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ファーウェイ、米国制裁下でNVIDIA対抗のAIチップ開発か?中国技術の底力示す

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-30 13:51 by admin

米国の制裁を乗り越え、独自のAIチップで技術革新を加速するファーウェイ。その挑戦は、世界のテクノロジー地図を塗り替え、新たな未来を切り拓く可能性を秘めています。

ファーウェイは、米国の制裁下においてもAI分野での技術的ブレークスルーを達成した。同社が開発したとされる新しいAIチップは、その性能においてNVIDIAの最新チップに対抗しうる可能性を示唆している。このチップは、中国国内の半導体製造能力の進歩と相まって、ファーウェイのAI戦略における重要な一歩となる。米国の輸出規制が続く中、ファーウェイは研究開発への投資を強化し、自社技術によるサプライチェーンの構築を進めている。この新しいAIチップの登場は、グローバルなAIチップ市場における競争激化を意味し、特に中国のAI技術発展に大きな影響を与えると考えられる。

from:https://www.perplexity.ai/discover/top/huawei-develops-ai-chip-to-riv-wlOC2qMeSYyHxG6ig3wIVw

【編集部解説】

ファーウェイの挑戦:Ascend 910DとNVIDIA H100
ファーウェイがAI(人工知能)分野での技術的自立を目指す中で、最新の動きとして注目されているのが、高性能AIチップ「Ascend 910D」の開発です。このチップは、AIトレーニング市場で圧倒的なシェアを持つNVIDIAの「H100」に対抗するものとして位置づけられています 。Ascend 910Dは、ファーウェイのAIプロセッサ「Ascend」ファミリーの一翼を担うものであり、同社のAI戦略において重要な製品となることが期待されています 。  

報道によると、ファーウェイはAscend 910Dについて、NVIDIA H100を上回る処理能力を目指しているとされています 。この野心的な目標を検証するため、2024年5月下旬には最初のサンプルチップが中国国内のテクノロジー企業に提供され、技術的な実現可能性を評価するテストが開始される予定でした 。しかし、この開発はまだ初期段階にあり、実際のAIワークロードにおける性能を評価し、顧客への提供準備が整うまでには、さらなる詳細なテストが必要となります 。  

一方で、Ascend 910Dにはいくつかの技術的な課題も指摘されています。初期の報告によれば、このチップはH100と比較して消費電力が大きく、エネルギー効率が低い可能性があるとされています 。また、米国の輸出規制により最新の高速メモリ技術へのアクセスが制限されているため、Ascend 910Dは数世代前の高帯域幅メモリ(HBM)を使用している可能性が指摘されています 。さらに、NVIDIAのCUDAプラットフォームのような成熟したソフトウェアエコシステムが不足している点も、システムレベルでの統合、メモリ帯域幅の最適化、ネットワークのスケーラビリティといった面で大きな課題となります 。  

これらの点を踏まえると、ファーウェイはAscend 910Dにおいて、エネルギー効率やエコシステムの成熟度よりも、まずは純粋な計算能力の高さを追求している可能性があります。これは、制裁下で利用可能な技術(例えば、複数のシリコンダイを積層する高度なパッケージング技術 )を駆使して、まずは主要な性能指標でNVIDIAに対抗できることを示し、市場での注目と存在感を確立しようとする戦略かもしれません。効率性やソフトウェアの課題は、後続の改良やシステムレベルでの最適化(後述のCloudMatrixなど)で補完していくというアプローチが考えられます。  

Ascend 910D vs. Nvidia H100: 予備的比較(報告に基づく情報)

特徴Ascend 910D (報告/推測)Nvidia H100
ターゲットアプリケーションAIトレーニング・推論AIトレーニング・推論
性能目標 (vs. H100)H100の純粋計算能力を超えることを目指すと報道 市場確立済みの高性能
報告されている主な課題消費電力増大、効率低下、旧世代HBM使用、未成熟なソフトウェアエコシステム(CUDA相当欠如)の可能性 広範なエコシステム、最適化された性能
提供状況初期テスト段階(サンプル提供は2024年5月下旬予定と報道) 市場で広く利用可能

たとえAscend 910Dが、特にエコシステムの点でグローバルにH100と完全には肩を並べられなかったとしても、中国国内市場においては極めて重要な存在となり得ます。米国による輸出規制により、NVIDIAの最新鋭チップ(H100や、中国向けに性能調整されたH20でさえも)へのアクセスは厳しく制限されています 。このような状況下で、ファーウェイが開発する高性能国産チップは、中国のテクノロジー企業にとって、AI開発を継続・加速するための貴重な、そしてしばしば唯一の選択肢となります。これは、ファーウェイがすでに旧モデルのAscend 910Bや910Cを国内の通信事業者やAI開発企業(TikTokの親会社ByteDanceなど)に大量出荷していることからも裏付けられます 。したがって、Ascend 910Dの成功は、必ずしもグローバル市場での直接的な勝利を意味するのではなく、まずは制約のある国内市場の需要を満たし、中国全体の技術的自立という国家目標に貢献することに主眼が置かれていると考えられます 。  

制裁下の技術革新:自立への道
米国の輸出規制は、ファーウェイをはじめとする中国企業が最先端の半導体技術、特にNVIDIAのような高性能AIアクセラレータや、それに不可欠な最新の高帯域幅メモリ(HBM)などのコンポーネントへアクセスすることを困難にしています 。この厳しい外部環境が、逆説的にもファーウェイと中国全体の技術的自立に向けた動きを加速させる要因となっています 。  

ファーウェイはこの挑戦に対し、研究開発への投資を大幅に強化し、国内サプライチェーンの構築を急いでいます。利用可能な製造技術の範囲内で性能を最大化するため、前述の高度なパッケージング技術のような工夫を凝らしていると報じられています 。また、既存のチップであるAscend 910Bや910Cを国内顧客に大規模に供給することで、足元の需要に応えつつ、エコシステムの基盤を固めています 。  

さらに、ファーウェイは個々のチップの性能向上だけでなく、システムレベルでの革新にも注力しています。その代表例が、2024年4月に発表されたコンピューティングシステム「CloudMatrix 384」です 。これは、多数のAscend 910Cチップを接続することで、個々のプロセッサの能力に依存するのではなく、チップアレイによる「ブルートフォース(力任せ)」的なアプローチで高い計算能力を実現しようとするものです 。一部では、このシステムがNVIDIAの最新システム「GB200 NVL72」に対する中国からの回答であるとも評されています 。この戦略は、最先端の単一チップ性能ではまだ追いつけない部分を、システム全体のアーキテクチャと規模で補うという、現実的な工学的アプローチを示唆しています。大規模AIモデルのトレーニングに不可欠なシステム全体のスループットを確保することで、特定のボトルネックを回避し、国家的なAI戦略目標を達成しようとしているのです。  

こうしたチップ開発やシステム構築の背景には、中国国内の半導体製造能力全体の進展があります(ユーザー提供の【概要】参照)。ファーウェイ関連企業とされるSiCarrierが、半導体製造装置大手ASMLの代替となりうる新たなチップ製造ツールを開発しているとの報道もあり 、これはチップ設計から製造装置に至るまで、より包括的な国内エコシステムを構築しようとする広範な取り組みの一環と考えられます。  

米国の制裁は、ファーウェイの技術開発を妨げることを意図していますが、結果として同社と中国に、これまで以上に積極的な投資とイノベーションを促す触媒としても機能している側面があります。アクセスを絶たれた技術分野で代替手段を模索せざるを得なくなったことが、技術的自立への道を加速させ、三値論理(後述)のような、従来とは異なる技術経路の探求につながっているのかもしれません。これは制裁の意図せざる結果であり、長期的に見れば、新たな競争力を持つ技術や企業の台頭を促す可能性も秘めています 。  

未来への布石?:三値論理とエネルギー効率
ファーウェイの技術開発は、現在のNVIDIA対抗チップに留まりません。より長期的視点での基礎研究として、「三値論理(Ternary Logic)」への取り組みが注目されています。これは、コンピューターが情報を処理する際に、従来の「0」と「1」の2つの状態(二値)だけでなく、「-1」「0」「1」といった3つの状態を用いる考え方です 。理論的には、各要素がより多くの情報を扱えるため、計算に必要なトランジスタの数を減らすことが可能になります 。  

ファーウェイは2023年9月に三値論理回路に関する特許を出願し、最近公開されました 。この特許の主な狙いは、トランジスタ数を削減することで、AIチップのエネルギー消費を抑えることにあります 。AIの計算処理は膨大な電力を消費するため、データセンターの運用コスト増や発熱、スケーラビリティの問題を引き起こしますが、三値論理はこの課題に対する解決策の一つとなる可能性があります 。具体的には、静的および動的な電力消費の削減、情報密度の向上による効率的なデータ処理、そしてよりコンパクトなチップ設計などが期待されます 。一部では、サイバーセキュリティの向上にもつながる可能性が指摘されています 。  

三値論理コンピューティング自体は新しい概念ではなく、1958年にモスクワ大学で最初の試みがなされましたが、実装の簡便さから二値論理システムが主流となりました 。現在も、三値論理を実用化するには、新たなソフトウェアツールや製造プロセスの開発といったハードルが存在します 。  

それにも関わらずファーウェイがこの分野に投資するのは、単なる漸進的な改良を超えた、長期的な戦略的賭けと見ることができます。従来のシリコンベースの二値論理チップの微細化(ムーアの法則)が物理的な限界に近づく中で 、三値論理がエネルギー効率や情報密度の面でブレークスルーをもたらせば、現在の技術的依存関係を覆し、競争優位性を確立できる可能性があるからです。特に、最先端のEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置へのアクセスが制限されている状況下で、異なる原理に基づく技術で性能向上を目指すことは、制裁を乗り越え技術的独立を達成するための重要な選択肢となり得ます 。中国では、ファーウェイの取り組みとは別に、カーボンナノチューブを用いた三値論理AIチップの研究なども報告されており 、これは中国全体として代替技術経路を積極的に模索していることの表れかもしれません。  

ファーウェイによる三値論理の研究や、高度なパッケージング技術、国内製造装置の開発といった動きは 、地政学的な要因と技術アクセス制限によって、半導体開発において中国と西側諸国が異なる技術経路を歩む可能性を示唆しています。西側が主にEUVを用いた二値論理の最適化を進める一方で、中国は二値論理の国内開発を進めつつ、三値論理のような根本的に異なるアプローチも探求しています。これが成功すれば、世界の半導体市場はより多様化し、異なる制約条件下で最適化された複数の技術エコシステムが共存・競争する未来が訪れるかもしれません 。  

【編集部追記】
ファーウェイが開発した新しいAIチップは、単なる技術的な進歩以上の意味を持っています。米国の厳しい制裁という逆境の中、自社の力で最先端のAI技術を開発したことは、中国のテクノロジー企業全体の底力を示すものと言えるでしょう。

これまで、高性能なAIチップの多くは海外の企業によって供給されてきました。特にNVIDIAのGPUは、AIの研究開発やデータセンターにおいて圧倒的なシェアを誇っています。ファーウェイの新しいチップが、もし本当にNVIDIAの最新チップに匹敵する性能を持つのであれば、これはゲームチェンジャーとなる可能性があります。

例えるなら、これまで海外製の高性能エンジンに頼っていた自動車メーカーが、ついに自社製の高性能エンジンを開発し、世界と競えるようになったようなものです。これにより、ファーウェイは自社のAI製品やサービスをより高性能かつ安定的に提供できるようになるだけでなく、中国国内の他の企業にとっても、高性能な国産AIチップという新たな選択肢が生まれることになります。

ただし、実際にこのチップが市場でどれほどの競争力を持つのか、そして量産体制を確立できるのかなど、今後の動向を注意深く見守る必要があります。しかし、ファーウェイのこの挑戦は、技術的な自立を目指す中国の姿勢を強く示すものであり、今後の世界のテクノロジー業界の勢力図に大きな変化をもたらす可能性を秘めていると言えるでしょう。

市場への影響と今後の展望
ファーウェイによるAscend 910Dのような高性能AIチップの開発成功は、世界のAIチップ市場、特にNVIDIAが長らく支配してきた領域に大きな変化をもたらす可能性があります。当初は、アクセスが制限されている中国国内市場が主なターゲットとなるでしょうが、もし性能、効率、そしてソフトウェアエコシステムが十分に成熟すれば、将来的にはグローバル市場での競争も視野に入ってくるかもしれません。これにより、AIチップ市場全体の競争が激化し、価格や技術革新のペースに影響を与える可能性があります(ユーザー提供の【概要】参照)。

中国にとっては、高性能な国産AIチップの存在は、国家的なAI戦略目標を達成する上で不可欠です 。これにより、外国技術への依存度を低減し、経済安全保障を強化するとともに、国内のAI産業全体の発展を加速させることが期待されます。習近平国家主席が強調するように、ハイエンドチップや基本ソフトウェアといったコア技術の国産化は、中国にとって最重要課題の一つです 。  

しかし、Ascend 910Dが真の成功を収めるためには、いくつかの重要な課題をクリアする必要があります。まず、報道されている性能目標が、実際のAIワークロードにおいて検証される必要があります 。次に、指摘されている消費電力と効率の問題をどの程度改善できるか、そして安定した量産体制を確立できるかが鍵となります。さらに、NVIDIAのCUDAに匹敵するような、開発者が使いやすく高性能を引き出せるソフトウェアエコシステムを構築できるかどうかも、長期的な競争力を左右する重要な要素です 。  

ファーウェイの挑戦は、単なる一企業の取り組みを超え、米中間の技術覇権争いや、グローバルなサプライチェーンの再編といった、より大きな地政学的な文脈の中に位置づけられます。ファーウェイの進展は、技術的なデカップリング(分離)が進む可能性を示唆するとともに、将来的にはより地理的に多様化したテクノロジー勢力図が生まれる可能性も示唆しています 。  

結論として、ファーウェイのAIチップ開発は多くの課題に直面していますが、同社の技術力と、制裁下で培われた回復力、そして中国政府の強力な後押しを考えれば、その進展を軽視することはできません。Ascend 910Dの性能検証と市場投入、そして三値論理のような次世代技術の研究開発の行方は、今後のAIと半導体産業の未来を占う上で、引き続き注視していくべき重要な動向と言えるでしょう。

【用語解説】

AIチップ (AI Chip): 人工知能(AI)の処理に特化した半導体チップのこと。従来のCPU(中央処理装置)よりも並列処理能力が高く、大量のデータを高速に処理するのに適している。ディープラーニングなどの複雑なAIアルゴリズムの実行に不可欠であり、AI技術の発展を支える重要な要素となっている。

三値論理 (Ternary Logic): コンピューティングにおいて、従来の「0」と「1」の二つの状態(二値)ではなく、「-1」「0」「1」などの三つの状態を用いる論理システム。情報密度を高め、特定の計算においてトランジスタ数を削減し、エネルギー効率を向上させる可能性があるとして研究されている 。  

【参考リンク】

HUAWEI Japan: ファーウェイ・ジャパンの公式サイト。企業情報、製品情報、ニュースリリースなどを提供。

NVIDIA AI:データサイエンス、高性能コンピューティング向けのGPUを開発する世界的なテクノロジー企業。

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野村貴之
理学と哲学が好きです。昔は研究とかしてました。
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