段ボール1枚から戦争の常識が変わるかもしれない——日本のスタートアップが生み出した1機約30万円のドローンが、海上自衛隊の訓練に静かに組み込まれ始めました。安価で、速く、組み立てやすい。この「紙の無人機」が示すのは、ものづくり大国・日本の次の選択肢です。
日本のスタートアップAirKamuyが開発した段ボール製ドローン「AirKamuy 150」は、約2,500ドルで時速74マイル、80分の飛行時間、50マイルの航続距離、3ポンドのペイロードを備える。機体には防水コーティングが施され、専用工具なしに5〜10分で組み立てられる。
フラットパック輸送によりコンテナ1台あたり500機を収納可能だ。海上自衛隊は既に標的として活用しており、小泉進次郎防衛大臣は2026年4月27日にAirKamuyと意見交換を行った。米Lucasドローンが10,000ドル・時速63マイル、イランのShahedシリーズと比較して、AirKamuy 150は航続距離を犠牲に組立速度と生産量を優先する。
日本政府は1機450ドルの木製ドローンを含む「白刃(Shiraha)」プロジェクトも進めている。本記事は2026年5月5日にYahoo Tech / Gadget Reviewにて公開された。
From:
Japan’s $2,500 Cardboard Drones Are Beating Million-Dollar Military Logic
【編集部解説】
ウクライナ戦争が始まった2022年以降、世界の防衛ドクトリンは「精密かつ高価な少数」から「安価かつ大量の使い捨て」へと急速にシフトしています。今回のAirKamuy 150をめぐる報道が示唆的なのは、この潮流がついに日本のスタートアップから具体的なプロダクトとして立ち上がり、防衛大臣が直接視察し、海上自衛隊が標的として活用するレベルにまで進展した点にあります。
まずファクトチェックとして1点お伝えします。元記事は「Shirahaプロジェクト」をAirKamuyの取り組みの延長線上に位置づけていますが、これは正確ではありません。Shirahaを開発しているのはJISDA(Japan Integrated Security Design Agency)という別企業で、2025年11月に設立されたばかりのスタートアップです。JISDAは創業前から約3年間ウクライナで現地調査を続けており、その学びを織り込んだ機体が、2026年4月14日に提供開始された木製フレーム・原価7万円の「Shiraha」(型式:ACM-01)です。
AirKamuy自体は、愛知県名古屋市に拠点を置く2022年8月設立のスタートアップで、CEOは山口拓海氏が務めています。当初は山岳救難用の捜索ドローンを開発していたものの、ウクライナ侵攻を受けて自爆ドローン領域へ事業を転換しました。2025年4月にプレシードラウンドで1億円を調達し、DSEI Japan 2025、パリ航空ショー2025など国際展示会で存在感を高めてきた経緯があります。
技術面で注目すべきは、段ボールという素材選定が生み出す「経済学の非対称性」です。レーダー反射断面積(RCS)が小さいため探知されにくく、対する迎撃ミサイル1発のコストは数十万ドルから数百万ドル規模。攻撃側と防御側のコスト構造が逆転し、防御側のミサイル在庫そのものを枯渇させる「経済戦」が成立してしまうのです。AirKamuy 150の1機あたり価格は約30万円程度(元記事のGadget Reviewでは2,500ドルと表記)で、いずれにせよ従来の小型軍用ドローンの1割未満という水準にあります。
このコンセプトの実装先として浮上しているのが、英米防衛メディアで広く用いられる略称「SHIELD(Synchronized, Hybrid, Integrated and Enhanced Littoral Defense)」構想です。南西諸島の広域海域に対し、安価な無人機・無人水上艇・無人水中航行体を多層的に展開する設計思想で、低コスト・大量生産可能なAirKamuy 150のような機体は、この構想と非常に相性がよいといえます。
一方で、ポジティブな民生インパクトも見逃すべきではありません。AirKamuyはもともと山岳救難用ドローンとして事業を始めた会社です。同じ機体は災害時の物資投下、通信中継、被災地調査にも転用可能で、地震や水害が多い日本では「使い捨て前提で危険地域へ投入できる飛行体」の価値は軍事用途を超えて大きく広がります。
潜在的リスクとしては、量産可能な使い捨てドローンが拡散した先のエスカレーション圧力に注目すべきでしょう。AIによるスウォーム制御技術が成熟すれば、人間の判断を介さない自律的攻撃が現実味を帯びてきます。LAWS(自律型致死兵器システム)に関する国際的な規制議論はいまだ着地しておらず、日本がこの領域で主導権を握るのなら、技術開発と並走して倫理ガイドラインや運用規範の議論に積極参加する姿勢が問われることになります。
長期的に見ると、この事案は「防衛装備=大手重工メーカー1社契約」という日本の従来モデルからの転換点を示しているとも読めます。スタートアップが防衛大臣と直接対話し、海上自衛隊の訓練に組み込まれていく流れは、サプライチェーンの裾野を広げ、有事には民間段ボール工場をドローン製造ラインへ転用できる「弾力的な国産基盤」をつくり出します。あなたが今日Amazonで受け取った段ボール箱が、明日は別の使命を帯びるかもしれない——その地続き感こそが、Tech for Human Evolutionの視点から見たこのニュースの本質ではないでしょうか。
【用語解説】
ペイロード
ドローンや航空機が積載できる有効搭載量のこと。AirKamuy 150の場合は3ポンド(約1.4kg)で、小型カメラやセンサー、医薬品キット、小型爆薬などを搭載できる規模に相当する。
フラットパック
平らに折りたたんだ状態で梱包・輸送し、現地で組み立てる方式。IKEAの家具梱包と同じ発想で、輸送効率を劇的に高められる。AirKamuy 150は標準コンテナ1台に500機を収容可能とされる。
スウォーム(Swarm)
多数のドローンが群れとして連携飛行する戦術。1機ずつでは脅威にならなくても、数十・数百機が同時飛来することで防空システムの処理能力を超過させる効果を持つ。
レーダー反射断面積(RCS)
レーダー波を反射する強さを示す指標。値が小さいほど探知されにくい。金属やカーボンファイバーに比べて段ボールは電波を吸収・散乱させやすく、結果としてステルス性が高まる。
デュアルユース
軍事と民生の両方で使える技術や製品の特性。AirKamuy 150は標的・偵察・自爆攻撃といった防衛用途と、災害時の物資投下・通信中継・物流といった民生用途を同じ設計思想で両立させている。
SHIELD構想
英米防衛メディアで広く用いられる「Synchronized, Hybrid, Integrated and Enhanced Littoral Defense」の略称。南西諸島の広域に小型攻撃ドローン・無人水上艇・無人水中航行体を多層展開し、低コストで持続的な抑止力を構築する沿岸防衛コンセプト。
LAWS(Lethal Autonomous Weapons Systems)
自律型致死兵器システム。AIなどによって人間の判断を介さず標的を選定・攻撃する兵器を指す。国連特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みで国際的な規制議論が継続している。
自爆ドローン(神風ドローン/徘徊型兵器)
標的に体当たりして爆発する使い捨て前提のドローン。ロシア・ウクライナ戦争でイラン製Shahedシリーズが大量投入されたことで、安価な大量配備型として注目を集めるようになった。
プレシードラウンド
スタートアップの最も初期段階の資金調達ラウンド。製品化前または事業化直前のフェーズで実施される。AirKamuyは2025年4月に同ラウンドで1億円を調達した。
【参考リンク】
AirKamuy 株式会社(公式サイト)(外部)
名古屋拠点のディフェンステック企業。AirKamuy 150および固定翼VTOL機Σ-1の開発元の公式サイト。
AirKamuy Products(製品ページ)(外部)
AirKamuy 150とΣ-1の詳細スペック・用途想定が掲載されている公式プロダクトページ。
防衛省(外部)
日本の防衛政策・装備品調達・自衛隊運用を所管する行政機関の公式ウェブサイト。
JISDA株式会社 プレスリリース(PR TIMES)(外部)
木製固定翼ドローン「Shiraha」の提供開始を伝えるJISDA公式プレスリリース。
【参考記事】
Japan deploys low-cost ‘cardboard drones’ for warfare(UPI)(外部)
AirKamuy 150の約30万円という価格、SHIELD構想、FY2026防衛予算の構成を報じた解説記事。
防衛ドローン、段ボール素材で安く エアカムイが1億円調達(日本経済新聞)(外部)
AirKamuyが2025年4月にプレシードラウンドで1億円を調達したことを伝える一次情報の日本語報道。
Japanese startup develops Shiraha drone for under $450 per unit(Defence Blog)(外部)
JISDAが2026年4月に提供開始したShiraha(ACM-01)の仕様と開発経緯を詳述した記事。
Japan is building military drones out of cardboard(TechSpot)(外部)
AirKamuy 150と米Lucas、イランShahedの比較、製造性と組立速度の優位を分析する記事。
段ボール製ドローン30万円 名古屋大学発のエアカムイ(日本経済新聞)(外部)
AirKamuy約30万円のドローン、海上監視や災害時物資輸送への用途を伝える日本語報道。
小泉進次郎 日本製”段ボールドローン”に驚き(乗りものニュース)(外部)
小泉進次郎防衛大臣のX投稿と視察経緯を伝えた一次性の高い日本語報道。
段ボール製ドローンを国防の現場へ(Bloomberg日本版)(外部)
山口CEOの飛行試験現場、防衛省導入見込み、スウォーム展開の可能性を取材した日本語報道。
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【編集部後記】
段ボールでつくられたドローンが防衛大臣と握手する時代が、本当にやってきました。私たちが普段、Amazonの箱として何気なく目にしている素材が、自衛隊の訓練機になり、災害時の救援機にもなる——そんな地続きの未来を、皆さんはどう感じますか。
「使い捨てを前提にする」という発想は、これまでの「ものづくり大国・日本」の価値観とは少し違うかもしれません。だからこそ、この変化が私たちの暮らしや仕事にどう波及していくのか、一緒に観察していけたら嬉しいです。











