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evoCAST:DNAを切断せずに遺伝子全体を挿入できる革新的CRISPR技術が登場

evoCAST:DNAを切断せずに遺伝子全体を挿入できる革新的CRISPR技術が登場 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-17 21:44 by admin

米国ブロード研究所のデビッド・リウ氏とコロンビア大学のサミュエル・スターンバーグ氏らの研究チームは、遺伝子全体を人間のDNAに正確かつ効率的に挿入できる革新的なゲノム編集ツール「evoCAST」を開発したと報じられた。

evoCAST(エボキャスト)は、CRISPR関連トランスポザーゼ(CAST)と呼ばれる細菌酵素複合体を基に、指向性進化の手法を用いて開発された。研究チームはバクテリオファージを使った実験で数百世代にわたる進化と合理的な工学的改良を組み合わせ、CASTアーキテクチャに寄与する5つのタンパク質にわたって21の小さな変化を加えた最適化バージョンを作り出した。

evoCAST(エボキャスト)の挿入効率は最大30〜40%に達し、これは改良前の元のバージョンと比較して400倍以上の改善である。実験室でのテストでは、10,000ヌクレオチド以上のDNAセグメントを成功裏に統合し、これは遺伝子全体とその制御要素を送達するのに十分な長さである。

従来のCRISPRシステムはDNAの切断が必要で望ましくない変異や不完全な修復のリスクがあったが、evoCAST(エボキャスト)はゲノム内に二本鎖切断を作成することなく、単一の酵素ステップで遺伝的貨物を送達できる。また、従来の遺伝子導入に使われる工学的ウイルスはDNAをランダムに挿入するリスクがあったが、evoCAST(エボキャスト)はゲノムの「安全港」部位を標的にできる。

この技術は、一度の投与で効果を発揮し、個人の疾患を引き起こす特定の変異に関係なく機能する遺伝子修正療法への道を開く可能性がある。特に嚢胞性線維症や血友病など、同じ遺伝子の多様な変異によって引き起こされる疾患の治療に革命をもたらす可能性がある。また、がん治療のためのCAR-T細胞療法の開発を加速し、研究用の遺伝子モデルの作成を簡素化することも期待されている。

同時期に、ハーバード医科大学のジョナサン・グーテンバーグ氏とオマー・アブダイエ氏のチームも鳥類のゲノムで見つかった可動遺伝要素に基づくシステムを発表している。また、カリフォルニア州のバイオテクノロジー企業Metagenomiも類似のアプローチを報告している。

References:
文献リンクPowerful CRISPR system inserts whole gene into human DNA

【編集部解説】

今回のevoCAST(エボキャスト)の開発は、遺伝子治療の分野において画期的な進歩と言えるでしょう。複数の情報源を確認したところ、この技術の核心は「DNAを切断せずに遺伝子全体を正確に挿入できる」という点にあります。

従来の遺伝子編集技術には大きく分けて二つの方法がありました。一つはCRISPRなどによる高精度な編集ですが、小さな変更に限られていました。もう一つはウイルスベクターを使った方法で、大きな遺伝子を挿入できますが、挿入位置がランダムで予期せぬ問題を引き起こす可能性がありました。

evoCAST(エボキャスト)はこの両方の長所を兼ね備えています。CRISPR関連トランスポザーゼ(CAST)という細菌由来の酵素複合体を活用し、指向性進化という手法で最適化されたこのシステムは、DNAに二本鎖切断を作らずに遺伝子全体を特定の位置に挿入できるのです。

特に注目すべきは、この技術が10,000ヌクレオチド以上のDNA断片を挿入できる点です。これは遺伝子全体とその制御要素を含むのに十分な長さであり、多くの遺伝病治療に応用できる可能性を秘めています。

この技術がもたらす最大の恩恵は、「変異に依存しない治療法」の実現かもしれません。例えば、嚢胞性線維症では数百から数千もの異なるCFTR遺伝子変異が原因となり得ます。現在の遺伝子治療は特定の変異に対応するよう設計されることが多いのですが、evoCAST(エボキャスト)を使えば、患者さんの持つ特定の変異に関わらず、健全な遺伝子全体を正しい位置に挿入することで治療効果を発揮できます。

また、がん治療のためのCAR-T細胞療法の開発加速や、研究用の遺伝子モデル作成の簡素化にも貢献するでしょう。特にCAR-T細胞療法などの分野では、より効率的かつ安全な細胞改変が可能になるかもしれません。

しかし、課題もあります。evoCAST(エボキャスト)システムは複雑で大きな酵素複合体であるため、実際の治療現場での配送方法が課題となります。スターンバーグ氏自身も「これらのツールとそのペイロードを、どのように実際に対象となる細胞や組織に届けるか」という課題を指摘しています。また、まれではありますが意図しない挿入が発生する可能性も報告されており、臨床応用に向けてはさらなる安全性の検証が必要でしょう。

興味深いのは、同時期に複数の研究グループが類似のアプローチを発表していることです。ハーバード医科大学のチームは鳥類ゲノム由来の可動遺伝要素を活用したシステムを、バイオテクノロジー企業Metagenomiはより単純なトランスポザーゼシステムを報告しています。これは遺伝子治療の分野が「DNAを切断せずに大きな遺伝子を挿入する」という方向に大きくシフトしていることを示しています。

【用語解説】

CRISPR(クリスパー):
バクテリアが持つ免疫システムを応用した遺伝子編集技術。DNAの特定部位を切断し、遺伝子を改変できる。「遺伝子のハサミ」とも呼ばれる。

トランスポザーゼ(Transposase):
「ジャンピング遺伝子」と呼ばれる可動性遺伝因子を動かす酵素。DNAの一部を切り出して別の場所に挿入する機能を持つ。

CAST(CRISPR-associated transposase):
CRISPRシステムとトランスポザーゼを組み合わせた複合体。特定のDNA配列を認識し、そこに大きな遺伝子を挿入できる。

指向性進化(Directed Evolution):
実験室内で人工的に進化のプロセスを再現し、目的の機能を持つタンパク質や酵素を開発する手法。2018年にノーベル化学賞を受賞した技術。

バクテリオファージ:
細菌に感染するウイルス。遺伝子工学では、遺伝子を細菌に導入するための「運び屋」として利用される。

PACE(Phage-Assisted Continuous Evolution):
ファージ支援連続進化法。タンパク質の進化プロセスを実験室で加速させる技術で、evoCAST開発に使用された。

嚢胞性線維症:
CFTR遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性疾患。粘液の産生異常により、肺や消化器系に深刻な問題を引き起こす。

血友病:
血液凝固因子の遺伝子変異によって引き起こされる出血性疾患。

【参考リンク】

ブロード研究所(Broad Institute)(外部)
マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学が共同で設立したバイオ医学研究所。ゲノム研究の世界的拠点。

コロンビア大学(Columbia University)(外部)
ニューヨーク市にある名門私立大学。アイビーリーグの一つで、今回の研究の共著者スターンバーグ氏が所属。

Metagenomi(外部)
カリフォルニア州エメリービルに本社を置くバイオテクノロジー企業。微生物のゲノム編集ツールを開発している。

【参考動画】

【編集部後記】

今、遺伝子治療の未来が大きく変わろうとしています。この「evoCAST」技術は、DNAを切断せずに遺伝子全体を挿入できるという点で革命的です。もし自分や家族が嚢胞性線維症や血友病などの遺伝性疾患を持っていたら、このような技術がどのような希望をもたらすか想像したことはありますか?また、医療以外の分野でも応用できるこの技術が、私たちの生活をどう変えていくでしょうか。ぜひSNSで皆さんの考えをシェアしてください。テクノロジーが人間の可能性を広げる瞬間を、一緒に見守っていきましょう。

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TaTsu
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