TrendAIとAnthropicが連携、Claude Opus 4.7で脆弱性をAI自律発見へ

AIが脆弱性を見つけ、AIが守る—そんな攻防の主役交代が、トレンドマイクロとAnthropicの連携で現実のものになろうとしています。Claude Opus 4.7を頭脳に据えたAI駆動の脆弱性ハンター「AESIR」が、攻撃者よりも先に弱点を見抜く時代が幕を開けました。


トレンドマイクロは2026年5月7日、法人向けブランドTrendAIがAnthropicと連携し、Claude Opus 4.7を活用したセキュリティリサーチを推進すると発表した。本リリースは2026年4月30日に米国で発表されたものの抄訳である。

TrendAIは2025年にAI駆動型プラットフォームAESIRを発表しており、Claude Opus 4.7を活用してNVIDIA、Tencent、エージェント型フレームワーク、MCPツール等で重要なCVEを発見し、TrendAI Zero Day Initiativeと連携して修正を進めている。AIセキュリティレポート2026では、2026年のAI関連CVEは2,800件から3,600件に達すると予測されている。TrendAI Vision Oneは185カ国で導入実績がある。コメントはTrendAI最高プラットフォーム責任者兼最高事業責任者のレイチェル・ジンによる。

From: 文献リンクTrendAIとAnthropic 、Claude Opus 4.7を活用したAI駆動の脆弱性検出とリスク軽減で連携強化 | トレンドマイクロ

【編集部解説】

トレンドマイクロとAnthropicの今回の連携は、「AIが脆弱性を見つけるAIを守る」という、サイバーセキュリティの新しい構図を象徴する出来事です。単なるパートナーシップの発表ではなく、攻防の主役がついに人間からAIへ移り変わりつつあることを示すマイルストーンとして読み解く価値があります。

まず注目したいのが、TrendAIが参加するAnthropicの「Cyber Verification Program(サイバー検証プログラム)」の存在です。これは、フロンティアAIモデルを防御目的に活用する組織を事前に審査・認定する仕組みで、Palo Alto Networksなど業界の主要プレイヤーも参加しています。生成AIモデルは攻撃にも防御にも使える両刃の剣であるため、Anthropicは「誰に、どこまで使わせるか」のガバナンスをモデル提供の段階から組み込み始めているのです。

中核となるAESIRは、Claude Opus 4.7に「攻撃者の思考」をさせるプラットフォームです。具体的には、コード内のどの経路に到達でき、どこを制御でき、どこが実際に悪用可能かを推論で見極めます。同社の発表によれば、2025年半ばの稼働開始以降、AESIRはNVIDIA、Tencent、MLflow、MCPサーバ群などにおいて21件の重大なCVEをすでに発見しています。AIが「コードレビュアー」から「自律的な脆弱性ハンター」へと進化していることが、実績として裏付けられた格好です。

特筆すべきは、レイチェル・ジン氏が指摘した「発見と修復の時間ギャップ」の問題です。AIによって脆弱性は加速度的に見つかる一方、修復には依然として人間の作業時間が必要となります。攻撃者がAIで見つけた穴を悪用するスピードと、防御側が修正パッチを適用するスピードの差は、これまで以上にシビアな問題になりつつあります。Vision Oneが提供する「仮想パッチ」は、コード本体を直す前にネットワーク機器やセキュリティ製品の側で攻撃を遮断する手法で、この時間差を埋める現実解として位置づけられます。

背景として押さえておきたいのが、Anthropic側の動きです。同社は2026年4月に高度なサイバー能力を持つ「Claude Mythos Preview」を発表し、Project Glasswingという枠組みで限定パートナーや重要インフラ運営組織にのみアクセスを開放。最大1億ドル分の利用クレジットと、オープンソースセキュリティ団体への400万ドルの寄付も表明しました。さらに公開ベータ版の「Claude Security」もリリースされており、AIによる脆弱性スキャンを業界標準にしようとする戦略が見えてきます。

これは攻撃側でも同じです。CrowdStrikeの2026年版グローバル脅威レポートでは、サイバー犯罪のブレイクアウトタイム(侵入から横展開までの時間)が平均29分まで短縮し、90以上の組織で生成AIへのプロンプトインジェクションが確認されました。@ITの報道によれば、2026年4月にはAI解析の支援によってLinuxカーネルに約9年間潜んでいたゼロデイ「CVE-2026-31431」も発見されています。攻防両面で、人間の反射神経では追いつかない速度で勝負が進む時代に入ったのです。

ポジティブな側面は明らかでしょう。これまで人手不足で見過ごされてきた中小企業や、保守の止まったオープンソースプロジェクトにも、世界トップクラスのAIセキュリティ研究者と同等の解析能力が届く可能性が出てきました。一方で潜在的リスクも無視できません。同じ技術が悪意ある者の手に渡れば、未公開の脆弱性が大量にブラックマーケットへ流れる事態も想定されます。Anthropicがアクセスを厳しく制限している理由はここにあります。

規制面では、米国NISTがCVEの爆発的増加を受けて全件分析の継続が困難となり、優先度に応じた運用へ方針転換するなど、既存の脆弱性管理フレームワークそのものが限界を迎えています。AIが生み出す膨大な発見をどう公的データベースに反映し、産業横断で共有するか――この社会的インフラの整備が、技術の進展とどれだけ歩調を合わせられるかが問われています。

長期的な視点では、サイバーセキュリティは「人間が手作業で守る」フェーズから「AIエージェントが24時間自律的に防衛し、人間は判断と監督に集中する」フェーズへ確実に移行していくでしょう。innovaTopiaの読者にとって重要なのは、AIによる脆弱性発見の高速化が、ソフトウェアやインフラを使うすべての人の安全性を底上げする可能性を持つ一方で、AIへの過剰な依存が新しい単一障害点を生むかもしれないという両面性です。今回の発表は、その分水嶺を確認するための格好の指標と言えます。

【用語解説】

Claude Opus 4.7
Anthropicが提供するClaudeモデルファミリーの最上位モデル。コード理解やセキュリティ分析を含む高度な推論能力を備える。AESIRが「攻撃者のような思考」を行う際の頭脳として活用されている。

AESIR(AI-Enhanced Security, Intelligence, and Research)
TrendAIが2025年に立ち上げたAI駆動型のセキュリティリサーチ基盤。機械の高速処理と人間の専門家による監督を組み合わせ、ソフトウェアエコシステム全体から「到達可能・制御可能・悪用可能」な脆弱性を自律的に発見・実証する。読み方は「エイシール」。

TrendAI Vision One
AESIRが導き出した知見を、企業の現場で運用可能な形に落とし込むAIセキュリティプラットフォーム。攻撃経路のマッピング、リスクの優先順位付け、仮想パッチ適用などを統合的に提供する。

Cyber Verification Program
Anthropicが運営する認定プログラム。フロンティアAIモデルを防御目的で利用する組織を事前審査し、認定を与える仕組みで、攻撃側に技術が流出するリスクを抑える狙いがある。

CVE(Common Vulnerabilities and Exposures)
公開されているソフトウェア脆弱性に世界共通の識別番号を付与する仕組み。「CVE-2025-XXXX」のような形式で記載され、業界全体で同じ脆弱性を一意に特定できるようにする。

仮想パッチ(Virtual Patching)
ソフトウェアのソースコード自体を修正せず、ネットワーク機器やセキュリティ製品側で脆弱性への攻撃を遮断する手法。正式パッチの提供や適用に時間がかかる場合の応急処置として有効。

MCPツール(Model Context Protocol)
AIモデルが外部ツールやデータソースと安全に連携するためのプロトコル仕様、およびその実装群。エージェント型AIの普及にともない、新たな攻撃対象として注目されている。

エージェント型フレームワーク(Agentic Framework)
AIエージェントを構築・運用するためのソフトウェア基盤。AIが自律的に判断し、複数のステップにわたるタスクを実行できるよう設計されている。

フロンティアAIモデル
現時点で最高レベルの能力を持つ最先端の汎用AIモデルを指す呼称。能力の高さゆえに、安全性や悪用防止の観点から扱いに特別な配慮が求められる。

ゼロデイ脆弱性
ソフトウェア提供元によって修正パッチが用意される前段階で、攻撃者に先に発見・悪用されうる脆弱性。「対応までの時間がゼロ日」であることに由来する。

TrendAI Zero Day Initiative(ZDI)
TrendAIが運営する世界最大規模の脆弱性発見・報奨プログラム。世界中の研究者が脆弱性を報告し、ベンダーへの連絡と修正調整を行うバグバウンティのハブとして機能する。

【参考リンク】

トレンドマイクロ(TrendAI)公式サイト(外部)
法人向けサイバーセキュリティのグローバルリーダー。Vision OneやAESIRなどAIセキュリティ製品群を展開する公式サイト。

Anthropic公式サイト(外部)
AIの安全性研究を推進する企業の公式サイト。Claudeモデルファミリーを開発し、解釈可能なAIの構築を使命とする。

AESIR紹介ページ(トレンドマイクロ)(外部)
AESIRがゼロデイ脆弱性を発見する仕組みを解説する公式ページ。発見済みCVEの一覧も公開されている。

TrendAI Vision One製品ページ(外部)
仮想パッチや攻撃経路マッピングなど、AESIRの発見を運用に結びつける統合プラットフォームの製品ページ。

TrendAI Zero Day Initiative(外部)
世界最大規模の脆弱性発見コミュニティの公式ページ。研究者向け報奨プログラムやPwn2Ownを紹介している。

AIセキュリティレポート2026(トレンドマイクロ)(外部)
2026年のAI関連CVEを2,800〜3,600件と予測した調査レポート。カテゴリ別の傾向を分析している。

Project Glasswing(Anthropic)(外部)
フロンティアモデルを重要ソフトウェアインフラの防御に活用するためのAnthropicの取り組み紹介。

Claude Code Security(Anthropic)(外部)
コードベースを対象としたAI駆動の脆弱性スキャン機能。開発フローに組み込んで運用できる仕組み。

【参考記事】

Project Glasswing: Securing critical software for the AI era(外部)
Claude Mythos Previewの限定提供プログラム。最大1億ドルの利用クレジットと400万ドルの寄付を表明している。

TrendAI™ AIセキュリティレポート2026 〜AIエコシステムの断層〜(外部)
2026年のAI関連CVEを2,800〜3,600件と予測。2025年の2,130件から31〜69%の増加見込みを示した。

ÆSIRの登場:AIのスピードでゼロデイ脆弱性を見つけ出す(外部)
2025年半ば以降、NVIDIAやTencentなど主要プラットフォームで21件の重大CVEを発見した実績を解説している。

クラウドストライク2026年版グローバル脅威レポート(外部)
サイバー犯罪のブレイクアウトタイムが平均29分に短縮、90以上の組織で生成AIの不正利用が確認された。

Enhancing AI-Driven Defense with Anthropic’s Claude Opus 4.7(外部)
Palo Alto NetworksもCyber Verification Programに参加し、Claude Opus 4.7を活用した防御を推進している。

LinuxカーネルのゼロデイをAIが発見 悪用で簡単にroot権限奪取が可能に(外部)
2026年4月、Linuxに約9年潜んだ脆弱性CVE-2026-31431が公表。AI解析が発見に大きく寄与した。

NIST、ついに”脆弱性の全件分析”を断念 CVE爆増でパンク状態、方針転換(外部)
NVDが全件分析を断念し優先度方式へ転換。AI時代の脆弱性管理基盤の限界を示す内容。

【関連記事】

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【編集部後記】

AIが脆弱性を見つけ、AIが守る――そんな時代が、想像よりもずっと早く目の前に来ています。今回のトレンドマイクロとAnthropicの連携は、私たちの暮らしを支えるソフトウェアの安全性が「AIエージェント同士の攻防」に委ねられていく未来を予感させるニュースでした。

みなさんが日々使っているサービスの裏側でも、こうしたAIによる防御が静かに走り始めているかもしれません。便利さや速さの恩恵を受けながら、自分自身がどこまでAIに守られ、どこから判断を委ねるのか――一緒に考えていけたら嬉しいです。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。