ーTech for Human Evolutionー

宇宙に「太陽パラソル」設置で気候変動対策へ – 1000万ドルの実証実験

宇宙に「太陽パラソル」設置で気候変動対策へ - 1000万ドルの実証実験 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-14 20:04 by admin

科学者たちが気候変動対策として宇宙空間に太陽パラソルを設置するプロジェクトを発表した。この太陽パラソルによって地球に日陰をつくることで、大気中の熱量を減らすことができると期待されている。

研究チームは地球と太陽の間の重力がほぼゼロになる場所、いわゆるL1ラグランジュ点で小型の日よけをテストする計画を共有した。これは本格的なシステム展開前の前段階としての計画で、大型ブリーフケースサイズの12U CubeSatに144メートルのソーラーセイルを装備した実証ミッションを実施するものである。

L1ラグランジュ点では太陽と地球の重力がほぼ相殺され、太陽光の絶え間ない流れが宇宙船を正しい位置に保持する。そうして設置された太陽パラソルによって地球に到達する直射日光を制限することで大気中に閉じ込められる熱量を削減し、気候変動の抑制効果が期待される。

推定費用1000万ドルのこのシステムでは、宇宙船は自律的に機能する必要がある。これは地球からの手動コマンドは到達まで10秒を要する上、それによって動作させるには至らないためである。
今回のミッションが成功し、気候変動の問題に新たな光がもたらされることに期待が寄せられる。

From: 文献リンクScientists want to test a solar umbrella that could help fight climate change

【編集部解説】

この太陽パラソル計画は、従来の地上ベースの気候変動対策とは根本的に異なるアプローチを提案しています。宇宙空間から地球全体の太陽光を調整するという発想は、まさに「Tech for Human Evolution」の体現と言えるでしょう。

技術的な革新性

L1ラグランジュ点の選択は物理学的に非常に合理的です。この位置では太陽と地球の重力が均衡し、比較的少ないエネルギーで物体を維持できます。さらに、太陽光圧を推進力として活用するソーラーセイル技術により、燃料なしでの長期運用が可能となります。

12U CubeSatという超小型衛星規格の採用も注目すべき点です。従来の大型衛星と比較して開発・打ち上げコストを大幅に削減でき、技術実証のハードルを下げています。

スケールアップの課題

実用規模のシステム実現には膨大な技術的ハードルが存在します。地球全体に意味のある影響を与えるには、数百万平方メートル規模のシールドが必要とされ、現在の宇宙技術では実現困難な規模です。

また、宇宙環境での長期耐久性、微小デブリとの衝突リスク、システムの修理・交換方法など、解決すべき課題は山積しています。

環境・社会への影響

太陽光の人為的調整は地球の気候システム全体に影響を与える可能性があります。降水パターンの変化、農業への影響、生態系への予期せぬ影響など、慎重な検討が必要な要素が多数存在します。

国際協力の必要性

このような地球規模の気候工学プロジェクトは、単一国家では実現不可能です。国際的な合意形成、宇宙法の整備、費用負担の分担など、技術以外の課題も同様に重要となります。

現在の1000万ドルの実証実験が成功すれば、2030年代には本格的な検討段階に入る可能性があります。人類の未来を左右する可能性を秘めた、まさに次世代の気候変動対策技術と言えるでしょう。

【用語解説】

L1ラグランジュ点
地球と太陽の間にある重力平衡点。太陽と地球の重力が相殺されるため、物体がこの位置に留まりやすい特性を持つ。

CubeSat(キューブサット)
10cm×10cm×10cmを1Uとする標準規格の超小型衛星。12Uは縦30cm×横20cm×高さ20cmのサイズで、重量は通常15-20キログラム程度。

ソーラーセイル(太陽帆)
太陽光の光子圧を推進力として利用する宇宙推進技術。燃料不要で持続的な推進が可能だが、推進力は非常に微弱である。

太陽光圧
太陽から放射される光子が物体に衝突することで生じる圧力。真空中では微弱ながら持続的な力を発揮し、ソーラーセイルの推進原理となる。

気候工学(ジオエンジニアリング)
意図的に地球の気候システムに介入して気候変動の影響を軽減する技術の総称。太陽放射管理と炭素除去の2つの主要アプローチがある。

【参考リンク】

JAXA(宇宙航空研究開発機構)(外部)
日本の宇宙開発を担う国立研究開発法人。2010年にソーラーセイル実証機「IKAROS」で世界初の太陽光推進実証に成功。

Acta Astronautica(外部)
宇宙科学技術分野の国際学術誌。国際宇宙航行アカデミー(IAA)が発行し、宇宙工学の最新研究成果を掲載。

The Planetary Society(外部)
宇宙探査の推進を目的とする非営利団体。ソーラーセイル技術の普及や宇宙科学教育に取り組んでいる。

【参考動画】

【参考記事】

Would a planetary sunshade help cool the planet? This mission could find out(外部)
マリーナ・ココ氏率いるトリノ工科大学の研究チームによる太陽パラソルシステムの詳細な技術解説と、12U CubeSatを使った前段階ミッションの具体的計画。

Would a Planetary Sunshade Help Cool the Planet? This Mission Could Find Out(外部)
L1ラグランジュ点での太陽パラソル配置の物理的原理と、144メートルソーラーセイルを装備した12U CubeSatによる技術実証計画の詳細。

Roadmap toward a Planetary Sunshade for Space-based Solar Geo(外部)
プラネタリー・サンシェード・システムの開発ロードマップを示した学術論文。技術開発から国際協力まで包括的な実現戦略を提示。

These scientists want to put a massive ‘sunshade’ in orbit to help fight climate change(外部)
Planetary Sunshade Foundationの活動と宇宙ベース太陽シェードの実用性に関する包括的解説。

小惑星に取り付けた「日傘」で太陽光を遮断し気候変動を緩和する戦略(外部)
ハワイ大学サプディ氏による小惑星を重りとして活用するテザー型サンシールドの代替アプローチ解説。

【編集部後記】

「宇宙から地球を守る日傘」という発想、いかがでしたでしょうか。気候変動対策として従来の脱炭素技術とは全く異なるアプローチですが、皆さんはこうした宇宙規模の気候工学についてどう思われますか?

技術的な実現可能性はもちろん、国際的な合意形成や環境への予期せぬ影響など、様々な課題も見えてきます。もし実用化されたら、私たちの生活や地球環境にどのような変化をもたらすのか、ぜひ一緒に考えてみませんか。

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TaTsu
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