Last Updated on 2025-04-05 10:02 by admin
中国のチップ設計会社である龍芯(Loongson)は2025年4月3日、モバイルおよび産業用途向けの新型プロセッサー「2K3000」と「3B6000M」の開発に成功したと発表した。両チップは同じシリコンを使用しているが、パッケージが異なり、それぞれ産業制御用途とモバイルデバイス向けに設計されている。
これらの新型プロセッサーは、龍芯独自の「LoongArch」命令セットアーキテクチャに基づく8コアのLA364Eプロセッサーコアを搭載している。クロック周波数は2.5GHzで、SPEC CPU2006ベンチマークテストでシングルコア固定小数点スコアが30ポイントに達したと報告されている。
グラフィックス性能については、新モデルのLG 200 GPUを搭載しており、単精度浮動小数点のピーク性能が256GFLOPS、8ビット固定小数点のピーク性能が8TOPSを実現している。また、4K解像度で60FPSの映像出力が可能である。
インターフェースとしては、PCIe 3.0、USB 3.0/2.0、SATA 3.0、イーサネット用GMAC、ストレージ用eMMC、SDIO、SPI、LPC、RapidIO、CAN-FDをサポートしている。さらに、中国のSM2/SM3/SM4暗号化標準をハードウェアレベルでサポートしている。
また、龍芯は最近、サーバーグレードのCPU「3C6000」シリーズも発表した。このシリーズには、16コア32スレッドの「3C6000/S」、32コア64スレッドの「3C6000/D」、そして2025年に発売予定の64コア128スレッドの「3C6000/Q」が含まれる。これらのプロセッサーは、龍芯の「Dragon Chain」(龍鏈)と呼ばれる独自のインターコネクト技術を使用している。
3C6000シリーズは、前世代の3C5000と比較して、一般的な計算能力が2倍に向上し、SPEC CPU 2017ベンチマークスコアが60%から95%向上、UnixBenchマルチスレッド性能が100%向上したと報告されている。また、インテルのXeon Silver 4314プロセッサーと同等の性能を持つとされている。
龍芯のチップは中国政府によって推進されており、選ばれた学校で1万台のPCを使用した試験運用が行われている。また、中国の宇宙ステーションでクラウドコンピューティングプラットフォームを運用するためにも使用されている。
2025年4月初旬、龍芯はLoongArchアーキテクチャと互換性のある120のアプリケーションのリストを公開した。これには、ヘルスケア業務向けソフトウェア、データベース、オフィススイートなどが含まれている。
龍芯の新型プロセッサーは、中国の半導体自給自足への取り組みの一環として重要な役割を果たしているが、IntelやAMDの製品と比較すると約5年遅れていると評価されている。
from:China’s chip champ Loongson teases trio of new processors for lappies, factories, maybe servers too
【編集部解説】
中国の龍芯(Loongson)による新型プロセッサーの発表は、中国の半導体産業における自立への取り組みの重要な進展を示しています。今回発表された2K3000と3B6000Mは、同じシリコンウェハーを使用しながらも、異なるパッケージングで産業制御用途とモバイル端末向けにそれぞれ最適化されています。
特に注目すべきは、これらのプロセッサーが龍芯の独自命令セットアーキテクチャ「LoongArch」を採用している点です。このアーキテクチャはMIPSとRISC-Vの要素を組み合わせたもので、中国が外国技術への依存から脱却しようとする戦略の一環となっています。
性能面では、8コアのLA364Eプロセッサーコアを搭載し、2.5GHzのクロック周波数で動作します。グラフィックス処理には新型のLG 200 GPUを採用し、単精度浮動小数点演算で256GFLOPS、8ビット固定小数点演算で8TOPSの性能を実現しています。これは軽量なAIワークロードの処理が可能なレベルであり、Nintendo Switchの携帯モード時のGPUよりもやや高速とされています。
しかし、西側の最新プロセッサーと比較すると、龍芯のチップはまだ約5年の遅れがあるとされています。それでも、中国政府の強力な後押しにより、すでに学校での1万台規模の試験導入や宇宙ステーションでのクラウドコンピューティングプラットフォームへの採用など、実用化が進んでいます。
龍芯の取り組みは単なるプロセッサー開発にとどまらず、中国の情報技術エコシステム全体の自立を目指す大きな戦略の一部です。すでに多くの産業制御システムやIT企業が新チップの製品設計への統合を開始しており、ソフトウェアエコシステムの整備も進められています。
特筆すべきは、龍芯が一般的なCPU、グラフィックスプロセッサー、そしてAIプロセッサーの設計における基幹技術を体系的に習得したと主張している点です。これは20年以上の技術蓄積の成果であり、中国の半導体産業の成熟度を示しています。
今回の発表により、龍芯はデスクトップ、サーバー、端末の3つのラインにわたる完全なCPU製品シリーズを形成し、異なる分野に対応できる高性能かつコスト効率の良いCPUチップ製品を提供できる体制を整えました。
米中技術競争が激化する中、龍芯の進展は中国のテクノロジー自立への重要なステップとなっています。特に、米国が最近中国製品に54%の関税を課したことで、中国国内での国産技術採用の動きがさらに加速する可能性があります。
今後は、これらのプロセッサーが実際の製品にどのように統合され、市場でどのような評価を受けるかが注目されます。特に、ソフトウェアエコシステムの充実度が普及の鍵を握るでしょう。
【用語解説】
龍芯(Loongson):
中国の半導体企業で、独自のCPUアーキテクチャを開発している。中国科学院計算技術研究所(ICT)から派生した企業で、中国の半導体自立化政策の重要な担い手である。1999年に設立され、当初はMIPSアーキテクチャをベースにしていたが、現在は独自のLoongArchを開発している。
LoongArch:
2020年に龍芯が導入した独自の命令セットアーキテクチャ。MIPSとRISC-Vの要素を組み合わせており、約2,000の命令を含む。中国の技術自立を象徴する重要な開発成果である。
テープアウト:
半導体設計が完了し、製造のために設計データを半導体製造工場に送ること。製品化への重要なマイルストーンだが、量産開始までにはさらに時間がかかる。日本語では「設計完了」や「設計出図」とも呼ばれる。
GFLOPS:
1秒間に実行できる浮動小数点演算の数を10億単位で表したもの。GPUの性能を測る単位の一つ。256GFLOPSは1秒間に2560億回の浮動小数点演算が可能なことを意味する。
TOPS:
1秒間に実行できる演算の数を兆単位で表したもの。主にAI処理能力を示す際に使用される。8TOPSは1秒間に8兆回の演算が可能なことを意味する。
Dragon Chain(龍鏈):
龍芯が開発した独自のCPUインターコネクト技術。AMDのInfinity Fabricに相当し、複数のCPUコアやチップを効率的に接続するための技術である。
【参考リンク】
龍芯公式サイト(外部)
中国の半導体企業龍芯の公式サイト。製品情報や技術資料を提供している。
Tom’s Hardware(龍芯関連記事)(外部)
テクノロジーメディアによる龍芯の新プロセッサーに関する詳細な分析記事。
【編集部後記】
龍芯の新型プロセッサーは、中国の半導体自立化への大きな一歩ですね。皆さんは自国の技術で独自のCPUを開発することの意義をどう考えますか?日本でも過去にTRONプロジェクトや「スパコン富岳」のA64FXプロセッサーなど独自アーキテクチャの開発が行われてきました。グローバルな半導体競争が激化する中、技術的自立と国際協調のバランスについて、ぜひSNSでご意見をお聞かせください。次世代の日本のテクノロジー戦略について一緒に考えていきましょう。