メリーランド大学の物理学者イザベラ・ジョバネリとスティーブン・アンレージが、「虚数時間」における光の振る舞いを世界で初めて実験的に観測することに成功した。
実験では、円形に接続した同軸ケーブル内でマイクロ波放射のパルスを使用し、最先端のオシロスコープで微小な周波数変化を検出した。従来、虚数は負の数の平方根のような抽象的な数学ツールとして物理現象の方程式解決に使われていたが、実際の物理的意味は不明だった。研究チームは、虚数時間の遅れがパルス波形の周波数変化として現れることを実証し、数学的概念が実際の物理現象に対応することを明らかにした。
この発見は、特定の条件下で波束のピークが光速を超えて進むように見える現象(情報伝達は光速以下)における、時間遅延の物理的メカニズム解明に貢献します。
From: Physicists Catch Light in ‘Imaginary Time’ in Scientific First
【編集部解説】
今回の研究は、量子物理学における理論と実験の架け橋となる画期的な成果です。これまで「虚数時間」は数学的な便利ツールとして扱われてきましたが、実際の物理現象との対応関係は謎に包まれていました。
メリーランド大学の研究チームが行った実験の核心は、同軸ケーブルを円形に接続した「リンググラフ」という単純な構造にあります。この装置は、マイクロ波が物質中を伝播する際の複雑な相互作用を制御された環境で観測できる優れた実験系といえるでしょう。
特に注目すべきは、「虚数時間の遅れ」が実際にパルス波形の周波数変化として観測されたことです。これは2016年に浅野氏らが理論的に予測していた現象の実験的証明であり、長年の理論物理学の課題に決着をつけた形になります。
この現象の理解は、量子コンピューティング分野に大きな影響を与える可能性があります。量子情報処理では、量子状態の制御と測定が核心技術ですが、今回の発見により、これまで理論的にしか扱えなかった「虚数時間」での量子状態操作が現実的な技術として発展するかもしれません。
また、光通信技術への応用も期待されます。光ファイバー通信では、信号の遅延や歪みが通信品質を左右しますが、虚数成分を活用した新しい信号処理技術が生まれる可能性があります。
さらに、この研究はスティーブン・ホーキング博士がビッグバンの特異点問題を解決するために導入した虚数時間の概念にも新たな光を当てています。宇宙論における虚数時間の役割についても、今後の研究で新しい理解が得られるかもしれません。
ただし、この技術の実用化には時間がかかると予想されます。現段階では基礎研究の段階であり、実際のデバイスへの応用には更なる技術開発が必要でしょう。それでも、物理学の基本概念を覆すこの発見は、未来のテクノロジーの土台となる重要な一歩なのです。
【用語解説】
虚数時間(Imaginary Time):
虚数単位を含む時間の概念で、量子力学や統計力学において数学的に便利なツールとして使用される。スティーブン・ホーキング博士がビッグバンの特異点問題を解決するために導入したことでも知られる。
虚数時間遅れ(Imaginary Time Delay):
波が物質中を通過する際の遅延時間の虚数成分。2016年に浅野氏らが理論的に予測し、今回初めて実験的に観測された現象。
ウィグナー・スミス時間遅れ:
波がトンネル効果などで物質を通過する際の遅延時間を定義する概念。ユージン・ウィグナーとフェリックス・スミスによって定式化された。
同軸ケーブル(Coaxial Cable):
中心導体と外部導体が同軸に配置された構造を持つケーブル。信号伝送において優れた性能を提供する。
リンググラフ(Ring Graph):
ネットワーク・トポロジーの一種で、ノードが環状構成で配置される構造。今回の実験では同軸ケーブルを円形に接続した実験装置を指す。
【参考リンク】
メリーランド大学物理学部(外部)
世界ランキング19位の物理学研究機関として量子物理学や凝縮系物理学の先端研究を行う
Physical Review Letters(外部)
アメリカ物理学会が発行する世界最高峰の物理学学術誌で今回の研究成果が掲載
【参考記事】
「虚数時間」の物理現象を世界で初めて実測することに成功(外部)
虚数時間の概念からホーキング博士の理論まで含めて詳細に解説した日本語記事
【News】「虚数時間」を世界初実測!──波は i 秒の影を旅した(外部)
研究内容について技術的な観点から中心周波数のズレと波の状態変化を詳しく説明
【編集部後記】
今回の「虚数時間」の実験的観測は、ホーキング博士がビッグバンを説明するために使った概念が、身近なマイクロ波でも確認できたという驚きの発見です。数学の授業で習った虚数が、宇宙の始まりから日常の電波まで、あらゆるところで活躍していたなんて不思議ですよね。この発見が量子コンピューティングや光通信にどんな革新をもたらすのか、一緒に見守っていきませんか?