Last Updated on 2025-05-13 09:57 by admin
マレーシア最大の電力会社テナガ・ナショナル・ベルハド(TNB)は、2018年から2024年末にかけて違法な暗号資産マイニングに関連する電力窃盗が300%急増したと報告した。検出された事例は2018年の610件から2024年には2,397件に増加している。
特に2020年以降に大きな増加が見られ、2020年から2024年の間の暗号資産関連の電力窃盗事例は年間平均2,303件に達した。この問題は、無許可のマイナーがメーターを改ざんするなどして電力を不正利用しているために発生しており、TNBだけでなく地域住民にも被害を与えている。
マレーシアのエネルギー関連当局によると、2018年から2023年の間に違法な仮想通貨マイニング業者による電力窃盗は数億ドル規模に達すると推定されている。
マレーシア当局はTNBと協力し、全国で違法マイニング施設の摘発を進めており、直近では2025年4月にテレンガヌ州のフル・テレンガヌおよびマラン地区で違法なビットコイン採掘組織が摘発され、複数の機器が押収された。
マレーシアでは暗号資産マイニング自体は禁止されていないが、電気設備を不正に改ざんした者には最大100万リンギット(約23万2,720ドル)の罰金と最長10年の懲役が科される可能性がある。TNBは対策として、電力使用状況をリアルタイムで監視できる「スマートメーター」の導入を拡大するとともに、電力供給法の罰則強化を求めている。
References:
Malaysia Power Theft by Illegal Crypto Miners Rose 300% Since 2018
【編集部解説】
マレーシアで急増する暗号資産マイニングによる電力窃盗問題は、デジタル経済の発展と電力インフラの安定性という二つの重要課題の間で生じている摩擦を象徴しています。複数のメディアが報じているように、この問題は単なる犯罪行為にとどまらず、国家のエネルギー政策やデジタル通貨の規制にも関わる複合的な課題となっています。
特に注目すべきは、検出された事例数の増加が必ずしも違法マイニングの絶対数の増加を意味するわけではないという点です。TNBと当局の取り締まり強化によって発見率が向上した側面も考慮する必要があります。実際、The Starの報道によれば、TNBは継続的な消費パターン分析や関連当局との連携を通じて不審な電力使用を検出する能力を高めています。
この問題の背景には、マレーシアの電力料金の安さがあります。1kWhあたり約0.052ドル(約8.4円)という比較的安価な電力コストは、エネルギー集約型の暗号資産マイニングにとって魅力的な環境を提供しています。マイニング機器は1,000〜8,000ワットの電力を消費するため、電力コストの削減は収益性に直結します。
また、この問題は単に電力会社の収益損失だけでなく、電力網の安定性にも影響を与えています。突発的な大量電力消費は地域の停電リスクを高め、一般市民の生活にも支障をきたす可能性があります。
TNBが導入を進めているスマートメーターは、この問題に対する技術的解決策として注目されています。日々の電力使用量を記録し、無線通信を通じてリアルタイムでモニタリングすることで、異常な消費パターンをすぐに検出できるようになります。さらに、人工知能と予測分析を活用した不正検出システムの開発も進められており、テクノロジーを活用した対策が強化されています。
この問題は、マレーシアだけでなくクウェートなど他の国々でも見られるグローバルな課題です。各国政府は電力インフラの保護と暗号資産産業の健全な発展の両立を模索しています。
マレーシアがデジタル経済のハブとしての地位を確立するためには、ブロックチェーン技術やデジタル資産の活用と、電力インフラの安定性確保のバランスが不可欠です。今後は、合法的な暗号資産マイニング事業者向けの明確な規制枠組みの整備や、再生可能エネルギーを活用したマイニング施設の促進など、持続可能な解決策が求められるでしょう。
この事例は、急速に発展するデジタル技術と既存インフラの間に生じる摩擦の一例として、他の新興技術分野にも示唆を与えています。技術革新の恩恵を最大化しつつ、社会的コストを最小化するための政策立案が今後ますます重要になっていくことでしょう。
【用語解説】
テナガ・ナショナル・ベルハド(TNB):
マレーシア最大の電力会社で、日本の東京電力に相当する企業である。発電、送電、配電、販売を含む一貫した電力サービスを提供している。
暗号資産マイニング:
新しいブロックを発見し、取引を検証してブロックチェーンに追加する作業のこと。一般家庭のパソコンでも行えるが、専用の高性能機器を使うことが一般的になっている。
クリプトジャッキング:
他人のコンピューターやサーバーを無断で使って暗号資産のマイニングを行う不正行為。被害者は電気代の増加や機器の性能低下などの被害を受ける。
プルーフ・オブ・ワーク:
ビットコインなどで使われる合意形成メカニズム。大量の計算処理を行うことで新しいブロックの作成権を得る仕組みで、大量の電力を消費することが特徴である。
リンギット:
マレーシアの通貨単位。1リンギットは約32円(2025年5月現在)である。
【参考リンク】
テナガ・ナショナル・ベルハド(TNB)(外部)
マレーシア最大の電力会社の公式サイト。電力サービスや持続可能エネルギーへの取り組みについての情報を提供している。
CoinDesk(外部)
世界最大の暗号資産専門メディア。ビットコインやイーサリアムなど暗号資産に関する最新ニュースや分析を提供している。
【編集部後記】
暗号資産マイニングの世界では、テクノロジーの可能性と社会的責任のバランスが問われています。皆さんは、新技術を活用する際のエネルギー消費について考えたことはありますか?日本でも再生可能エネルギーを活用した持続可能なマイニングの取り組みが始まっています。身近なデジタル技術のエネルギーコストを意識することで、テクノロジーとの向き合い方が変わるかもしれません。この機会に、自分のデジタルフットプリントについて考えてみませんか?