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Genoplant Research Institute、大麻種子の宇宙実験で宇宙農業に新展開

Genoplant Research Institute、大麻種子の宇宙実験で宇宙農業に新展開 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-24 09:31 by admin

スロベニアの航空宇宙会社Genoplant Research Instituteが開発した生物学的インキュベーター「MayaSat-1」が、2025年6月23日午後9時頃(UTC)にカリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地からSpaceXのFalcon 9ロケットで打ち上げられる予定である。

このミッションでは、約150個の大麻の種子を含む数百の種子、菌類、藻類、人間のDNAサンプルが極地の低軌道に送られる。

スロベニアのResearch Nature InstituteのBožidar Radišičが率いるMartian Growプロジェクトが大麻の種子を搭載する。MayaSat-1は高度500キロメートル以上で地球の北極と南極付近を通過し、国際宇宙ステーション(ISS)の100倍の放射線にさらされる。カプセルは約3時間で地球を3周した後、太平洋に着水し、ハワイ沖約9時間の地点で回収される予定である。

Radišičと彼のチームは今後2年間、スロベニアのリュブリャナ大学健康科学部と協力して宇宙種子からクローンを繁殖させ、遺伝的変化とカンナビノイドプロファイルの変化を研究する計画である。パデュー大学のD. Marshall Porterfield教授は、NASAのLEAFミッションが2027年にArtemis IIIで月に向かう予定であると述べた。

From: 文献リンクScientists Are Sending Cannabis Seeds to Space

【編集部解説】

この大麻種子の宇宙実験は、単なる話題作りではなく、人類の宇宙進出における食料確保という根本的な課題に挑む真剣な科学研究です。宇宙農業の分野では、これまで主にレタスやトマトなどの一般的な作物が研究対象とされてきましたが、大麻という選択は極めて合理的な判断と言えるでしょう。

大麻植物の最大の特徴は、その驚異的な多用途性にあります。食料、タンパク質、建築材料、繊維、プラスチック、医薬品まで、一つの植物から多岐にわたる資源を得ることができます。宇宙という極限環境では、限られた資源で最大の効果を得る必要があり、この多機能性は他の作物では代替できない価値を持っています。

今回の実験で特に注目すべきは、極地軌道を利用した高放射線環境での実験設計です。従来のISSでの実験と比較して100倍の放射線に曝露することで、より深宇宙環境に近い条件を再現します。これは2027年のNASA LEAF月面実験に向けた重要な前段階研究でもあります。

放射線による突然変異誘発は、植物育種において既に確立された技術ですが、宇宙環境特有の複合的ストレス(微小重力、宇宙放射線、真空など)が植物遺伝子に与える影響は未解明の部分が多く残されています。今回の実験では、地上では得られない新たな遺伝的変異が期待されています。

一方で、この研究には潜在的な課題も存在します。大麻に対する社会的偏見や規制の壁が、科学的成果の普及や応用を阻害する可能性があります。また、宇宙で得られた変異株の地球への持ち込みについては、生物多様性への影響を慎重に評価する必要があるでしょう。

長期的な視点では、この研究は月面基地や火星植民地における持続可能な生命維持システムの構築に直結します。特に、宇宙飛行士の心理的健康管理や医療用途での活用可能性も含めて、包括的な宇宙医学の発展に寄与することが期待されます。

今回の実験結果によって、宇宙農業だけでなく、地球上での極限環境農業や気候変動対応農業にも応用できる知見がもたらされる可能性があります。人類の宇宙進出という壮大な目標に向けて、一見意外な植物が重要な役割を果たすかもしれません。

【用語解説】

極地軌道(Polar Orbit)
地球の北極と南極を通る軌道。地球の磁場の影響で太陽からの荷電粒子が集中し、赤道軌道の100倍の放射線環境となる。

銀河宇宙放射線(Galactic Cosmic Radiation)
銀河系内の超新星爆発などから発生する高エネルギー粒子。地球の磁場圏外では生物に深刻な影響を与える可能性がある。

カンナビノイドプロファイル
大麻植物が産生するTHC、CBDなどの化学物質の組成比。宇宙環境での変化により新たな医療効果が期待される。

ファイトレメディエーション
植物を利用して土壌や水質の汚染物質を除去・浄化する技術。大麻は重金属除去能力が高いとされる。

MayaSat-1
Genoplant Research Instituteが開発した小型の生物学的インキュベーター。極地軌道での放射線実験に特化して設計されている。

Artemis III
NASAが2027年に予定している有人月面着陸ミッション。月面での植物栽培実験LEAFが含まれる。

【参考リンク】

NASA Artemis Program(外部)
NASAの月面探査プログラム公式サイト。2027年のArtemis IIIミッションとLEAF実験の詳細が掲載

Purdue University – Agricultural and Biological Engineering(外部)
D. Marshall Porterfield教授が所属するパデュー大学の農業・生物工学部

【参考動画】

【参考記事】

Simulated galactic cosmic ray exposure activates dose-dependent DNA repair response(外部)
銀河宇宙放射線が植物に与える影響を調査した学術論文。DNA修復機構の活性化と植物代謝への影響を報告

【編集部後記】

宇宙農業というSFのような話が現実になりつつある今、私たちは何を準備すべきでしょうか。大麻という意外な植物が宇宙開拓の鍵を握るかもしれないこの実験を、皆さんはどう受け止めますか?

もし月面基地や火星移住が実現したとき、地球の常識は通用しません。限られた資源で最大の効果を得る必要がある極限環境では、一つの植物から食料、建材、医薬品まで得られる多機能性こそが生存の決め手となるのかもしれません。

この研究が示唆するのは、私たちが当たり前だと思っている地球の農業や植物に対する固定観念を見直す必要性です。宇宙という新たなフロンティアが、地球上の課題解決にも新しい視点をもたらしてくれるのではないでしょうか。皆さんは、どの植物が宇宙時代のスーパークロップになると思いますか?

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TaTsu
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