元Neuralink共同創業者のMax Hodak氏が率いるScience Corporationは、網膜インプラント「PRIMA」の臨床試験結果を発表した。38名の加齢性黄斑変性症患者を対象とした試験では、2mm四方のチップを網膜下に埋め込むことで、視力が平均20/450から20/160まで改善した。
システムの概要
PRIMAシステムは、378個の光電変換ピクセルを搭載した2mm四方のチップと特殊なカメラ付きメガネで構成される。メガネが捉えた視覚情報は赤外線パターンとしてチップに送信され、チップが太陽電池のように機能して電気刺激パターンを生成し、脳に送信する。
臨床試験の成果
参加者は平均で23文字(4.6行)の視力表読み取り能力が向上し、本を読む、カードゲームをする、クロスワードパズルを解くなどの日常活動が可能となった。一部の参加者は、ズーム機能を使用することで20/63の視力まで改善した。
from:A Neuralink Rival Says Its Eye Implant Restored Vision in Blind People
【編集部解説】
Science Corporationが開発したPrimaシステムは、これまでの視覚回復技術の常識を覆す画期的な成果を示しました。従来の網膜インプラントが単なる光の点(フォスフェン)を知覚させるだけだったのに対し、Primaは文字や顔を認識できる「実形態視覚」を実現しています。
この技術の核心は、わずか2mm四方のチップに378個の光電変換ピクセルを搭載した超小型インプラントです。このチップは太陽電池のように機能し、特殊なメガネから送られる赤外線パターンを電気信号に変換して脳に伝達します。
臨床試験の結果は極めて有望です。38名の参加者の視力は平均で20/450から20/160まで改善し、平均で23文字(4.6行)の視力表読み取り能力が向上しました。最も効果が高かった患者では59文字(11.8行)もの改善が見られています。
特筆すべきは、この技術が加齢性黄斑変性症(AMD)の患者に希望をもたらす点です。世界で約800万人が影響を受けているAMDに対して、これまで有効な治療法がありませんでした。
ただし、いくつかの制限もあります。現時点では色覚は再現できず、黄色がかった色調での視覚となります。また、ズーム機能は手動で操作する必要があり、自然な視覚とは異なる面があります。
開発を率いるMax Hodak氏は元Neuralink共同創業者として知られていますが、この技術は実はスタンフォード大学での研究を起源とし、その後Pixium Vision社で発展させられたものです。
現在、欧州での市場承認(CEマーク)取得を目指しており、FDAからはすでにブレークスルーデバイス指定を受けています。この技術は、視覚障害の治療に新たな地平を開く可能性を秘めています。
今後の課題は、長期的な安全性の確認と、より自然な視覚体験の実現です。また、手術の普及や保険適用など、実用化に向けた社会的な課題も残されています。