JAXA、火星衛星探査機MMXをH3ロケット10号機で打ち上げ|H3初の惑星間ミッション

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H3ロケットはこれまで9回打ち上げられ、その行き先はすべて地球を回る軌道でした。10号機で初めて、地球の重力を振り切って惑星へ向かう軌道に探査機を送り出しました。2回の失敗を越えてきたロケットが、2年待たせた探査機を火星へ届けるために選んだのは、自らの力を最大限に引き出す飛び方でした。


宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2026年10月20日午前4時41分、火星衛星探査機「MMX」を搭載したH3ロケット10号機を種子島宇宙センターから打ち上げた。機体はLE-9エンジン2基、固体ロケットブースタ4本、ロングフェアリングを組み合わせたH3-24L形態である。飛行計画では第2段エンジンを2回燃焼させ、打ち上げ約1時間11分後に火星遷移軌道でMMXを分離する。

報道によれば、MMXは予定の軌道に投入された。MMXの打ち上げ質量は4,480kgで、火星の衛星フォボスに着陸して10g以上の試料を採取し、2031年度に地球へ持ち帰る計画である。NASA、ESA、CNES、DLRが参加し、CNESとDLRは探査ローバー「IDEFIX」を共同で提供した。

From: 文献リンクH3ロケット10号機による火星衛星探査機(MMX)の打上げ時刻|JAXA

【参考動画】

JAXA公式チャンネル「火星衛星探査機(MMX)/H3ロケット10号機 打上げ前ブリーフィング(日本語)」(2026年10月18日)

【編集部解説】

H3ロケットにとって、10号機は「初めて」がいくつも重なった打ち上げです。

MMXは、H3が惑星間空間へ送り出す初めての探査機です。これまでの9機は、いずれも地球を回る軌道を目指す打ち上げでした。今回はMMXを火星遷移軌道へ投入するため、通常のミッションで行う第1段エンジンのスロットリング(推力の絞り込み)をあえて行わず、打ち上げ能力を最大限に引き出す飛行計画が組まれました。

機体も新しい組み合わせです。H3-24Lは、LE-9エンジン2基と固体ロケットブースタ4本に、今回初めて使われる長さ約16.4mのロングフェアリングを載せた形態で、全長は約63mに達します。MMXの飛行経路は通常より空力加熱が大きいため、フェアリングには追加の断熱処置が施されました。

見どころは、第2段の2回目の燃焼にもあります。飛行計画では、打ち上げ約1時間4分後の再着火からMMXの分離まで、ロケットはJAXAの地上局から見えない区間を飛びます。この区間を見守るため、NASAのデータ中継衛星TDRSを使う計画が組まれました。JAXAはこれをH3でのTDRSの初運用と位置づけており、7号機では対応する送信機とアンテナを載せて、TDRS経由のデータ取得を飛行実証していました。探査機だけでなく、ロケットの側でも国際協力がミッションを支えています。

H3の歩みを振り返ると、この打ち上げの重みが見えてきます。試験機1号機は2023年3月に失敗し、2025年12月の8号機は「みちびき5号機」を予定の軌道に届けられませんでした。8号機の主な原因は衛星搭載アダプタの製造時の剥離とされ、対策を講じたうえで、2026年6月の6号機、8月の9号機と打ち上げを重ねてきました。MMXはもともと2024年度の打ち上げを目指していた探査機で、ロケット開発の状況を待っての出発です。待たせた探査機を火星へ向かう軌道に乗せるため、H3はその能力を最大限に引き出す飛び方を選びました。

報道によれば、MMXは予定の軌道に投入され、打ち上げは成功しました。ここから、MMXの約5年の旅が始まります。ESAの説明では、MMXは2027年8月に火星の周回軌道に入り、9月からはフォボスとともに火星を回りながらその近くにとどまる「擬周回軌道(QSO)」で観測を始める予定です。その後、フランスとドイツが開発した重さ25kgのローバー「IDEFIX」を放出し、本体が着陸して10g以上の試料の採取を目指します。JAXAは火星圏に約3年間滞在し、詳しい観測で地点を選んで着陸・採取する計画を示しています。試料を収めたカプセルは2031年度に地球へ戻り、オーストラリアで回収される計画です。

なぜフォボスなのでしょうか。火星の2つの衛星が、火星の重力に捕らえられた小惑星なのか、火星への巨大な衝突で飛び散った破片が集まったものなのかは、まだ決着していません。試料を地球の研究室で分析できれば、この問いに直接迫ることができます。JAXAは、試料に含まれる含水鉱物や水、有機物を調べることで、原始の太陽系で水や有機物がどのように天体へ運ばれたのかを解き明かすとしています。火星の衛星は、将来の火星有人探査で軌道上の拠点になりうる場所でもあり、その地形や地盤の情報を得ることもMMXの役割です。

日本は「はやぶさ」「はやぶさ2」で、小惑星から試料を持ち帰る技術を磨いてきました。MMXは、その技術を火星の重力の影響を強く受ける衛星の探査へと発展させる挑戦です。費用面で行き詰まったNASAの既存の火星サンプルリターン計画は2026会計年度の歳出で支持されず、関連技術の開発に資金が回される形になりました。中国は「天問3号」で火星の試料回収を目指しています。火星圏の試料をめぐる国際的な動きのなかで、MMXは日本が主導し、NASA、ESA、CNES、DLRが加わって、世界初の火星圏サンプルリターンの実現を目指します。

探査機にとっての本番はこれからです。MMXは初期の運用で機体の状態を確かめながら、打ち上げから約1年をかけて火星へ向かいます。

2031年度の帰還を目指す小さなカプセルには、火星の衛星の砂が収められているはずです。その日に向けた約5年が、今朝、種子島から始まりました。

【関連記事】

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打ち上げを前に種子島で公開された探査機の3モジュール構成や設計上の判断、国際協力の体制を読み解いた、2026年8月の記事。

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費用が膨らんだNASAの火星サンプルリターン計画に対し、ロッキード・マーティンが固定価格での実施を提案した2025年の記事。

【編集部後記】

打ち上げ計画書の飛行経路図に、目が止まった線があります。太平洋の上で第2段がいったん燃焼を止めると、ロケットは南大西洋の上空まで50分あまり、慣性で黙って飛び続けます。2回目の点火と探査機の分離を見届けるのは、日本の地上局ではなくNASAの中継衛星です。

種子島の管制室から直接は見えない場所で、火星への旅の最初の一押しが行われる。宇宙探査は、こうした見えない区間を誰かと分け合うことで成り立っています。5年後にカプセルを受け止めるのがオーストラリアの大地であることも、同じ構図に見えてきます。


【用語解説】

H3ロケット
JAXAと三菱重工業が開発した日本の基幹ロケット。第1段エンジンLE-9の基数と固体ロケットブースタの本数、フェアリングの種類を組み合わせて、複数の機体形態をとる。

火星遷移軌道
地球の公転軌道から火星の公転軌道へ乗り移るための、太陽を回る楕円軌道。打ち上げ日によって必要な飛行計画が変わる。

スロットリング
飛行中にロケットエンジンの推力を絞ったり戻したりする操作。機体や搭載物にかかる加速度や荷重を抑える目的で行われる。

フェアリング
ロケットの先端で探査機や衛星を包み、大気中の空気抵抗や熱から守るカバー。大気圏を抜けたあとに分離される。H3にはショート、ロング、ワイドの3種類がある。

TDRS(Tracking and Data Relay Satellite)
NASAの追跡・データ中継衛星。静止軌道から、地上局の見えない位置を飛ぶロケットや宇宙機のデータを中継する。

擬周回軌道(QSO)
火星を回りながらフォボスの近くにとどまる軌道。フォボスから見ると、探査機がその周りを回っているように見える。

フォボス
火星の2つの衛星のうち、内側を回る大きい方の衛星。外側を回るもう1つの衛星はダイモスである。

IDEFIX
フランス国立宇宙研究センター(CNES)とドイツ航空宇宙センター(DLR)が共同開発した、重さ約25kgの探査ローバー。MMX本体に先立ってフォボスに降り、表面を調べる。

サンプルリターン
探査機が天体の試料を採取し、地球に持ち帰ること。日本は「はやぶさ」「はやぶさ2」で小惑星からのサンプルリターンを実現している。

衛星搭載アダプタ
ロケットの第2段と衛星の間に入り、衛星を支える構造。H3ロケット8号機では、この部材の製造時の剥離が失敗の主要因とされた。

【参考リンク】

火星衛星探査計画(MMX)(外部)
火星衛星探査計画MMXの目的、行程、探査機の構成、搭載機器、国際協力の体制を紹介するJAXA宇宙科学研究所のプロジェクト公式サイト。

JAXA ロケットナビゲーター:H3ロケット(外部)
H3ロケットの機体形態、主要諸元、開発の経緯、これまでの打ち上げ実績をまとめた、JAXAのロケット公式情報ページ「ロケットナビゲーター」。

ESA – MMX factsheet(外部)
ESAが、MMXの目的と行程、欧州の科学者の参加、探査ローバーIDEFIXの役割などを英語で簡潔にまとめた公式のファクトシート。

【参考記事】

ESA – Mars moon lander set to launch on 19 October(外部)
2027年8月の火星周回軌道投入、9月からのQSO観測、25kgのIDEFIXの役割など、MMXの行程をESAが解説した記事。

MMXミッションの今後の展望(第15回)|ISAS(外部)
2027年度に火星圏到着、約3年の滞在、2030年度の離脱、2031年度の帰還というMMXの行程を、JAXA宇宙科学研究所が紹介。

H3ロケット8号機失敗原因は「衛星搭載部の剥離」 対策講じ再開へ|サイエンスポータル(外部)
2025年12月の8号機失敗の原因を、衛星搭載アダプタの剥離から燃焼異常に至る連鎖として解説し、再発防止策も紹介した記事。

火星衛星へ、探査機打ち上げ 試料回収、5年で往復―「MMX」、H3搭載・JAXA|時事ドットコム(外部)
打ち上げ約1時間11分後の予定軌道への投入、約4.5トンの機体、フォボスでの試料採取と2031年の帰還計画を伝えた速報記事。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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