Memoket Gem 本音レビュー|AIが指示なしで「講師」と「参加者」を見分けた

[最終更新]

Googleで優先するソースとして追加するボタン

※この記事は実機を使ったうえでの個人的な感想です。提供品ではなく、Early Birdプログラムの全額前払い(179ドル、1ドル=159円換算で約2万8000円。8月28日時点のレート)で自費購入したものをレビューしています。

500円硬貨の隣に置かれたMemoket Gem本体。硬貨よりひと回り大きい程度の、角の丸い長方形の小型機器
▲ 500円硬貨(直径26.5mm)と並べたところ。公称サイズは40×25×10mm、重さ11g

はじめに:予約ボタンを押してから、8週間

6月末に書いた記事の最後で、私は白状しました。「買う」とも「見送る」とも決められないまま原稿を書いておきながら、翌日には予約ボタンを押してしまった、と。

その端末が、8月24日に届きました。予約したのが6月29日ですから、待った期間はおよそ8週間。Memoketが公表していた「8月出荷」は、私に関するかぎり守られました。前回のNape Proが7カ月待ちだったことを思えば、拍子抜けするほど順調です。

しかも、送料も関税もかかりませんでした。179ドルを払ったきり、追加の請求は一度も来ていません。海外クラウドファンディング系のガジェットは、届いた瞬間に配送業者から関税を求められて予算が狂う——という話がつきものですが、今回はそれがなかった。これは購入を迷っている方にとって、地味ですが確実に効く情報だと思います。

そして届いた4日後の8月28日、たまたま参加予定だったセミナーが最初の実戦になりました。結論から言うと、録音と要約の性能には本当に驚かされました。一方で、まったく予想していなかったところでつまずいています。順に書いていきます。


そもそもMemoket Gemとは

ボタンを一度押すと会話を録音し、クラウド上のAIが文字起こしと要約、そしてタスクの抽出まで自動でこなす、リストバンド型のウェアラブルです。常時録音ではなく、押した瞬間だけ録る「意図的キャプチャ」方式を採っているのが設計上の特徴になります。

そして本命の機能は、複数の会話を日をまたいでつなぎ、ひとつの文脈として後からAIに問いかけられるようにすること。単なる文字起こし機と一線を画すと同社が主張しているのは、この点です。

公式マニュアルに記載されている主な仕様は以下のとおりです。

項目内容
サイズ40×25×10mm
重量11g(0.39オンス)
接続Bluetooth 5.4/2.4GHz Wi-Fi
バッテリー150mAh
充電時間約2時間
連続録音最大20時間
待機時間最大30日
マイクMEMS×2
録音形式16kHz/16bit、OPUS 32kbps
1ファイルの上限5時間
本体保持容量約300時間
モデルM01

ひとつ、前回の記事の宿題を片づけておきます。本体に保持できる録音時間について、海外メディアが400時間と報じる一方で公式サイトは300時間としており、数値が割れていると書きました。現在の公式マニュアルの仕様表では、約300時間です。公式サイト、FAQ、Memoket自身の開発記事のいずれも同じ値でした。

もうひとつ、仕様表で目を引いたのが録音形式です。16kHzサンプリング、OPUS 32kbps。音楽鑑賞向けというより、会話音声を効率よく残すことに寄せた設定です。OPUS自体は音声も音楽も扱える方式ですが、16kHzは音声用の帯域にあたり、32kbpsという値も、音声認識を前提とする製品の構成としては自然なものです。後述するセミナーでの挙動を考えると、この割り切りは効いている気がします。


開封:箱の日本語が、少し引っかかった

Memoket Gemの外箱。白地に製品の写真と「Memoket Gem」「The Lightest AI Note-Taking Wristband」の文字が印刷されている
▲ 届いた箱。「The Lightest AI Note-Taking Wristband」の一文が誇らしげだ

箱は白を基調とした、素っ気ないほどシンプルなつくりです。表面には本体の写真と製品名だけ。開ける前から、余計なものを載せない製品なのだろうと想像がつきます。

外箱の裏面。製品の特徴が英語・ドイツ語・スペイン語・フランス語・日本語で併記され、型番や認証マーク、同梱物の図が並んでいる
▲ 箱の裏面。英語・ドイツ語・スペイン語・フランス語に混じって、日本語の説明が刷られている

意外だったのは裏面です。特徴を説明する3項目が多言語で併記されているのですが、そのなかに日本語がしっかり入っています。「軽量で多用途、日常使いに最適」「AI・各種ツールに対応」「ワンタッチ録音と複数の会話を横断したAI要約」。後付けのシールではなく、箱に最初から印刷されたものです。この会社は日本市場を、少なくとも視野には入れている。そう受け取りました。この点は、後半のコラムでもう一度触れます。

開いた内箱と、付属のクイックスタートガイド。ガイドには本体各部の名称、装着の向き、振動とLEDの色の意味が図解されている
▲ 付属のクイックガイド。振動1回で録音開始、赤いLEDが点灯している間は録音中

内箱を開けると、本体とバンド、充電ケーブル、そして1枚のクイックガイドが整然と並んでいます。ガイドには装着の向き、振動の意味、LEDの色の意味が図で示されていて、これ1枚で最低限の操作は把握できます。

内箱のカード。アプリの入手、ペアリング、録音、要約の確認という4つの手順が図で示されている
▲ 内箱のカード。アプリを入れ、ペアリングし、押して録るまでの4ステップ

セットアップは4ステップです。アプリを入れる、Bluetoothでペアリングする、ボタンを1回押して録る、アプリで要約を見る。それだけ。カードの下部には「あなたの会話はプライベートで安全です。データにアクセスできるのはあなただけです」という一文が置かれていて、この製品が何を売りにしたいかがよく分かります。

そして実際、このカードすらほとんど読みませんでした。アプリのインストールに30秒ほど、ペアリングは5秒ほど。本体にボタンがひとつしかないので、迷いようがないのです。セミナーの前日に箱から出し、自分の声を2回ほど適当に録音してアプリで結果を確認し、そのままカバンに放り込みました。翌日にはもう実戦です。

同梱物

同梱物一式。リストバンドに装着した本体、本体単体、編み込みナイロンケーブルが一体になった充電ドック
▲ 同梱物。本体、リストバンド、そして編み込みケーブル一体型の充電ドック

同梱されているのは、本体、リストバンド、充電ドック(USB-Cケーブル一体型、長さ60cm、編み込みナイロン)、クイックガイドの4点です。これに加えて、アプリの1年分のProサブスクリプションが付属します(この点は後半であらためて触れます)。ペンダント用のストラップとクリップは標準では付属せず、別売りになります。ここは購入前に押さえておきたいところで、装着スタイルを自由に選べるという触れ込みではあるものの、箱を開けた時点で選べるのはリストバンドの1択です。

Memoket Gem本体。マットな濃いグレーの仕上げで、側面に録音ボタンが一つだけ配置されている
▲ 本体。マットな塗装で、指紋はほとんど目立たない

本体を手に取ってまず口から出たのは、「ちっちゃ!」の一言でした。重さでも質感でもなく、とにかく小さい。事前に40×25×10mmという数字は知っていたはずなのに、手のひらに載せた実物は、その数字から想像していたものより明確に小さく感じます。

私が購入したのはMidnight Grayという色です。写真では黒に見えますが、光を当てると濃いグレーであることが分かります。マットな仕上げで、指紋はほとんど残りません。


【コラム】刻印から読み取れた「R 220-J11940」という番号

海外のクラウドファンディング製品を日本で使うとき、必ず引っかかるのが電波法です。BluetoothやWi-Fiのような小電力無線を国内で使う場合、原則として技術基準適合証明等、いわゆる技適を受けた無線設備である必要があります。Memoket GemはBluetooth 5.4に加えて2.4GHzのWi-Fiまで積んでいるので、この論点からは逃げられません。

本体の裏面。中央に充電ドックと接する2つの金属ピンがあり、その周囲に型番や各国の認証マークが刻印されている
▲ 本体裏面の刻印。中央の2点が充電ドックと接触するピン

そこで本体裏の刻印を確認しました。モデル名、入力電圧、FCC ID、カナダのIC番号——そして刻印のいちばん下に、技適マークとみられるロゴと、四角で囲んだ「R」、そして番号らしき文字列が並んでいます。ただし刻印が浅く、肉眼でもカメラの拡大でも番号を読み取れませんでした。

そこで写真を画像処理で拡大したところ、「R 220-J11940」と読めるところまで来ました。日本の認証番号は、先頭3文字の直後にハイフンが続くものが工事設計認証、先頭の「R」は電波法に基づく証明・認証を示します。番号の形式として、矛盾はありません。

さらに調べると、MemoketがFCCに提出した本体ラベルの資料にも、技適マークとみられる表示と同じ番号が記載されていることが分かりました。実機の刻印と、米国の当局に提出された図面。別々の経路から同じ番号にたどり着いたことになります。

一方で、Memoketの公式マニュアルはこれを裏づけていません。「Regulatory Compliance」の章には、米国のFCC(ID: 2BWQX-M01)、カナダのISED(IC: 35783-M01)、EUのCE、英国のUKCA、シンガポールのIMDA(DA107248)が並び、EUとUKについては現地の認証代理人の氏名と住所まで明記されています。ここまで丁寧に整理されているのに、日本に関する記載だけが見当たらないのです。

そして私は、この番号を日本側の認証情報として独立に確認できていません。したがって、「技適取得済み」と書くことはできません。番号の形式が正しく、実機とFCC提出資料の双方に同じ表示があり、箱には日本語の説明まで刷られている。さらに公式サイトは、無料配送の対象国に日本を正式に挙げていますここまでは事実として言えますが、その先は断定を避けます。取得状況がはっきりした時点で、あらためてお伝えします。

購入を検討している方は、この一点だけは自分で確認してから判断してください。総務省の技適検索で番号を照会できます。少なくとも、この会社が日本市場を視野に入れていることは、ここまでの材料から読み取れます。


良かったところ

1. いちばん条件の悪い場所で、AIは場の構造を読んでいた

最初の実戦は、届いた4日後に参加した約1時間のセミナーでした。

正直、条件はよくありません。参加者は20名ほどで、登壇者はマイクを使わず地声で話します。私の席から登壇者までは5メートルほど。しかも参加者が登壇者を半円状に囲む配置だったため、登壇者は私に対してほぼ横を向いていました。声は正面ではなく、横に飛んでいく。

あとから公式サイトを見て気づいたのですが、Memoketが公称しているマイクの到達距離は16.4フィート、およそ5メートルです。つまり私の席は、ちょうど公称値のぎりぎりに位置していたことになります。

追い打ちをかけたのが隣の席です。感想や私語を、それなりの声量で交わしている。手元のGemからすれば、5メートル先の横向きの声より、すぐ隣の雑談のほうがはるかに近い。これは厳しいだろうな、と半ばあきらめながら赤いランプを眺めていました。

ところが、あとでアプリを開いて驚きました。出てきた要約は、登壇者の話だけできれいに構成されていたのです。隣の私語が混ざって内容が濁ることも、話者が入れ替わって筋が崩れることもありませんでした。

種明かしは、文字起こしを開いたときに分かりました。隣の私語は、文字起こしにはそのまま残っていたのです。それが要約には現れなかった。つまり入力の段階で消されていたのではなく、文字起こしのあとの処理で、本筋から外されていたとみられます。

Memoketのアプリは、ひとつの録音に対して「概要」「要約」「1ページまとめ」「文字起こし」という4つの出力を用意しています。(英語版ではBrief、Summary、One-Pager、Transcript)。公式の説明によれば、最初の「概要」には過去の会話とのつながりが含まれるとされています。粒度の違う4段階が並んでいるので、要約で足りなければ1ページまとめへ、それでも確かめたければ文字起こしへ、と降りていける。「AIが何を捨てたか」を自分で検証できる構造になっているのは、実務で使ううえで大きな安心材料です。

なお、これらの項目名からも分かるとおり、アプリの表示は日本語化されています。海外のクラウドファンディング発の製品では、英語のまま使うことを覚悟する場面が少なくありませんが、その心配は要りませんでした。

そしてもうひとつ、これが今回いちばん面白かった点です。文字起こしの話者ラベルを見ると、登壇していた人には「講師」、ほかの参加者には「参加者A」「参加者B」という名前が割り当てられていました。

私は、これがセミナーだとは一言も伝えていません。会の名前も、誰が話すのかも、何人いるのかも入力していない。ボタンを押して、録って、止めただけです。

その仕組みは、アプリの設定画面に書かれていました。「話者ラベル」という項目があり、会話の文脈に基づいて話者を自動でタグ付けする、声紋の収集や使用は行わないと明記されています。つまり声の特徴で個人を識別しているのではなく、やりとりの中身から「この人はこの場でこういう役回りだ」と推定しているわけです。

声紋を集めないと明言している点は、プライバシーの面でも小さくありません。録音デバイスが利用者以外の生体情報を蓄積しないという宣言だからです。

これは技術としても確立しつつある領域で、医療分野では会話の文字起こしから「医師」「患者」といった役割を推定する研究が進んでいます。単に誰と誰が別人かを分けるのではなく、その人がその場で何をしている人なのかを当てにいく処理です。前回の記事で私は、この製品が「単なる文字起こし機」と一線を画すと主張していることを紹介しました。その主張が具体的に何を意味するのか、この一点でよく分かった気がします。

処理の速さも印象的でした。録音を止めたあと、周りの人と雑談しているうちに終わっていたので、体感では1分ほどです。時計で測ったわけではないので正確な数字ではありませんが、少なくとも「あとで確認しよう」と思う前に出来上がっていました。1時間の録音がその場で片づくのなら、会が終わって席を立つまでのあいだに要点を確かめられます。

セミナーの内容そのものは書けませんが、ひとつだけ確かなことがあります。この端末は、整えられたデモ環境ではなく、実際に散らかった会話の場で機能しました。前回の記事の最後に「現実の混沌とした会話のなかで本当に機能するのか、そこを見届けたい」と書きましたが、少なくとも初戦については、期待を上回る答えが返ってきたと言えます。

【要確認:アプリの要約画面のスクリーンショット。固有名詞は伏せて】

2. 説明書を、結局ほとんど読まなかった

前回レビューしたNape Proは、買ってすぐには真価を発揮しない「育てる」デバイスでした。カスタマイズを面倒だと感じる人には勧められない、とまで書いたのを覚えています。

Memoket Gemは、その正反対に位置します。本体にはボタンがひとつしかありません。押せば録音が始まり、もう一度押せば止まる。設定する余地がないので、迷いようもない。箱を開けてから最初の録音までにかかったのは1分ほどで、そのあいだ説明書は開いてすらいません。

自由度が低いということでもありますが、録音デバイスに求められているのは自由度ではなく、押したいときに確実に押せることです。その一点に絞った潔さは、実際に使ってみて素直に良いと感じました。

3. AIモデルも、会話の行き先も、利用者が選べる

記事を書くためにアプリの設定を触っていて気づいたのですが、要約に使うAIモデルを利用者が選べるようになっていました

Memoketアプリの設定画面。「AIモデルを選択」の一覧にAuto、Claude Opus 4.6、Claude Sonnet 4.6、GPT-5.1、GPT-5.5、GPT-5.6 Luna、GPT-5.6 Sol、GPT-5.6 Terraが並んでいる
▲ 設定画面の「AIモデルを選択」。ClaudeとGPTの2系統が並び、初期値はAutoになっている

並んでいたのは、Auto、Claude Opus 4.6、Claude Sonnet 4.6、GPT-5.1、GPT-5.5、GPT-5.6 Luna、GPT-5.6 Sol、GPT-5.6 Terraの8つです。開発元の異なる2系統のモデルが、同じ画面に並んでいます。

そして初期設定はAutoです。セミナーで録音したときの私は、この画面の存在にすら気づいていませんでした。Autoのまま使い、それでいて要約にはまったく不満がなかったわけです。同じ画面には要約の言語設定もあり、こちらも初期値は「自動」でした。

会話の行き先も同じように開かれています。ワークスペースとしてSlackとNotionを、カレンダーとしてGoogleカレンダーとOutlookカレンダーを連携できます。Googleカレンダーについては、初回設定の流れのなかで連携するかどうかを聞かれましたので、私はそこでつないでいます。録った会話が予定と結びつくと、「いつ、誰と話した内容か」が自動的に整理されるわけです。

そして、アプリのなかには「MCP&CLIで接続(Beta)」という項目が用意されていました。説明文には「MCPやCLIからMemoketに接続できます」とあります。ベータの表記が付いているので開発途上ではありますが、「近日公開」ではなく「接続できます」と書かれている点に、この会社が何を作ろうとしているかが表れています。

MCPは、AIモデルに外部のデータやツールをつなぐための共通仕様です。これは私の深読みではなく、Memoket自身がそう言っています。公式の連携ページはChatGPT、Claude、Cursorを「AI AGENT」として分類し、あなたのAIエージェントは関連するMemoketの記憶から始まる、と説明しています。

つまりこの会社は、自らを「録音機」ではなく、AIエージェントへの入力口として位置づけている。手元のAIに「先週のあの打ち合わせで決まったことは」と尋ねたとき、その答えの材料をMemoketが提供する。そういう関係を想定しているわけです。CLIまで並んでいるのなら、対象にしているのは一般利用者だけではないはずです。

この一連の設計は、地味ですが重要だと思います。前回の記事で私は、この市場の最大の懸念は運営の停止による「文鎮化」だと書きました。特定の1社のモデルにも、自社のアプリの中にも閉じていない構造は、その懸念に対するひとつの答えになりえます。モデルの世代交代が半年単位で進む領域で、選択肢を利用者に開いておくのは、単に親切だという以上に、製品の寿命に関わる判断です。

同時に、これは責任の所在を分かりやすくもしています。要約の質に不満があれば、デバイスのせいなのかモデルの選択のせいなのかを、利用者自身が切り分けられる。モデルの版まで指定できるので、「前はよかったのに」という変化にも自分で対処できます。

4. 軽さと電池持ちが、存在を意識させない

500円硬貨と並べた写真が、この製品のサイズ感をいちばん正確に伝えてくれると思います。硬貨1枚より一回り大きい程度。重さは11gで、500円硬貨(7.1g)1枚半ほどです。

数字としては事前に知っていましたが、実物を手に載せると、スペックで想像していたより軽く感じます。角が丸く落とされていて、手のひらのなかで引っかかるところがありません。

そしてバッテリーです。私は8月24日に箱から出して以来、この記事を書いている8月30日まで、一度も充電していません。そのあいだに1時間のセミナーを丸ごと録音し、テスト録音を何度か行い、あとは待機させたままでしたが、今も普通に動いています。

公称値は連続録音で最大20時間、待機で最大30日。アプリで残量を確認したところ、執筆時点で60%が残っていました。6日間、1時間の録音を含めて使い、まだ半分以上残っている計算です。箱を開けた時点で満充電だったかどうかは分からないので厳密な検証にはなりませんが、少なくとも充電を意識せずに1週間が過ぎたのは確かです。

この種のウェアラブルでは、充電の手間も、使い続けられるかを左右する要素のひとつです。その関門を、少なくとも初週については軽々と越えてきました。

5. 録音していることを、隠せない設計になっている

前回の記事で、私はこの製品の最大の論点はプライバシーと録音同意だと書きました。そして「録っていることが周囲に分かるよう意図的に設計した」という開発者の説明が、実際のハードウェアでどこまで具体化されるかが評価の分かれ目になる、とも。

届いた実機を見るかぎり、この点は言葉どおりに実装されていました

録音を開始すると本体が1回振動し、赤いLEDが点灯しっぱなしになります。点滅ではなく、点灯です。止めると2回振動して消える。バッテリーが少ないときは赤い呼吸のような明滅、ペアリング中は青の短い点滅、充電中は青の明滅、満充電で青の点灯と、状態ごとに色と挙動が割り当てられています。

つまり、録音中であることを示す唯一の常時点灯が赤であるという設計です。

そして実機を見て納得したのが、LEDの位置でした。録音ボタンは本体の一方の面にあり、LEDはその反対側にあります。マニュアルが指示する装着の向きは、ボタンのある面を手首側(内側)に、LEDのある面を外側に向けるというもの。つまり正しく着けているかぎり、赤いランプは必ず外を向きます。装着者からは見えにくく、周囲からは見える。

これは私の深読みではありません。Memoketは現在のプライバシーポリシーで、録音中の赤いLEDを、周囲に録音を知らせるための意図的な設計要素だと明言しています。前回の記事で紹介した開発者の説明は、言葉のうえだけのものではなかったことになります。

録っているかどうかを、装着者が隠しにくい。地味ですが、この製品の思想がいちばんよく表れている部分だと思います。

ただし、この配置が効くのは手首に着けているときです。

私はセミナーの最中、この端末を外して机の上に置いていました。その状態でも赤いランプは光っているのですが、意識を向ければ見える、という程度になります。手首に着けているときのように自然と目に入るわけではなく、置き方によっては本体の影に隠れる角度も出てきます。

設計としては正しく実装されている。ただ、その正しさがいちばん効くのは、着けているときだということです。外して机に置く使い方をするなら、ランプに任せきりにせず、ひとこと断ってから録るほうが確実だと思います。録音していることを相手に伝える責任は、最終的には使う人間の側に残ります。

6. 「届かないかもしれない」から解放されるということ

これは製品の性能とは別の話です。前回の記事で私は、LimitlessがMetaに、BeeがAmazonに買収され、購入したデバイスが使えなくなる懸念が市場全体で語られていることを書きました。予約したあとも、正直なところ、その不安は消えていませんでした。

実際には8月出荷が守られ、追加の請求もなく手元に届いた。予告どおりに物が届くというだけのことが、この市場ではまだ当たり前ではありません。まずはひとつ、Memoketは約束を果たしたと言っていいと思います。


正直、ここは微妙だった

本音レビューなので、気になった点も書きます。ただ今回は、製品の欠点というより私自身の生活習慣との相性の話が中心になりました。

1. 腕時計をしない人間には、着けていること自体がストレスだった

これは完全に想定外でした。

私は普段、腕時計をしません。その習慣がないまま手首に何かを巻くと、思っていた以上に気になるのです。重さの問題ではありません。11gは十分に軽い。それでも、腕に「何かが乗っている」という感覚が消えない。作業中にふと意識がそちらに向く。

先ほど、軽さと電池持ちのおかげでこの端末の存在を意識せずに済む、と書きました。皮肉なもので、私の場合、意識させてくるのは端末の性能ではなく、自分の手首のほうでした。

Memoketは「身に着けていることを忘れるほど軽い」とうたっていますし、腕時計やスマートウォッチを日常的に着けている人にとっては、おそらくそのとおりなのだと思います。問題は、私がそもそもその前提の側にいなかったことです。製品の落ち度ではなく、買う前に自分で気づいておくべきことでした。

購入を検討している方は、スペック表よりまず、自分が普段から手首に何かを着ける人間かどうかを確認したほうがいいです。ここが合わないと、性能がどれだけ優秀でも、着けるところから始まらなくなります。

2. 外すと、なくす

そして案の定、セミナー中は外して机の上に置いていました。手首の違和感が気になって、集中したいときほど外したくなるのです。

置いた瞬間に、いやな記憶がよみがえりました。私はこれまで、同じやり方でスマートウォッチを3つほどなくしています。着けているうちは絶対になくさないのに、外して置いた途端に行方不明になる。今回のGemは40×25×10mmという、机の上でもっとも見失いやすいサイズです。

要するに、私の場合、着ければストレス、外せば紛失リスクという二択になってしまっている。これは製品の問題ではなく運用の問題なので、解決策を探すのは私の仕事です。

3. 装着方法を、まだ探している

公式が用意している装着スタイルは4つ。リストバンド、Apple Watchとの併用、ペンダント、クリップです。ただ、購入時に選べるのはリストバンドかApple Watch Co-Wear Bandのどちらか一方で、ペンダント用のランヤードとクリップは別売りになります。

ペンダントは検討しました。しかし、私には首から何かを下げる習慣もありません。腕時計をしないという話と根は同じで、身につける習慣がないところに新しい習慣を足すのは、思っている以上に難しい。Apple Watchも使っていないので、併用という選択肢も消えます。

残るのはクリップですが、これも服やバッグに留めるという別の習慣を要求してきます。いま私は、この端末をどこに置くのが自分にとって自然なのかを、真剣に考えている最中です。

そして考えているうちに、ひとつ思い当たったことがあります。

競合であるPlaudには、Plaud NoteやNote Proのように、専用ケースを介してスマートフォンの背面に装着する製品があります。以前の私はこれを「スマホに貼るくらいならスマホで録ればいい」と思っていました。でも、いまは見方が変わりました。スマホは、ほぼすべての人がすでに常時持ち歩いている。そこに貼れば、装着という行為そのものが発生しない。新しい習慣を1つも増やさずに済むのです。

身につける文化を持たない人にとって、あれは実に理にかなった設計だったのだな、と。手首に巻いて初めて、競合の思想が理解できました。皮肉な話ですが、こういう気づきは実機を使わないと絶対に得られません。

4. 防水についての説明が、情報源によって食い違う

これは購入前に確認しておきたい点です。

8月にForbesに掲載されたレビューでは、Memoket GemはIPX7相当で、短時間の水没や雨に耐えられると紹介されています。一方、Memoketの公式マニュアルの「Water Resistance」の項目は、雨、シャワー、水泳を含む水濡れを避けるように案内しています。

腕に着けっぱなしにする製品である以上、この差は小さくありません。手を洗うたびに外すのか、気にせず使えるのかで、日常の負担がまるで変わります。現時点では、公式の案内に従って水濡れを避けるのが安全だと判断しています。ここは今後、公式に整理されていくことを期待したい部分です。

5. 179ドルに含まれているのは、1年分だった

これは購入前に必ず確認しておきたい点です。

179ドルの先行予約パッケージには、Memoketアプリの1年分のProサブスクリプションが含まれています。つまり本体の代金だけでなく、ソフトウェアの利用権1年分がセットになった価格ということです。

では2年目以降はどうなるのか。公式FAQは、Pro機能を継続して使うためのプラン詳細はローンチ前に共有する、と述べるにとどめており、金額はまだ示されていません。

これをどう受け取るかは、人によって分かれると思います。1年分が込みで179ドルなら妥当だという見方もあれば、2年目の金額が分からないまま買うのは判断材料が足りないという見方もあるでしょう。私は後者に近い立場です。この製品の価値はクラウド側のAIにあるのですから、その利用料が未定というのは、価格の半分が見えていないのと同じことです。

前回の記事で私は、この市場の懸念としてクラウド依存とサブスクリプション前提のビジネスモデルを挙げました。その懸念は、いまも残ったままです。金額が公表されたら、あらためて計算し直す必要があります。

6. 録音は本体に残らない、という設計

仕様を読んでいて気づいた点をひとつ。録音データは、スマートフォンへの同期が完了すると本体から削除されます。さらに、ペアリングを解除すると本体内に残っていた録音は完全に消去され、復元できません。

セキュリティの観点では、端末内に録音を残し続けない設計になっています。ただ裏を返せば、この製品はスマートフォンとクラウドがあって初めて完成するということでもあります。単体で完結するICレコーダーとは、根本的に思想が違います。

そして前回の記事で書いた「文鎮化」のリスクは、この構造から来ています。運営が止まれば、手元の11gは本当にただの11gになる。Memoketは現時点で誠実に約束を守っていますが、この構造そのものは、買う側が引き受けるリスクとして残り続けます。


こんな使い方はできないだろうか:現場に「置いてくる」取材

ここからは、まだ実際に試していない構想の話です。使い倒した結果ではなく、装着方法をあれこれ考えているうちに膨らんできた妄想として読んでください。

Slackと連携できるという一点が、ずっと引っかかっています。録音した会話が要約や文字起こしになり、それが自分のワークスペースへ流れてくる。この経路が成立するなら、取材のやり方そのものが変わるのではないかと思うのです。

たとえば、遠方で開かれるイベントを取材したいとします。これまでなら、記者が現地へ行くか、行けなければあきらめるかの二択でした。しかしGemなら、現地で手伝ってくれる方に宅配便で1台送っておき、当日はとにかく良い席を確保してもらうだけで済むかもしれません。あとはボタンを押してもらう。登壇が終わったその瞬間、文字起こしと要約がSlackに上がってくる。それを見ながら、私は自分の机で記事を書き始められます。

この端末が11gで、ボタンがひとつしかなく、説明書を読まなくても使えるという性格は、この用途にはむしろ好都合です。渡す相手に覚えてもらうことが「押す、もう一度押す」の2つしかない。バッテリーも1週間は気にせずに済むので、前日に届いても充電を頼む必要がありません。

もちろん、実行するなら守るべき線があります。主催者や登壇者に録音の可否を確認するのは、記者が自分で現地にいる場合とまったく同じです。むしろ自分が不在なぶん、事前の確認は丁寧にしておく必要があります。赤いランプは光っていますが、それは同意の代わりにはなりません。

技術的にも、確かめていないことが残っています。他人が持ち歩いた端末の録音が、自分のアカウントを経由してSlackへ届くまでに何が要るのか。ペアリングしたスマートフォンが手元にないと転送されないのか。このあたりは、実際に組んでみないと分かりません。

それでも、可能性としては面白いと思うのです。会話を記録する道具が、取材における「距離」の意味を変えるかもしれない。組めたら、その実戦報告はあらためて書きます。

おすすめできる人

  • 対面の会議や商談、取材が多く、その内容が仕事の成果に直結する人
  • 普段から腕時計やスマートウォッチを着ける習慣がある人
  • 録音していることを相手に隠したくない人
  • スマホを取り出す動作すら惜しい場面がある人
  • 設定を作り込むより、箱から出してすぐ使えることを重視する人

おすすめしない人

  • 手首や首に何かを身につける習慣がない人(私です)
  • 小さなものをよくなくす人(これも私です)
  • オンライン会議が中心で、対面の会話が少ない人
  • クラウド前提のサービスに依存したくない人
  • 2年目以降の費用が確定してから判断したい人

まとめ:性能は疑っていない。疑っているのは自分の習慣のほう

Memoket Gemの録音と要約は、初戦で私の予想を明確に上回りました。5メートル先の横を向いた声を拾い、すぐ隣の雑談を落とし、1時間の話をきれいな要約にして返してきた。しかも私は説明書を読まず、アプリの設定画面すら開かず、初期設定のまま使っていました。「本当に混沌とした現場で機能するのか」という前回の問いには、ひとまず良い答えが出ています。

にもかかわらず、私はいまこの端末をどこに着けるかで悩んでいます。性能ではなく、装着で止まっている。技術がどれだけ優秀でも、身につけるという一点で生活習慣とぶつかれば、使われないまま引き出しに入る。ウェアラブルという言葉の重さを、11gの端末に教えられた気がします。

だから点数はまだ付けません。Nape Proのときと同じ理由です。この端末の本当の評価が決まるのは、私が装着方法を見つけたあと、あるいは見つけられなかったあとです。

装着さえ解決すれば、これはかなり強力な道具になる——その手応えは確実にあります。手首か、首か、鞄か。あるいは自分の体から離して、現場に置いてくるという道もある。あとは私が、自分の習慣のほうを少し動かせるかどうかです。続きは、また同じ場所で報告します。


※スペック・価格・仕様は記事執筆時点の情報です。アップデートにより実際の画面や仕様が異なる場合があります。

※179ドルの先行予約価格は、公式サイトによれば米太平洋時間8月31日23時59分、日本時間では9月1日15時59分に終了予定です。

※本体はMoon SilverとMidnight Grayの2色。別売アクセサリーはリストバンドが29.90ドル、ピンクリップが19.90ドルです。保証期間は12カ月、返品は受け取りから30日以内とされています。


【関連記事】

Memoket Gem|0.4オンスのAIウェアラブルが会話を要約・タスク化、8月出荷へ 本記事の前編にあたる発表時の記事。製品の設計思想、Early Birdの価格構成、AIウェアラブル市場の買収動向をまとめている。

PLAUD NotePin登場:GPT-4o搭載の超小型AIボイスレコーダーが革新的な会議記録を実現
Plaudのリストバンド型。本文で触れた装着形態の違いを、同じウェアラブル型どうしで比較できる。

Plaud「Plaud One」発表|会話を記録するだけでなく、その後の仕事まで支援するAIイヤホン 本文で触れたPlaudの最新機。装着形態の考え方の違いを比べると、両社の思想の差が見えてくる。

Plaud Note Pro発売、ハイライト記録とマルチモーダルAIで議事録作成を革新 スマートフォン背面に貼り付ける方式を採るPlaudの一台。Memoket Gemとの直接比較に適している。

【用語解説】

意図的キャプチャ(インテンショナル・キャプチャ) ボタンを押したときだけ録音する方式である。常時録音する「常時オン」型と対をなす。無関係な音声を拾いにくく、要約精度の低下を抑えやすいとされる。

技適(技術基準適合証明等) 電波を発する無線設備が、日本の電波法上の技術基準に適合していることを確認する制度の総称として一般に使われる呼び方である。少量生産向けの技術基準適合証明と、量産向けの工事設計認証がある。適合した機器には、技適マークのロゴ、Rの補助記号、認証番号が表示される。技適を受けていない無線設備を日本国内で電波を発する状態で使用すると、例外制度に該当する場合を除き、電波法違反となるおそれがある。

OPUS 音声や音楽の圧縮に用いられるオープンな符号化方式である。低いビットレートでも人の声の明瞭さを保ちやすく、通話やビデオ会議などのリアルタイム音声用途で広く採用されている。

MEMSマイク 微細加工技術で作られた超小型のマイクである。小型ウェアラブルやスマートフォンに用いられ、Memoket Gemは2基を搭載する。

話者分離(ダイアライゼーション) 録音に含まれる複数の声を聞き分け、「誰がどこで話したか」を区切る技術である。これとは別に、文字起こしの文脈から「医師」「患者」「講師」といった役割名を推定する話者役割識別(Speaker Role Identification)の研究があり、医療分野などで実用化が進んでいる。Memoketのアプリは、この役割付与を会話の文脈に基づいて行い、声紋は収集・使用しないと説明している。

MCP(Model Context Protocol) AIモデルに外部のデータやツールを接続するための共通仕様である。2024年にAnthropicが公開し、その後は開発元を問わず広く採用が進んでいる。対応することで、録音や要約がAIエージェントの作業対象になる。

CLI(コマンドラインインターフェース) 文字によるコマンドでソフトウェアを操作する方式である。他のプログラムから呼び出しやすいため、自動化や開発者向けの用途で用いられる。

Boost Mode(Wi-Fi高速転送) 長時間の録音をスマートフォンへ転送する際に、Bluetoothではなく2.4GHz Wi-Fiを用いる機能である。手動で有効にする必要がある。

文鎮化(ブリック化) クラウド依存のデバイスで、運営企業のサービス停止により本体が動作しなくなる状態を指す。買収・撤退が相次ぐAIウェアラブル市場で、購入リスクとして語られる。

IPX7 防水性能を表す等級のひとつで、一定の条件下で短時間の水没に耐えることを示す。Memoket Gemについては情報源によって記載が分かれている。

【参考リンク】

Memoket(公式サイト)(外部) Memoket Gemを開発・販売する公式サイト。製品仕様、価格、対応アプリ、セキュリティ方針を掲載している。

Memoket Gem Instruction Manual(公式マニュアル)(外部) 本記事のスペック値の出典。仕様表、LEDと振動の意味、安全情報、各国の規制適合情報が記載されている。

Memoket FAQ(公式)(外部) 録音データの取り扱い、同期後の本体からの削除、SOC 2 Type 2認証の取得状況などを説明している。

Privacy Policy(Memoket公式)(外部) 録音データの取り扱い方針。録音中の赤いLEDを、周囲に録音を知らせるための意図的な設計要素として説明している。

証明ラベルの様式(TELEC)(外部) 一般財団法人テレコムエンジニアリングセンターによる、技適の証明ラベルと認証番号の構成の解説。本記事の番号形式の判断はこれに基づく。

Memoket Integrations(公式)(外部) Memoketが連携するツールを紹介する公式ページ。ワークスペースやカレンダーとの接続について掲載している。

Speechmatics(公式サイト)(外部) Memoketが技術パートナーとして挙げる音声認識企業。会話の文字起こしを支える基盤技術を提供する。

【参考記事】

The AI Notetaker Memoket Gem Is A Must-Own For Journalists And Students(Forbes)(外部) Ben Sin氏による実機レビュー。IPX7という防水記述や、AIがChatGPT・Claude・Geminiの組み合わせで動くことに触れている。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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