外国機と国産機が一つの椅子を奪い合ったわけではありませんでした。海上自衛隊の公募は4つの区分に分かれ、そのうちタイプ3の条件が「国産であり、国内生産基盤が整備されていること」。量産調達契約に至ったのは、その区分に応じたTerra B1です。
Terra Drone株式会社は2026年8月25日、国産迎撃ドローン「Terra B1」が防衛装備庁の「迎撃ドローン早期取得プログラム」の実証試験を通過し、量産段階へ進んだと発表した。
防衛装備庁も同日、実証試験の結果を踏まえてTerra Drone株式会社と量産調達契約を締結したと公表している。同プログラムは2026年6月5日に公募が始まり、38社が提案した。続いて海上自衛隊が実証試験業務委託の契約希望者を公募し、7月15日に4つの区分すべてで実証機種が決まった。
Terra B1は「国産であり、国内生産基盤が整備されていること」を要件とするタイプ3の機種である。実証試験は7月15日から8月6日まで実施された。調達数量、契約金額、機体性能はいずれも公表されていない。
From:
迎撃ドローン早期取得プログラムに基づく量産調達契約の締結について(防衛装備庁)
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テラドローン、国産迎撃ドローン「Terra B1」が防衛装備庁の実証試験を単独で通過~採択から国産迎撃ドローンの短期量産・納入フェーズへ前進~

【編集部解説】
38社の提案、4つの区分、そして1件の量産調達契約
このプログラムは、二段構えで進みました。まず2026年6月5日、防衛装備庁が迎撃ドローンの提案を公募し、6月29日までに38社が応じます。翌6月30日から7月6日にかけて、今度は海上自衛隊補給本部が「実証試験業務委託」の契約希望者を公募しました。7月15日に4つの区分すべてで実証機種が決まり、7月15日から8月6日まで実証試験が行われ、8月25日に量産調達契約の締結が公表されます。
この二段目、海上自衛隊の募集要項が、今回いちばん読みごたえのある資料です。要項は、8つの共通事項をすべて満たしたうえで、4つのタイプ別要件のいずれかを満たす提案を求めていました。
共通事項に並ぶのは、終末誘導が自動化されていること、中間誘導は地上管制システムを用いた自動化への拡張性が考慮されていること、バッテリー駆動方式であること、垂直離着陸方式であること、長射程自爆型UAVの迎撃に関する試験等の実績を有すること、輸入品の場合は輸出規制が考慮されていること、量産機の納期が概ね3か月以内であること。タイプ別では、タイプ1が単一の管制装置から複数機の同時管理・目標割当が可能であること、タイプ2が最大射程25マイル以上、タイプ3が国産であり国内生産基盤が整備されていること、タイプ4が最高速力400km/h以上と定められています。なお、同じ募集要項の共通事項には「最高速力250km/h」とも記載されており、共通事項をすべて満たすという条件とタイプ4の記述は文面上整合しません。公開資料から正しい速度条件を確定できないため、本稿では速度を評価の材料として扱いません。
つまり、4機種は同じ土俵で競ったわけではありません。タイプ3の要件は「国産であり、国内生産基盤が整備されていること」でした。国産機のための区分が制度としてあらかじめ用意されており、そこに応じたのがTerra B1だったことになります。外国機と国産機が一つの椅子を奪い合って国産が勝った、という構図ではありません。
注目したいのは、海上自衛隊が4つの区分のうち1つを国内生産基盤に割り当てていたという設計のほうです。テラドローンは7月15日の発表で、大量に消費される迎撃ドローンの供給を持続するうえで国産化が必須の課題になっていると説明しています。同社はこのとき、国産・国内生産基盤の要件を「対象となる迎撃ドローン」の要件として紹介していました。海上自衛隊の募集要項に照らせば、これは4つの区分のうちタイプ3に置かれた条件です。
量産調達契約の締結が公表されたのは、そのタイプ3のTerra B1です。防衛装備庁は他の3機種について合否を公表しておらず、テラドローンは自社リリースで「単独で通過」と説明しています。公表された範囲から言えるのは、Terra B1が量産調達に進んだというところまでです。
契約は、リリースの表現より一歩先まで進んでいる
テラドローンのリリースは「量産段階へ進んだ」「今後、量産調達に向けた協議・手続きに対応しながら」という書き方を採っています。一方、防衛装備庁は同じ8月25日付で「迎撃ドローン早期取得プログラムに基づく量産調達契約の締結について」を公表し、同日にTerra Drone株式会社と量産調達契約を締結したと明記しました。手続きはすでに、契約の締結という段階に達しています。
調達手続きも、納入条件も、短期を前提にしていた
公募開始は6月5日、量産調達契約の締結は8月25日。防衛大臣は本プログラムについて、取得まで約3カ月という短期間を設定したものだと説明しています。防衛装備庁も「募集開始から契約締結まで約3カ月という、これまでにないスピードで調達を進めている」としています。新規開発を伴う主要装備では、研究開発から量産・配備まで長期に及ぶ例もあります。そのなかで、この日程は際立ちます。
興味深いのは、短期を求める設計が手続きだけにとどまらないことです。6月30日に始まった海上自衛隊の実証試験業務委託では、これとは別に「量産機の納期が概ね3か月以内であること」が共通の応募資格に置かれていました。募集開始から契約までの約3か月と、量産機の納期として求められた概ね3か月は、別の時間軸です。制度は、行政側の手続きを縮めるだけでなく、供給側にも短納期への対応を求めていました。
防衛装備庁の募集要項も、有効射程や誘導方式といった性能に加えて、契約から納品までに必要な期間、納品後の整備・補給・教育の体制、10機から50機までの各ケースの見積もりを提案対象としています。テラドローンは、機体性能だけでなく短期間での供給や納入後の整備・補給・教育までを含む実施体制を提案したと説明しています。防衛装備庁は個別の評価項目の配点や選定の理由を公表していません。
迎撃の「試験等の実績」が応募資格に入った
海上自衛隊の共通事項には、もう一つ見逃せない項目があります。「長射程自爆型UAVの迎撃に関する試験等の実績を有すること」。実戦経験そのものを必須とした文言ではありませんが、この「試験等の実績」がない提案は、この段階の応募資格を満たしません。
テラドローンは2026年6月15日、ウクライナのアメイジング・ドローンズ社とウィニーラボ社について、連結子会社化を発表しています。前者は近距離・即応型の「Terra A1」、後者は広域・長距離型の固定型迎撃ドローン「Terra A2」を手がけ、同社によれば両機とも2026年春にシャヘド型UAVの迎撃に成功しています。そして7月15日の発表で、同社は両社を含むグループとしての実績を基盤に提案したと述べています。日本企業が海外の実運用環境で得た知見を、国内の装備開発と供給に取り込む一つの事例と言えます。ただし、防衛側はTerra B1がこの応募資格をどの実績によって満たしたと判断したのかを公表しておらず、Terra B1への具体的な技術移転の内容も明らかにされていません。
滑走路を必要としない機体であること
共通事項では、バッテリー駆動方式と垂直離着陸方式が求められています。滑走路に依存せずに離着陸できることは、運用場所の自由度を高める要素です。
テラドローンは7月15日の発表で、実証において航続距離や速度、誘導性能といった基本性能に加え、艦上での運用、自律飛行、長射程自爆型UAVの探知・追随、複数機運用、通信途絶時の安全性などを確認すると説明していました。艦上運用では、甲板の動揺や風、限られたスペースなど、陸上とは異なる条件が加わります。今回の実証が実際に艦上で行われたかどうかは公表されていません。同社は今後、航空自衛隊・陸上自衛隊への展開も視野に入れるとしています。
令和8年度予算では、無人アセットによる多層的沿岸防衛体制「SHIELD」の構築に1,001億円が計上され、その構築時期は令和9年度中とされています。時期としては今回の早期取得と重なりますが、両者の直接の関係は公表資料からは確認できません。
これから輪郭が定まる部分
2026年8月26日時点の公表資料では、調達数量、契約金額、機体の射程や速度は明らかにされていません。納期についても、6月時点の実施計画で2026年9月ごろが目途とされていましたが、8月25日の公表資料に契約上の確定納期は示されていません。これらが今後公表されるかどうかも、現時点ではわかりません。
5月8日に発表された「モジュール型UAV(汎用型)教育用」300式・1億1,543万4,000円の受注は、テラドローンにとって防衛分野で最初の受注でした。納期は9月30日です。それから3か月半ほどで、同じ防衛装備庁との間で迎撃ドローンの量産調達契約に進みました。国産であり国内生産基盤が整備されていること、長射程自爆型UAVの迎撃について試験等の実績を持つこと、量産機を概ね3か月以内に納められること。そうした条件を課した制度のもとで、Terra B1は契約の段階まで来ています。実際の納入と部隊での運用へどうつながるのか。次に確かめるべき点は、そこに移っています。
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【編集部後記】
海上自衛隊の募集要項を読んでいて、指が止まった行があります。共通事項の「量産機の納期が概ね3か月以内であること」。飛ぶ性能ではなく、作って届ける速さのほうが、応募の資格として先に書き込まれていました。優れた一機を持っていることと、それを3か月で揃えられることは、まったく別の能力です。日本の製造業が長く得意としてきたのは、はたしてどちらのほうだったでしょうか。
【用語解説】
迎撃ドローン早期取得プログラム
防衛装備庁が2026年6月5日に開始した、攻撃型無人航空機に対処する迎撃ドローンを短期間で取得するための枠組み。公募から量産調達契約までを約3か月で進める設計になっている。
長射程自爆型UAV
長い距離を飛行して標的に体当たりし、機体ごと爆発する無人航空機。シャヘド型やHARPY型が代表例として挙げられる。安価に大量生産できるため、防御側との費用対効果の不均衡が課題となっている。
シャヘド
イランで開発された長射程自爆型無人機の系列。ロシアはこの設計を基にしたGeran-2の大規模生産を進めているとされ、本プログラムでも対処対象の代表例として名指しされている。
終末誘導
飛行の最終段階で、標的を捉えてから命中までを制御する誘導。海上自衛隊の募集要項では、この段階の自動化が共通の応募資格に含まれていた。
中間誘導
発射後から終末誘導に移るまでの飛行区間を制御する誘導。募集要項では、地上管制システムを用いた自動化への拡張性が考慮されていることが求められた。
垂直離着陸(VTOL)
滑走路を使わず、その場で垂直に離陸・着陸できる方式。運用場所の自由度が高い。海上自衛隊の共通事項の一つとされた。
国内生産基盤
装備品を国内で継続的に生産・供給できる体制。有事における供給の持続性を担保する観点から重視される。タイプ3の固有要件として明記された。
実証試験業務委託
装備品の性能や運用適合性を確かめる試験を、企業に委託して実施する契約形態。今回は海上自衛隊補給本部が2026年6月30日に公示した。
量産調達契約
試作や実証の段階を経て、部隊で使用する装備品をまとまった数量で調達するために結ぶ契約。
連結子会社
親会社が議決権の過半数を持つなど、実質的に支配していると判断され、連結決算の対象に含まれる子会社。
SHIELD(無人アセットによる多層的沿岸防衛体制)
UAV・USV・UUVといった無人装備を組み合わせ、沿岸を多層的に防衛する構想。令和8年度予算で1,001億円が計上され、令和9年度中の構築が予定されている。
無人アセット
人が搭乗しない装備の総称。航空機(UAV)、水上艦艇(USV)、水中航走体(UUV)を含む。
【参考リンク】
防衛装備庁(外部)
防衛省の外局として、装備品の研究開発・調達・技術管理を担う機関。迎撃ドローン早期取得プログラムの実施主体であり、調達情報を公表している。
迎撃ドローン早期取得プログラム 特設ページ(外部)
プログラムの特設ページ。募集要項、実証機種の決定、量産調達契約の締結という一連の公表資料に、ここから直接たどることができる。
海上自衛隊補給本部「迎撃ドローン早期取得プログラム実証試験業務委託」の契約希望者募集要項(外部)
海上自衛隊補給本部が令和8年6月30日に公示した募集要項。応募資格として共通事項8項目とタイプ別提案事項4項目が具体的に記載されている。
Terra Drone株式会社(外部)
Terra Drone株式会社の公式サイト。測量、点検、農業、運航管理、防衛の各事業と、運航管理システムの開発状況を掲載している。
Terra Defense(外部)
テラドローンの防衛事業サイト。迎撃ドローンをはじめとする防衛アセットの取り組みを、日本語と英語の両方の言語で紹介している。
【参考記事】
防衛装備庁、テラドローンと迎撃ドローンの量産契約を正式締結 国産機「Terra B1」を調達へ(外部)
契約締結を伝えるとともに、実証試験の期間が7月15日から8月6日であったこと、実証を通過したのがTerra B1のみであるという説明がテラドローン側のものであることを明示している。
防衛装備庁、迎撃ドローン早期取得に向けTerraDroneと量産調達契約を締結(外部)
海上自衛隊補給本部の募集要項を引用し、共通事項8項目とタイプ別要件4項目を一覧化している。4つのタイプが異なる要件を持つため、他の3機種にも量産調達の可能性が残るという読み方を示す。
防衛装備庁、迎撃ドローン早期取得プログラムの実証対象にテラドローンなど4社を選定(外部)
38社の応募から4社が採択された経緯と、従来数年から十数年を要した調達プロセスを約3か月に短縮する枠組みであることを整理している。
防衛装備庁、自爆型ドローンに対抗する「迎撃ドローン」を公募 8月下旬にも量産契約へ(外部)
公募開始時点の記事。高度おおむね1万8000フィート未満、速度250ノット程度、重量600キロ以下という募集条件と、10機から50機まで10機刻みで見積もりを求める設計を報じている。
防衛省、「迎撃ドローン」提案公募…要求性能は?(外部)
国内ドローンが数機単位の少数生産でコストが高いという構造を指摘し、数十機単位の量産による単価引き下げが防衛省の狙いにあると解説している。


















