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CERN・LHC実験で実現した現代の錬金術:鉛から金への核変換に成功、一瞬で消滅する89,000個/秒の金原子核

CERN・LHC実験で実現した現代の錬金術:鉛から金への核変換に成功、一瞬で消滅する89,000個/秒の金原子核 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-14 22:08 by admin

欧州原子核研究機構(CERN)のスイス・ジュネーブ近郊にある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)において、鉛を金に変換する核変換実験が成功した。この成果はALICE(A Large Ion Collider Experiment:大型イオン衝突実験)共同研究グループによって2025年5月7日に「Physical Review C」に論文として発表された。

実験では、LHCが鉛イオンを光速の99.999993%まで加速し、「ニアミス衝突」と呼ばれる特殊な状況で互いに近接通過する際に生じる強力な電磁場によって、鉛原子(陽子82個)から3個の陽子が放出され、金原子(陽子79個)が生成されることが確認された。LHCの第2回運転期間(2015-2018年)では約860億個の金原子核が生成されたが、これはわずか29兆分の1グラム(29ピコグラム)に相当する。また、生成された金の原子核はマイクロ秒程度しか存在せず、すぐに他の粒子に分解されるという現象も観測された。

この現象はALICEの高感度検出器、特にイタリアのグループによって設計・構築されたゼロ度カロリメーター(ZDCs)によって捉えられた。ALICE共同研究グループのスポークスパーソンMarco van Leeuwen氏は、これらの検出器が数千の粒子を生成する正面衝突を処理できると同時に、稀な電磁的核変換プロセスの研究も可能にすると説明している。

現在LHCの第3回運転期間中には、金が毎秒89,000個の原子核の割合で生成されており、これは第2回運転期間の約2倍の効率である。この研究は高エネルギー粒子物理学の分野に新たな知見をもたらすものとされている。

この実験は、古代から錬金術師が追い求めてきた「鉛から金への変換」を現代科学で実現した画期的な成果として注目を集めている。

References:
文献リンクThis Giant Atom Smasher Turned Lead Into Gold—And Disintegrated It in a Flash!

【編集部解説】

今回のニュースは、科学の世界で長年夢見られてきた「錬金術」が現代科学によって実現された瞬間を捉えたものです。中世の錬金術師たちが求めた「鉛から金への変換」が、世界最先端の粒子加速器によって実際に観測されたという画期的な成果です。

CERN(欧州原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)で行われたこの実験は、ALICE(A Large Ion Collider Experiment)共同研究グループによって2025年5月7日に「Physical Review C」に論文として発表されました。翌5月8日にはCERNからプレスリリースも出されています。

この核変換は、鉛原子核同士の「ニアミス衝突」(ultra-peripheral collisions)という特殊な状況で起こっています。完全な正面衝突ではなく、互いにすれ違う際に生じる強力な電磁場によって引き起こされる現象なのです。鉛原子核(陽子82個)から3個の陽子が放出されることで金原子核(陽子79個)が生成されるという仕組みです。

LHCの第2回運転期間(2015-2018年)では、約860億個の金原子核が生成され、これは約29兆分の1グラム(29ピコグラム)に相当します。現在の第3回運転期間では、エネルギーレベルの向上により、毎秒約89,000個の金原子核が生成されており、これは第2回運転期間の約2倍の効率です。

しかし、生成された金は非常に短命で、マイクロ秒程度しか存在せず、高エネルギーで加速器内を飛行した後、衝突器の内壁やコリメーターに衝突して即座に他の粒子に分解されてしまいます。

この実験の意義は単に「鉛から金を作る」ということだけではありません。電磁的核変換プロセスの理解は、LHCや将来の加速器の性能向上に直接寄与します。特にビームロス(粒子ビームの損失)の予測と制御に役立つ知見が得られると、ALICE共同研究グループのJohn Jowett氏は述べています。

また、この実験で使用されたゼロ度カロリメーター(ZDC)は、イタリアのグループによって設計・構築された検出器で、数千の粒子を生成する正面衝突を処理できると同時に、わずかな粒子しか生成しない稀な現象も検出できる高感度な装置です。この技術的進歩も注目に値するでしょう。

宇宙誕生直後の状態を再現する高エネルギー物理学の研究は、物質の根本的な性質や宇宙の成り立ちを理解するための重要な手がかりを提供します。今回の実験は、ビッグバン後約100万分の1秒後に存在したとされるクォーク・グルーオンプラズマの研究にも関連しています。

中世の錬金術師たちの夢は技術的には実現しましたが、生成される金の量はあまりにも微量で、しかも一瞬で消滅してしまうため、経済的価値を生み出すには程遠い状況です。それでも、科学の進歩によって「不可能」と思われていたことが可能になった象徴的な出来事として、この成果は科学史に刻まれることでしょう。

最先端の物理学研究が、古代から人類が抱いてきた夢と交差する瞬間を捉えたこの実験は、基礎科学の持つ魅力と可能性を改めて私たちに示してくれています。

【用語解説】

CERN(欧州原子核研究機構)
スイスのジュネーブ近郊に位置する世界最大規模の素粒子物理学研究所。27カ国が加盟する国際研究機関で、基礎科学研究の最先端施設である。

LHC(大型ハドロン衝突型加速器)
CERNが運用する世界最大・最強の粒子加速器。全長27kmの円形トンネル内に設置され、粒子を光速近くまで加速して衝突させる装置。2008年9月10日に初稼働した。

ALICE(A Large Ion Collider Experiment)
LHCの4つの主要検出器の1つ。重イオン物理学に特化した検出器で、鉛イオン同士の高エネルギー衝突を研究し、ビッグバン直後の状態を再現する実験を行っている。

核変換
原子核が放射性崩壊や人工的な核反応によって他の種類の原子核に変わる現象。今回の実験では鉛(陽子82個)から3個の陽子が取り除かれ、金(陽子79個)に変換された。

ZDC(ゼロ度カロリメーター)
前方方向に放出される中性子や光子を検出するための装置。ALICEの実験では、核変換過程を検出するために重要な役割を果たした。

クォーク・グルーオンプラズマ
通常の物質を構成する陽子や中性子が「溶けて」、その中のクォークとグルーオンが自由に動き回れる状態。ビッグバン直後の宇宙に存在したと考えられている。

ニアミス衝突(ultra-peripheral collisions)
粒子同士が完全に衝突するのではなく、互いに近接して通過する際に生じる電磁的相互作用による現象。今回の核変換はこの状況で発生した。

【参考リンク】

CERN公式サイト(外部)
欧州原子核研究機構の公式サイト。LHCや各実験についての情報が掲載されている。

Physical Review C(外部)
今回の研究成果が掲載された物理学の学術ジャーナル。核物理学分野の研究を専門に扱っている。

【参考動画】

【編集部後記】

「鉛から金へ」という錬金術の夢が最先端科学で実現した瞬間、皆さんはどう感じましたか?古代の夢想と現代物理学が交差するこの実験は、科学の可能性の広がりを示しています。身の回りの物質変換といえば、料理や化学反応など日常的なものもありますね。皆さんの生活の中で「これは一種の変換だな」と思う現象はありますか?ぜひSNSで皆さんの考えをシェアしていただければ幸いです。

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TaTsu
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