%のレイテンシ削減を実現した。
Anthropic社のClaudeモデルをAmazon Bedrock経由でSalesforceインフラ内で直接ホストし、規制業界向けのセキュリティを強化した。カナダ、英国、インド、日本、ブラジルでの利用が可能となり、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、日本語、ポルトガル語の6言語をサポートする。
Salesforceによると、AIエージェントの使用量は6か月で233%増加し、8,000以上の顧客が導入している。一部機能は8月まで段階的に展開される。
From: Salesforce launches Agentforce 3 with AI agent observability and MCP support
【編集部解説】
Salesforce Agentforce 3の発表は、企業におけるAIエージェント活用が実験段階から本格運用段階へと移行する重要な転換点を示しています。これまでAIエージェントの最大の課題は「ブラックボックス問題」でした。企業は何千ものAIエージェントを導入しても、それらが実際に何をしているのか、どの程度効果的に機能しているのかを把握できませんでした。
Command Centerの導入により、この根本的な問題が解決されます。リアルタイムでエージェントの動作を監視し、パフォーマンス分析、エラー率、エスカレーション頻度まで詳細に追跡可能になります。OpenTelemetry標準に基づいているため、DatadogやSplunkなど既存の監視ツールとシームレスに統合できる点も実用性を高めています。
Model Context Protocol(MCP)のネイティブサポートは、AIエージェント業界における標準化の重要な一歩です。これは「AIのUSB-C」とも呼ばれ、カスタムコーディングなしで30以上のパートナーサービスと連携できます。AWS、PayPal、Stripeなどの主要プラットフォームとの即座の接続が可能になることで、企業のAI導入コストと時間が大幅に削減されます。
技術的な進歩として注目すべきは、強化されたAtlasアーキテクチャです。50%のレイテンシ削減と自動フェイルオーバー機能により、エンタープライズグレードの信頼性を実現しています。特に規制業界向けには、Anthropic社のClaudeモデルをSalesforceインフラ内で直接ホストすることで、データガバナンスの要求に応えています。
PepsiCoのような大企業が本格的にAIエージェントを業務の中核に組み込む動きは、他の企業にも波及効果をもたらすでしょう。同社のAthina Kanioura最高戦略・変革責任者は、AIエージェントを単なる効率化ツールではなく、顧客との接点を革新し、バックエンドプロセスを統合する戦略的資産として位置づけています。
一方で、潜在的なリスクも存在します。AIエージェントの大規模展開により、従来の業務プロセスや雇用構造に大きな変化をもたらす可能性があります。また、複数のAIエージェントが連携する「マルチエージェント革命」は、新たなセキュリティリスクや制御の複雑性を生み出す恐れもあります。
Microsoft、Google、Amazonとの競争が激化する中での今回の発表は、Salesforceが企業AI市場でのリーダーシップを維持する戦略的な動きでもあります[1]。統合された企業エコシステム内での作業サイクル全体を追跡できる強みを活かし、競合他社との差別化を図っています。
規制面では、AIエージェントの可視性と制御性の向上により、金融や医療などの厳格な規制業界でも採用が加速する可能性があります。透明性の確保は、AI規制当局からの信頼獲得にも寄与するはずです。
【用語解説】
Model Context Protocol(MCP):
AIエージェントが様々なWebサービスやアプリケーションと連携するためのオープンスタンダード。「AIのUSB-C」とも呼ばれ、カスタムコーディングなしで複数のサービス間の相互運用を可能にする技術。
Atlas アーキテクチャ:
SalesforceのAIエージェントプラットフォームの基盤となる推論・学習エンジン。データ取得、評価、改善のサイクルを繰り返し、AIエージェントの精度と性能を向上させる。
OpenTelemetry:
分散システムの可視性を提供するオープンソースの観測可能性フレームワーク。アプリケーションのメトリクス、ログ、トレースを統一的に収集・分析できる。
AgentExchange:
Salesforceが提供するAIエージェント向けのマーケットプレイス。事前構築された業界特化型のアクションや統合機能を提供し、企業の迅速なAIエージェント展開を支援する。
Retrieval-Augmented Generation(RAG):
大規模言語モデルが外部データソースから関連情報を取得し、それを基に回答を生成する技術。AIの幻覚(ハルシネーション)を減らし、より正確な情報提供を可能にする。
【参考リンク】
Salesforce 公式サイト(外部)
世界最大級のCRMプラットフォーム企業。AIエージェントプラットフォーム「Agentforce」を提供し、企業のデジタル変革を支援している。
Anthropic 公式サイト(外部)
2021年設立のAI企業。安全で有用なAIシステムの研究開発を行い、大規模言語モデル「Claude」を開発している。
PepsiCo 公式サイト(外部)
世界第2位の食品・飲料企業。ペプシコーラをはじめ、世界200以上の国と地域で製品を展開し、年間売上高700億ドル超を誇る。
Agentforce 製品ページ(外部)
Salesforceの自律型AIエージェントプラットフォーム。企業が24時間365日稼働するデジタル労働力を構築・展開できるサービス。
Amazon Bedrock(外部)Amazon Web Servicesが提供する生成AI向けのフルマネージドサービス。複数のAIモデルを安全にホストし、企業向けのセキュリティとガバナンスを提供する。
【参考記事】
Salesforce Announces Agentforce 3(外部)
Salesforce公式プレスリリース。Agentforce 3の技術仕様、価格設定、提供開始時期などの公式情報を提供。
Salesforce Announces Agentforce 3.0: Command Center(外部)
Salesforce専門メディアによる分析記事。新機能の技術的詳細とビジネスへの影響について詳しく解説している。
【編集部後記】
AIエージェントが企業の「デジタル従業員」として本格稼働する時代が始まりました。PepsiCoのような大企業が業務の中核にAIエージェントを組み込む一方で、可視性と制御の課題も浮き彫りになっています。みなさんの職場でも、AIエージェントとの協働が日常になる日は近いかもしれません。
この変化をどう捉えていますか?また、AIエージェントに任せたい業務、人間が担うべき業務の境界線はどこにあると思いますか?ぜひSNSで教えてください。私たちも一緒に、この技術革新の意味を考えていきたいと思います。