2025年6月28日、中国・北京で初回RoBoLeagueロボットサッカー競技大会が開催された。4チームのヒューマノイドロボットが完全自律型3対3のサッカー試合を行い、人工知能のみで動作し人間の介入や監督は一切なかった。ロボットは高度な視覚センサーを装備し、ボールを識別してフィールドを移動する。転倒後は自力で立ち上がる設計だが、試合中に担架で運ばれるロボットもあった。
この大会は2025年8月15日から17日まで北京の国家体育場と国家スピードスケート館で開催される世界ヒューマノイドロボット競技大会のプレビューイベントである。ロボット提供企業のBooster Roboticsの創設者兼CEO程浩氏によると、スポーツ競技はヒューマノイドロボットの理想的なテスト場でアルゴリズムとハードウェア・ソフトウェアシステムの開発を加速する。
Booster Roboticsが4つの大学チーム全てにハードウェアを提供し、各大学の研究チームが知覚、意思決定、選手フォーメーション、パス戦略のアルゴリズムを開発した。決勝戦では清華大学のTHU Roboticsが中国農業大学のMountain Seaチームを5対3で破り優勝した。中国は現在、マラソン、ボクシング、サッカーなどのスポーツ競技を実証の場としてAI搭載ヒューマノイドロボットの開発を強化している。
From:
Chinese humanoid robots steal the spotlight in soccer over humans
【編集部解説】
今回の北京でのロボットサッカー競技は、確かに見た目には「転倒を繰り返すヨチヨチ歩きのロボット」という印象を与えるかもしれません。しかし、その裏にある技術的意義は計り知れないものがあります。
この競技の最も革新的な側面は、完全自律性にあります。従来のロボット競技では、人間のオペレーターが遠隔操作や事前プログラミングで制御することが一般的でした。しかし、今回のBooster Robotics製T1ロボットは、リアルタイムでボールを認識し、フィールド状況を判断し、戦術的決定を下すという、まさに「エンボディードAI(身体化された人工知能)」の実践例となっています。
元記事で程浩CEOが強調していた安全性の問題も重要な観点です。「将来、ロボットが人間と一緒にサッカーをプレイする時代が来るかもしれません。そのためには、ロボットが完全に安全であることをしっかりと確保する必要があります。」という発言は、ヒューマノイドロボットの社会実装における根本的な課題を示しています。
中国がスポーツを通じてヒューマノイドロボット技術を発展させる戦略も注目に値します。マラソン、ボクシング、そしてサッカーという多様な競技を実証実験の場として活用することで、動的バランス制御、環境認識、リアルタイム判断など、将来の産業応用に直結する技術要素を総合的に検証しています。
8月15日から17日に開催される世界ヒューマノイドロボット競技大会では、体操、陸上競技、サッカーなど19種目が実施される予定です。これは単なるエンターテインメントではなく、工場での重労働、災害救助活動、高齢者支援など、様々な分野でのヒューマノイドロボット活用への道筋を示す重要な技術実証となるでしょう。
一方で、元記事の描写からも分かるように、現在の技術レベルでは転倒や動作の不安定さといった課題が残されています。しかし、これらの「失敗」こそが、次世代のアルゴリズム改良と安全性向上に向けた貴重なデータとなっているのです。
【用語解説】
エンボディードAI(身体化された人工知能)
物理的な身体を持つロボットに搭載された人工知能。従来のデジタル空間での処理とは異なり、現実世界の物理的制約の中で動作し、センサーからの情報を基に判断・行動する。フィジカルAIとも呼ばれる。
完全自律型ロボット
人間の遠隔操作や事前プログラミングに依存せず、AI技術によってリアルタイムで環境を認識し、独自に判断・行動できるロボット。
動的バランス制御
移動や作業中に重心を適切に制御し、転倒を防ぐロボット技術。二足歩行ロボットにとって最も重要な基礎技術の一つ。
RoBoLeague
中国で開催されたヒューマノイドロボットサッカー競技大会の名称。完全自律型ロボットによる3対3のサッカー試合を実施。
【参考リンク】
Booster Robotics公式サイト(外部)
T1ヒューマノイドロボットを開発した中国企業の公式ページ
世界ヒューマノイドロボット競技大会2025公式情報(外部)
北京市政府による8月開催予定の世界大会に関する公式発表
RoboCup公式サイト(外部)
世界最大のロボットサッカー競技会の公式ページ、技術動向を把握可能
【参考動画】
【参考記事】
A bumbling game of robot soccer was a breakthrough for embodied AI(外部)
NBC Newsによる今回のロボットサッカー大会の詳細レポート
China’s humanoid robots generate more soccer excitement than their human counterparts(外部)
AP通信による中国のヒューマノイドロボット技術発展に関する分析記事
Why humanoid robots need their own safety rules(外部)
MIT Technology Reviewによるヒューマノイドロボットの安全基準に関する詳細解説
【編集部後記】
このロボットサッカーの映像を見て、皆さんはどう感じられましたか?転倒を繰り返すロボットたちの姿に、つい微笑んでしまった方も多いのではないでしょうか。しかし、この「ぎこちなさ」の向こう側に、私たちの働き方や生活を根本から変える可能性が隠れているかもしれません。
10年後、20年後の職場や家庭で、こうしたヒューマノイドロボットと肩を並べて作業する日が来るとしたら、今から私たちはどんな準備をしておくべきでしょうか?技術の進歩を歓迎すべきでしょうか、それとも慎重に向き合うべきでしょうか。