Last Updated on 2025-06-08 09:11 by admin
2025年6月3日、Meta PlatformsはConstellation Energyとの間で、イリノイ州のクリントン・クリーンエネルギー・センターから電力のクリーンエネルギー属性を20年間購入する契約を締結したと発表した。
2027年6月に州のゼロエミッション・クレジット・プログラムが終了した後に開始されるこの契約は、MetaのAIデータセンターへの電力供給と、1987年稼働の同原子力発電所(2047年までのライセンス延長を申請中)の操業継続を目的とする。
契約には同発電所の出力を30MW増強する計画が含まれ、総出力1,121MW(現在の1,092MWに30MW増強分を加えたもの)の電力が対象となる。
この契約により、1,100人の雇用が維持され、年間1,350万ドルの税収が見込まれる。Constellation Energyは同発電所敷地内での先進型原子炉または小型モジュール炉(SMR)設置も検討している。
From: Meta just saved an Illinois nuclear plant that was set to be mothballed
【編集部解説】
今回のMeta社とConstellation Energy社の契約は、AI技術の急速な進化がもたらす莫大なエネルギー需要という課題に対し、巨大テック企業が現実的な解決策を模索していることを示す重要な動きです。
AI、特に生成AIの学習や運用には、従来のデータセンターをはるかに凌ぐ電力が必要です。Meta社自身、2023年にはAIモデル「Llama」の開発だけで260万kWhの電力を消費し、1,000トンの二酸化炭素を排出したと報告しています。
同社の世界の総電力消費量も2023年には15TWhを超え、前年比33%増と急増しており、今後数年間で最大4ギガワットの原子力エネルギーを活用する目標を掲げています。このような背景から、Meta社は2023年12月に原子力エネルギー供給に関する提案依頼(RFP)を出し、20州以上から50以上の提案を受けたことも明らかにしています。
今回の契約対象であるイリノイ州のクリントン原子力発電所は、1987年に運転を開始し、長らく地域に電力を供給してきましたが、経済的な理由から2017年には早期閉鎖の危機にありました。州の補助金(ゼロエミッション・クレジット、ZEC)によって2027年6月まで運転が延長されていましたが、その後の見通しは不透明でした。
Meta社との20年間にわたる電力購入契約は、このZECプログラム終了後の「市場ベースの解決策」として、発電所の運転継続を確実なものにします。これにより、約1,100人の雇用が維持され、年間1,350万ドルの税収が確保されるほか、Constellation社は今後5年間で100万ドルを地域社会に寄付することも発表しています。
もし同発電所が閉鎖されれば、イリノイ州のGDPは年間7億6500万ドル減少し、20年間で3400万トン以上の追加炭素汚染が発生したとの試算もあり、今回の契約はその回避にも繋がります。
Meta社が購入するのは発電所の「全出力」である1,121メガワット(MW)の電力から生じる「クリーンエネルギー属性」です。これは、Meta社のデータセンターに直接送電されるわけではなく、電力網に供給されるクリーンエネルギーの環境価値を同社が購入し、自社のカーボンフットプリント削減に充てるものです。
Constellation EnergyのCEO、ジョー・ドミンゲス氏は、「既存プラントの再認可と拡張を支援することは、新しいエネルギー源を見つけるのと同じくらいインパクトがある」と述べています。
Constellation Energy社は、この契約を追い風に、クリントン発電所の敷地内で先進的な原子炉や、より小型で建設期間も短いとされる小型モジュール炉(SMR)の設置も検討しており、将来的なAIデータセンターへの直接電力供給の可能性も視野に入れていると考えられます。
Gartnerのアナリストは、今回の契約の真の利点は、AIによる電力需要急増時における新たなエネルギー供給源の確保にあると指摘しています。また、Jefferiesのアナリストは、Meta社の契約価格はMWhあたり約80ドル程度と推定しており、これは他のハイパースケーラーの契約と比較して有利な条件である可能性を示唆しています。
Microsoft、Google、Amazonといった他のテックジャイアントも、データセンターの電力確保とカーボンニュートラル目標達成のために、原子力エネルギーの活用を積極的に模索しています。AIの進化が加速すればするほど、エネルギー戦略の重要性は増し、原子力を含めたクリーンで信頼性の高い電力の確保が企業の競争力を左右する時代になりつつあります。最近の世論調査で原子力エネルギーへの支持が61%に上昇したという報告もあり、社会的な受容性も変化の兆しを見せています。
一方で、Meta社はルイジアナ州に天然ガスタービンで稼働する大規模データセンターの建設計画も進めており、カーボンニュートラルへの道のりは単純ではありません。原子力発電には、安全性確保や放射性廃棄物の処理といった長期的かつ重要な課題が存在することも忘れてはなりません。今回のMeta社の決断は、AI時代のエネルギー問題に対する現実的な一手であり、テクノロジーの進化が社会インフラのあり方に変革を迫っていることを改めて示しています。
【用語解説】
電力購入契約 (PPA: Power Purchase Agreement):
発電事業者と電力購入者の間で締結される、長期にわたる電力売買契約である。価格、期間、供給量などを事前に定める。
ゼロエミッション・クレジット (ZEC: Zero-Emission Credit):
原子力発電所など、発電時に二酸化炭素を排出しない発電施設に対して発行されるクレジット。電力会社は、州が定める基準量のZECを保有することが義務付けられる場合があり、これにより対象発電所の経済的支援となる。イリノイ州のZECプログラムは2027年6月に終了予定である。
先進型原子炉 (Advanced Nuclear Reactor):
従来の軽水炉とは異なる冷却材や燃料サイクルを用いる、より安全性や経済性、核不拡散性を高めた設計の原子炉の総称である。
小型モジュール炉 (SMR: Small Modular Reactor):
出力が300MWe以下の小型な原子炉で、工場で製造し現地で組み立てるモジュール工法を特徴とする。建設期間の短縮やコスト削減、柔軟な設置場所が期待される次世代原子炉技術の一つである。
ベースロード電源:
一年を通して安定的に発電し、電力供給網の基礎を支える電源のことである。原子力発電や大規模水力発電、地熱発電などが該当する。
カーボンニュートラル:
温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質的な排出量をゼロにすることを目指す考え方である。
ハイパースケーラー:
大規模なデータセンターを運営し、クラウドコンピューティングサービスなどを提供する巨大IT企業群のことである。Meta、Amazon、Google、Microsoftなどが代表的である。
クリーンエネルギー属性 (Clean Energy Attributes):
原子力や再生可能エネルギーなど、発電時に二酸化炭素を排出しない、または排出量が少ない電力が持つ環境価値のことである。企業は、物理的にその電力を使用するわけではなくとも、この「属性」を購入し、自社の電力使用量に相当するクリーンエネルギーが電力網に供給されたと見なすことで、カーボンフットプリント削減目標の達成に活用する。
【参考リンク】
Meta Platforms, Inc. (Meta) – 公式サイト(外部)
Facebookなどを運営するテクノロジー企業。AI開発にも注力。
Constellation Energy – 公式サイト(外部)
米国最大のクリーンエネルギー供給事業者の一つ。原子力発電所を多数運営。
Clinton Clean Energy Center – Constellation Energy(外部)
イリノイ州の原子力発電所。Metaとの契約で運転継続と出力増強予定。
Meta and Constellation Partner on Clean Energy Project – Meta Newsroom(外部)
Metaの公式ニュースルーム。Constellationとの提携を発表。
【参考動画】
【参考記事】
Constellation, Meta Sign 20-Year Deal for Clean, Reliable Nuclear Energy in Illinois(外部)
Constellation公式発表。Metaとの20年契約でクリントン原発の運転継続とMetaのクリーンエネルギー目標を支援。
Meta inks 20-year nuclear deal to power data center – TechTarget(外部)
Metaがイリノイ州のデータセンター向けにConstellationと20年の原子力契約締結。AI需要急増に対応。
Meta and Constellation Partner on Clean Energy Project – Meta Newsroom(外部)
Meta公式発表。Constellation Energyとの20年間の企業向け原子力エネルギー契約について説明。
【編集部後記】
今回のMeta社の決断は、AIという最先端技術の進化が、私たちの社会を支えるエネルギーという基盤に、いかに大きな影響を与え始めているかを物語っています。日々利用するAIサービスの裏側には、膨大な電力が必要とされている現実があります。
Meta社は、既存の原子力発電所を長期的に活用するという道を選びましたが、これは安定供給と環境負荷低減のバランスをどう取るかという、私たち自身の未来の選択にも関わる問題提起と言えるかもしれません。
AIの恩恵を享受しながら、持続可能な社会をどう実現していくのか。このニュースが、皆さんと共に未来のエネルギーのあり方について考えるきっかけとなれば幸いです。