カリフォルニア工科大学(Caltech)の研究チームは、インクジェット印刷技術を活用して特殊なナノ粒子を作成し、ウェアラブルバイオセンサーの大量生産を可能にする革新的な技術を開発した。このセンサーは汗や体液からビタミン、ホルモン、代謝物、薬剤濃度などをリアルタイムで測定でき、患者と医師が健康状態を継続的にモニタリングする手段として注目されている。
ナノ粒子は「コアシェル構造」を持ち、内部のニッケルヘキサシアノフェレート(NiHCF)コアが電気信号を生成し、外側のポリマーシェルが特定の分子を選択的に検出する仕組みである。この技術は長期COVID患者やがん患者への治療モニタリングに成功しており、個別化医療や薬剤投与量の最適化への応用が期待されている。また、ウェアラブルデバイスだけでなく皮下に埋め込むことで、常時使用者の健康状態をモニタリングすることも期待されている。
さらに、この技術は医療分野に留まらず、スポーツ、フィットネス、食品安全、環境モニタリングなど多岐にわたる分野で応用が見込まれている。研究成果は2025年2月3日に「Nature Materials」誌に発表され、今後の臨床試験と規制承認を経て、健康管理や医療の未来を大きく変える可能性がある。
ウェアラブルデバイスは近年、有機半導体やナノテクノロジーの技術的発展により現実的なものになりつつあり、今後、病院に行かなくてもウェアラブルデバイスを通して患者の健康状態をモニターすることで、抗がん剤治療を受けている人や糖尿病患者のような常時、健康状態を管理しなければならない様態の人が入院などの手段で定期的な検診を受けずとも自宅で健康状態を把握できる未来も期待できる。
from:Printable molecule-selective core–shell nanoparticles for wearable and implantable sensing
【編集部解説】
Caltechが開発したウェアラブルバイオセンサーは、医療分野における新たな可能性を切り開く技術です。インクジェット印刷技術により大量生産が可能になったこのセンサーは、非常に高精度な健康データ測定を実現しています。特に「コアシェル構造」を持つナノ粒子設計は、この技術の核となり、内部のNiHCFコアが生成する電気信号と、外側のポリマーシェルによる分子選択性が高い精度と安定性をもたらします。
この技術の大きな利点は、リアルタイムかつ非侵襲的に健康データを測定できる点にあります。それにより、慢性疾患管理や薬剤投与量の調整を容易にし、個別化医療の実現に大きく貢献します。また、皮下埋め込み型としての応用により、長期間にわたって安定したモニタリングが可能となることで、化学療法薬濃度の監視など、副作用リスクの軽減にも寄与することが期待されます。
医療以外でも、スポーツ分野でのパフォーマンス向上、食品安全や環境モニタリングでの有害物質検出など、幅広い分野での利用が見込まれています。一方で、大量生産時のコスト削減や規制承認プロセスなどの課題も残されています。この技術が普及することで、予防医療の進展や高齢化社会への対応が促進される未来を描くことができるでしょう。
【用語解説】
コアシェル構造:ナノ粒子内部(コア)と外部(シェル)が異なる素材で構成される設計。チョコレートボールの中身と外側の層のように、機能と保護を両立している。
ニッケルヘキサシアノフェレート(NiHCF):電気信号生成に用いられる化合物で、バイオセンサー内で分子濃度の測定に重要な役割を果たす。
インクジェット印刷技術:微細なインク滴を精密に噴射することで、ナノ粒子を効率よく配置できる技術。