香港大学工学部機械工学科のFu Zhang教授と研究チームが2025年1月29日にScience Robotics誌で発表した研究によると、鳥のような自律飛行能力を持つドローン「SUPER(Safety-Assured High-Speed Aerial Robot)」を開発した。
SUPERはホイールベース280mm、離陸重量1.5kg、推力重量比5.0以上のコンパクト設計で、毎秒20メートル(時速72km)を超える高速飛行が可能である。
搭載された軽量3次元LIDARセンサーは最大70メートル先の障害物を検出し、2.5mmの細い電線や小枝も回避できる。
システムは飛行中に安全性を重視した軌道と速度を最適化した軌道の2つを生成し、リアルタイムで最適な経路を選択する。
従来手法と比較して失敗率を35.9分の1に削減し、計画時間も半分に短縮した。実世界テストでは昼夜問わず密林での自律飛行に成功し、人間を追跡する実験も行われた。この技術は捜索救助、災害救援、自律配送、送電線検査、森林監視などの応用が期待される。
From: This “robot bird” flies at 45 mph through forests—With no GPS or light
【編集部解説】
この「SUPER」が画期的なのは、従来のドローンが抱えていた根本的な課題を解決している点にあります。これまでの自律飛行ドローンは、カメラベースの視覚システムに依存していたため、高速飛行時のモーションブラーや暗所での性能低下、検知距離の制約といった問題を抱えていました。
SUPERが採用したLivox Mid-360 LiDARセンサーは、この問題を根本から解決しています。70メートル先まで障害物を検知でき、2.5mmという髪の毛ほどの細さの電線も識別可能です。これは従来技術では不可能だった精度レベルといえるでしょう。
特に注目すべきは「デュアル軌道システム」の革新性です。AIが同時に2つの飛行経路を計算し、一つは速度重視、もう一つは安全性重視の軌道を生成します。状況に応じてリアルタイムで最適な経路を選択することで、従来手法と比較して失敗率を35.9分の1に削減しました。
この技術が実用化されれば、災害救助の現場が劇的に変わる可能性があります。地震で倒壊した建物内部や、山間部での遭難者捜索において、人間が立ち入れない危険地帯でも24時間体制での捜索活動が可能になります。
一方で、潜在的なリスクも考慮する必要があります。高速で自律飛行するドローンが一般化すれば、航空交通管制や飛行規制の在り方を根本的に見直す必要が生じるでしょう。また、軍事転用の可能性も否定できません。
長期的な視点では、この技術は都市部での物流革命の起点となる可能性を秘めています。現在のドローン配送は限定的な環境でのテスト段階ですが、SUPERレベルの自律性が実現すれば、複雑な都市環境での実用的な配送サービスが現実味を帯びてきます。
技術的な観点から見ると、LiDARデータを点群として直接処理することで計算時間を大幅に短縮した点も重要です。これにより、従来は高性能なコンピューターが必要だった処理を、軽量な機体に搭載可能な小型コンピューターで実現しています。この小型化・軽量化の成功は、今後のロボティクス分野全体に波及効果をもたらすと予想されます。
【用語解説】
MAV(Micro Air Vehicle)
超小型無人飛行機の略称。軍事・環境監視・農薬散布などに用いられる小型ドローンの総称である。
LiDAR(Light Detection and Ranging)
光による検知と測距技術。レーザー光を照射し、反射光の到達時間を測定することで正確な距離と3次元形状を把握する。レーダーやソナーより高精度で高解像度の測定が可能である。
点群(Point Cloud)
3次元空間上の点の集合データ。LiDARセンサーが取得した距離情報を3次元座標として表現したもので、物体の形状や環境の構造を詳細に記録できる。
推力重量比(Thrust-to-Weight Ratio)
ドローンの推力と重量の比率。5.0以上という数値は、機体重量の5倍以上の推力を発生できることを意味し、高い機動性と垂直上昇能力を示す。
ホイールベース(Wheelbase)
ドローンの場合、対角線上に配置されたプロペラ間の距離を指す。280mmという数値は非常にコンパクトな設計であることを示している。
【参考リンク】
香港大学機械工学科(外部)
香港大学工学部機械工学科の公式サイト。Fu Zhang教授が所属する研究機関で、SUPERの開発拠点である。
Science Robotics(外部)
SUPER研究論文が掲載された国際的なロボティクス専門誌。査読付きの権威ある学術誌として知られている。
HKU MaRS LAB(外部)
Fu Zhang教授が率いる香港大学メカトロニクス・ロボティクスシステム研究室。SUPER開発の中心となった研究機関である。
【参考動画】
【参考記事】
Safety-assured high-speed navigation for MAVs(外部)
Science Robotics誌に掲載された原著論文。SUPER技術の詳細な技術仕様と実験結果が記載されている。
Safety-assured high-speed navigation for MAVs(外部)
香港大学機械工学科による公式発表記事。2025年2月13日に公開され、研究成果の概要と技術的意義を解説している。
HKU engineering team revolutionises drone technology with bird-like autonomous flight(外部)
香港大学公式プレスリリース。2025年5月27日発表で、SUPER技術の実用化への展望と応用分野について詳述している。
【編集部後記】
この「ロボット鳥」の技術を見て、どのような未来を想像されますか?災害現場での人命救助から日常の配送まで、自律飛行ドローンが変える世界は想像以上に身近かもしれません。一方で、プライバシーや安全性への懸念も生まれるでしょう。
皆さんは、この技術がもたらす恩恵とリスクをどうバランスさせるべきだと思われますか?ぜひSNSで、あなたの考えをお聞かせください。テクノロジーの進歩を一緒に見守り、議論していきましょう。