暗号資産決済プラットフォームのBaanxは2025年5月28日、ハードウェアウォレット大手のLedger向けに設計されたCrypto Life(CL)Visaカードの米国での正式提供開始を発表した。
同カードは2025年6月30日からニューヨーク州とバーモント州を除く米国全土で利用可能となる。CLカードはすべての購入で1%のキャッシュバックをビットコイン(BTC)またはUSDCで提供し、ユーザーは銀行振込を通じて給与をカードアカウントに直接入金し自動的に暗号資産に変換することも可能である。
資金は自己管理で保持され、ユーザーがカードにチャージするタイミングを決定する。同カードはVisa加盟店で利用でき、購入時に暗号資産から法定通貨への即座変換を行う。
BaanxのサイモンジョーンズCCOは「非カストディアル暗号資産決済の主流化への一歩」と述べ、LedgerのジャンフランソワロシェEVPは「デジタル資産の実用的活用需要に対応」と説明した。2025年時点で米国成人の28%が暗号資産を所有している。
【編集部解説】
今回のBaanxとLedgerによるCrypto Life Visaカードの米国展開は、暗号資産業界における「最後の1マイル問題」の解決に向けた重要な一歩と言えるでしょう。これまで暗号資産は投資対象としての側面が強く、日常的な決済手段としての実用性に課題がありました。
このカードの最大の特徴は、セルフカストディ(自己管理)を維持しながら実店舗での決済を可能にした点です。従来の暗号資産カードの多くは、取引所やカード発行会社が資金を預かる形式でしたが、CLカードではユーザーが秘密鍵を保持し続けます。これにより、FTXのような取引所破綻リスクを回避できる仕組みを実現しています。
技術的な観点では、決済時にリアルタイムで暗号資産から法定通貨への変換を行う仕組みが注目されます。これにより、ユーザーは価格変動リスクを最小限に抑えながら、暗号資産を日常的に使用できるようになります。
給与の直接入金機能は、従来の銀行システムを迂回する新しい金融インフラの可能性を示唆しています。この機能により、ユーザーは給与を受け取った瞬間から暗号資産として保有し、必要に応じて支出に使用できます。これは特に、インフレが深刻な国や銀行システムが未発達な地域において、革新的な解決策となり得るでしょう。
一方で、規制面での課題も存在します。ニューヨーク州とバーモント州が対象外となっているのは、これらの州の厳格な暗号資産規制が影響していると考えられます。今後、他州でも類似の規制が導入される可能性があり、サービス展開に制約が生じるリスクがあります。
VisaやMastercardといった既存の決済ネットワークがセルフカストディ型の暗号資産カードを支援していることは、従来の金融システムと分散型金融(DeFi)の融合が加速していることを示しています。これは暗号資産の主流採用において極めて重要な転換点と言えるでしょう。
長期的な視点では、このようなカードの普及により、暗号資産が真の意味での「通貨」として機能する未来が現実味を帯びてきます。ただし、税務処理の複雑さや、決済時の価格変動による会計処理の課題など、実用化に向けて解決すべき問題も残されています。
【用語解説】
セルフカストディ(自己管理)
暗号資産において、ユーザー自身が秘密鍵を管理し、第三者(取引所など)に資産を預けない保管方法である。資産の完全な所有権と管理権限をユーザーが持つため、取引所破綻などのリスクを回避できる一方、秘密鍵の紛失リスクは自己責任となる。
ステーブルコイン
価格の安定性を目的として設計された暗号資産で、米ドルなどの法定通貨や金などの資産に価値が連動するよう設計されている。USDCは米ドルに1:1で連動するステーブルコインの代表例である。
DCA(ドルコスト平均法)
定期的に一定額を投資することで、価格変動リスクを分散させる投資手法である。CLカードの1%ビットコインキャッシュバックは、日常の支出を通じて自動的にビットコインを積み立てるDCA効果を生む。
Cryptodraft機能
暗号資産を担保として使用し、ステーブルコインの与信枠を得る機能である。暗号資産を売却することなく、追加の支出資金にアクセスできる。
【参考リンク】
Ledger公式サイト(外部)
ハードウェアウォレットの世界的リーダーで、暗号資産の安全な保管ソリューションを提供する
Baanx公式サイト(外部)
セルフカストディ型の暗号資産カードソリューションを開発する決済プラットフォーム
CLカード公式サイト(外部)
LedgerとBaanxが共同で提供する暗号資産Visaカードの公式ページ
Crypto Life プラットフォーム(外部)
セルフカストディ暗号資産支出のリーダーとして非中央集権的な金融プラットフォームを提供
【参考動画】
【編集部後記】
暗号資産を「投資対象」として見ていた方も多いと思いますが、今回のCLカードのように「日常の決済手段」として使える時代が本格的に始まろうとしています。皆さんは、給与を暗号資産で受け取り、コンビニでの買い物でビットコインを貯めていく生活を想像できますか?セルフカストディを維持しながら実店舗で使えるこの技術は、私たちの金融体験をどう変えていくでしょうか。従来の銀行システムとの共存なのか、それとも置き換わっていくのか。皆さんの率直な感想や期待をお聞かせください。
【参考記事】
Ledger公式ブログ:CL Card米国展開発表
Ledger公式による米国でのCLカード展開発表記事。1%ビットコインキャッシュバックと給与直接入金機能について詳しく解説している。
CoinDesk:Ledger、米国でCrypto Life Visaカードを開始
業界専門メディアによる詳細な分析記事。BaanxのMetaMask、Exodus等との他のパートナーシップについても言及している。
Milk Road:2025年最高の暗号資産クレジットカード比較
CLカードを含む主要な暗号資産カードの比較分析。各カードの特徴、メリット・デメリットを詳細に比較している。