Last Updated on 2025-04-10 17:20 by admin
億万長者宇宙飛行士アイザックマン氏、NASA長官候補として火星ミッション優先を表明
2025年4月9日、ドナルド・トランプ大統領によりNASA長官に指名されたジャレッド・アイザックマン氏(42)が上院商業・科学・運輸委員会の公聴会に出席し、宇宙飛行士を火星に送ることを優先する宇宙探査ビジョンを概説した。
アイザックマン氏は「大統領が述べたように、我々はアメリカの宇宙飛行士を火星に送ることを優先し、その過程で必然的に月に戻る能力を持つことになる」と冒頭で発言した。同時に「月に行くべきではないとは言っていない」とも述べ、月と火星の探査は並行して開発できると強調した。
アイザックマン氏は高校中退後に両親の地下室で決済処理会社Shift4を創業し、現在の推定純資産は19億ドル(約2,900億円)に達している。また、SpaceXのクルードラゴン宇宙船で2回の宇宙飛行を実施し、2024年9月12日には世界初の民間宇宙遊泳を行った実績を持つ。
公聴会には、来年予定されているNASAの月周回ミッション「アルテミスII」に割り当てられた宇宙飛行士4名と、アイザックマン氏と共に宇宙に飛行した6名の乗組員も出席した。
NASAのアルテミス計画は、早ければ2026年9月に「アルテミスII」として宇宙飛行士を月の周りに送り、2027年9月に「アルテミスIII」として月の南極付近に着陸させることを目指している。この計画ではSpaceXのスターシップ宇宙船が月着陸船として使用される予定である。
一方、SpaceXのイーロン・マスク氏は火星を目的地として支持しており、2026年から無人の火星ミッションを開始し、2年後に有人飛行を計画していることを2024年9月に発表している。
アイザックマン氏は公聴会で、マスク氏との関係についても質問を受け、「私の忠誠心はこの国と宇宙機関、そして彼らの変革的なミッションにある。SpaceXは請負業者であり、NASAはクライアントだ」と述べ、不適切な影響力を行使しないことを約束した。
from:Billionaire spacewalker highlights Mars trip for astronauts in bid to become NASA’s next chief
【編集部解説】
トランプ大統領によるNASA長官候補のジャレッド・アイザックマン氏が上院公聴会で示したビジョンは、アメリカの宇宙探査の未来に大きな影響を与える可能性があります。特に注目すべきは、火星ミッションを優先しつつも月探査を並行して進めるという姿勢です。
アイザックマン氏は公聴会で「大統領が述べたように、我々はアメリカの宇宙飛行士を火星に送ることを優先する」と明言しながらも、「月に行くべきではないとは言っていない」と強調しました。この発言は、トランプ政権とイーロン・マスク氏が火星を重視する一方で、議会や宇宙産業界からはアルテミス計画による月探査の継続を求める声が強いという複雑な状況を反映しています。
特に上院商業委員会委員長のテッド・クルーズ上院議員は「優先事項を極端に変更することは、ほぼ確実に赤い月を意味し、世代にわたって中国に地歩を譲ることになる」と警告しました。これは中国が月探査で米国を追い抜くことへの強い懸念を示しています。
アイザックマン氏は「月と火星のどちらかを選ぶ必要はない」と主張し、NASA予算内で両方のミッションを並行して進められると述べています。しかし、この楽観的な見方に対しては、一部の上院議員から疑問の声も上がっています。
民間宇宙飛行の経験を持つ異色の候補者
アイザックマン氏はNASA長官候補としては非常に異色の経歴を持っています。42歳の彼は高校中退後に決済処理会社Shift4を創業し、億万長者となりました。さらに、SpaceXのクルードラゴン宇宙船で2回の宇宙飛行を実施し、2024年9月には世界初の民間宇宙遊泳を成功させています。
公聴会では、マスク氏との関係性についても厳しい質問が投げかけられました。エドワード・マーキー上院議員(民主党、マサチューセッツ州)は、アイザックマン氏がNASAでマスク氏の利益を優先させたり、SpaceXに財政的利益をもたらしたりする可能性について懸念を表明しました。
これに対しアイザックマン氏は「私の忠誠心はこの国と宇宙機関、そしてその世界を変えるミッションにある」と強調し、Shift4 Paymentsのトップを辞任する意向を示しました。ただし、同社のSpaceX株式を含む財務的利益は保持する予定とのことです。
宇宙探査の未来:効率性と国家安全保障
アイザックマン氏は公聴会で、NASAの効率性向上と予算の有効活用を強調しました。特に「なぜ月に戻るのにそんなに時間がかかり、なぜそんなにお金がかかるのか」という疑問を投げかけています。
これはマスク氏がアルテミス計画を「結果を最大化するプログラムではなく、雇用を最大化するプログラム」と批判していることとも一致します。実際、アルテミス計画は当初の予定より遅れており、予算も大幅に超過しています。
一方で、宇宙探査は単なる科学的好奇心だけでなく、国家安全保障の観点からも重要です。アイザックマン氏は「もし中国が先に月に到達すれば、月面のヘリウム3が新たな核融合エネルギー源となり、地球上の力のバランスが変わる可能性もある」と指摘しています。「宇宙は究極の高地であり、その地位を譲ることはできない」という彼の言葉は、宇宙探査が持つ地政学的意義を端的に表しています。
まとめ
アイザックマン氏の上院承認投票は、4月28日に終了する2週間の休会後に行われる見込みです。承認されれば、彼は15人目のNASA長官となり、実際に宇宙を飛行した経験を持つわずか4人目の長官となります。
彼の下でNASAがどのような方向に進むのか、特に月と火星のバランスをどう取るのかは、アメリカの宇宙探査の未来だけでなく、国際的な宇宙開発競争にも大きな影響を与えるでしょう。また、SpaceXをはじめとする民間宇宙企業との関係性も注目されます。
宇宙開発は長期的な視点が必要な分野です。アイザックマン氏が「NASAはアラン・シェパードの弾道飛行からわずか8年後にニール・アームストロングとバズ・オルドリンを月面に送り出した機関」と述べたように、明確なビジョンと効率的な実行があれば、人類の宇宙進出は大きく加速する可能性があります。
【用語解説】
アルテミス計画:
NASAが主導する国際協力プログラムで、アポロ計画以来の月面への有人着陸と持続的な月探査を目指している。将来の火星探査の足がかりとして、月面に持続可能な基地の設立を計画している。
スターシップ:
SpaceX社が開発中の完全再使用型の二段式超大型ロケット兼宇宙船。アルテミス計画の月着陸船として選定されており、将来的には火星への有人飛行にも使用される予定。
ゲートウェイ(Gateway):
月周回有人拠点のこと。月面や火星に向けた中継基地として機能し、完成目標は2031年以降。
Shift4:
ジャレッド・アイザックマン氏が創業した決済処理会社。ニューヨーク証券取引所に上場しており、レストラン、ホテル、スポーツ会場など様々な業界向けに決済ソリューションを提供している。
Inspiration4:
アイザックマン氏が率いた、民間人のみで構成された世界初の宇宙飛行ミッション。2021年に実施され、小児病院への寄付を集めるという慈善目的も持っていた。
【参考リンク】
Shift4(外部)
アイザックマン氏が創業した決済処理会社。レストラン、ホテル、カジノなど様々な業界向けの決済ソリューションを提供している。
NASA アルテミス計画(外部)
NASAのアルテミス計画の公式サイト。ミッションの詳細、スケジュール、国際協力などの情報を提供している。
SpaceX(外部)
イーロン・マスク氏が創業した宇宙企業。スターシップの開発やアルテミス計画への参画、火星ミッションの計画などの情報がある。
JAXA 国際宇宙探査センター(外部)
日本のアルテミス計画への参加や国際宇宙探査に関する取り組みについての情報を提供している。
【参考動画】
【編集部後記】
宇宙探査の新時代を迎える今、皆さんは月と火星、どちらに魅力を感じますか?アイザックマン氏の構想は、宇宙開発の効率化と大胆なビジョンの両立を目指しています。民間人として宇宙を体験した彼の視点は、これからの宇宙開発にどんな変化をもたらすのでしょうか。宇宙は遠い存在ではなく、私たちの未来を形作る重要な領域です。次の10年で人類の宇宙進出はどこまで進むのか、一緒に見守っていきましょう。