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ニューヨーク州、AI電力需要で15年ぶり原子力発電所建設へ 1GW級で100万世帯に供給

ニューヨーク州、AI電力需要で15年ぶり原子力発電所建設へ 1GW級で100万世帯に供給 - innovaTopia - (イノベトピア)

ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は2025年6月23日、ニューヨーク電力公社(NYPA)に対し、州北部に1ギガワット以上の発電容量を持つ最新鋭の原子力発電所の建設を指示した。

これは15年以上ぶりとなる米国の大規模原子力発電所建設となる。発電容量1ギガワットは約100万世帯への電力供給が可能である。建設地や稼働開始時期、建設費用は未定である。

ニューヨーク州には多数のデータセンターが存在し、AI需要の拡大により今後増加が見込まれる。2021年にインディアンポイント・エネルギーセンターの最後の原子炉2基が停止し、ニューヨーク市の電力供給の25%が失われた。

ホークル知事は原発新設の背景について、大量の電力を必要とするAIデータセンターや半導体工場への安定的な供給、化石燃料の使用回避、光熱費上昇への不安解消のためと説明した。

トランプ大統領は2025年5月に、2050年までに米国の原子力発電容量を100ギガワットから400ギガワットに4倍増させる大統領令に署名した。Amazon、Meta、Googleは同時期に2050年までに世界の原子力発電容量を3倍にする誓約に署名している。

From: 文献リンクEmpire State to site 1 GW nuke as AI bit barns guzzle power

【編集部解説】

ニューヨーク州の原子力発電所建設計画は、単なるエネルギー政策の転換ではなく、AI時代の電力需要爆発に対する構造的な解決策として注目されます。

この計画の背景には、2021年のインディアンポイント原子力発電所閉鎖による深刻な電力不足があります。同発電所の停止により、ニューヨーク市の電力供給の30%が失われ、州のエネルギー供給体制に大きな影響を与えました。

今回の1ギガワット級原子力発電所は、この電力不足を根本的に解決する狙いがあります。特に注目すべきは「最新鋭の原子力発電所」という表現で、従来の大型原子炉ではなく、小型モジュール炉(SMR)などの次世代技術を採用する可能性が高いことです。

AIデータセンターの電力消費は想像を超える規模で拡大しています。ニューヨーク州内の多数のデータセンターは、この需要増に対応するためさらに増設される予定です。ホークル知事が明確に「AIデータセンターや半導体工場への安定的な供給」を建設理由として挙げている点が重要です。

技術的な観点では、原子力発電の「ベースロード電源」としての特性が重要です。太陽光や風力などの再生可能エネルギーは天候に左右されますが、原子力は24時間365日安定した電力供給が可能で、AIデータセンターが求める高い電力品質要件を満たします。

規制面では、トランプ政権が2025年5月に原子力規制委員会に対して規制緩和と許認可の迅速化を指示しており、建設期間の短縮が期待されます。また、連邦政府は2050年までに原子力発電容量を現在の100ギガワットから400ギガワットに4倍増させる目標を設定しています。

一方で、建設コストと期間の長期化というリスクも存在します。記事では具体的な建設費用や稼働開始時期が明示されておらず、過去の原子力プロジェクトでは予算超過や工期延長が頻発しています。また、廃棄物処理や安全性への懸念も完全には解消されていません。

興味深いのは、ニューヨーク州が同時に再生可能エネルギーにも大規模投資を行っていることです。2023年には米国史上最大の再生可能エネルギー投資として2.6ギガワットの洋上風力発電プロジェクトを発表しており、原子力と再生可能エネルギーの両輪でカーボンフリー社会を目指す戦略が見えてきます。

長期的な視点では、この計画は米国の「原子力ルネサンス」の象徴的な事例となる可能性があります。Amazon、Google、Meta などの巨大テック企業が相次いで原子力エネルギーへの投資を表明しており、民間資本の流入により技術革新が加速する可能性があります。

ニューヨーク州の成功は、他州の同様の計画にも大きな影響を与えるでしょう。特に、州政府が電力公社を通じて建設を主導する点は、民間企業にとって投資リスクを軽減する重要な要素となります。

【用語解説】

小型モジュール炉(SMR)
Small Modular Reactorの略称で、電気出力が30万kW以下の小型原子炉である。工場で製造したモジュールを現地で組み立てる方式により、建設期間短縮とコスト削減が期待される次世代原子力技術だ。

ベースロード電源
24時間365日安定して電力を供給できる電源のことである。原子力発電は天候に左右されず一定の出力を維持できるため、太陽光や風力などの変動する再生可能エネルギーと組み合わせて電力の安定供給を支える重要な役割を果たす。

気候変動リーダーシップおよびコミュニティ保護法(CLCPA)
ニューヨーク州が2019年に策定した気候法で、2030年までに再生可能エネルギー70%、2040年までにゼロエミッション電力100%、温室効果ガス排出量を1990年比で2030年までに40%削減、2050年までに85%削減を目標としている。

【参考リンク】

ニューヨーク州電力公社(NYPA)(外部)
米国最大の州営電力組織で、発電する電力の80%以上がクリーンで再生可能な水力発電である。

Constellation Energy(外部)
米国最大のクリーンエネルギー生産企業で、10以上の原子力発電所を運営している。

ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)(外部)
1975年に設立されたニューヨーク州の公益法人で、州の気候変動対策とクリーンエネルギー推進を担当している。

【参考動画】

【参考記事】

NY州知事が原発建設を指示 米国内で10数年ぶりの大規模原発着工か – TBS NEWS DIG
ニューヨーク州のホークル知事が州電力公社に原子力発電所建設を指示したことを報じた日本語記事。AIデータセンターや半導体工場への電力供給、化石燃料使用回避、光熱費上昇への不安解消が建設理由として挙げられている。

米国史上最大の再生可能エネルギーへの投資がニューヨークで進む – NYSERDA
2023年10月にキャシー・ホークル知事が発表した米国史上最大の再生可能エネルギー投資について。22件の洋上風力発電プロジェクトと6.4件の陸上再生可能エネルギープロジェクトで合計2.6ギガワットの発電容量を持つ包括的なクリーンエネルギー戦略を示している。

【編集部後記】

AIの急速な進歩により、私たちの生活を支えるインフラが根本から変わろうとしています。データセンターの電力消費量は想像以上のスピードで増加し、従来の電力供給体制では追いつかない状況が生まれています。

皆さんは普段、スマートフォンでChatGPTを使ったり、動画配信サービスを楽しんだりする際に、その裏側でどれほどの電力が消費されているか考えたことはありますか?今回のニューヨーク州の決断は、私たちが当たり前に使っているデジタルサービスの持続可能性について、改めて考えるきっかけを与えてくれます。

原子力発電への回帰は単なる電力不足の解決策なのか、それとも脱炭素社会への必然的な選択なのか。皆さんはどのようにお考えでしょうか?

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TaTsu
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