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腎機能低下がパーキンソン病を引き起こす?武漢大学の研究が示す腎臓-脳連関の新事実

腎機能低下がパーキンソン病を引き起こす?武漢大学の研究が示す腎臓-脳連関の新事実 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-30 06:54 by admin

中国の武漢大学の研究チームが科学誌『Nature Neuroscience』にて、パーキンソン病の発症起点に関する新たな知見を発表した。

従来パーキンソン病は脳内のドーパミン産生低下による神経学的損傷が原因とされてきたが、腎臓が発症の起点となる可能性を発見した。

研究では、パーキンソン病およびレビー小体型認知症患者11人中10人の腎臓で異常なアルファシヌクレイン(α-Syn)タンパク質の蓄積を確認した。さらに慢性腎疾患患者20人中17人でも同様のタンパク質機能不全が発見されたが、これらの患者には神経学的障害の兆候はなかった。

動物実験では、健康な腎臓を持つマウスは注入されたα-Syn塊を除去したが、腎機能が低下したマウスではタンパク質が蓄積し脳に拡散した。脳と腎臓間の神経を切断した実験では拡散は起こらなかった。

研究者らは血液からのα-Syn除去がパーキンソン病進行を阻害し、レビー小体疾患の新たな治療戦略を提供する可能性があると結論付けた。

From: 文献リンクParkinson’s Disease Might Not Start in The Brain, Study Finds

【編集部解説】

今回の武漢大学の研究は、パーキンソン病の発症メカニズムに関する従来の理解を根本から覆す可能性を秘めています。これまで脳内のドーパミン産生細胞の死滅が主因とされてきた同疾患が、実は腎臓という末梢器官から始まる可能性を示した点で、医学界に大きな衝撃を与えています。

特に注目すべきは、慢性腎疾患患者20人中17人でアルファシヌクレイン(α-Syn)異常が確認されながら、神経症状が現れていなかった事実です。これは腎機能低下が神経変性疾患の「前段階」として機能している可能性を示唆しており、早期診断や予防的介入の新たな窓口となる可能性があります。

研究で明らかになった腎臓のα-Syn除去機能について、腎機能が低下すると、この除去能力が著しく減退し、血中に蓄積したタンパク質が神経経路を通じて脳へと移行します。動物実験では、腎神経を切断することでこの伝播が完全に阻止されたことから、神経経路の重要性が確認されています。

この発見が治療戦略に与える影響は計り知れません。血液透析や血液浄化療法によるα-Syn除去、腎機能保護薬の予防的投与、さらには腎神経遮断術といった新たなアプローチが考えられます。特に慢性腎疾患患者に対する神経変性疾患スクリーニングの必要性も浮上してくるでしょう。

一方で、この研究には限界もあります。人体サンプル数の少なさ、動物モデルと人間の生理学的差異、そして腎臓以外の発症経路(腸管など)との関係性については、さらなる検証が必要です。また、腎機能正常者におけるパーキンソン病発症メカニズムについては、依然として謎が残されています。

長期的視点では、この研究成果が腎臓内科と神経内科の連携強化を促し、統合的な診療体制の構築につながる可能性があります。さらに、α-Syn標的療法の開発において、腎臓を新たなターゲット臓器として位置づける治療戦略の確立が期待されます。

【用語解説】

アルファシヌクレイン(α-Syn)
140アミノ酸からなる分子量14.5kDaのタンパク質で、主に神経細胞のシナプス前末端に存在する。正常時はシナプス機能制御や神経可塑性に関与するが、異常凝集するとレビー小体を形成し、パーキンソン病などの神経変性疾患の原因となる。

レビー小体
神経細胞内に形成される異常なタンパク質凝集体で、主にアルファシヌクレインから構成される。パーキンソン病やレビー小体型認知症の病理学的特徴として知られ、細胞毒性を有する。

慢性腎疾患(CKD)
慢性に経過するすべての腎臓病を指し、腎機能の低下や腎障害が3カ月以上続く状態。

【参考リンク】

武漢大学(外部)
中国湖北省武漢市に位置する国立大学。1893年創立で中国最古の国家重点大学の一つ

脳科学辞典 – αシヌクレイン(外部)
日本神経科学学会が運営する脳科学の専門用語辞典。αシヌクレインの基本的な性質から病理学的意義まで専門的に解説

レビー小体型認知症研究会(外部)
小阪憲司医師が代表世話人を務める研究会の公式サイト。レビー小体型認知症の診断基準や専門医情報を提供

慢性腎臓病(CKD)について – 森下記念病院(外部)
慢性腎臓病の基本的な病態から診断、治療まで分かりやすく解説。eGFRやクレアチニン値の見方も詳細に説明

【参考動画】

【参考記事】

Propagation of pathologic α-synuclein from kidney to brain may contribute to Lewy body diseases
武漢大学の研究チームによる原著論文。腎臓から脳へのアルファシヌクレイン伝播メカニズムを詳細に解析し、腎機能低下がレビー小体疾患発症に寄与する可能性を示した。

Can Kidneys Kickstart Parkinson’s?
アルツハイマー病研究の専門サイトによる詳細な解説記事。武漢大学の研究結果について専門家の見解を含めて分析し、腎臓起源のパーキンソン病仮説について議論している。

Scientists uncover kidney-to-brain route for Parkinson’s-related protein spread
心理学・神経科学の専門メディアによる研究解説。動物実験の詳細や神経経路を通じたタンパク質伝播メカニズムについて分かりやすく説明している。

【編集部後記】

今回の研究は、私たちが当たり前だと思っていた医学の常識を覆す発見でした。腎臓の健康がまさか脳の病気と直結しているなんて、想像もしていませんでした。

皆さんはどう感じられましたか?もしかすると、健康診断で見過ごしがちな腎機能の数値が、実は将来の認知機能に影響を与えているかもしれません。この研究をきっかけに、ご自身や大切な人の健康について、これまでとは違った視点で考えてみませんか?医学の進歩は私たちの生活をどう変えていくのでしょうか。

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TaTsu
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