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量子コンピュータ開発競争:Amazon、Google、Microsoft、NVIDIAが実用化へ向けた最新動向

量子コンピュータ開発競争:Amazon、Google、Microsoft、NVIDIAが実用化へ向けた最新動向 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-03-23 23:00 by admin

2025年3月21日、CNBCは「なぜスタートアップと技術大手は実用的な量子コンピュータの構築を競っているのか」と題する記事を公開した。

この記事によると、Amazon、IBM、Google、Intel、Microsoftといった技術大手企業だけでなく、Rigetti、IonQ、Quantum Computing Inc.、D-Wave Quantum Inc.などの企業も量子技術の開発に取り組んでいる。

最新の参入企業はNvidiaで、CEOのジェンセン・フアン氏は2025年3月、同社がボストンに量子コンピューティング研究センターを建設すると発表した。

ボストン・コンサルティング・グループのマネージングディレクター兼パートナーであるマット・ランジオン氏によれば、現在の量子技術への関心の高まりは、技術的進歩、資金調達、実世界への応用への明確な道筋が収束したことによるものだという。世界中の政府によって量子技術に500億ドル以上が投じられているとの推計もある。

専門家は、量子コンピューティングが従来のコンピュータでは困難または不可能な問題を効率的に解決する可能性を持つと指摘している。ただし、量子コンピュータが従来のコンピュータを完全に置き換えるのではなく、両者は補完的な関係になるとランジオン氏は述べている。

量子システムは新薬開発やより良いバッテリー材料の開発などに特に有効と考えられている。マッキンゼー・アンド・カンパニーのアナリストによると、量子コンピューティングから最も早く経済的影響を受ける可能性が高い産業はモビリティ、化学、金融サービス、ライフサイエンスの4分野で、これらは2035年までに最大2兆ドルの価値を生み出す可能性があるという。

ベンチャーキャピタル企業Playground Globalの創設者兼ゼネラルパートナーであるピーター・バレット氏は、量子コンピューティングが産業、商業、科学のほとんどの側面を劇的に変える可能性があると述べている。同社は量子コンピューティングのスタートアップPsiQuantumの主要投資家でもある。

近年の大きな進歩にもかかわらず、量子コンピュータはまだ大きな実世界の問題を解決するには至っていない。CNBCはPsiQuantumを訪問し、実用的な量子コンピュータの実現への進捗と課題について調査を行った。

from:Why startups and tech giants are racing to build a practical quantum computer

【編集部解説】

主要プレイヤーの最新動向

量子コンピューティング分野の主要プレイヤーとその最新動向を見てみましょう。

Nvidiaは2025年3月18日、ボストンに量子コンピューティング研究センター(NVAQC)を設立することを発表しました。このセンターでは、量子ハードウェアとAIスーパーコンピュータを統合し、「加速量子スーパーコンピューティング」と呼ばれる技術の開発を目指しています。Quantinuum、Quantum Machines、QuEra Computingといった量子コンピューティングの先駆者企業や、ハーバード大学、MITなどの研究機関と協力して研究を進める予定です。
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※ジェンセン・フアンCEOは今年1月のCESで「15年~30年かかる」と発言。
NVIDIA vs D-Wave:量子コンピューティングの実用化を巡る論争が勃発、業界に激震
※わずか数か月で180度の方向転換。以下↓はXenospectrumの解説記事
NVIDIA CEO、量子コンピュータ否定発言を撤回「私は間違っていた」(外部)
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また、IBMは2023年12月に1,121量子ビットの「Condor」プロセッサを発表し、量子ビット数の拡大に成功しています。同社は「量子実用性」の実現に向けて、エラー軽減技術の開発にも注力しています。

Googleも105量子ビットの「Willow」を開発し、エラー修正に焦点を当てた開発を進めています。同社は2019年に「量子超越性」を初めて実証したことで知られており、継続的に量子コンピューティング技術の向上に取り組んでいます。

Amazonは「Amazon Braket」というクラウドサービスを通じて、複数のハードウェアプロバイダーの量子コンピュータへのアクセスを提供しています。これにより、研究者や開発者は様々な量子コンピューティングアーキテクチャを比較検討することが可能になっています。

量子コンピューティングの現状と課題

量子コンピューティングは急速に進歩していますが、実用的な量子コンピュータの実現にはまだいくつかの課題があります。

最大の課題の一つは、量子ビットのエラー率の高さです。量子状態は非常に繊細で、環境との相互作用によって「量子デコヒーレンス」と呼ばれる状態劣化が起こりやすいのです。このため、エラー訂正技術の開発が重要な研究テーマとなっています。

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※Microsoftによる新しい解決策
Microsoft Majorana 1:トポロジカル量子ビットの実証に成功 ─ 量子コンピューティングの新たな可能性
Microsoft Majorana 1が量子コンピューティングを変える – 100万量子ビットへの革新的アプローチ
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また、量子コンピュータの実用化には、量子ビット数の拡大も必要です。現在の量子コンピュータはまだ小規模で、実用的な問題を解くには不十分な場合が多いのが現状です。IBMやGoogleが100量子ビット以上のプロセッサを開発していますが、実用的なアプリケーションには数千から数百万の量子ビットが必要とされています。

さらに、量子アルゴリズムの開発も重要な課題です。量子コンピュータの能力を最大限に引き出すためには、量子の特性を活かした専用のアルゴリズムが必要となります。現在、通常のコンピュータ上での量子シミュレーションを使って、様々な量子アルゴリズムの開発とテストが進められています。

量子コンピューティングの倫理的側面と社会的影響

技術の進歩に伴い、量子コンピューティングの倫理的側面にも注目が集まっています。

量子コンピューティングは暗号解読能力を持つため、現在広く使用されている暗号方式が脆弱になる可能性があります。これにより、プライバシーやデータセキュリティに関する新たな課題が生じる可能性があるのです。この問題に対応するため、「耐量子暗号」の開発も進められています。

また、量子機械学習(QML)は古典的モデルからバイアスを継承し、医療や採用などの重要な分野での不公平な意思決定につながる可能性も指摘されています。

さらに、量子技術の軍事利用、特に暗号化と監視における潜在的な応用も倫理的懸念事項となっています。

これらの課題に対処するためには、多様性と包括性(D&I)の原則を量子ソフトウェアエンジニアリングに組み込むことが重要です。過去の人工知能や古典的ソフトウェア開発の分野での教訓を活かし、量子技術が社会全体に公平に利益をもたらすよう努める必要があります。

今後の展望

2025年以降、量子チップはさらにスケールアップし、次世代の量子プロセッサは論理量子ビットに支えられ、ますます有用なタスクに取り組めるようになると予想されています。

量子ハードウェアは急速に進歩していますが、量子ソフトウェアとアルゴリズムの分野での研究開発も見逃せません。これにより、量子ハードウェアが追いついたときに、量子コンピューティングが有用なアプリケーションに対応できるようになるでしょう。

完全なスケールの量子コンピュータの構築は困難な課題ですが、チップ上の量子ビット数の拡大、量子ビットの忠実度の向上、より良いエラー訂正、量子ソフトウェア、量子アルゴリズムなど、多くの分野での同時進歩が必要とされています。

業界アナリストによると、実用的な量子コンピュータ(古典的コンピュータの能力を超える実世界の問題を解決できるもの)は5〜10年以内に登場する可能性がありますが、予測は大きく異なります。

いずれにしても、量子コンピューティングは人類の最大の課題の一部を解決する可能性を秘めた革命的な技術であり、今後の発展が大いに期待されるのです。

【用語解説】

量子コンピュータ
量子力学の原理を利用して情報処理を行うコンピュータ。従来のコンピュータが0か1のビットで計算するのに対し、量子コンピュータは0と1の重ね合わせ状態を利用できる量子ビット(キュービット)を使用する。これにより特定の問題を従来のコンピュータより圧倒的に速く解ける可能性がある。

量子ビット(キュービット)
量子コンピュータの基本情報単位。従来のビットと異なり、0と1の状態を同時に取る「重ね合わせ状態」が可能で、これが量子コンピュータの計算能力の源となる。

量子超越性(Quantum Supremacy)
量子コンピュータが特定の問題において、最高性能の古典的コンピュータを上回る性能を示すこと。Googleが2019年に初めて実証したとされる。

NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)
現在の量子コンピュータの発展段階を表す用語。「ノイズの多い中規模量子」の意味で、エラー率が高く量子ビット数も限られている現状を指す。

デコヒーレンス
量子ビットが環境と相互作用することで量子状態(重ね合わせ状態)が失われる現象。量子コンピュータの最大の課題の一つで、これを防ぐために極低温環境などの特殊な条件が必要となる。

量子誤り訂正
量子ビットのエラーを検出・修正する技術。複数の物理量子ビットを組み合わせて1つの論理量子ビットを構成し、より安定した計算を可能にする。

論理量子ビット
複数の物理量子ビットを組み合わせて作られる、エラー訂正機能を持つ量子ビット。実用的な量子コンピュータの実現には、安定した論理量子ビットの構築が不可欠である。

【参考リンク】

IBM Quantum(外部)
IBMが提供する量子コンピューティングプラットフォーム。クラウドを通じて量子コンピュータへのアクセスを提供している。

Google Quantum AI(外部)
Googleの量子コンピューティング研究部門。量子優位性の実証など先進的な研究を行っている。

Microsoft Quantum(外部)
マイクロソフトの量子コンピューティング部門。トポロジカル量子ビットなど独自のアプローチで研究を進めている。

Amazon Braket(外部)
AWSが提供する量子コンピューティングサービス。複数のハードウェアプロバイダーの量子コンピュータにアクセス可能。

NVIDIA量子コンピューティング(外部)
NVIDIAの量子コンピューティング部門。GPUを活用した量子シミュレーションなどを提供している。

IonQ外部)
イオントラップ方式の量子コンピュータを開発する企業。Google CloudやAmazon Braketを通じてアクセス可能。

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TaTsu
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